第32話
俺たちはアルバトロスのギルドホームの食堂へと向かう。食堂では体の大きい男と体の小さな女性が食事の準備をしていた。俺たちは促されるままに席につく。
「さぁ、うちの副リーダーたちが作った料理を召し上がってください!」
「うおぉ!美味そう!いっただきまーす!」
樋口と矢沢がすぐに食事を始める。神楽坂たちが食事を始めたので俺たちも箸を取った。すぐに俺たちは感嘆の声を漏らした。
「うっめええぇぇ!」
「ほんと!すごく美味しい!」
「お口に合ったようで良かったです!まだたくさんあるのでどんどん食べてくださいね!」
「秀介さんはなんもしてないくせに偉そうですね。作ったのは私たちですよ?」
「全くだ……」
自慢げに俺たちに飯を勧める神楽坂を見て、料理を作ったと思われる2人が文句をいう。俺は席に座った大きな男に話しかけた。
「この鶏肉美味しいですね。どこかで買ったんですか?」
「……いや、自分で採ってきた」
「へぇー!どこでドロップするんですか?」
「……マケルス諸島」
「マケルス諸島はオルペンスから海へ出ると行けますよ。あそこは敵が強い分、いい素材がいっぱい落ちるんですよねー。あ、申し遅れました!私、このギルドで生産職をやってる山下美玲です!」
無口な男性の代わりに、メガネをかけた小柄な女性が俺に説明をしてくれた。山下さんはそのまま目を輝かせて俺に話しかけてくる。
「要さんも生産職なんですよね?それなのに個人ランク4位だなんてすごいです!尊敬します!」
「ははっ、同じギルドに1位と3位がいるというのに、すごい扱いの差を感じるよ」
「……」
「秀介くんたちとは違うんです!普通戦いに重きを置いていない生産職がトップランカーなのがすごいんです!」
「まぁ確かに。佐藤くんはこのゲームが始まった次の日に自分の能力を使いこなせてたみたいだしね。僕なんか一ヶ月かかったっていうのに」
「ねぇ、さっきから言ってる、2人しか持ってないスキルってなんのことなの?」
神楽坂の話を聞いて優香さんがそう切り出した。アルシアや椛さん、和泉さんも気になっているようだ。
(うーん……なんて説明しよう……)
「えーと実は、【チャミュエル】っていうスキルを持ってて……URの……」
「……チャミュエル……?」
「うん、実は俺もよく分かってな……」
「チャミュエルというのは天使の名前なんです。しかし、名前以外になんの説明も無くて、似たようなスキルを持っている僕も持て余していたんですよ。ですが佐藤くんは!『スターターパック』で出た【チャミュエル】のスキルを1日で完全に理解して次の日には使いこなしていたんです!」
俺が説明を始めたしたところで神楽坂が話し始めた。しかし、その説明には間違っているところが多い。そもそも俺は未だに【チャミュエル】のことを殆ど知らない。神楽坂は何か大きな勘違いをしているようだ。
元から事情を知っていた中村と東堂は俺に疑念の目を向けていたが、初めてこの話を聞いた女性陣は神楽坂の話を完全に信じ込んだようだ。
「そんで?チェ、チャム、チャ……それの能力ってなんなのよ?」
「やーい、モミちゃんチャムエル言えないんだー」
「うっさいわね!あんたも言えてないでしょ!あとモミちゃん言うな!」
椛さんが俺に質問をしようとしていたが、彼女もチャミュエルが言えないようで、矢沢に馬鹿にされていた。俺が質問に答えようとしたところで神楽坂が先に答える。
「【チャミュエル】のスキルは、望んだところに転移する能力です。それと、能力が進化すると鉄とルビーを使った道具の性能が上がるんです!」
(待って待って⁉ルビーで能力が上がるの⁉これたまたまつなぎで使ってた武器なんだけど⁉)
「あ、でも、まだ能力は進化してないみたいですね。なので武器の性能もあまり上がってないみたいですが……なのにこの能力に気付くなんて、流石です!」
