第33話
[ロディア島]
俺は砂浜の上に降り立った。砂浜の向こうには太い木が生えていてジャングルのようになっている。
「うおぉー!なんか海賊みたいな気分だぜ!」
「おい!早く行こうぜ!お宝があるかもしれないし!」
「樋口ー、残念だけどここはもう長橋工業が調べたから宝はないよ」
「えぇー!なんだよー!つまんねー!」
「船の運転体験ができたんだからいいだろ。それより、教皇を探すんだろ」
「そうそう。と言っても一応目星はついてるんだけどね。時間もないし、さっさと行こっか」
唐橋はそう言って歩き出した。俺たちもあとに続いてジャングルの中へと足を踏み入れる。ジャングルの中は薄暗く、色々なモンスターの鳴き声が聞こえてきた。
そんな中、樋口が何かを見つけたようだ。そして、それを追いかけてジャングルの奥深くへ入っていってしまった。
「お、おい樋口!」
「ほっとけ要。どうせ変なもん拾って帰ってくんだろ」
東堂は足を止めずにそう言う。少しして、樋口が手に虹色のキノコを持って帰ってきた。
「どうだ!虹色のキノコを見つけたんだよ!」
「へぇ、色は綺麗だね。それによくこんなの見つかったね」
「ふっふーん、俺は目がいいからな!そんで、これ毒があるのか?」
「……うん。かなり強い毒。ポーションにするのも危険なレベル」
「げ⁉そんなやばいのかよ⁉……素手で触ったら死んだりしないよね?」
「……多分……それより、樋口くんを追いかけて何かがくる」
「全員警戒しろ。地中と空中にも意識を向けとけ」
和泉さんの言葉を聞いて東堂が指示をだす。俺たちが武器を構えて待っていると、ジャングルの奥からガサガサと音が聞こえてきた。そしてすぐに、3匹の猿が見えた。猿は木から木へ起用に飛び移りながら俺たちのところへやってくる。
「あ?なぁんだ、ただの猿かよー。高崎ちゃん、びっくりさせんなよー」
「……ただの猿じゃない……」
「んなことねーって!ほれ、リンゴくうか?」
矢沢が猿にリンゴを渡そうとした。猿は矢沢の手に触れる。その瞬間、猿の手元が光り、猿の手の上に大剣が現れた。いち早く声を上げたのは矢沢だ。
「あれ⁉俺の大剣が!なんでこいつの手に⁉」
「……この猿の名前は『シーフモンキー』。【スリ】っていうスキルで、人の武器を盗んで戦う猿」
「この!てめ、返せ!」
矢沢が必死に槍で『シーフモンキー』に攻撃をしようとしているが、『シーフモンキー』は木の上に逃げてしまう。そして木から飛び降り、矢沢に向かって大剣を振り下ろした。
「ぬおぉ!こいつ、武器を使えるのかよ⁉」
「矢沢!……あれ?俺の盾が……」
「後ろだ馬鹿。猿は3匹いるんだから警戒を怠ってんじゃねえよ」
俺は矢沢の援護に行こうとしたとき、自分の盾が盗られていることに気がついた。東堂が悪態をつきながら弓矢を放つ。しかし、『シーフモンキー』は盾を構えてそれを阻止する。
「盾の猿は後回しだ。大剣の猿を先にやるぞ!」
「「「おう!」」」
俺たちは矢沢の大剣を持った『シーフモンキー』に目標を定め、攻撃を仕掛ける。しかし、重い大剣を持っているはずなのに『シーフモンキー』は素早く木と木を飛び移るため、俺たちはダメージを与えられないでいる。しかし樋口だけは確実に『シーフモンキー』にダメージを与えていた。
「うらぁ!逃がすかぁ!」
「ウキー!ウキャキャ!」
(おお、すげえな樋口。猿の行く方向を予測して【エアスラッシュ】を当ててるのか……)
「なぁ樋口、お前猿の行く道が分かるのか?」
「いや?なんとなくだけど」
「同じ猿同士、通じ合うところがあるんだろ」
「んだと東堂!それだったらモミちゃんも攻撃を当てれるはずだぞ!」
「誰が猿よ!」
樋口の文句に椛さんが噛み付いた。そうこうしているうちに大剣を持った『シーフモンキー』のHPは尽き、矢沢の大剣をドロップして消えた。
「ふぅ、これでオッケーだな!よっしゃ!早く先に進もうぜ!」
