第2話
[へーリの森]
ここは、ゲームでもよくある序盤の森だ。もちろん、出てくる敵も弱い。
[ザラマーナ]は、始まりの街であるため、行けるフィールドはこの森だけである。なので、自然と、この森に人が集まるのだが、他の人に会うことが珍しいくらい広い森、それがここ、[へーリの森]だ。俺たちは、マップでその広さに驚きながら、敵を探していた。
すると、木の影から赤いうさぎみたいなモンスターが5匹出てきた。赤い文字で『レッドラビット』と表示されている。
ちなみに、人間やNPC、召喚獣などは緑色で名前が表示される。ほんとに敵がいるんだ、と感心していると、矢沢が
「1人1匹ずつ狩ろうぜ!」
と、提案してきた。面白そうだと言って、反対する人はいなかった。俺は剣を抜いて、『レッドラビット』に構える。『レッドラビット』はまっすぐこちらに突っ込んできた。俺は剣を振ってみたが、躱されて、体当たりを食らった。
(おぉ、ちょっとHPが減ったな。でも、全然痛くないぞ……)
ドサッ!バキバキバキッ!
(……少し遠くで木の折れる音がしてるぞ……大丈夫か?まぁいいや)
『レッドラビット』がもう一度体当たりをしようとしてきたので今度は躱して、剣を振り下ろした。これは、見事に当たり、『レッドラビット』のHPゲージがゼロになり、『レッドラビット』が地面に落ちた。血は出ないようだ。
すると、『レッドラビット』の死骸がなくなり、その場所に2つのアイテムがドロップしていた。【兎の皮】と【薬草】だった。【兎の皮】は通常ドロップで、【薬草】は【泥棒】の効果によるものだろう。
アイテムや武器のレアリティはN、R、VR、SR、SSRがあり、それぞれ品質で+や-がつくが、今回手に入れた【兎の皮】も【薬草】もN-だった。
(まぁ最初の森だし、出てもN+程度だろう)
そう思いながらみんなのところへ行くと、矢沢以外の狩りは終わっていた。ドロップアイテムはみんなN-の【兎の皮】だったらしい。
矢沢はというと、すごく苦労していた。そんな大剣でちっこい兎に攻撃出来るはずがない。やることもないので矢沢とレッドラビットの戦闘を見ていたが、5分ほどして、やっと当たり、俺たち全員の初戦闘が終わった。
「いやぁ、強かったなぁ!あんなのそう何匹も出てきたら勝てねぇよ!」
「矢沢、お前以外はほぼ無傷だぞ」
「健一は武器の相性が悪かったからね。すばしっこい敵にもダメージが通るように、サブウエポンも買ったほうがいいね」
「この森は木が多いから、剣を使うのは大変だよねぇ。ま、俺は瞬殺したけどね!」
「矢沢も樋口も何も考えねぇで剣振り回すから、周りの木が何本も倒れんだよ。武器の耐久度も減ってんだろ?こんなんじゃ何本剣があっても足りねぇぞ」
(なるほど、さっきの木の折れた音はこの音だったのか)
「あっ、ほんとだ!くっそー……もうちょっと丁寧にやらねぇとなぁ」
武器の耐久度を確認した矢沢が、バツが悪そうに頭を掻く。同じく武器の耐久度を確認していた樋口がすぐに口を開いた。
「えー、でも【ソードスラッシュ】使ったから、武器の耐久度減ってないy……」
「てめぇのそれのせいで木が俺の方に倒れてきたんだよ!!」
(……だから異様に真っ直ぐな道ができてたのか……あ、そうだ)
俺は倒れた木の方に向かって歩き、木に触ってみた。
すると、俺が触った木は消えて、俺の手持ちに何か入った。やっぱり、【普通の木】と表示されている。【採取】のスキルを持っているから、倒れている木を回収できるようだ。
俺のやっていることに気がついた中村が木の回収を試してみているが、だめだったようだ。
「だめだ。俺じゃ、倒れた木を回収できない。やっぱり【採取】のスキルが無いと、素材を回収できないのかも」
俺の考えと同じことを中村が言うと、それを東堂が否定した。
「いや、さっき道に【薬草】があって、拾おうとしたら普通に拾えたし、すべての素材って訳ではないんじゃねぇか?あと、俺らも【斧セット】を買えば、木の回収はできるぞ」
