第21話
俺たちは、ダクニル地方第3の街、イツラスに来ていた。
「うわっ⁉ここの街広っ!」
マップを開いていた中村が声を上げる。ここの街は1つ前の街、ベルリナよりも3倍ほどの大きさがあるようだ。
というのもここイツラスの街は、正確にはダクニル地方とその隣、ヘイムガナ地方の第3の街なのだ。ヘイムガナ地方のエリアボスを倒してもここの街に着く。
つまり、ここにはダクニルとヘイムガナの400人近くが集まる都市のような場所なのだ。
そのためか、ここの街の建物は数階建ての建物が多い。しかし、この街の本当の特長は、この街の住民にあった。
「うおぉぉ!リアルケモミミだ!」
「見ろよ!あっちのは羽が生えてるぞ!」
樋口と矢沢がものすごく興奮している。そう、ここイツラスの街は他種族が協力しながら共存している街なのだ。
(すごいな、耳も尻尾もちゃんと動いてる。人間は……ほとんどいないや。店の店員とかはどうなってんだ?)
俺は周りの様子を見渡していた。見渡す限り、人間は1人も見つからない。すると、マップを見ていた矢沢が何かに気付いたようだ。
「おいここ![ネモ神社]って神社があるぞ!てことは巫女さんがいるんじゃねぇのか⁉」
「お、ほんとだ。……はっ!てことは狐の巫女が居るのか⁉うぉぉ矢沢ぁ!行くぞぉぉ!待ってろよ!のじゃロリ狐ぇ‼」
樋口と矢沢が走って神社があるという方向へ向かっていった。走っている2人の顔が怖いのか、小さな犬の獣人が威嚇している。東堂がため息をついて俺の方を向いた。
「……はぁ……要、連れ戻してこい」
「えぇ?なんで俺なんだよ。みんなで行けばいいじゃんか」
「わざわざみんなで行くのも大変だろ。俺らはこの辺で適当に観光してるから行ってこい」
「ったく……めんどくせぇ……」
俺はしぶしぶ樋口たちの向かった神社へと足を向けた。
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(ふうっ、ふうっ……やっと上り終わった……こ、ここの階段長すぎんだろ……)
俺はマップ通り神社に向かって進むと、神社に続いている階段を発見した。しかし、その階段は長く、その上1段が高いので登るのに苦労していたのだ。
振り返ると、そこからイツラスの街がよく見える。人が豆粒のようにしか見えないため、相当高くまで来たのだろう。
(さーて、樋口たちは……うお⁉)
俺は樋口と矢沢を探そうと辺りを見渡した。参拝客も何人かいたが、俺はすぐに、生気を失ったような顔をした2人が大きな銀杏の木の下でうつ伏せになって倒れているのを見つけた。
「お、お前ら!どうしたんだよ!」
「か、要……俺たちは……もう駄目かも知れない……」
「あそこの女の人が……」
(あの人……長い尻尾……リザードマンか?)
慌てて駆け寄った俺に、矢沢と樋口がそう呟く。樋口は倒れる前に俺の後ろの方を指さした。
そこには、箒を持って掃除をしている巫女さんがいた。リザードマンの巫女さんは困ったような表情でこちらを見ている。
(あの人がこの2人に何かしたのか⁉なかなかの実力じゃないのか?これは東堂たちを呼ぶべきか……)
俺は剣を抜き、リザードマンの巫女に構える。すると、巫女さんは手を振って俺に話しかけてきた。
「ち、違います!話しかけられたので返事をしたら急にその方たちが倒れたんです!」
何を言っているのかさっぱり分からない。すると後ろにいた樋口が呻きながら呟く。
「うう……獣人の街なのに巫女さんが狐じゃないとか……」
「……は?……お前まさか……そのせいで落ち込んでただけ?」
俺とは一瞬樋口が何を言ったのか理解できなかった。しかし、多分そういうことなのだろう。
俺は樋口と矢沢を無理矢理立たせて、巫女さんの前に連れていき、その場で謝罪させた。
「うちの馬鹿がご迷惑おかけしました」
「……さっせーん」
「すんませんした……」
「あ、いえ、お構いなく。それより、私は雇われてるだけで、この神社の神主は狐族ですよ?」
「「何⁉」」
巫女さんがそういうと、樋口と矢沢の目の色が変わった。
「そ、その狐ちゃんはいまどこに⁉」
「え、ええと……い、今は中で皆さま儀式の最中なのでは……」
