第18話
俺たちは暗い階段を下っている。暗いといっても、太陽の光も差し込んでいるし、中村が【ファイアボール】を風魔法で運んでいるため、真っ暗なわけではない。
しかし、やはり優香さんは怖いようで、今日はずっと椛さんに泣きついている。
「うっ、うっ、ねぇぇ、もう帰ろうよぉ……」
「だめよ。なんのためにここに来たと思ってんのよ。帰るんだったら1人で帰りなさい」
「やだよぉ、怖いよぉ……椛ちゃん、一緒に帰ろうよぉ……」
「あぁもう!私は帰らないし、あと階段でしがみつくの辞めなさいよ!歩きにくい!」
椛さんが怒った。優香さんが泣きながら渋々椛さんから離れる。
それを見た和泉さんが何かを取り出しながらそっと優香さんに近づく。そして、階段の上から優香さんに話しかけた。
「……優香、後ろからゾンビが」
「ひぃっ⁉……って何度も同じ手には引っかからないよ!」
優香さんは一瞬驚きかけたが、すぐに嘘を見破り、和泉さんの方を振り向いた。
その瞬間、和泉さんは手に持っていたものを顔につけた。リアルに作られたゾンビのお面だ。
リアリティを出すためか、和泉さんは唸り声を上げながら優香さんの肩をガッと掴む。
「きゃああぁぁ⁉」
「だから‼くっつくなって言ってんでしょうが!あんなおもちゃで何驚いてんのよ!」
「……ふふ」
優香さんが泣き叫びながら椛さんに抱きつく。それを見て満足したのか、和泉さんはお面を外す。
「もう!和泉ちゃん!」
「……これ、セイコー商会にお願いして作ってもらった特注品。いる?」
「要らないよ⁉なんでそんなもの作ってもらっちゃったの⁉」
「おーい、着いたよ」
先導していた中村がそう言って立ち止まる。行き止まりのように見えるが、よく見ると扉の取手がある。俺たちは中の様子を確認しながら、慎重に扉を開けた。
普通に戦闘が行える広さはある部屋の中には色々な種類の鉱石が転がっている。そして真ん中には樋口ほどの身長の赤髪の男が1人。体格はよく、両手には宝石の嵌められた腕輪をしている。
「何⁉貴様ら、どこから入ってきた⁉まぁいい、まとめて始末してくれるわ!」
(ん?なんかアルシアとかとは雰囲気が違うな…………AIが搭載されてないNPCか?)
街中にいるNPCは表情も豊かで、人間と話しているような感覚になる。しかし、この男はどこか機械のような感じがする。やはりこの男はAIでは無さそうだ。
俺が考察していると、男は手の平から【ファイアボール】を飛ばしてきた。俺たちは散開して攻撃を回避する。
「俺の名は『魔道師ラリオス』!この国1番の大魔道師だぁ!」
「行くぞお前ら。敵は複数いる可能性があるから注意しろ。新聞部も戦うのか?」
「もちろん!やるよみんな!」
「部長、あなたはほぼ何もしないでしょう……まぁいいです。行きますよ!」
越山くんはそう言うと刀に手をかけた。そして目に見えない速さでラリオスに近づいた。そのスピードは樋口の【居合い切り】よりも速い。
越山くんは勢いを殺さずにそのまま斬りつける。ラリオスに幾らかはダメージが入ったと誰もが思った。
「っ⁉」
「残念だったな。俺は【シールド】も使えるんでな。【ライトニングショット】!」
越山くんは回避しようとしたが、ラリオスから放たれた雷が直撃する。HPはそこまで減っていないようだ。
そのタイミングで、俺らゲブラーの前衛も攻撃に移る。最初に攻撃を仕掛けたのは矢沢だ。
矢沢は大剣を大きく振りかぶり、ラリオスの頭を目掛けて振り下ろした。
「だから俺は【シールド】があるから……ぐはぁ⁉」
矢沢が攻撃をとめられてる隙に俺と樋口が回り込んで脇腹を斬る。それに続いて椛さんがラリオスのみぞおちにパンチを入れる。
「やるじゃねぇかぁ!【アイスソード】!」
ラリオスは体の周りに無数の小さな氷の剣を作り出した。それをこちらへ飛ばしてくる。