「いやオッケーじゃないよ!俺の盾が盗られたままなんだよ!早く探さないと……あ、いた!」
俺は木の上にいる『シーフモンキー』を見つけた。すぐに【投げナイフ】を投げたが、『シーフモンキー』はジャングルの奥へと逃げてしまった。
「あぁ!俺の盾が!」
「諦めろ。あんな奥に行かれたら探しようがない」
「くっそ……かなり使いやすかったんだけどなぁ……あれ?そういえばもう1匹猿がいるんじゃなかった?」
「あーそれ、この子じゃない?」
そう言ってアルシアが俺たちのもとに来る。手の中には『シーフモンキー』がいた。
「おい、そいつはなんにも盗られなかったのか?」
「ううん、武器を盗ったには盗ったんだけど……この子私の弓だけ盗ったから攻撃ができないみたいなんだよね」
「ぶはははは!なんだよそれ!めっちゃマヌケな奴じゃねえか!」
矢沢が大声で笑う。俺たちも笑っていると、急に『シーフモンキー』がアルシアの弓を放り投げ、アルシアの手を飛び出した。そして樋口の持っていた虹色のキノコを奪う。お腹が空いていたのか、そのままキノコを食べてしまった。
「お、おいお前!そのキノコは猛毒だぞ!早く吐かねえと死ぬぞ!」
「ウキャ?ウキキッ!」
樋口が慌てて止めたが、時すでに遅し。『シーフモンキー』の体には何も起こらない。アルシアの弓を投げ捨てて、そのままジャングルの中へ帰っていった。
「あれ?なんもないのか。ねぇ、和泉ちゃん。どういうこと?あのキノコって毒あるんじゃないの?」
「……もしかしたら、ここの生き物はみんな毒に耐性を持っているのかも……」
「つまり毒は使えねえってことか。要、頭に入れとけよ。よし、先に進むぞ」
「おーう。唐橋、後で盾作ってくれ」
「要は生産職なんじゃないのかよ……まぁいいけど」
そんなことを話しながら俺たちはジャングルの奥へと進んだ。
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(この島でドロップするアイテムは全部【毒耐性】を持っているんだな……お、こんなところに花が咲いてる。これも【毒耐性】かあるんだろうな)
俺は地面に咲いていた黄色い花を見てそんなことを考えながらジャングルの奥へ進む。すると、太い木々の合間に何か人工物があるのが見えた。俺は唐橋に問いかける。
「なぁ東堂、あそこに見える物が何か分かるか?」
「ん?どこ?……あぁ、あれはこの島の中央の祠だね。昔はあそこで儀式をしていたんじゃないかな?この島にはあそこしか建物がないから、あの中に教皇たちがいるのかも」
「へぇ、そうなんだ。それなら早くあそこに……」
「……なんかくる」
俺が歩き出そうとすると、和泉さんに止められた。ジャングルの奥から鳥が飛び立つ音が聞こえてくる。
「さっきみたいに猿だろ。武器を盗られないようにしろよ」
「おーう!……うお⁉びっくりした⁉」
矢沢が返事をしたとき、矢沢の足元に円盤状の何かが飛んできた。よく見ると、それは俺の建物だった。
「あ!俺の盾!さっき猿に盗られたはずなのに!」
「どうしたんだろう?あの猿に何かあったのかな?」
アルシアが首をかしげた。すると、和泉さんが何かを感じとり口を開いた。
「……太い木が簡単に折れる音がする。何かが突進してくる……」
「そうか。お前ら、吹き飛ばされないように警戒……っ⁉何か来るぞ!全員散開しろ!」
ジャングルの奥を見た東堂が叫んだ。俺がそっちを見ると、木をなぎ倒しながら近付いてくる5メートルほどのイノシシがいた。『ファングボア』と言うらしい。『ファングボア』はかなり速いスピードで俺たちに近付いて来たため、何人かは回避が間に合わない。
俺は回避が遅れていた中村と和泉さんの体に腕を回し、【縮地】を使ってその場から離れた。俺が見ていた黄色い花は『ファングボア』に踏み潰されている。
(あっぶねぇ!あんなんにぶつかったら死んでたぞ!)
