第24話
俺はイツラスの商業区をふらふらしていた。やることもないので暇潰しだ。すると、前からすごい勢いで走ってくる人間がいた。その男は俺に気付くと俺の肩をがしっと掴み、息を切らせながら、俺に話しかける。
「頼む親友……匿ってくれ!」
「匿う?お前何したんだよ?」
「事情は後で!今はここから少しでも離れたいんだ!」
なんのことか分からないが、とりあえず俺たちが数日間滞在させてもらっている神社へ連れて行く。部屋に戻ると、中村と東堂が部屋にいた。当然、2人は谷口を見て驚いていた。
「お?谷口じゃねぇか。どうしたんだ?金目当ての不良に命でも狙われたか?」
「ふぅ、ふぅ、ま、まぁそんな感じ……実は相棒に命を狙われて……」
「東堂くん、要くん帰ってきてない?」
「あ?帰ってきてるけど、要に何か用か?」
「ううん、功太郎くんを探してるんだけど……」
優香さんが引き戸をトントンと叩いた。水を飲んでいた谷口の手が止まる。
「谷口?あいつがどうかしたのか?」
「なんかね、私の友達の成宮美保ちゃんって子が功太郎くんを探してるみたいなの。要くんと一緒にいたらしいからもしかしたらって」
谷口が口の前で人差し指を立てる。東堂はそれを見て呆れたように口を開く。
「あぁ、要と一緒に来てるぞ」
「ちょ⁉サイン見てたよね⁉」
「なんの説明も無しに匿えとか都合が良さすぎんだよ。もし襲われたら守ってやるから、話くらいちゃんとつけてこい」
「わーったよ……はぁ、何を言われることやら……」
谷口はようやく観念したのか、両手を挙げて部屋から出た。
「美保ちゃんがここに来てくれるんだって。ちゃんと話さないとだめだよ?」
「OK、分かった。でも、お前らも一緒に来てくれよ?守ってやるって言ったんだから」
谷口が東堂をちらりと見る。東堂はため息をついてうなずいた。
「どうせ暇だし行ってやるよ。ここの食堂でいいな?」
「っしゃあ!んじゃ僕の味方してくれよ?」
「守るだけだ。早く行くぞ」
東堂はそう言って食堂へ向かう。面白そうだったので俺たちも食堂へと向かった。
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俺たちは食堂の席に座って成宮美保さんを待つ。ちなみに、うちのギルドでこの場にいるのは俺と中村と東堂、女性陣は和泉さんとアルシアだ。優香さんは成宮美保さんを呼びに行っているので、すぐに来るだろう。
椛さん、樋口、矢沢の3人は追いかけっこをしていて神社の建物をぶっ壊したため、それの修理をしている。人の建物内で遊んでいた挙げ句破壊など、馬鹿である。
さっき帰って来た時にはいなかったので、資材の買い出しにでも行っているのだろう。……流石にサボっている訳ではないと信じたい。
少し待つと、優香さんに連れられて背の低い女の子が入ってきた。女の子は部屋に入るや否や、真正面に座っていた谷口に向かって飛びついた。
「捕まえたー!このー!勝手に何してんのよー!」
「痛い痛い!頬をつねるな!僕の話を聞いてくれ!」
「よっと、なんだこいつ?小学生か?」
谷口が悲鳴を上げているのを見た東堂が女の子を首根っこを掴んだ。
「うわー!辞めろー!離せー!」
「ひとの建物で暴れんじゃねぇ。外に放り投げるぞ?」
「うー!これでもくらえー!」
「東堂くん!その子が美保ちゃん!離してあげて!美保ちゃんもだめ!」
優香さんが慌てて止めに入った。しかし時既に遅し、美保ちゃんはインベントリから何かを取り出し、東堂にぶつけた。すると、すぐに東堂は手を離してその場にしゃがみ込む。
「と、東堂?どうした?大丈夫か……?」
「……っぐはぁ!はぁ……はぁ……クソガキ……てめぇ何をした?」
「ふふーん、わたしの産み出した【毒地獄】の効果、とくと味わうがいい!」
