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第17話

 俺たちがリビングに戻ってもまだみんなは戻ってきていない。俺は先程手に入れた【縮地】のスキルを試してみようと庭に出た。


(【縮地】っていってもどんぐらいの距離移動できるのか分からないしな……この辺でいいだろ)


 俺は庭の端に立って【縮地】を使い、地面を強く蹴った。


 ゴンッ!


 ……痛え。俺は庭の木に頭をぶつけた。鈍い音と共にHPが半分ほど減った。その上で目の前が真っ暗になった。


(うわぁ、初めてスタンした。あーあ、なんも考えないで【縮地】を使ったからMPも尽きちゃってるよ……スタンすると体の感覚も無くなるのか……そういえば、意識はあるな)


 俺は初めてのスタンの感覚に慣れずにいた。体感で1.2分ほどすると、段々と背中に草の感触を感じたり、風の音が聞こえてきたりした。


(お、感覚が戻ってきた。ん?なんだ?後頭部に少し柔らかい感触が……よし、目の前が明るくなっ……)

「うぇぇぇ⁉」


「……あ、意識が戻った……」


 俺の視界が開くと、目の前には高崎さんの顔があった。俺が驚き、急いで起き上がろうとすると、高崎さんに肩を抑えられた。


「まだMPが回復してない……寝てたほうがいい……」


「いや、移動に関係あるのはSTだし、STは殆ど減ってないから動けるんだけど……」


「だめ。何が起こるか分からない。さぁ、寝て」


「あ、はい……」


 俺は高崎さんにされるがままに木の下で横になっていた。


(……俺は魔法を使わないからMPをわざわざ貯めなくてもいいんだけどなぁ……ずーっと顔を見合わせてるのも恥ずいなぁ……)

「あの、高崎さん。そろそろ回復してきたし……」


「……じゃあ条件……」


 俺の頭を押さえつけている高崎さんが交換条件を提示してくる。俺的にはこのままでもいいが、あいつらが帰ってくる前に終わらせてくれないと、絶対に怒られるので、話を聞くことにする。


「分かった。何でも言って」


「……これから私のこと、名前で呼んで……」


「OK……ってえぇ!?なんでまた急に……!」


「優香のことは名前で呼んでる……それに今後もこのギルドでやる上で、仲良くなるのは大事……」


「いや、そうかもしれないけど……」


「……私は椛が帰ってくるまでずっとこのままの姿勢でも構わない……」


 高崎さんは的確に脅してくる。俺は何でもと言ったことを少し後悔しているが、優香さんの時と同じように、2人きりのときに呼び始めてしまえば、後は流れでなんとかなるだろう。俺は心を決めて、口を開く。