「危ない危ない。助かったよー要」
「……ありがと」
「あぁ、どういたしまして。和泉さんは下がって回復をお願いね」
「……了解」
「唐橋はどっか隠れてろ!前衛は足を止めにいけ!」
「「「おう!」」」
(あれ?ファングって牙だったっけ?なのにあのイノシシには牙なんか無かったけどな?まぁいいか)
俺たちはかなり先で止まった『ファングボア』の足を目掛けて攻撃しようとする。『ファングボア』は俺たちの方に振り向いた。そして、口元から牙が伸び、俺たちに突進してきた。俺は横に飛んで回避する。
「ぐはぁっ!……このっ!」
「矢沢!」
牙の近くにいた矢沢の左肩に牙が刺さる。矢沢は『ファングボア』の眉間に槍を刺して抵抗する。
「矢沢くん!ちょっと踏ん張ってなさい!【発勁】!」
そう言って椛さんがジャンプし、『ファングボア』の頭に【発勁】を打ち込む。『ファングボア』の顔は地面にぶつかり、矢沢に刺さっていた牙も抜けた。
「【メガヒール】」
「矢沢!大丈夫か!」
「おーう。HPは4分の1まで減っただけだからな。あ、あと『毒』がかかったから誰か【解毒剤】くれよ」
「いや、それ大丈夫じゃないだろ……」
「ほい矢沢。あいつはこの島のヌシだよ!気をつけて!」
(なるほど。この島のヌシが毒を持っているから、この島にポップするモンスターや生えている植物は【毒耐性】を持っているのか)
俺は唐橋の言葉を聞いてそう納得する。そうこうしているうちに『ファングボア』は地面に叩きつけられた顔を上げると、俺たちのところに突進してきた。
「樋口、すれ違いざまに前足に【居合い切り】を打ち込め。要も同じタイミングで前足を斬れ」
「んな無茶な……ま、やるか」
「よっしゃあ!うおおぉらぁ!」
東堂の指示を受けて樋口と俺は『ファングボア』目掛けて走りだす。そして、『ファングボア』の足を斬る。が、足は固く、剣の歯がたたない。
「くっ……そっち行ったぞ!気をつけろ!」
「ここは任せて!」
そう言って優香さんが【シールド】を多重に発動し、『ファングボア』の突進を止めようとするが【シールド】は、いとも簡単に破られてしまう。
(うーん……どうすればいいんだ?牙に触れると『毒』になるしな。せめてあの突進をどうにかしないと……)
「要!これを使ってみて!」
そう言って唐橋が俺に何かを渡してきた。【設置式爆弾】という名前なので、いわゆる地雷だろう。唐橋は話を続ける。
「それを地面に置いて『ファングボア』が通り過ぎるタイミングで爆発させるんだ!」
「なるほど!オッケー!やってみるよ!」
俺はそう言って地雷をセットする。前衛の3人にもその旨を伝えて『ファングボア』の突進攻撃を待つ。
少し攻撃をしていると、『ファングボア』が突進を仕掛けてきた。
「よし!お前ら!地雷の周りから離れろ!」
俺はみんなにそう伝え、爆発させるタイミングを伺う。『ファングボア』が地雷の上に差し掛かった瞬間、俺は地雷を作動させた。
見事、地雷は『ファングボア』の真下で低い音と共に爆発した。『ファングボア』は後ろに吹き飛び、背中から倒れ込んだ。
「今だ!一斉にかかれ!」
「「「おう」」」
俺たち前衛は一斉に『ファングボア』に近づき、攻撃を加えた。『ファングボア』のHPが残り少なくなってきたとき、いきなり『ファングボア』は体を起こし、突進をした。突進の先には唐橋がいる。
「唐橋!このっ!」
俺は【縮地】で唐橋と『ファングボア』の間に入り、『ファングボア』の目に【投げナイフ】を投げる。目を潰された『ファングボア』は真っ直ぐ進めずにふらふらとし始め、俺たちがいるところとは別のところに突っこんで行った。
「ふぅ、なんとかなったな」
「要ーありがとー!俺もう駄目かと思ったよ!」