「てことはさー、要は自分で素材集めて、自分で武器作れるし、生産職が天職なんじゃない?」
「生産職でもいいんじゃないか?生産職はDEX以外のステータスは自由に上げられるから、好きなことができるぞ?」
「なるほどな。そういうことなら生産職でやっていこうかな」
これといってやりたいと思っていた職業もなかったし、思わぬ形で天職が見つかった俺はそう答えて、残りの木も回収した。
その後も俺たちは、数時間レベル上げをした。【兎の皮】はそれぞれ20枚ほど集まり、俺以外の奴らは【兎の肉】もドロップしていた。なぜ、俺はドロップしないのか……それもそうか、他の4人のLUKの値の平均は40くらい、それに対して俺は13、レアアイテムがドロップする訳が無かった。
まぁいいだろう。【兎の肉】なんかドロップしても料理できないし、宝(?)の持ち腐れなのだ。また、今回の狩りで、みんなレベルが5まで上がっていた。
夕方、俺たちは[ザラマーナ 中央区]に戻ってきた。そこで、大きな旅館のような安い宿を見つけたので、そこに泊まることにした。
[宿屋 ラウニー]
町の中央広場のすぐそばにあるこの宿はザラマーナで1番大きい宿なのに、1部屋1泊1500Gと、とても安い。しかも、聞いた話によると、無料で使えるHPやMP回復サービスも充実していて、一定量の食材を持ち込めば1泊あたり500G割引してくれるという、序盤のプレイヤー御用達の宿だ。そのため多くのプレイヤーでごった返している。
なんとか1部屋取れたが、夕食まで時間がある。俺たちは[ザラマーナ 商業区]へ行き、別れて自由に見て回ることにした。
(【兎の皮】かぁ……何に使えるかなぁ……いや、どうせ森に入ればすぐに手に入るし、今は少しでも買い物の足しにしよう)
【兎の皮】の使いみちが分からなかった俺は、【兎の皮】21枚を全て売った。所持金が4700Gまでたまったので、【兎の皮】は1枚200Gで売れるようだ。宿代は割り勘で200Gで済むため、あと4500G使える。
(そういえば、HPを回復するポーションを作ってほしいって言われてたな……ええと確か、【調合】ってスキルと【調合キット】が必要だって中村が言ってたような……おっ、見つけた)
俺は目当てのものを露店で見つけたので、2つ合わせて1500Gで購入した。どうやらスキルもNPCから購入することが出来るようだ。
思っていたより安いのは、誰も生産職なんてやりたがらないからだろう。ポーションを作るための小瓶を5つ買って、1500G残った。
(みんなは買い物終わったかな?)
[ラウニー]へ戻ると、樋口がいた。
「おう、樋口。お前が1番か?」
「お、要。他の奴らには会った?商業区が広すぎて、全然知り合いに合わなかったよなー」
「だよな。しかも何でも揃ってるしな。ま、今はそんなに無駄遣いできないけどな」
「でもでも、要が武器とかポーションを時給自足できるようになれば、お金がかなり浮くよね!」
確かに樋口の言うとおり、皆の足を引っ張らないためにも、早くいい武器やアイテムが作れるように頑張らなければいけない。
そう考えていると他の3人がばらばらとやってきた。どうやら中村は何かの魔導書を、矢沢はサブウエポンの【普通の片手棍】を買っていた。
東堂は色々と見て回り、結局弓矢しか買わなかったそうだが、途中で女子5人組のパーティに入らないかと誘われて少し遅れたらしい。苦労が絶えないな……いや、これは苦労に入らないだろう。
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夜、俺は部屋で東堂と一緒にポーションを作ろうとしていた。なぜ東堂がいるかというと、【水魔法(小)】で水を出してもらうためだ。他の3人には、別の仕事を任せている。
(えっと、まずは【調合キット】の中に【薬草】を入れて、水を入れた【小瓶】もセットして、【調合】と……なんか、緑色の液体が完成した。【回復ポーション】となっている。レアリティはN-だ。まぁ、いいんじゃないか?)