しかし、優香さんの【シールド】によって1本もこちらへ飛んでくることは無かった。
「【シールド】が使えるのはあなただけじゃないのよ!」
「ナイスだ西田!いくぞのぞみ」
「は、はい!」
東堂と細野さんが同時に弓矢を放つ。放たれた矢は綺麗にラリオスの両肩を貫いた。
HPが半分を切ったタイミングで、ラリオスの両腕が光った。第二形態にでもなるのだろうか。
「くはははは!やるな!ならこれはどうだ!」
ラリオスはそう言うと、右手を天井にかざした。右腕の黒い宝石が光ったその時、部屋の明かりが全て消えた。すぐに優香さんが泣きそうになるのを、近くにいたのぞみさんが宥める。
「きゃああぁぁ‼」
「ゆ、優香ちゃん、落ち着いて!」
聞こえてくる声の位置が低いので、しゃがみこんでいるのだろう。
俺がそんなことを気にしていると、体に強い衝撃が走った。【ライトニングショット】が直撃したのだろう。他のところでもダメージを食らう音が聞こえてくる。
「〈火の天使よ。我に力を与えよ〉【ファイアボール】!」
中村が【ファイアボール】を出したらしい。しかし、依然として真っ暗なままだ。
「おいおい中村。失敗か?」
「いや、MPも減ったし、【ファイアボール】を出したときの暖かさを感じる……もしかして、光だけ吸収されてる……?」
「その通りだ!俺の【深淵の腕輪】は一定範囲の光を吸収する!俺様の位置は特定できねぇだろうなぁ!【ライトニングショット】!」
ラリオスはあっさりとタネを明かしてくれた。しかし、タネが分かったところでどうなる訳でもない。
(くそっ!暗いから敵の位置が分からねぇ!どうにかして攻撃を躱さないと……)
「要くん!右に飛んで!」
由依さんの声が聞こえる。俺は何なのか分からないまま右に飛ぶ。その瞬間、さっきまで俺のいたところの壁に何かが刺さる音がした。
何が起きたのか分からないでいると、由依さんが教えてくれた。
「私も【暗視】のスキルを持ってるの!私に任せて!…………あ、夜に何かやってるとスキャンダルが発覚するかもよ?」
「部長、覗きは犯罪ですから慎んで頂けると……まぁその話は後で。今は指示をお願いします」
「はいはーい。えっとねぇ、まっすぐ行って切る!」
「はぁ……了解」
由依さんは分かりにくい指示を越山くんに出し、それに従って越山くんが攻撃を仕掛けている。……はずなのだが、真っ暗なので何も見えない。
刀が障壁に当たっているであろう音は聞こえるのだが、俺は邪魔をしないように部屋の端っこで大人しくしていた。
(越山くんはすごいなぁ……由依さんの分かりにくい説明をちゃんと理解して攻撃をしてる。俺はあれできないなぁ……)
俺がそう思っていると、ラリオスが話しだした。
「てめぇらぁ!これでもくらいやがれ!」
そう聞こえた直後、まばゆい光が目に飛び込んできた。と同時に、体に強い衝撃が走った。俺は部屋の端にいたのであまり被害は無かったが、越山くんは大きく吹き飛ばされたようだ。
(うお⁉びっくりした⁉ダメージは半分くらいか……でも、あいつのHPは残り4分の1だし、一気に攻めるか……)
俺はそう思い、隣にいた矢沢と示し合わせて、ラリオスへ向かって走っていった。
「そんなんじゃ当たらねぇぞ!」
ラリオスはそう言って手から光弾を打ってきた。俺はAGIが高いので何とか躱すことが出来たが、足の遅い矢沢は光弾の直撃を受けてしまった。
「矢沢!……っ!」
「よそ見してる暇はねぇぞ!おらぁ!」
ラリオスは俺に向かって光弾を何発も飛ばしてくる。優香さんのおかげで直撃はしなかったものの、幾らかかすったので一度下がって態勢を立て直す。
(うーん……あいつが攻撃してくるより先に斬れればいいんだけど……あ!……いや、博打だなぁ……でも、やるしかないか)
俺は一か八か、ラリオスの目の前に立った。そして、少し体を低くして【縮地】を使った。
(うお⁉めっちゃ上手くいった!)