東堂は【解毒ポーション】を飲む。しかし、毒のエフェクトは無くならない。東堂のHPは3分の1ほどまで減っている。それを見た美保ちゃんが笑いながら試験管を取り出した。
「どうだ!私の【毒地獄】は普通の【解毒ポーション】じゃ治らないの!この解毒剤、【蜘蛛の糸】でしか治せな……あー優香ちゃん!返してー!」
「そんな危ないものをやすやすと人に使っちゃだめでしょ!東堂くん、はいこれ!」
優香さんが試験管を東堂に渡した。東堂はそれを一気に飲み干す。その間に優香さんが美保ちゃんにお説教をする。
「いい?この人は私達のギルドの指揮官なの。それにすごく怖いから変なことしちゃだめだよ?」
「……椛も怒られて何回か泣きそうになってる」
(そうなの⁉こいつらどこで何をしてたんだ⁉)
「……東堂くんのデート邪魔した次の日。部屋に帰って来た椛の目が赤かった」
和泉さんからすごい情報が手に入った。その話を聞いた美保ちゃんは怯えて優香さんの後ろに隠れた。
「あの、ご、ごめんなさい……許して……」
美保ちゃんが涙目で東堂に頭を下げた。すると、東堂が笑顔で交換条件を突きつけた。
「あぁ、その毒と解毒剤を今あるだけ全部渡せ。それで許してやるよ」
「えぇー!そんなのだめだよ!これ1個作るのにすごい時間かかるんだよ!」
「そうだぞ東堂!うちの目玉商品の1つだ!無料で上げるわけにはいかねえぞ!」
「んじゃ定価の10分の1で全部売れ。てめぇらのせいでこっちは死線を見たんだぞ?というか谷口、お前が匿えなんて迷惑な話を持ってこなけりゃこんなことにはならなかったと思わねぇか?
」
睨まれた谷口と美保ちゃんがううっと唸る。少し2人で話し合った結果、この交渉に応じることに決めたようだ。
「はあ……【毒地獄】と【蜘蛛の糸】1セットで10万Gだけど、10分の1だから1万G。これが32セットで32万Gになりまーす……」
「おう。そっちはそれでいいとして、本題だ。なんで谷口は逃げてたんだ?」
お金を払った東堂がそう切り出した。美保ちゃんに睨まれて谷口は目を逸らす。
「功くん何したんだっけ?」
「ええと……馬車屋を買いました……相談も無しに」
「んで、いくらかかったの?」
「……万G……」
「聞こえなーい!もっと大きな声でいいなさい!」
「馬車屋で1000万G、そこにある馬車1セット30万Gを15セット買ったから1450万Gかな?」
「1450万Gかな?じゃないよ!なんでよ⁉うちのギルドの現金の半分くらいだよ⁉そんな大金相談無しに使えないよね⁉」
「ちょ、ちょっと待って!は、半分?1500万Gが?てことは3000万G持ってたの……?」
アルシアが俺も気になっていたことを恐る恐る聞いた。怒られている谷口が教えてくれる。
「正確には3108万Gあったよ」
「さ、3000万⁉そんな大金どこで手に入れたんだ⁉」
「いやぁ、普通に働いてたらこんぐらいになるよ。今は僕らの商会には他にプレイヤーが10人とNPCが20人いるぜ!」
「そのみんなで街を買う予定だったのに、なんでそんなにお金使っちゃうのよ!」
「いやほら、馬車があるとないとでかなり変わるよ?歩きじゃ1週間かかるイツラスの端から端を2日かからないで行けるし……」
「それじゃあこの街の中でしか使えないじゃん」
「し、[神秘の森]を抜けられれば隣の[オルペンス]の街だって1日で行けるし……」
「その[神秘の森]を抜けるのが大変なんだよ!功くんがいくら強くても1人じゃ無理だからね!」
びしっ!と美保ちゃんが谷口に向かって指をさす。すると何か思いついたのか、谷口の顔が明るくなっていった。
「そこで!ここにいるゲブラーの人たちに手伝ってもらおうと思う!」
「えぇ……道を整備するのを手伝うのか……」
俺が少し嫌そうな顔を見せる。すると谷口が俺の前で手を合わせて頭を下げた。