「……ねぇ要。今までの話全部ホントなの?」
「なわけあるか。さっきまで存在も忘れてたよ。本当のことを伝えないと……」
「まぁ待て。都合のいい感じに勘違いしてくれてるんだ。このまま放っておいてもいいだろ。最強のギルドとのパイプが出来るんだからな」
神楽坂の話に疑念を抱いていた中村が小声で質問してくる。東堂は打算的な考えを持っているようだ。とりあえずそのことは置いといて、俺は気になっていることを神楽坂に聞いた。
「なぁ、俺と同じURスキルの【メタトロン】?を持ってるって言ってたけど、それの能力は過去を見ることなのか?」
「そうですよ。あと、進化しているのでダイヤモンドを加工した武器を使うと能力が上がるんです」
「過去を見るって具体的にはどういうことなの?」
「好きなときに今までに皆さんがこの世界で行ったことの一部を見ることができます。それを使って、先程は佐藤くんの動きを予測したのですが……」
「俺が普段やらないような動きをしたから対応しきれなかったってことか」
「はい。僕が佐藤くんの過去を見たときのデータから攻撃の傾向を予測したのですが……」
神楽坂から尊敬の眼差しのようなものを向けられる。俺は気まずくなり目を逸らした。それを見ていた矢沢が神楽坂に問いかける。
「なぁなぁ、随分と要のことを尊敬してるみたいだけどよ、お前の方がレベルも順位も高いし、戦闘も強いだろ?どうしてそこまで要を尊敬してんだ?」
「いやいや、僕は能力に頼っているだけですから。同じ条件で戦ったら僕が負けますよ。どうして急に?」
「要なんかそんなすごいやつじゃないし、それにお前らの方が先に進むのが早いからな!お前らは1年でクリアしちゃうんじゃね?」
「……クリア、か。そんなもの、何の意味があるのか……」
矢沢の話を聞いていた無口な男が口を開いた。その発言を聞いた東堂が男に問いかける。
「クリアすれば栄峰大学に特待生として入れるんだろ?それだけでも十分クリアを目指す価値はあるだろ」
「……本当にこんなゲームをクリアしただけで大学入試が免除されると思っているのか?」
「お前ら、最初になんの説明も受けなかったのか?栄峰大の教授が説明したんだ。これで何もありませんでしたなんてなったら大問題だろ。それに、このゲームをプレイしてるお前が意味が無いだのなんだの言っても、説得力に欠けると思うがな。ええと……」
「岡田だ。それと俺は意味が無いとは一言も言ってない」
「あ?大学の特待生になれること以外の理由があるなら聞かせてもらいてえなあ」
「……お前らに話して何になる?」
「おいおい、人に説明することもできねぇのか?栄峰の生徒も大したことねぇみてぇだな」
「正人。失礼にも程があるよ」
「武もだ。言葉を慎みなさい」
喧嘩腰になっていた2人を中村と神楽坂が宥める。この場の空気を柔らかくしようと、笑いながら神楽坂が中村が口を開く。
「ごめんね。うちの指揮官が」
「いえ、こちらこそ。ゲームをやる意味ってやつなんですけど、まだ確証が無いのであまり広めたくないんですよ」
「そういうことなんだね。無理に聞き出そうとしてほんとごめんね」
「いえいえ……あ、そうそう、これからは他のギルドと協力したり、緊急事態に対応する能力が求められると思うよ。イベントでレイドバトルが来たりね」
「協力したり、緊急事態に対応する能力……?ありがとう。覚えておくよ。それじゃあそろそろ俺たちはお暇しようかな?」
「また食事に来てください。佐藤くんも今度は正規のルートで」
「「いえ、私たちがまたお迎えに上がります」」
「まじでやめてください⁉ほんとに怖いから⁉……あ、そうだ!俺の武器返して!」
「そういや、要はどうやって連れてこられたんだ?」
樋口が俺に問いかける。俺が口を開くよりも前に、双子の忍者が口を開く。
「私が声をかけ」
「佐藤くんが」