俺はラリオスの懐に潜り込むことに成功した。首目掛けて剣を振り上げたのだが、体を後ろに退いて躱されたため、左腕を1本落とすだけに終わってしまった。
「この……クソ野郎!」
ラリオスは俺に光弾を放とうとしてきた。しかし、その前に樋口がラリオスの背中を斬る。HPは残り少しだ。
「うおぉ!【獣人化】!」
「馬鹿め!もう1回吹き飛ばしてくれるわぁ!」
矢沢が獣人化して走っていく。ラリオスが矢沢目掛けて光弾を放つが、矢沢は避けようとしない。全ての光弾が何故か態勢を低くした矢沢に命中する。
「ぐおぉぉ!行け!永田!」
「あんた本当にいつか死ぬわよ……うりゃあぁっ!」
そう言って椛さんは矢沢の後ろから背中を踏み台にして高く飛んだ。そして、ラリオスの頭に拳を打ち込んだ。
「そんな……馬鹿な……」
ラリオスはそう言って光となって消えた。何か2つのアイテムをドロップしたようだ。近くにいた椛さんが拾う。
「ええと……【深淵の宝石】と【光芒の宝石】?何これ?」
「形からして、多分地上の祠に嵌めたら何か起こるのでしょう。1回戻って試してみましょう」
越山くんにそう言われて、俺たちは地上へ出た。
外に出ると、もう日が傾いていた。椛さんの拾った石は確かに祠の窪みにピッタリ嵌まるようだ。
「これを嵌めればいいのね……ん?しっかり、はまら……ない……」
「もう片方の石なんじゃねぇの?」
「えぇ?……あ、ほんとだわ」
「おいおい、大切な石なんだから丁寧に扱ってくれよ?」
椛さんのがさつさに東堂が呆れたような声を出した。気を取り直して、椛さんは【深淵の宝石】を嵌める。
すると心なしか、周りが暗くなったような気がした。その代わりに、祠に刻まれていた模様が輝きだした。
「さっきのエセ魔道師が使ったみたいに周りの光を吸収したって感じかしら?次行きましょ」
椛さんがもう1つの窪みに【光芒の宝石】を嵌める。
すると嵌めた【光芒の宝石】から強い一筋の光を放ちはじめた。光は空中で曲線を描き、遠くのフィールドに落ちていく。方向的に[コニトオアシス]だろう。
「見た感じコニトオアシスの方かな?あそこに神殿があるのかも!ゲブラーのみんなも行くよね?」
「もっちろん!早く行こうぜ!」
由依さんと樋口が歩き出したので、俺たちも後に続く。歩きながら東堂がのぞみさんに話しかけた。
「そういや、新聞部は攻略どうするんだ?明日行っちゃうのか?」
「あ、いえ!まだまだみんなレベルが低いので、攻略はもっと先になるかと……」
「でもよぉ、新聞部がいなかったら俺らこうやってエリアボスが見つかってなかった訳だし、新聞部と合同でエリアボス討伐に行ってもいいんじゃね?」
前を歩いていた矢沢が振り返ってそう言う。俺もそれには同感だ。東堂が考えている間に由依さんが首を横に振りながら答える。
「だめだめ!うちの部員なんかまだまだ無理だよ!まぁ、ボスの情報とかは気になるけど……」
「ならお前ら3人だけでパーティを組んで、うちと合同でボス戦に挑めばいい」
ずっと考えていた東堂が顔を上げてそう言った。越山くんが驚いたように振り向く。
「いいんですか⁉僕らが足引っ張ると思いますが……」
「3人のうち1人がそこそこ手練の前衛、2人が後衛なら何とかなるだろ。エリアボスもザラマーナよりちょっと強いぐらいだろうしな」
「では……お言葉に甘えて」