「頼むよ!どうせ暇でしょ?お金も払うからさ!木を切り倒しながら進んでくれるだけでいいから!」
「いや、道作れって言われてもなぁ……」
「お願い……だめかな……?」
「この前【リフレクトクリスタル】あげたじゃん?」
美保ちゃんが上目遣いでこちらを見てきた。追い打ちをかけるように、谷口がニヤリとしてそう言った。
「わ、分かった、手伝うよ。お前らもそれでいいよね?」
「ま、確かに暇だしな。あいつらが帰ってきたら出発するか」
「っしゃあ!それじゃ、[神秘の森]の前で集合な!野営するからそっちの準備もしとけよ!じゃあまた後で!」
そう言って谷口と美保ちゃんは部屋を出ていった。俺たちは樋口たちの修理が終わるのを待ってから、[神秘の森]の入り口へ向かった。
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「おーい!こっちこっち!あ、モミちゃん!さっきはどこで何してたの?」
「馬鹿2人のせいで壊れた建物の修理をさせられてたのよ。私は悪くないのに……」
「えー?モミちゃんが【発勁】を打ったから壊れたんじゃーん」
「あんたたちが余計なことするからでしょ!」
「おい、さっさと行くぞー」
椛さんは不満があるようだが、東堂に急かされて、[神秘の森]へ入っていった。俺たちも後に続く。
噂で聞いてはいたが、中はキラキラした木が鬱蒼と茂っていて、迷子になりそうな森だった。俺以外のギルドメンバーは1回来たことがあるようなので、中村に歩きながら話を聞いた。
「敵は『ファントムビー』っていう透明な蜂が厄介だったかな。あいつら透明になるから。でも、攻撃してくるときは元に戻るから、そこを攻撃すれば倒せるよ」
「んで、俺たちは木を倒しながら歩かなきゃいけねぇんだろ?誰かが木を倒して、それを要とアルシアが回収していけ」
「お!そういうことなら俺に任せてくれ!」
矢沢は誇らしげにそう言うと、インベントリから大きな斧を取り出した。優香さんが驚いて声を上げる。
「わ!その斧どうしたの?」
「ふふーん!俺の新しいバトルアックスだ!この前屋台で売っててかっこよかったから買ったんだぜ!」
「でも健一、それバトルアックスだから木を切る斧とは違うんじゃない?」
「お?そうなのか?まぁ木は切れんだろ!」
そういって矢沢が木に向かってバトルアックスを振る。1振りで木は折れ、周りの木を巻き込んで倒れ込んだ。
「うぉ!すげぇなこれ!これならいくらでも木が切れる……ん?なんだ?」
「おい矢沢、余計なことをしてくれたみてぇだな」
矢沢が倒した木から蜂が10匹ほど出てきた。『ファントムビー』だ。『ファントムビー』は俺たちの周りを囲むと透明になって見えなくなった。
(なるほど、ほんとに見えなくなるのか……これで真横から攻撃でもされたら終わりだぞ……)
「要くん!右から来てるよ!」
「えっ?……うお⁉」
優香さんに言われて、俺は体を捻って『ファントムビー』の攻撃を躱す。
体を回して真後ろに飛んでいった『ファントムビー』がいるであろう場所に向けて剣を振るが、当たった感触がない。
「くっそ!外したか!」
「そんな適当に振っても当たらねぇよ。もっと集中して……はっ!」
東堂は弓矢を1本放ち、一撃で1匹の『ファントムビー』を撃ち落とした。
「ナイス正人!〈雷の天使よ、我に力を与えよ〉【ライトソード】!」
中村が小さな雷の剣を『ファントムビー』に飛ばす。これも見事に命中し、痺れた『ファントムビー』が地面に落ちる。
(おー、2人ともすごいな)
俺が感心していると真正面から『ファントムビー』が突っ込んできた。俺は普通の盾で受け、剣を振る。しかし、『ファントムビー』は俺の攻撃を躱して、また透明になる。
(いや、集中しろ……羽音は聞こえる……音の距離から考えて……ここだ!)