「そんな太ってたら回避もままならねえだろ……ちっ、もう1回来るぞ。次で仕留めろ」
近くに来た東堂がそう言う。俺たちは『ファングボア』の突進に身構えるがさっきまでと違い、真っ直ぐ突進してこない。目が潰れたせいで体のコントロールが効かないのだろう。
「ったく、あんなにふらふらしてたら仕留めにくいわね」
「そうかな?さっきよりスピードは下がってるように見えるよ。ほら、さっきは簡単になぎ倒してた木にぶつかって方向転換してるし」
「言われてみるとそうね。佐藤くん、私と一緒にあの牙をどうにかするわよ。そしたら、樋口くんと矢沢くんがとどめを刺して」
「「オッケー!」」
「いや、どうにかしろって言われても……」
「ただへし折るだけでいいわよ。簡単でしょ?ほら!行くわよ!」
「「おう!」」
(不安だなぁ……)
俺は不安を抱えながら『ファングボア』の左の牙目掛けて【鉄球】を投げる。勢いよく投げられた【鉄球】は『ファングボア』の牙を砕き、顔にめり込んだ。これだけでもかなりのダメージが入ったようだ。
(よし、あとは椛さんがやってくれれば……)
「はあぁ、【発勁】!」
椛さんが右の牙に【発勁】を打ち込む。しかし、牙は砕けた様子がない。『ファングボア』はそのまま真っ直ぐ椛さんの元へ突っこんでくる。
「っ⁉椛さ……」
「近付くと怪我するわよ!離れてなさい!」
俺が近付こうとしたのを察して椛さんがそう言う。そして椛さんは、体を左にずらして『ファングボア』の突進をギリギリのところで回避する。そして、威勢のいい掛け声と共に『ファングボア』の牙を蹴り上げた。
「せいやぁ!」
振りあげられた左足が『ファングボア』の牙に当たると、牙は粉々になった。どうやら【発勁】で牙を脆くしてから破壊する作戦だったようだ。勢いそのまま一回転した椛さんはバックステップで『ファングボア』から距離をとる。
「いまよ!矢沢くん!樋口くん!」
「「よっしゃあ!うらぁ!」」
椛さんが矢沢と樋口に合図を出す。いつの間にか木の上に登っていた矢沢と樋口が飛び降りてくる。そしてそのまま、矢沢は大剣を、樋口は刀を『ファングボア』に振り下ろす。『ファングボア』は力尽き、光となって消えた。
「「「よっしゃあ!」」」
「よくやった。今回は俺たちは殆どやることが無かったな」
「まぁいいんじゃない?こういう時があっても」
中村と東堂がそんな話をしている。俺は椛さんに聞きたいことがあり、椛さんの元へ向かった。
「ねぇ椛さん。さっきのあれ、よく2発目に繋げられたね」
「大したことじゃないわ。一発じゃ無理だとは思ってたから、元々【発勁】で牙を脆くしてから蹴り上げる予定だったもの。流石に急にあの連撃は出来ないわ」
「へぇー、そこまで考えてたのか……流石椛さん」
「べ、別におだてたってなんも出ないわよ!ほら!早く行くわよ!」
椛さんは顔を赤くして祠の方に歩いて行った。俺たちも後を続いて、教皇がいる祠へ向かった。
俺たちは祠の扉を開ける。中は真っ暗で何も見えないが、ボロボロの壁や埃っぽい感じからして、ずっと使われていなかったようだ。
「ちっ、なんも見えねえな。気をつけろ。中にセイコー商会の奴らが待ち伏せしてるかもしれない」
「今明かりを付けるよ。〈火の天使よ。我に力を……〉」
「だめ」
東堂が俺たちに注意を促す。そして、中村が明かりを付けようとしたところを和泉さんが止めた。
「高崎さん、今は西田さんの怖がってるところを楽しんだりしてる暇は……」
「……違う……埃で隠れてるけど床とか壁にいっぱいに魔法陣が書かれている……これは火を付けたら爆発するもの」
「危なっ⁉あとちょっと遅かったら俺たちみんな死んでたよ!」