由依さんら新聞部3人が頭を下げた。
少しして、俺たちはコニトオアシスに到着した。どうやら光は湖の真ん中に指しているようだ。
「これ、水の中に神殿があるってことなのかな?」
「だとしたら、普通には入れないわよ?息も持たないし」
「はいはーい!水着着て入ろーぜ!水着!」
「おぉ!樋口、それだ!いや、それしかないぜ!」
優香さんと椛さんが話しているところに、樋口と矢沢が入り込んでいく。優香さんは少し嫌そうな顔をしている。
(水着かぁ……見る分には楽しそうだけど、俺が水着になるのもなぁ……)
「……ここの葉っぱには水を弾く作用がある。それでポーションを作れば水中でも問題なく活動できる」
「そんなのがあるんだ!じゃあそれを飲んで水に入れば安心だね!」
「え゛⁉いやいや、それじゃ服も濡れちゃうし……」
樋口が焦っている。やっぱり目的は女性陣の水着のようだ。
「服なんか濡れねぇだろ。ゲームなんだから」
「東堂!お前裏切るのか⁉」
「いや裏切るって何だよ……とにかく、要は明日までに出来るだけそのポーションを作ってくれ。明日はここに集合でいいか?」
「りょーかーい!んじゃみんな!また明日ね!」
そう言って新聞部の3人は帰っていった。俺たちも【コニトの葉】を摘んでからギルドホームへ帰った。
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次の日、俺たちはコニトオアシスの湖の前に向かった。新聞部の3人はもう来ているようだ。
「おっはよー!みんな!準備は出来た?」
「あぁ由依さん……おはよう……」
「あれぇ?元気ないなぁ要くん。どしたの?」
「いや……ちょっと寝不足で……」
俺は大きな欠伸をする。すると椛さんが呆れたように話しかけてきた。
「ちょっとあんた、足引っ張ったら許さないわよ?大体、今日は早くからボス戦の約束だったのに、夜遅くまで何してんのよ?」
「いやいや、朝早くって早すぎんだろ!今何時だと思ってんだよ!」
「……朝の5時半。もう太陽は登ってる」
「俺らの他に誰もいないけどな」
そう、今日の集合時間は5時半。いつもなら寝ている時間だ。怪訝そうに由依さんが俺に問いかけてくる。
「そんな遅くまで何してたの?」
「深夜2時まで【水中呼吸のポーション】を180本作らされたんだよ……MPが尽きるから途中で【MP回復ポーション】も挟みながら」
「180本⁉なんでそんなに⁉」
「1本あたりの持続時間が3分と思ったより短かったんでな。もし水中戦闘になってあとちょっとのところで時間切れなんてなったら、泣くに泣けないだろ?」
俺の代わりに東堂が答える。俺は東堂にジト目を向ける。こいつは昨日俺の部屋に来て、何本作るかだけ伝えて帰りやがったのだ。さぞかしよく眠れただろう。
【水中呼吸のポーション】をみんなに配っていると、中村があることに気がついた。
「あれ……今日の食事当番って確か……」
「え?えぇと、明日が私だから……あ⁉」
少し考えてからアルシアも気がついたようだ。
そう、俺だ。
俺は朝3時に起きて朝食の準備と昼食用の弁当作りをしたのだ。流石にこれには東堂も悪いと思ったのか、
「要。ほんとに申し訳ねぇ」
と頭を下げた。樋口と矢沢が大笑いしてるので後でシメる。俺はわざと虚空を見つめながら返事をする。