「鼻の下を伸ばしているところを」
「森に連れこみました」
「そこで私が捕らえる予定でしたが」
「佐藤くんに押し倒されてしまっていたので」
「姉が拘束しました」
「いや鼻の下伸ばしてないし押し倒しても……いや押し倒したか……だけど!あれは自分を守るためだから⁉」
「要が欲求不満なのは置いといて、2人とも【分身】のスキルが使えるのはすごいよね。5人に分身してたから【分身(Ⅳ)】かな?」
「「はい。といってもまだ5人に分かれても上手く動けませんが」」
「2人は双子……なんだよね?2人で分身するってのも面白いよね。姉妹なら連携も取りやすいだろうし」
「ええまぁ」
「あ、申し遅れました」
「私、水野亜希と申します」
「私、水野真希と申します」
「あ、うん。中村です。よろしくね」
中村が軽く話を流して2人の忍者に話しかける。少しして、山下さんが俺の剣と盾を持ってきてくれた。
「要さん!今度一緒にマケルス諸島に素材集めに行きましょう!」
「あ、う、うん。でも俺船とか持ってないんだけど……」
「うちのギルドが所有している船があります!それで行きましょう!」
「あーうん、また今度ね」
俺はお茶を濁して剣と盾を受け取る。本当は今すぐに返事をしようと思ったのだが、椛さんやアルシアたちの視線が痛かったので辞めておいた。そして俺たちは唐橋を匿っているファルパーラのギルドホームへ帰った。
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「……良かったのか?あのことを伝えなくて」
要たちが帰ったあと、岡田が神楽坂にそう問いかけた。
「うん。さっきも言ったろ?まだ確証が無いから広めたくないんだって。それに彼らなら何とかなるだろうし……」
「いや、違う。もう1つ大事な話があったろ。奴らに話すために呼んだんじゃなかったのか?」
「あー、あれね。今日佐藤くんの様子を探ってたときに面白い人を見つけてね。彼に任せてみようかなーって思ったんだよ。そもそも佐藤くんの元々の街はイツラスだからね」
「……その男はオルペンスの人間なのか?」
「いや、違うね。でもまぁ、もう気付いてるみたいだし、それに、彼は彼で目的があるみたいだから。今回は僕たちは手出し無用ってことで」
「……お前がそこまで言うなら……」
岡田が不服そうな顔をしているのを見て、神楽坂はニコリと微笑んで背中を軽く叩く。そして、水野姉妹を呼び寄せた。
「亜希ちゃん、今話してた彼の動きを調べといて。真希ちゃんは騎士団の方お願い」
「「り」」
「あっはは。彼らの前でもいつもみたいに話せばいいのに」
「秀介くんだって。最初のあれはなんですか?強そうに見せるアピールですか?」
「は、はい!この話は終わり!みんなやることやるよ!」
山下に痛いところを付かれた神楽坂は手を打ってそそくさと出かけて行ってしまった。
3人の女子も自分の仕事へと向かって行ったが、どうしても佐藤要以外の人間にあれの解決を任せようとしているのか理解できなかった岡田は神楽坂の後を追う。
「……おい、神楽ざ……」
「言わなくても分かるよ。なんであんなギルドに期待してるのか?だろ?」
「……ゲブラーやうちのように少数精鋭なわけでもないし、人数が多いわけでもない。あんなギルドが長橋工業の策略を止められるとは思えない」
「岡田、お前『セイコー商会』のリーダーの谷口のことは知ってるだろ?昔同じクラスになったことがあるはずだから」
「……谷口功太郎か……頭がキレるやつだったが運動がすごく出来る訳では……」
「そう、それでいいんだよ。彼は頭が良い。長橋工業の策をどうやって崩すのか、それを見てみたいんだ」
「……もし長橋工業が武力を持って『セイコー商会』を潰しに来たらどうする?」
「それも考えて……いや、辞めよっか。自分の目で見ないとつまんないしね」