俺は『ファントムビー』がいると予想した場所に剣を振る。ちょうど狙い通りだったようで、『ファントムビー』は真っ二つに別れて地面に落ちた。
「っしゃあ!撃破!」
俺はそういって周りを見渡す。他の『ファントムビー』も片付いたようだ。俺がドロップアイテムを拾っていると、面白そうなものを見つけた。
(ん?なんだこれ?【ファントムビーの針】?でも名前は表示されてるのに道具はなさそう……あ、これか?)
俺は目に見えない針を拾った。上手く加工すれば、武器として使えそうだ。そんなことを考えていた俺を見ていた東堂が、怪訝そうに問いかけてくる。
「おい要、パントマイムの練習なんかしてないでさっさと行くぞ」
「いや違うよ⁉ただ、面白そうなアイテムがドロップしたから……」
「ん?なんだ、ちゃんとなんか持ってんのか」
俺は【ファントムビーの針】を東堂に渡す。東堂は光に透かしてみたり叩いてみたりしているが、やはり目には見えないようだ。
「面白いなこれ。これで投擲武器を作れば敵に察知されなくて強いんじゃないか?」
「なるほど……それいいな!」
「ま、武器作んのは後にしてくれ。ほれ、先進むぞ」
東堂がそう言って歩き出した。他の人はもう先に行っている。俺は走って皆の元へ向かった。
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一晩野営をした後、俺たちは[神秘の森]の奥地に来ていた。今までのペースなら、あと2時間で[オルペンス]に辿り着くだろう。すると、何かを感じた和泉さんが呟いた。
「……数キロ先に強い力を感じる。こちらに近づいて来てる」
「だそうだ。お前ら、戦闘の準備をしろ」
東堂の支持を聞いて俺たちは敵を警戒する。しかし、少し待ってみても敵の姿は見えない。
「おい、なんかの間違いじゃないのか?」
「……今私達と同じ場所にいる。てことは、空中か、地下か……」
和泉さんがそう呟いた瞬間、地面が浮き上がり、俺たちは跳ね上げられた。
「……っ!地下にいたのか!」
「あれは……モグラ?」
落下しながら中村がそう呟く。名前は『イリュージョンモル』と出ているのででかいモグラなのだろう。
4メートル程度はある『イリュージョンモル』は土から這い上がると、東堂に飛びかかった。しかし、咄嗟に優香さんが【シールド】を張ったため東堂にダメージは受けずに済んだ。
「ただの大きいモグラでしょ?目を見えてなさそうだし、スタンさせてボコボコにするわよ!はぁぁぁ、【発け……」
「椛さん!危ない!」
『イリュージョンモル』の後ろから椛さんが飛びかかった。しかし、『イリュージョンモル』が振り返ったのを見て、俺は椛さんと『イリュージョンモル』の間に入り込み、盾を構えた。
『イリュージョンモル』は長い爪で引っかいてくる。俺は盾で受けたあと剣を振るが爪が硬すぎて止められてしまう。
「ちょっとあんた!なんでこのモグラが後ろを向くって分かったのよ⁉あいつ目ぇ無いのに⁉」
「モグラは目が見えなくても他の感覚器官が発達してるから物の位置を捉えられるんだぞ!」
「小泉ちゃんが言ってたよねー。こんなことも分からないなんて、モミちゃんもっと勉強したら?」
「うっさいわね!赤点組のあんたには言われたくないのよ!あと小泉って誰よ⁉」
「うちの担任の生物科の教師だ。前衛は4方向に別れて攻撃しろ!他は援護だ!あ、そういやお前らは何ができるんだ?」
「あ、僕は魔法を使ってるぞ」
「わたしはバフとデバフ担当!援護なら任せて!」
「なるほど、バフって言うと攻撃力強化とかか?」
「まぁ見ててよ!〈いでよ怒りの剣〉【グラム】!」