「一応出来たけど、これ1つでどれくらい回復すんだ?」
東堂が分かるはずもないのだが、もしかしたらと思い、一応聞いてみた。
「分からない。だから、あいつらに、[へーリの森]に素材集めのついでにダメージを受けて来るよう伝えたから、そろそろ帰ってくるだろ。さ、あと4本も作っちゃおうぜ」
(おお、えげつないなぁ……)
そんなことを考えながら、残りの4本も作った。1つだけNの【回復ポーション】ができたが、これは運なのだろう。
ちょうどその時、中村と樋口が帰ってきた。矢沢は【自動回復】のおかげでダメージがないため、ドロップアイテムを売りにいったらしい。中村は半分くらい、樋口は三分の一くらいHPが減っていた。
中村と樋口のレベルは6、最大HPは692だった。ちなみに『レッドラビット』の体当たりのダメージは1発で50程度だ。
「おかえり。とりあえず中村はこれ飲んでみて。あ、その前に今のHP覚えといて」
俺はそう言って、中村に1つだけでたNの【回復ポーション】を渡した。
「了解……お、飲む前は358だったのが、558まで増えたよ」
「てことは、200回復か。んじゃ次、樋口、これを飲んでくれ」
次に渡したのは、N-のポーションだ。その時ちょうど、矢沢が帰ってきた。
「帰ったぞー!取れた皮と肉だけでも思ったより金になったぞ。俺の取り分は取ったから、あとは2人で分けといてくれ」
「あ、ありがとう健一。それで、純はどんな感じ?」
「んっとねぇ、最初441だったのが、601になったから、160かな?……あ、俺のお金これ?ありがとう」
回復量を俺に伝えた樋口が中村からお金を受け取る。一応何かに使えるかもと、回復量とポーションの質のメモを取っていた東堂が俺たちに軽く結果を報告する。
「N-のポーションの効能はNのポーションの0.8倍だな。今は40の差だが、ポーションのレア度が上がるに連れて差も広がるだろう。もしかしたら、素材の水とか、【薬草】の質によっても変わるのかもな」
「そうだな、また色々実験してみるか」
「ま、今出来る実験は終わったし、今日は寝ようぜ。明日は面接もあるからよ」
「そうだね。もう12時も回ってるし、明日は8時に朝食が出るらしいから、遅れないようにしなきゃいけないしね」
俺たちは各々布団を敷いて床についた。
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朝だ。と言ってもまだ6時過ぎだが。ちゃんと眠気も感じるのは驚きだ。カーテンを少し開けて外を見るとらもう活動しているプレイヤーがいるようだ。うちの部屋の他の奴らはまだ寝てる。俺は早起きの習慣があるから早く目が覚めてしまったのだ。
俺は1つ作りたいものがあってこんな時間に起きた。それは、盾だ。俺は片手剣を使っているから、左手が空いてる。だけど、買うにはお金が足りないし、【普通の木】と、【普通の石】があるので、自分で作ろうって思ったのだ。
しかも、昨日【回復ポーション】を作ったときに少しDEXが上がっていたから、多分盾を作ったときも上がるだろう。もしかしたら、DEXの高さによって作ったアイテムの質も変わるのかもしれない。