リザードマンの巫女が引いてる。体の大きい男2人に興奮しながら近寄られたらだれでもああなるだろう。
「すみません、今は大事な儀式中なので静かにして頂けると……」
俺が本殿に乗り込もうとしている2人を抑えていると、本殿の中から小さな狐の女の子が出てきた。少し大きな狩衣の裾を引きながら本殿の外の階段を下って俺たちの元に来る。体よりも大きそうなフサフサの尻尾が左右に揺れている。
「うぉぉ!ロリ狐キター!」
「ありがたやー、ありがたやー。お嬢ちゃんお名前はなんて言うのかなぁ?」
「ひっ……ミ、ミヤナです……」
「そっかぁ、ミヤナちゃんって言うのかー!いやぁ、やっぱ巫女さんって言ったらこうだよねぇ!」
樋口と矢沢がミヤナちゃんを取り囲んで頭を下げ始めた。ミヤナちゃんは怯えてリザードマンの女性の足に隠れてしまった。
「やめろお前ら。ごめんね。静かにしてるから……っ!」
俺が矢沢と樋口の首根っこを掴んで引き離そうとすると、ミヤナちゃんの後ろの草影から何か光ったものが飛び出してきたのが見えた。
飛んできたのは小さな球状の石だ。俺は盾を構えて飛び出してきたものを受ける。すると、石は爆発し、中から網のようなものが出てきた。
(なんだこれ?……うぉ!盾が持っていかれた!)
網は俺の盾に絡まって、石が飛んできた方向へ持っていかれてしまった。
「ちっ、失敗したか。まぁいい。あのガキ捕まえとけや」
「御意」
草影から2人の男が出てきた。大男が横の小さな男に指示をだした。小さな男がミヤナちゃんに近づく。すると、リザードマンの巫女さんが男の前に立つ。
「ミヤナ様に何か御用ですか?」
「痛い目に遭いたくなきゃどけ、蜥蜴女。そのガキは連れてかせてもらう」
「そういうわけにも行きません。ミヤナ様は今から大事な儀式がありますので。お引き取りください」
「ちっ、なら力ずくだ!」
男は剣を抜いて、リザードマンの巫女さんに斬りかかった。俺は間に入って男の剣を受けようとしたが、リザードマンの巫女さんはそれよりも早く薙刀を抜いて男の体を真っ二つにした。
「やはり堕天使ですか……ミヤナ様に手を出すものは私が斬り捨てます!」
「巫女さん!俺たちも加勢するぜ!」
「おう!ミヤナちゃんには指1本触れさせねぇぜ!」
「樋口、お前も触っちゃだめだからな?」
「ありがとうございます!助かります!」
そういって俺たちも剣を抜き、男に構える。しかし、男は動じないどころかニヤリと笑い、右手を上げた。
その瞬間、真後ろにいた周りの参拝客が俺たちに向かって斬りかかってきた。
(っ!後ろか!……なっ⁉)
俺が後ろの異変に気付き、振り向いた。しかし、敵は全て薙ぎ倒されている。よく見ると、リザードマンの巫女さんの長く、先が鋭い尻尾がブンブンと揺れている。
(あの尻尾でやったのか。でも、さっきはもっと丸かった気がしたけど……それに心なしかさっきより体が大きくなってる気がするな)
俺が考えているうちに、参拝客に紛れていた堕天使は全て殺されていた。
「おい女ぁ、2軍とはいえ、俺様の部隊を全滅させるとは…、てめぇただのリザードマンじゃなさそうだな。てめぇ、何者だ?」
「申し遅れました。私、ドラゴニュートのクレナといいます」
大きな薙刀をくるくると回してから、巫女さんは自己紹介をした。
「っ⁉竜人族とは驚いたぜ!流石は世界最強の種族か。なら俺様も本気を出すかな。イブリース様の拳とくと味わえ!」
「イブリース?……あ!ファルパーラで暴れてた堕天使!」
(こいつ!あの時レアナさんに殺されたはずじゃ⁉)
「あ゛?あぁ、あんときの雑魚か。まぁいいや、まずはお前からだ!」
そういってイブリースは黒い羽を生やし、空へと舞い上がった。そして、両手に闇に包まれたようなガントレットをつけ、俺に襲いかかってきた。
「大技の準備をするので、少し時間稼ぎをお願いします!」
「わ、分かりました!」
俺はクレナさんの指示を聞いて、剣を構えた。イブリースは強力な右ストレートを打ち込んできた。俺は体を左に傾けながら体に向かって剣を振るが、剣が届く前に躱されてしまう。
(くそっ!こいつ!前より動きが早い!)