後ろの方で美保ちゃんがそう言った。すると、俺たちの足元に魔法陣が生成された。心なしか、体が軽くなったような気がする。
「うお!体が軽くなった!よーし、これなら……うおりゃああぁぁぁ!」
矢沢が【跳躍】を使って普段よりも高く飛び上がり、『イリュージョンモル』の背中にバトルアックスを振り下ろす。鈍い音を立てて『イリュージョンモル』のHPが3分の1程度削れた。
「よし!俺らも続くぞ!」
「「了解!」」
俺たちは一斉に攻撃を仕掛ける。しかしその瞬間、『イリュージョンモル』が4つに分裂し、前衛4人の方へ飛びかかってきた。
(うお⁉分裂した⁉……バフの効果も残ってるうちに攻撃したいし、ここは攻撃を受けて……⁉)
俺はカウンターをしようと目論んで盾を構えた。しかし、『イリュージョンモル』は盾と俺の体をすり抜けて後ろへ走り去ってしまった。
「どういうことだ?『イリュージョンモル』は逃げたのか……?」
「いや違う!今のは偽物だ!本物は多分……」
東堂がそう言って下を向く。その瞬間、地面が大きく揺れ、地面が浮き上がった。俺たちが離れようとしたとき、谷口が魔法を発動した。
「〈土の天使よ、我が望むはそなたの大地の力なり。今我に力を与えよ〉【グランドバインド】!」
谷口が魔法を使った瞬間、『イリュージョンモル』が飛び出してきた。しかし、胴体が半分ほど出たところで動きが止まった。
「僕が今バインドしてんの!今のうちに早く!」
「ナイスだ谷口!一斉にかかれ!」
「バフもかけ直すよー!」
「ありがとう美保ちゃん!」
俺はお礼を言って『イリュージョンモル』に構える。
東堂が指示を出すよりも早く、樋口と椛さんが左右から飛びかかった。しかし、『イリュージョンモル』はその攻撃を爪で全て弾いてしまう。
「ちっ、先に腕を落とした方がいいわね……佐藤くんは私と左腕をやるわよ!あんたたちは右腕を落としなさい!腕が太いから、関節を的確に狙って外しにいくのよ!」
「おう!任せとけ!」
樋口の返事を聞いて椛さんが近寄ってくる。しかし、俺には不安要素が残っていた。
「なによ?そんな嫌そうな顔して。私と組むのが嫌なの?」
「え?いや!そうじゃなくて、あの2人がそんな難しい指示を理解できるかなぁ、と……」
「はぁ?そんな難しい指示って……腕を攻撃しろって言っただけじゃない!やっぱり何か理由をつけて私から離れたいんでしょ!さっきも美保と仲良さげだったし、あんたもロリコンなの⁉」
(ロリコンて……美保ちゃんは小学生みたいなもんだから話しやすいってだけなんだけどなぁ……)
「違う!全部違う!とにかくあの2人を見ててよ!」
「え……全部違うってことは私と……いっ、一緒にいたいってこと……?」
「え?椛さん声小さくて聞こえないよ!……あ、やっぱり……椛さん、あの2人を見て……」
俺はそう言って『イリュージョンモル』の方を向く。あいつらが他の場所にもダメージが入る状態で関節を的確に狙うなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。
予想通り樋口は背中から、矢沢は正面から攻撃を仕掛けていた。もちろん、どちらも爪で弾かれる。
「うお!後ろの攻撃も弾かれんのか!」
「くそっ!かなり本気で振ったんだがなぁ……もう一発だ!」
「佐藤くん……私の指示ってそんな分かりづらかったかしら?」
「あー……幼稚園児には理解が難しいんじゃないかな?と、とにかく、あのバカ2人は放っておいて、俺たちも行こう?」
「あー待て要、ついでにこれ落としてこい」