(……よし、初めてにしては悪くないだろう。【石の盾】か。N-で、弱そうだけど、まぁ無いよりは全然マシだろ。さて、昨日実験で消費した【回復ポーション】2つも補充しておくか……お、1つはNだ。運が良かっただけかもしれないけど、やっぱDEXはアイテムの質に関係ありそうだな)
俺はやることを終わらせて時計を見る。現在時刻は6時45分。誰も起きてないし、中村にメール1本入れて、散歩にでも行くことにした。
『散歩に行ってくる。8時に食堂集合な』
(よし、行くか……宿から出ると、まだ肌寒いな。さて、どこへ向かおうかな?そうだ、中村たちはレベル6になっていたし、今から軽くレベル上げと、素材集めでもして、その後商業区に向かうか)
俺はそう思い、[へーリの森]に向かった。
(さぁて、兎さんたちや、出ておいでーっと……お、草むらがごそごそ音を立ててる……よし、1匹目だ)
そう思っていた俺の前に出てきた兎は、『レッドラビット』の倍くらいのサイズがある兎が出てきた。色は普通の『レッドラビット』よりも赤黒い。『ブラッドラビット』と言うようだ。後ろには何匹かの『レッドラビット』もいる。周りに人はいない。
俺を見つけた『ブラッドラビット』は、周りには全く目もくれずに俺に突っ込んできた。『レッドラビット』より速い突進に驚いた俺は、すぐにその場から飛び退きなんとか躱したが、後ろにあった木が折れそうだ。
(危なっ⁉あんなの盾で受けたら一発で壊れるぞ!)
周りの『レッドラビット』たちも続けて突っ込んできたが、これは難なく処理できる。盾で受けて、剣で斬る。
雑魚相手なら戦えるようになってきた。『レッドラビット』は一通り倒し終わったが、『ブラッドラビット』の攻略に手こずっていた。
(とりあえず、斬ってみるか)
『ブラッドラビット』が体当たりをしてきたタイミングで剣を振り抜いた。見事に命中、HPが三分の一くらい削れている。
(よし、あと2回だ!)
また同じように、体当たりをしてきたので、さっきと同じタイミングで剣を振り抜こうとした。しかし、今度は『ブラッドラビット』が体を捻るような動きをした。俺の体の前には兎の足がある。
(やべぇ!蹴られる!)
咄嗟に『ブラッドラビット』を斬り落とそうと、剣を振り下ろした。剣が当たったような感覚がしたが、俺は蹴り飛ばされ、木に体をぶつけた。
(くっそ、痛え!いや、痛くないか。でもHPがかなり削れたぞ。なんて蹴りだよ!しかも、あと1回剣を当てなきゃいけないのか)
俺が蹴り飛ばされたとき、俺の振った剣も当たっていたようで、『ブラッドラビット』のHPは三分の一を切っていた。俺が立ち上がろうとすると、すぐに体当たりをしてくるので、俺は木の影に隠れて、【回復ポーション】を使っていた。
(くそ、まだHPが三分のニくらいしかないが、ダメージ覚悟で突っ込むしかないか?ぎりぎり死なないよな?ほんとに使えないスキルばっか……いや、待てよ。これは使えるんじゃないか?)
これが失敗したらダメージ覚悟で突撃しよう。そう思い俺は、落ちていた石ころを拾った。
俺が石を拾う音に気付いた『ブラッドラビット』は俺に向かって体当たりをしようとしてくる。その瞬間、俺は拾った石を『ブラッドラビット』に投げつけた。【強肩】のおかげで、すごいスピードが出た石は『ブラッドラビット』の右目に直撃した。右目が潰れた『ブラッドラビット』は痛みに悶えている
(よっしゃっ!今なら殺れる!)