俺は左フックを剣で受け止める。前より動きは早くなっているようだが、攻撃は簡単に流せる。これは俺の成長なのだろう。
俺は何度目かの右ストレートをしゃがんで躱し、そのまま右腕を斬りつけた。ダメージが4分の1ほどはいった。
「っ!くそが!【発勁】!」
イブリースが【発勁】を打ち込んできた。俺は躱す事に成功するが、神社の石畳が一部分吹き飛んだ。堕天使じゃない参拝客は戸惑っているようだ。
「矢沢!参拝客を避難させろ!樋口!ミヤナちゃんを本殿へ!」
「おう!」
「はいよっと……うお⁉」
俺の指示を受けて矢沢と樋口が動き出す。ミヤナちゃんを避難させようと本殿に向かっていた樋口が本殿の扉を開けようとしたとき、内側から扉が開いた。中からはドラゴニュートの男の子が出てくる。
「こ、これは何が……!」
「クレル!ミヤナ様を中でお守りしなさい!」
クレナさんが男の子に向かって叫ぶ。クレルと呼ばれた男の子は樋口と一緒にミヤナちゃんを連れて本殿の中に入っていった。
「おいおい!よそ見なんかしてる暇ねぇだろ?あぁ⁉」
イブリースはそういって俺の腹めがけて蹴りを入れてくる。俺は体を退いて直撃は避けたが、少しダメージを食らっている。
俺はイブリースの腹めがけて剣を出す。しかし、イブリースは膝と腕で器用に俺の剣をがっちりと固めてしまった。
「おいおい、どうしたぁ?この剣折っちゃってもいいんだぜ?」
「くっそが……!」
「時間稼ぎありがとうございます!離れてください!」
俺が剣を押し込もうと躍起になっているとクレナさんの声が聞こえた。俺は剣を手放してその場から飛び退く。それと同時にクレナさんはイブリースへ飛びかかる。
「【紅舞】!」
クレナさんは長い薙刀を器用に操って、イブリースを斬り刻んだ。
「ぐはぁっ⁉ぐっ……ぐおおぉぉ!」
HPの少ないイブリースは高く舞い上がり、本殿に向かって雷を落とした。そして、中に降りた。
「っ!まずい!あそこにはミヤナ様が!」
「俺が行きます!」
俺は急いで本殿に向かう。中で樋口は倒れている。雷の直撃を受けたのだろう。クレルくんが小さな刀で戦っていたようだが、一撃で吹き飛ばされてしまった。
「てめぇ!よくも!」
「おっと、俺の狙いはこのガキだけなんでな!退散させてもらうぜ!返して欲しけりゃ[カラネ高山]まで来るんだな!」
止めを刺そうと【投げナイフ】を投げるが軽々と躱されてしまう。イブリースはミヤナちゃんを抱えて空へと消えていった。
「くっ……ミヤナ様……」
後から入ってきたクレナさんが本殿の扉をバンと叩く。既に最初に会った時のような姿に戻っている。俺は樋口とクレルくんに【回復ポーション】を渡した。
「ごめんよ要。まさか上から来るとは思わなくってよ……」
「気にすんな。それより、急いで中村たちに来てもらってミヤナちゃんを取り戻しに行かないと……」
「あの……堕天使の始末まで手伝っていただいたのに図々しいのは十分承知でお願いがあります。どうか一緒にミヤナ様を助けにカラネ高山まで来ては頂けませんか?」
クレナさんが頭を下げる。俺たちの答えは決まっている。ギルドを代表して樋口が一歩前に出た。
「もちろん!俺たちもミヤナちゃんを助けたいからな!みんなで行こうぜ!」
「あ、ありがとうございます!」
クレナさんは顔を明るくしてもう一度頭を下げた。すると、横にいたクレルくんがクレナさんの前に立った。
「お姉様!僕も連れて行ってください!僕もミヤナちゃんを助けに行きたいんです!」
やはり兄弟のようだ。クレナさんは少し迷ってからクレルくんの肩に手をおいた。
「クレル、あなたはここに残りなさい。あなたはまだ子供なんですよ?」
「嫌です!僕だってドラゴニュートです!そこらの子供とはわけが違います!力だけならそこの人たちよりも……」
「言葉を慎みなさい‼」
クレナさんはすごい剣幕でクレルくんを叱りつけた。クレルくんと樋口がビクッとした。
「戦闘は力だけではありません!力がなくても、技術や心の強さがあれば敵に立ち向かっていけるのです!現にあなたが負けた敵に、彼は勇敢に立ち向かうどころか、互角以上に渡り合っていましたよ!」
クレナさんは俺を指さしてそういった。怒鳴られたことでか、クレルくんは涙をこぼしている。それを見て、クレナさんは声を落としてクレルくんを諭し始めた。
「それに、神主のガル様とガナ様が留守の間に誰がこの神社を守るのですか?清めの儀式は済んでいない神社を空けるなど、奴らの思う壺ですよ?」
「ならあのお二人を呼び戻せば……」