「テスト終わってすぐだから、徹夜のための昼夜逆転の生活習慣がまだ残ってて良かったよ。何とか起きてるからね。普段だったらもう意識なくなってるかな?」
「ほんと、今度の食事当番俺が全部やるから許してくれ……」
「そ、そろそろ行きましょう?」
越山くんに声を掛けられる。俺たちは【水中呼吸のポーション】を飲んで湖の中へと入っていった。
水中は陸と変わらないほど見通しが良いのに、どこか神秘的だった。色々な種類の魚が泳いでいる。遠くに見えるあれが神殿だろう。俺たちは泳いで神殿へ向かっていく。
「うぉお!すげぇ!ほんとに息が出来てる!」
「おい!あそこ泳いでんの何だよ⁉めっちゃでけぇ!」
樋口と矢沢が騒いでる様子がギルドチャットで伝わってくる。泳げない中村は矢沢の背中に捕まっている。
少し潜って神殿の中に入る。中も水で満たされている。俺たちは奥の大天使像からエリアボスのいるフィールドへ転移した。
今回のフィールドは大きな砂漠のようだ。真ん中には湖があるので、コニトオアシスに似ている。俺たちは、周りの警戒をする。
「あー、やっぱ暑いわね……これ終わったら海で遊びたいわね」
「だよなだよな!ギルドホームの前の海で海水浴しようぜ!」
椛さんのボヤキに樋口が食いつく。しかし、やはり優香さんは乗り気じゃないようだ。東堂が理由を聞く。
「なんだ?中村みたいに泳げないわけじゃないだろ?」
「うーん、海に行くのは賛成だけど、水着がちょっと……」
「あぁ、無いからか。なるほど、納得した」
優香さんの顔から視線を落とした東堂が何かを納得したようだ。優香さんは胸を手で隠しながら顔を真っ赤にして反論する。
「無くないもん!ちゃんとあるもん!」
「……大丈夫優香。それはステータス。希少価値」
「なんの話⁉」
(……なるほど、なんとなく理由を察したぞ。優香さんは確かに小さいけど、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな?)
俺がそう思っていると、突如湖から水しぶきが上がった。それと同時に空中に青くて細長い龍が現れた。
4メートルはあるだろうか。前に[アシュヴィ山脈]で見たドラゴンとは違い、和風の龍だ。名前は『リヴァイアサン』と言うようだ。
『リヴァイアサン』は俺たちを見つけるや否や、俺たちに向かってくる。
「全員、この場から離れろ!」
東堂の指示で俺たちは一斉に散る。攻撃を躱したあと、俺たち前衛が攻撃に移る。最初に出たのは矢沢だ。
「うおおりゃあぁ‼」
矢沢が本気で剣を振り下ろした。しかし、大剣は表面の鱗に弾かれてしまっている。俺たちも攻撃を仕掛けるが、殆どダメージは入っていないようだ。
苦戦している俺たちに向かって、リヴァイアサンは尻尾で薙ぎ払ってきた。前衛に当たりそうになったところをギリギリのところで優香さんが防ぐ。
「お前ら下がって!〈火の天使よ、風の天使よ、我に力を与えよ〉【ケマルストーム】!」
中村が爆発魔法を放つ。しかし、『リヴァイアサン』の放った水の衝撃波のようなものによってかき消されてしまう。
「ありゃりゃ、【アクアブレス】使ってくるのか。だめだこりゃ」
「あの、みなさん……あの龍の顔の周りだけ鱗が薄いように見えます。もしかしたら、あそこが弱点なのかも……」
「なるほど……はっ!」