このチャンスを逃すまいと、俺は『ブラッドラビット』に近付き、斬りつけた。『ブラッドラビット』は崩れ落ち、やがてアイテムへと代わった。
(ふぅぅぅ。危なかったぁ)
全部合計で【兎の皮】が13枚【兎の肉】が6つ、【兎の足】が1つ、【普通の鉄】がドロップした。レベルは8になってる。俺はまだ時間に余裕はあるが、もう帰ることにした。
(【兎の足】か……多分運が上がるんだろうな。加工して体につけとくか……しかし、【強肩】が役に立つとはなぁ、今度投げナイフみたいなのも作るか……)
俺は[へーリの森]を抜けて、商業区に向かった。【兎の皮】を全部売ったら2600Gになり、そのお金で【普通の鉄】を3つ買った。1つ800Gしたから、残ったお金は昨日の分と合わせて1700Gだ。そろそろいい時間なので、俺は宿に戻った。
宿の食堂へ向かうと、いきなり女性に話しかけられた。
「そこの君!私、梅崎高校の新聞部なんだけど、『梅崎新聞』買わない?このゲーム内での出来事を記事にしたの!しかもダクニル地方だけじゃなく、他の地方の記事もあるのよ!どう?買わない?」
話しかけてきた女性は梅崎の生徒らしい。身長が150センチちょっとで、髪型はツーサイドアップでまとめてある。だが、そんなことはどうでもいい。俺は急に話しかけられて、パニックに陥っていた。
(ななななんだこの人は!新聞?新聞売ってるのか?ととととりあえずこ断らないと!落ち着けー、落ち着け俺)
「あ、や、でも、し、新聞とかそんな読まn……」
「あれ?君、HP減ってるよ?朝から[へーリの森]に入ってたのかな?元気でいいねぇ!『梅崎新聞』には、[へーリの森]の敵の情報もあるの!今なら【回復ポーション】も込みで1部300G!どう?買う気になってくれた?」
「あ、んじゃ1部……」
「ありがとう!はいこれ!新聞と【回復ポーション】。明日もよろしくね!」
そう言うと、彼女は他のお客さんのところへ向かっていった。なかなか好評のようで、かなりの売れ行きだった。あれは儲かるな。
食堂の奥の方に行くと、俺たちの部屋の番号が書かれた机にもうみんな座っていた。
「おはよう、要。早いじゃん?[へーリの森]に行ってたの?」
「おうお前ら、ちょっとレベル上げとお金稼ぎをしようと思ったんだが、問題が起きてな、疲れたんで、早めに帰ってきたんだよ」
「問題?」
「おう、実はな……」
「そんなことより要、やっぱり新聞買ってきたんだね?」
『ブラッドラビット』の話をしようとしたところで、樋口がニヤニヤしながら俺に問いかける。追うように東堂も口を開いた。
「もうちょっとしっかりと断るかと思ったが、全然断らなかったな」
「なんだお前ら、俺が勧誘されてんの見てたのか?」
「あぁ、あそこの新聞勧誘、俺たちの来る前からやってたんだけど、要が来るときに絶対買うよなって話してたんだ」
「いや、あんなに強く押されたら無理だよ。しかも、そんなに悪いものじゃなさそうだったし。なんでお前ら断れたんだよ」
「「「「要が買ってくるって思ってたから」」」」
「そ、そうですか……」
俺のヘタレっぷりが無駄遣いを抑えたとも言えるが、俺は複雑な気持ちだった。
飯を食った後、新聞を読んで見たが、中々いい情報がたくさん載っていた。[へーリの森]の敵のことや、どこで何ていうギルドが設立したとか、職業ごとのインタビューとか、面白い記事がたくさんあった。
「なるほど、中々面白いな。流石梅崎高校だ。自分たちで仕事をするのが上手いな」
東堂の言う通り、梅崎高校はとても自由な校風の女子校で、生徒総会や、文化祭で企業から飲食品を購入する手続きなどを全て生徒だけでやっているらしい。
「うん。しかも、頭のいい学校だからね。文章がすごく読みやすいよ」
「なぁ、そろそろ面接会場の[中央広場]に行かねぇか?割といい時間だぞ?」
樋口に言われて時計を見ると、9時45分だった。そろそろ行くか、俺たちは面接が行われる[中央広場]に向かった。
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[ザラマーナ 中央広場]
俺たちがついたとき、ちょうど面接が始まった。5人ずつの集団面接らしい……俺達の番だ。衝立の奥に行くと、菅原の横に、2人座っていた。
右側は佐藤貴文だ。同じクラスになったことはないけど、同じ名字なので、顔を覚えていた。左側は顔を見たことはあるけど、名前は知らない。俺たちが椅子に座ると、面接が始まった。
「よし、んじゃまず、自分のスキルと武器を教えて」
(やっぱりその質問か。でも、【チャミュエル】のことは黙っとこう、まだ何も分からないし)
端の中村から順に答えていく。最後の樋口が答え終わったところで菅原が口を開いた。
「なるほど、んじゃ要、お前にだけはいくつか聞きたいことがある。他の4人は合格だからちょっと待ってて」
(ん、聞きたいこと?まさか、どっかから【チャミュエル】のことを嗅ぎつけたのか?)