「それもできません。先程、ガル様とガナ様が向かった[クレンダス精霊堂]も堕天使の襲撃を受けたと報告がありました。その上、あちらはまだ交戦中のようです。あと一月は帰って来れないだろうと」
そう言われてクレルくんは黙りこんだ。すると、樋口が咳払いをしてクレナさんの前に立った。
「あークレナさん?その神主のガナさんとガルさんが帰ってくればクレルくんも一緒に行けるわけだよね?」
こいつはいきなり何を言い出したのか。クレナさんもキョトンとしている。
「は、はい。まぁ……それで皆様がクレルの同行を許可してくれるのなら……」
「よーし!それなら、ガナさんガルさんを呼び戻そう!」
俺とクレナさんは目を見開いた。そして、俺が言うよりも先に、クレナさんが反論した。
「しかし、ガナ様とガル様は今[クレンダス精霊堂]にて堕天使の勢力と交戦中で……」
「だーかーらーっ!俺たちが言ってその戦闘止めてくればいいんでしょ?簡単簡単!」
俺は呆れて声も出ない。しかし、樋口は本気のようだ。
「うちのギルドが[クレンダス精霊堂]に行くから、クレナさんお留守番お願いね。あ、クレルはついておいで。本当に連れていって大丈夫か確認したいからね」
「あ、ありがとうございます!僕、支度してきます!」
クレルくんはそう言って奥へと走っていった。クレナさんが不安そうにこちらを見つめている。
「あの……[クレンダス精霊堂]には先程のイブリースと同じレベルの堕天使が多くいると考えられます。そんなところに自ら行くなんて……」
「だーいじょうぶ!弟くんはちゃんと守るからさ!」
そう言って樋口は本殿から出ていってしまった。俺も続いて本殿の外へと出る。
「おい樋口!なんであんなこと言ったんだ?普通にミヤナちゃんを助けにいくんじゃ駄目なのか?」
俺は樋口の肩を掴んでそう問いかけた。樋口は東堂たちにギルドチャットでこっちに来るように連絡し、石の階段に腰を降ろした。
「俺が本殿で2人といたときにさ?怖がってるミヤナちゃんにクレルがなんて言ったと思う?」
「……なんて言ったんだ?」
「『何かあったときは僕がミヤナちゃんのことを絶対に守ってあげるよ!』だってよ!くー!かっこいいねぇ!そんな淡い恋心をさ?要は踏みにじるわけ?」
(なるほど。確かに、ミヤナちゃんが攫われているところをクレルくんが助けてくれたら確実に惚れるな。よくあるお姫様と王子様の物語みたいだな)
「よし、分かった。でもその前に、東堂たちを呼ばないとな」
俺がそう言っていると、参拝客の整理が終わった矢沢がやってきた。俺は矢沢に一部始終を伝えていると、クレルくんが準備を終えてやってくる。
「おうクレル!準備は出来てんな!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「おう!いい返事だな!好きな子を助けに行くんだから、気合いいれないとな!」
「な⁉べ、別にぼぼ、僕はミヤナちゃんのことなんか……!」
矢沢の茶化しに、クレルくんは顔を真っ赤にして反論する。
「おいおい、遊んでんのもそれくらいにして、ほら、東堂たちが来た……あれ?」
俺は東堂の姿を見つけ指をさす。しかし、周りには獣人が数人いる。いや、よく見るとあれはアルシアたちのようだ。
「ア、アルシア、何してんの……?」
「ふっふーん!これね!獣人コスプレセット!さっきお店で買ったんだー!」
そう言ってうさみみとうさぎの尻尾を付けたアルシアは手を頭の上に持っていって、うさぎの耳のような仕草をした。それに合わせて、つけ耳も動く。かわいい。
(うお!この耳ちゃんと動くのか!すごい精巧に作られてるんだな……他の人は……)
俺は東堂の後ろを見た。そこには恥ずかしがっている椛さんと優香さんがいた。
「優香さんは狐か。椛さんは……犬?」
「うん!どうかな?」
「すごく似合ってると思うよ?……その尻尾、ちょっと触ってもいい?」
「うん!いいよ!」
俺は優香さんの許可を得て狐の尻尾を触る。想像以上に柔らかくてモフモフしている。俺が撫で回していると、椛さんに腕を叩かれた。
「そんなずっと撫でてんじゃないわよ。そこも一応感覚あるのよ?」
椛さんに言われて俺は慌てて手を離した。
「ご、ごめん優香さん!」
「ううん、ちょっとくすぐったかったけど」
「ったく、優香も甘いんだから……それでなんか私に言うことはないの?」
椛さんはそう言ってグッと俺に近付いた。他の人と違って、犬のコスプレには犬の足のような手袋もついている。
「あぁ、すごく似合ってると思うよ」
「ったく……あんたはそれしか言えないわけ?」
椛さんが尻尾をブンブンと振りながらそう言った。
(語彙力の限界なんだよ……あれ?和泉さんは?)