細野さんの話を聞いた東堂とアルシアが真っ直ぐ向かってくる『リヴァイアサン』の顔を目掛けて弓矢を放つ。
放たれた矢は『リヴァイアサン』の顔に刺さる。すると、のぞみさんの予想通り、HPが少し減った。
「ナイスだのぞみ!中村!『リヴァイアサン』の動きを止める努力をしろ!前衛は全力で顔に攻撃しろ!西田は前衛を守れ!俺たち弓部隊も顔を狙え!」
「「「了解‼」」」
「のぞみ、頼むぞ」
「は、はい!頑張ります!」
俺たちは東堂の指示を受けて、『リヴァイアサン』に攻撃を仕掛けた。
矢沢が『リヴァイアサン』の顔の前へ走っていった。『リヴァイアサン』は矢沢目掛けて【アクアブレス】を放った。
「今です!」
俺たち残りの前衛は、越山くんの指示で走り出す。矢沢がデコイをしている間に俺たちが顔に攻撃を仕掛けるという作戦だ。
樋口と越山くんが矢沢の後ろから飛び出し、顔めがけて【居合い切り】をした。HPが4分の1くらい減ったので顔が弱点で間違い無いのだろう。
すると、『リヴァイアサン』は体を大きく回転させた。近くにいた俺たちは吹き飛ばされたが、幸いダメージは少なかったようだ。
「ほっ!【ハイパーヒール】!」
「……【エリアヒール】」
由依さんと和泉さんが回復魔法を使う。その間に俺たちは次の攻撃の準備を始めた。
「要くん要くん、ちょっといいかな?」
「ん?どうしたの?」
「あのね……」
俺は優香さんの作戦を聞いて一瞬耳を疑った。しかし、やってみる価値はありそうだ。
「〈雷の天使よ。我に力を与えよ〉【パラライシス】!」
中村が麻痺魔法をかける。どうやら上手くかかったようだ。しかし、すぐに終わってしまうかもしれない。
俺は急いで『リヴァイアサン』の目の前に立った。そして、『リヴァイアサン』に向かって走り出す。
「行くよ要くん!【シールド】【シールド】【シールド】!」
優香さんが俺の目の前に障壁で階段を作った。俺はそれを駆け上がり、『リヴァイアサン』の頭の上から飛び降りた。
「うぅらあぁ!」
俺は『リヴァイアサン』の首を目掛けて剣を振り下ろした。手応えはある。そのまま俺は着地し、その場から退避する。
(くっそ!まだ死なねぇか!でもあとHPは4分の1……いや、5分の1か?あと一撃だな)
俺がそう思っていると、『リヴァイアサン』はいきなり空高くに飛び上がった。そして、【アクアブレス】を放ちながら急降下してきた。
「っ⁉全員、急いで離れろ!西田!【シールド】を張ってあいつの降下を止めろ!」
「う、うん‼【シールド】!」
優香さんが急いで大きな障壁を張る。しかし、【アクアブレス】の威力と『リヴァイアサン』の急降下によって、障壁が破られてしまった。
(嘘だろ⁉あの障壁破れるのかよ⁉ってやべぇ!早く逃げな……)
【アクアブレス】がすごいスピードで地面を這うように全方向へ向かっていく。俺は盾を構えて受けようとするが、威力が強すぎる。そのまま吹き飛ばされてしまった。
(ぐぁ!危ねぇ!HPが残り3分の1だ!他の人は……だめだ。砂でなんも見えない)
『リヴァイアサン』が地面に落ちたことで砂が舞っている。この状況では和泉さんたちの回復には期待できないので、俺が警戒しながら【回復ポーション】を飲んでいると、段々と視界が晴れてきた。
(えぇと、1.2.3……あれ?1人足りない?誰だ?)