神楽坂はそう伝えてどこかへ転移してしまった。いつものことだ、そう思い、呆れながら岡田は食事の後片付けをしに、食堂へと戻った。
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俺たちはファルパーラのギルドホームへ帰ってきていた。帰ってすぐにギルドホームの唐橋に貸していた部屋を覗いてみると、唐橋はいなかった。部屋の真ん中には小さな船のおもちゃが置いてある。
(なんだこれ?プラモデルか?こんなところにおいてあったら危ないな……よし、机の上に……)
「あぁ要!それ触らないで!」
俺が船のおもちゃを動かそうとしたとき、部屋に入ってきた唐橋が声を上げた。手には大量の菓子パンが入ったバスケットを持っている。
「おぉわりい。下に落ちてたから机の上に置こうかと……ってそんないっぱいパン買ったのか。太るぞ?」
「まぁまぁ、買い物に行ったりモンスターを狩ったりしてるからプラマイゼロだよ」
「ほう、ほんとにプラマイゼロなのか?」
「あーいや……ちょーっと太ったこともなきにしも非ずって言うか……」
「太ったんだな。要、樋口、矢沢、そのパンを没収しろ」
「よっしゃ、いっただきまーす!」
「あああぁ!辞めてぇ‼俺の唯一の楽しみだからぁ!」
東堂の指示で俺たち3人が唐橋の抱えているパンを食べていく。といっても、さっき神楽坂たちと食事をしたのでお腹は空いていないので全ては食べられないのだが。
俺は後ろにいた中村と椛さんにパンを渡す。
「はい、アルシアは食べる?」
「あーいや……私はちょっと遠慮しとこうかなぁ……」
「私も。今はそんなお腹空いてないし……」
「……同じく」
アルシアに渡そうとしたとき、アルシアはパンから目を逸らした。同じように優香さんと和泉さんもパンを断った。
(3人ともどうしたんだ?……あ、いっぱい食べたら太るぞーみたいな話をしてたら食べるのも躊躇するよな。……あれ?椛さんは……)
「何よ?」
俺は気になって椛さんの方を見る。椛さんは口元にクリームパンのクリームを付けたままこっちを睨んでくる。
「あーいや、その……パン食べて大丈夫なのかなーと……」
「大丈夫よ。そんなお腹いっぱいじゃないから」
「……椛、太るよ?」
「なっ⁉う、うるさいわね!私はあんたたちよりも動いてるから大丈夫よ!」
俺の言わんとしていることを和泉さんが直接伝える。せっかく買ったパンのほとんどが俺たちに取られて意気消沈している唐橋に、東堂が問いかける。
「永田が唐橋に近付いたって話は後にしろ。それより唐橋、その船はどうしたんだ?」
「いっっちミリもこんな豚野郎に近付いてなんかないわよ!ぶっ飛ばすわよ!」
「豚野郎って俺のこと……?まぁいいや。見ての通り、これは船だよ」
「いや、それは分かるが……なんでこんなところに船のおもちゃを置いているのか気になってな」
「違う違う!これはおもちゃなんかじゃないよ!本物の船だよ!今みせてやるよ!」
唐橋がそう説明するが、俺たちは全く信じていない。わずか15センチ程の船を見て本物の船だと思う人間などいないだろう。唐橋は船を拾い上げてギルドホームの庭へ出た。
そして、おもちゃの船に魔力を流し込んだ。するとおもちゃの船はみるみるうちに大きくなり、やがて人の乗れるような大きさになった。
「すげぇ!ガチの船だ!」
「言ったろ?これは魔法で小さくしてた船なんだよ。たまたま壊れた長橋工業の船を持ってたから修理してたんだ」
「なぁなぁ!これってどうやって操縦するんだ?」
「そんな難しくないよ。やってみる?」
「いいのか⁉やらせてくれ!」
「俺も俺も!せっかくだし、海渡ってどっかの島にでも行こうぜ!」
船が運転出来るときいて樋口と矢沢が食いついた。唐橋は少し考えこんだあと、何かを思い出したように手を打った。