「それじゃあ明かりは無しで進まないといけないな……高崎、その魔法陣は踏んでいいのか?」
「……火が付かなきゃ大丈夫」
「よし、慎重に進むぞ」
る
俺たちはゆっくりと部屋の中を捜索していく。俺たちが部屋の真ん中に入った辺りで、唐橋が何かを思い出したように声を上げて樋口に話しかける。俺たちは変な罠を踏抜かないように気をつけながら捜索を続けている。
「そうだ!樋口、ちょっとこれ承諾してくれない?」
「おぉ?なんだこれ?」
「この前お前の武器を作ったろ?それの証明書みたいなやつだよ。NPCの鍛冶屋でもやってるんだけど、これがないと武器が破壊されたり盗難されたときの保証が効かなくて、それから……」
「あぁめんどいから説明はいらんいらん。ここ押せばいいんだな……ほい」
樋口が目の前の承諾ボタンを押す。その瞬間、俺たちの頭の中に天の声が響いた。
《これより、『ガーディアン・デ・ゲブラー』vs『長橋工業』のギルドpvpを行います。試合開始は3分後です》
「は?お、おい。pvp?うちと長橋工業が?」
「っ⁉唐橋!てめぇ何をした⁉」
「ふふっ、何って、長橋工業の代表としてpvpの申し込みを樋口にしただけさ。いやー、こんなところまでのこのこと来てくれて良かったよ」
「おい、どういうことだよ!お前長橋工業の奴といざこざがあって俺らのところに逃げて来たんじゃないのかよ!」
「そんなわけないだろ?あのロボットを作ったのも俺だよ。お前らは俺の演技にずーっと騙されてたんだよ」
唐橋は笑いながらそう答えた。どうやら俺たちはここまでおびき寄せられたらしい。東堂が前に出て口を開く。
「おい、てめぇらの目的はなんだ?俺たちを潰すことか?」
「そんな単純なことじゃねえよ。オルペンスの宗教戦争を引き起こす上でお前たちが邪魔だったんだよ」
「そうやすやすと戦争が起こるとも思えないがな。pvpが終わってすぐに俺らがオルペンスに行けば間に合うだろうな」
「間に合うはずがないさ。あと数分で戦争は始まるよ。ミカエル教徒にはラジエル教徒に最高指導者が殺されたと、ラジエル教徒には逆のことを伝えたよ。数千を超える武器も直に完売するだろうね」
「てめぇ……NPCとはいえ、人の命をなんだと……」
「誰も死なないよ?戦争が始まったらすぐにうちのリーダーが戦争を終結させるから。俺たちは金も稼げるしリーダーは街の英雄となる。それの邪魔をされたくないんだ」
そう言って唐橋はインベントリから取り出したドーナツを口に頬張った。
pvpの準備時間はあくまでも準備時間。他の人に攻撃を加えたら『指名手配』になってしまう。それも分かった上で唐橋は俺たちを煽っているのだろう。
少しして、唐橋は何かを思い出したように口を開いた。
「あ、そうそう。セイコー商会は今回の罪を全て被ってもらう予定だよ。彼らが1番邪魔だからね」
「おい、てことはセイコー商会が教皇を攫ったってのは……」
「もちろん、真っ赤な嘘さ。本当は俺たちが攫う予定だったんだけど、失敗したらしくてね。今どこにいるのか……っと、おしゃべりが過ぎたね。そろそろpvpが始まるよ」
《間もなくpvpを開始します。5、4、3、2……》
「じゃ、頑張ってね!」
そう言って唐橋は小瓶を床に投げ、祠から転移する。いち早くそれの正体に気付いた和泉さんが口を開いた。
「……!【火炎瓶】!」
「西田!シールドで俺たちを囲……」
《pvpを開始します》
東堂が優香さんに指示を出すのとほぼ同時に天の声が俺たちの頭の中に響く。そして、【火炎瓶】が床に落ちて割れた。四方から耳をつんざくような爆発の音が聞こえた。
リアルの都合で、次に投稿するのは、2週間後になると思います。楽しみにしていて下さる方々、申し訳ございません。