走り出そうとした俺を東堂が引き止める。そして東堂は俺に【毒地獄】の入ったボールを渡す。それを持って俺たちは『イリュージョンモル』の元へ向かった。初めて【毒地獄】を見る椛さんが俺の手元に顔を覗かせる。
「何それ?爆弾?」
「ああこれ?美保ちゃんが作った毒だって。昨日東堂がこれで死にかけてた」
「はぁ⁉あの子東堂くんに喧嘩売ったの⁉よく生きてたわね……」
「……1セット10万する毒と専用解毒剤のセットを1万Gで無理矢理売らされてた……」
「相変わらずね。あいつ、ヤクザの息子か何かなの……?」
「あいつのお父さんは普通の銀行員って言ってたと思うけど……というわけで先にこれぶつけてくるよ」
「自分が撒いた毒をくらわないようにしなさいよ?」
俺は【縮地】で『イリュージョンモル』に近づき、【毒地獄】を投げ、【縮地】で元の場所へ戻った。なんとか成功したので、俺たちは本来の目的である腕の破壊に向かう。
「いい?私が囮になるから、佐藤くんは腕を落として。失敗したら許さないわよ?」
「りょーかい。んじゃ行くか」
「〈いでよ怒りの剣〉【グラム】!」
「ありがとう美保ちゃん!」
美保ちゃんがバフをかけ直してくれた。俺は先に言った椛さんに続いて『イリュージョンモル』に近づく。
椛さんが攻撃の動作をすると、やはり『イリュージョンモル』は爪でガードしようとした。
「今よ!佐藤くん!」
「おう!うおりゃあぁぁ!」
その隙に俺は左側から回り込み、腕に向かって剣を振り下ろした。バフの効果もあってか、一撃で『イリュージョンモル』の腕を落とすことに成功した。
「うお!一撃で落ちた!バフすげぇ!」
「ふふーん!【グラム】は近接攻撃のダメージが3倍になるんだよ!」
(3倍⁉すげぇな!この調子ならもう片方も……)
「も、もう無理ー!」
後ろから谷口の悲鳴が聞こえた。どうやらMPが尽きたようだ。それと同時に『イリュージョンモル』が土から出てくる。そして椛さんがいる方に突っ込んでいった。
しかし、俺らに聞こえない声で何かを呟いていて、気付いていないようだ。
「……美保ばっかりちやほやされて……羨ましい……」
「椛さん!危ない!」
「え?あ!ちょ!」
俺は【縮地】で椛さんに近付き、椛さんを抱えてその場から離れた。
「椛さん?戦闘中にボーッとしてたら危ないよ?」
「ごめんなさ……あ!ちょ!これ!」
椛さんが今の自分の状況に気付き顔を真っ赤にするが、そんなことに構っていられない。
『イリュージョンモル』は右手を強く振り、衝撃波を飛ばしてきた。俺は【鏡の盾】で 跳ね返す。『イリュージョンモル』のHPは残り少しだ。
(よし!これでとどめだ!)
俺が走り出し、剣を振ろうとした瞬間、突然『イリュージョンモル』は倒れた。毒のダメージで倒れたようだ。
(うわぁ……自力で倒したかったけどなぁ……まぁいいや。勝ったことに変わりはないし)
「なんか……あっけなく終わったな」
「そうだねー。私もやることなかったなぁ」
みんなも口々にそう言っている。やっぱり毒殺じゃあ迫力に欠けるようだ。
俺がそんなことを考えていると、椛さんが俺の服をちょいちょいと引っ張った。
「さっきはその……助けてくれてありがとう」
「あ、あぁどういたしまして」
「永田、要にまた抱えてもらえてよかったな」
「はぁ⁉そんなんじゃないわよ!馬鹿じゃないの⁉そんなのどうでもいいから、早く行くわよ!」
そう言って椛さんは歩き出した。俺たちも続いて歩いていくが、すぐにその足を止めた。
「おいおい……なんだよこれ……」
東堂がそう呟く。俺たちの前には、文字通りの高い壁が立ちふさがっていた。