「……にゃー」
「にゃー?」
俺が振り返ると、そこには猫のコスプレをした和泉さんがいた。こちらは耳と尻尾だけでなく、手に猫の手のような手袋をはめている。
和泉さんはニャーニャー言いながら俺に近付いてきて、脇腹に頭を擦り付け始めた。
「……何してんの?」
「にゃー?にゃー」
「いや、グリグリされるのちょっと痛いから……」
「にゃーにゃー」
「にゃーにゃーって……あ!なるほど!それを付けてると何を話してもにゃーに聞こえるのか!」
「……そんなことはない」
「ちゃんと喋れるのかよ!」
急に普通に話し始めた和泉さんを引き剥がして、東堂にことの一部始終を話す。
「なるほどな。それならすぐにでも向かったほうがいいだろう。中村、場所は分かるか?」
「はいはい、ええと……あ、イツラスの東の端だね。ここは西に近いから、何か馬車の類があるといいんだけど」
「なるほど。街で移動手段を借りられるところは……ここだな。まずここに向かおう。そこからまずは[ヒスイ盆地]を通って[クレンダス精霊堂]へ向かおう」
「ん?それじゃあ遠回りだからどこかで1泊必要なんじゃないか?」
俺は気になったことを聞いてみた。わざわざフィールドを通らずに、まっすぐ街を通った方が距離は短いのだ。
「いや、街中は人が多すぎて馬車は使えないだろうからな。盆地の辺りで1泊することになるがしょうがない。それと、アルシアと矢沢、お前らはここに残れ」
「えぇ?なんでだよぉ!俺だって馬車乗りてぇよ!」
「この神社を守るのが1人だけじゃ心許ないだろうからな。大量の敵を薙ぎ払える矢沢と遠距離攻撃が出来るアルシアが残るべきだ」
「分かった!ここは任せて!」
「ちぇー、今度機会あったら置いてくなよ!」
「分かってる。それじゃあ急ぐぞ。もう午後の2時だ。行くぞ!」
「「「おう!」」」
俺たちは急いで、馬車の借りられる店へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ……なんで何時間もこんな野郎ばっかの中で過ごさなきゃいけないんだか……」
樋口が何度目かのため息を漏らした。俺たちは4人乗りの馬車を2台借りた。1台は俺たち男4人、もう1台には女性陣とクレルくんが乗っている。
「文句言うな。男しかいない状況なんか、学校と一緒だろ」
「そうだけどよぉ!女の子たちと気軽に触れ合えるようになった今、こんな長時間離れてんのはきっついよー!」
「大丈夫だよ純。もう日が落ちるから、この辺で野営だろうから、もう降りるよ」
「ヒャッホーイ!もうこの辺で降りて……うお!」
樋口が喜ぶのと同時に、馬車が大きく揺れた。すぐに和泉さんからチャットが入る。
「……囲まれた。今あった衝撃はその攻撃によるもの」
「堕天使か?」
「多分。数は分からない」
俺たちは急いで馬車を降りる。そこには、数えきれないほど多くの堕天使が俺たちを早く殺したいと言わんばかりにこちらの様子を伺っていた。