俺がそう思っていると、1人だけ受けたダメージが大きい人が1人、まだ横たわっているのが見えた。細野さんだ。
『リヴァイアサン』はそれに気がついたかのように、細野さんに噛み付こうとする。細野さんはダメージが大きいのか、自力で立ち上がれないようだ。
「細野さん⁉」
俺は声を上げ、のぞみさんのところへ【縮地】で向かおうとしたその時、東堂がすごいスピードで走って行くのが見えた。
東堂は細野さんと『リヴァイアサン』の間に入り込み、細野さんを右腕で抱き寄せた。しかしそこから逃げるのが間に合わず、東堂の左足は『リヴァイアサン』によって食いちぎられてしまった。
「とう、どうさん……?なんで……こんなこと……」
「くっ⁉……HPはまだあるようだな……お前が無事で良かった……」
「正人!……西田さんは正人とのぞみさんの援護を!高崎さんは全体に回復!千田さんは正人に上級回復魔法を!前衛は全員、止めを刺しにいくんだ!」
今の状況をいち早く理解した中村が、東堂に変わって指示を出す。その間に俺と椛さんは攻撃に移る。
「私が先に行ってあの蛇の気を引くからあんたが最後仕留めなさい。しくじるんじゃないわよ?」
「了解」
俺は言われた通り椛さんの少し後ろを走っていく。
しかし、俺が【縮地】で飛びつこうとしたとき、『リヴァイアサン』の頭が光り、顔の周りに硬い鱗が生成された。額には青い宝石がついている。
『リヴァイアサン』の額の宝石が光り、俺らに【アクアブレス】を打ってきた。さっきよりも威力が強い。俺たち前衛は咄嗟に躱したが、少しダメージが入った奴らもいるようだ。
「あっぶねぇ!HP半分持ってかれたよ⁉直撃してないのに⁉どんなクソゲーだよ!」
「ゲームとかだとあそこのおでこが弱点だよな?あそこを殴ればいいんじゃね?」
樋口が【回復ポーション】を飲みながら愚痴っている。矢沢の提案を聞いて、東堂がギルドチャットから指示を出した。
「中村、あいつにバインドをかけろ。その間に永田が止めを刺せ。しくじんなよ?他は援護とデコイをやれ」
「ちょっとあんた!大丈夫なの⁉足食べられてたけど⁉」
「痛くもねぇし、そのうち生えてくんだろ。ゲームなんだから。おら、さっさとやれ」
東堂に急かされて、中村と椛さんが移動する。
「すぐ解けちゃうから気をつけてね?〈雷の天使よ。我に力を与えよ〉【パラライシス】!」
「行くわよ!はぁぁあ!【発勁】!」
中村がバインドをしたタイミングに合わせて、ジャンプした椛さんが『リヴァイアサン』の頭に発勁を打ち込む。これで終わったと誰もが思った。
しかし、『リヴァイアサン』はまだ生きている。残りHPがほぼゼロの『リヴァイアサン』は椛さんに向けて、頭の宝石を光らせた。
「永田!その場を離れろ!」
「だめです!無茶です東堂さん!安静にしていてください!」
遠くにいるはずの細野さんの声が聞こえてくる。声のした方を見ると、東堂が片足で立って弓矢を構えている。
東堂は弓矢を放った。放たれた矢は寸分狂わず『リヴァイアサン』の額に刺さる。ついに『リヴァイアサン』はその場に崩れ、光となって消えた。
「っしゃぁ!勝ったー!」
樋口が声を上げて喜んでいる。俺は和泉さんに回復してもらいながら、みんなのもとへ集まっていく。
「お疲れカナメくん!」
「あぁアルシア、大丈夫か?」
「うん!全然問題ないよ!」
俺はアルシアの無事を聞いたところで、東堂が細野さんに肩を借りながらこちらへ向かってきた。矢沢が東堂に話しかける。
「よぉ東堂。今回のMVPは間違いなくお前だな」
「知るか、さっさと行こうぜ……と言いたいが、流石にこの足じゃあなんも出来ないからな。1回戻ってもいいか?」
東堂が手を上げて何も出来ないアピールをしたので、俺たちは一度ベルリナに戻ることにした。帰りみちで越山くんが口を開く。
「そういえば、私たちはまだ第3の街には入らないので、ここでまたお別れですかね?」
「お別れったって、すぐに海水浴だ。お前らも来るだろ?」
「え?私たちも参加していいの?」
「当たり前だ。今日の祝勝会も兼ねてるからな」
「やったー!みんなで水着買いに行こー!」
「あの……由依ちゃん、先行ってて……くれない?」
由依さんたちが走って買い物に出かけようとすると細野さんがモジモジしながらそう言った。
(やっぱあの2人いい関係だな……先行ってよ)
俺たちはそう思い、東堂と細野さんを残してベルリナの街へ戻った。