「ん、分かった。んで、聞きたいことってなんだ?」
「おう、お前、今日の朝[へーリの森]にいたよな?」
(ん、なんだ。【チャミュエル】関係ないのか)
「あぁ、行ったよ。ちょっとレベル上げとお金が欲しくてね」
「そうか、そんときお前、ちょっと入ってすぐに出てきたじゃねぇか。HPが三分の一くらいしか減ってねぇのに」
「あぁ、あれか。あれは実はな……」
「言い訳なんていいんだよ。たまたまスキルが弱くて戦えないのはしょうがないけど、ちょっとダメージ食らって、びびって逃げ帰って来るような奴はいらないんだよ」
「いや、だから逃げ帰って来た訳じゃ……」
俺が否定しようとすると、菅原の左側にいた奴が口を開いた。
「あと、お前生産職なんだろ?でも生憎、長橋工業の奴らが生産職のギルドを組んで、他のギルドに武器やアイテムを販売するって新聞にあったろ?だから生産職もいらないんだよ」
(確かにそんなこと書いてあったな。てか、お前は誰だ)
「という訳で、お前は不採用だ。残念だが他にも入りたいって奴らはいるんだ、また来いよ。ま、要がときに俺がメンバーを募集する保証はどこにもないけどな」
(やべぇ!本当に俺だけ落ちちゃったよ!……仕方ない……【チャミュエル】のことを話すか……)
「あの、菅原。実は俺……
「なら、俺たちも合格を辞退する」
俺がチャミュエルのことを話そうとした時、東堂がそう言いながら立ち上がった。他の奴らも帰ろうとしてる。
「お、そうか。んじゃ勝手にしてくれ。5人でラスボスに辿り着けるよう頑張ってくれよ」
「行こう、要」
中村が俺を呼ぶ。いやぁ、持つべきものは友達だな。そう思いながら、[中央広場]を後にした。
「よし、んじゃ全員不採用だったし、俺がリーダーのギルド作っていいよね?他の大きなギルドに張り合えるくらいのギルドにするからさ!」
「チッ、しょうがねぇな。とりあえずギルドに入っておかなきゃいけねぇしな」
「東堂?そんなに照れずに俺をリーダーって慕ってくれてm……」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。リーダーとして務まらなかったら、中村をリーダーにするぞ?」
「自分でやるんじゃなくて、俺がやるんだ……」
そんなやり取りをしているみんなを見ながら、俺は思った。
(やっぱ生産職だから、全員の武器とか揃えなきゃだし、他の大きなギルドと張り合うにはいい装備を作ってやんなきゃなぁ。はぁ、どっかにR以上の装備を作るための素材ないかなぁ)
俺がそう思うと突然、俺の体が光った。
「「「「要?」」」」
「え?あっあれ?」
次の瞬間、体が一瞬フッと浮き、目の前が暗くなった。