「そういえば、イツラスから少し沖に出たところに[ロディア島]っていう小さな島があったな。あそこはレアな素材が取れる訳じゃないけど、船を動かすにはちょうどいいんじゃない?」
「よっしゃあ!今からそこに行こうぜ!」
「おい矢沢!運転すんのは俺が先だぞ!」
矢沢と樋口が唐橋を連れてイツラスへ転移してしまった。俺たちも後に続いてイツラスへと向かった。
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[イツラス ウラール海沖]
俺たちは唐橋の直した船に乗ってロディア島を目指していた。天気は晴れ、風も少なく航海には絶好の日……のはずだが、船は大きく揺れ、いつ沈んでもおかしくない状況だった。
「う……要、俺はもうだめだ……あとは任せたぞ……」
「な、中村ぁ!」
横になっていた中村の手を俺が握る。そんなことをやっていると東堂から冷やかな目を向けられた。
「おい中村、酔ったんなら遊んでねえで船ん中戻って寝てろ」
「うん。ちょっと行ってくるよ……」
「ったく、あいつらはどんだけ運転荒いのよ。唐橋くんが手伝いに行ったのにまだ揺れてるじゃない」
椛さんが外を見ながら愚痴をこぼす。少し船の揺れが収まってきたとき、唐橋が戻ってきた。
「ふうぅ、やっとなんとか運転できるようになってくれたよ」
「おう、お疲れ。あいつらが船の運転なんか出来るのか?」
「まぁゲームだしさ。やり方さえ覚えれば余裕だよ……さて、お前らに聞いてほしい話があるんだ」
唐橋が深刻な顔をして俺たちにそう告げた。俺たちが唐橋に注目しているのを確認して、唐橋は話を続けた。
「オルペンスにはミカエルとラジエルの両方の宗派があるのは知ってるよね。昔から仲は良くなかったんだけどさ、遂に戦争が起こりそうなんだよ」
「ほう、宗教戦争って感じか。俺たちがクラスメイトとやった感じのやつか?」
「いや、もっとひどいやつだね。街は壊れるだろうし、人もたくさん死ぬ。ただ、すごく不可解な点があるんだよね」
唐橋はそう答える。この世界の宗教戦争と言うのがどのようなものか全く想像がつかなかったが、唐橋の話で気になったことを問いかける。
「不可解な点?なんかあったのか?」
「そう、元々ミカエル教とラジエル教はあまり仲が悪くなかったんだ。ミカエル教とラジエル教の教皇の仲が良かったからね。ただ、その2人が今行方をくらませてるんだ」
「行方不明?どうしてまたそんなことに?」
「予想だけど、多分あるギルドが絡んでるんだと思うんだ」
「あるギルドって?」
俺がそう聞くと、唐橋は声を落として
「セイコー商会さ」
と答えた。俺は何かの間違いだろうと思ったが、唐橋はそのまま話を続ける。
「あそこのリーダーが2人の教皇に接触したのを見た人がいたんだ。それに、あそこの商会は金を集めるためならなんだってする。戦争を始めさせて武器やポーションを売って儲けようとしてるんだ」
「なるほどな。確かにあいつならやりかねない。しかし、なんで今その話をしたんだ?他に話す機会は幾らでもあっただろう?」
「あぁ、今から行くロディア島に教皇2人か監禁されてるんだ。本当はうちのギルドのやつと行く予定だったんだけど、別のことでいざこざがあったからね。こっちの事情なのに手伝ってもらって、みんなには迷惑かけてほんとごめん」
頭を下げた唐橋の肩に東堂が手を置く。そして、俺と唐橋に指示を出した。
「気にすんな。それより、島が近いぞ。唐橋、船の操縦を助けてこい。座礁なんかしたらたまったんもじゃないからな。要は中村を起こしてこい」
「オーケー。今行ってくるよ」
「了解」
(しかし谷口が戦争を引き起こそうとしてる……か。あいつがそんなことをするとは思えないんだけどな。まぁ唐橋がああ言ってるし、今は教皇さんを助けるのが先だな)
俺はそう思いながら中村を起こし、ロディア島に上陸した。