「い、『和泉さん』…………これでいいんだよね?」


「……だめ。『和泉』」


「ちょっ!?約束と違う!名前を呼んだらいいんじゃないの!?」


「……名前は『和泉』……『和泉さん』じゃない……」


 正しいことを言っているように聞こえるが、多分理不尽な要求である。俺はそう思いながら和泉さんの顔をちらりと見た。


 影になっていて見にくいが、和泉さんは無表情のまま俺の頭に右手を置いているように見えた。

 シャンプーか柔軟剤か分からないが、何か甘い匂いを漂わせている和泉さんにどぎまぎしていると、中村がギルドホームへ転移してきた。


「さて、来客者の招待は……って、お前ら何してんの……?」


 俺は急いで起き上がろうとしたが時すでに遅し。中村はこちらをみている。


「な、中村、違うぞ?これはちょっと、その……」


「要の成長は嬉しいけど、どうせ永田さんに見つかったら怒られるんだから部屋でやりなよ?」


「あ、はい……」


 中村は軽くため息をついて呆れたような顔をしてから何やらギルドホームの設定を触り始めた。


「……誰か来るの?」


「あ、よく分かったね。新聞部の人たちがうちに来るんだよ。第2の街のエリアボスの手がかりが見つかったみたいだからね。今から『招待状』を送るよ」


 この世界で他人のギルドホームに入るには、中村が送ったような『招待状』を受け取らなければいけない仕組みになっている。

 中村は新聞部の人たちに『招待状』を送った。


 それと同時に、由依さんや細野さんを始めとする新聞部のメンバーが5人ほど転移してきた。


「おぉ!海だぁ!いいなぁ!こんなところにギルドホーム欲しいなぁ!」


「部長、騒ぎすぎです。ゲブラーの方々に失礼ですよ?」


「あ!要くんだ!やっほー!」


「……はぁ、人の話を聞いてほしいものです」


 騒いでいる由依さんを越山くんが抑えようとしたが、そんなことはお構いなしに由依さんはこっちへ近づいてくる。


「ねぇねぇ!ここ第4エリアよね⁉どうやってここまで来たの⁉まさか何か新しい手段でも見つけたの⁉」


「いや、たまたまね?たまたまここに来たときにヴァルリア騎士団の人から買ったんだ」


「そのたまたまが気になってんのよ!どんな手をつか……モガァ‼」


「部長!そろそろ皆さんが転移してくるので騒がないで下さい」


「あ、はーい……」


 越山くんに首を掴まれた由依さんはおとなしくなった。ちゃんと越山くんが手綱を握っているようでなによりだ。


 それに続いて東堂たちも各々転移してきた。


「おう要、高崎の杖は出来たか?」


「まぁ一応ね。それより、エリアボスの手がかりが見つかったってほんと?」


「あぁ、とりあえず説明するからさっさと部屋に入れ」


 俺と和泉さんは東堂に言われてギルドホームへ入ろうとした。すると、何かを見つけた永田さんが和泉さんに問いかける。


「ちょっと和泉、なんか良いことあったでしょ?」


「……?なんもないけど……?」


「嘘よ!あんた表情は乏しいけど嘘は苦手だからすぐわかるわよ!何があったのか白状しなさい!」


「……新しい武器を作ってもらった。嬉しくないわけない」


「意地でも言わないつもりね。佐藤くん!何かあったでしょ?言いなさい!全部思い返しなさい!」


「いや、本当になんもないと思うけど……えぇと、まず和泉さんと[コニトオアシス]に行って……」


「それよ!!あんた何勝手に和泉のことまで名前で呼んでんのよ!!」


「……私は呼び捨てで良いって言ってる……」


「そこじゃないわよ!!……あんた!優香も和泉も名前で呼ぶんだったら、わ、私も、も、椛って呼びなさいよ!!」


 永田さんが顔を真っ赤にしてそう声を上げた。まだギルドホームに入っていない人たちがこっちに注目する。これだけの人数の前で『椛さん』と呼ぶのはお互いに恥ずかしくて死ぬだろう。


「な、永田さん……顔真っ赤だし、お互いのためにも、今は辞めといた方がいいと思うんだけど……」


「も!!み!!じ!!顔が赤いのは暑いだけよ!!それとも……私のことを名前で呼ぶのは嫌なの……?」


「い、いや!そういうわけじゃ……!」


 自分が嫌われていると勘違いしたのか、永田さんの目が少し潤んでいる。それを見た俺が慌てて否定すると、睨みながら俺に詰め寄り、赤い顔を近づけてくる。


「復唱しなさい!!も!み!じ!」


「も、椛!……さん!」


 詰め寄られた勢いで俺は名前を口にする。ちらりと椛さんの顔を確認すると、もう目に涙は浮かべていないが、さっきよりも顔が赤くなっている。


 そんなことを外でやっていると、バンと音を立てて応接室の窓が開いて、東堂が顔を出した。


「昼間っからちちくりあってんじゃねぇぞお前ら‼早く入れっつったのが聞こえなかったのか‼」


 東堂が久しぶりに大きい声をあげてブチ切れたのを聞いた。その場で俺たちを見ていた数人も含めて、大至急応接室に向かう。

 応接室の机を挟んで新聞部と東堂たちが座っている。机には大きなベルリナの地図が置かれている。


「ようやく全員揃ったな。始めてくれ」


「はいはーい。まずこの地図を見て!ここがベルリナ砂漠ね!んで、ここをこの前のピラミッドがぐるぐるしてるのね。それで、この星印のところ!」


 由依さんが指さしたところを見ようと、俺は地図を覗き込む。大きな範囲が描かれている地図なのに、細かく作られている。

 『梅崎新聞部』では、これの縮小版を冊子にして販売しているようだ。もちろん、販売元は『セイコー商会』で。


「ここにはね、小さな祠みたいなのがあったの!これが何かの鍵になるんじゃないかと思って!」


「祠の外側に四角いくぼみが2ヶ所ありました。ここに何かを嵌めれば、ギミックが作動すると思われます」


 由依さんの説明に越山くんが補足を入れてくれた。


「なるほどな。それで、その何かってのが検討がついてないのか」


「はい……東堂さん、何か分かりませんか?」


「いや、実物を見ない限りはなんともなぁ……」


 細野さんに聞かれた東堂が頬を掻きながら答える。すると、俺の後ろで話が難しいからと武器の手入れをしていた矢沢が口を開いた。


「1回みんなで実物見に行けばいいんじゃね?」


「さんせーい!そっちの方がなにか分かるかも!行こ行こ!」


 矢沢の提案にアルシアが乗った。ただ、さっきまで昼寝をしていた樋口は乗り気では無いようだ。


「ふゎーあ。あ、ベルリナ砂漠行くの?なら俺は留守番してるわ」


「おいこら。さっきまで寝てただろ。なんか働きやがれ」


「えー、いいじゃーん、どーせ人数多くたってなんも変わんないしさぁ!あ、そーだ!砥石買いに行かなきゃいけないじゃん!いやぁ、忙しいなぁー!」


「このクソ野郎……」


「まぁまぁ、純の言うとおり人数が多すぎてもあれだからさ。いいんじゃない?何人かは別行動でも」


「ちっ、まぁいい。その代わり、俺の弓矢の補充分買ってこい」


 怒りに震える東堂を中村が宥める。なんとか怒りを沈めた東堂は樋口に買い物を任せ、ベルリナ砂漠へ向かう準備を整え始めた。


「あ、樋口が行かないなら俺も……」


「あぁ⁉」


「あ、いえ、なんでもないです」


 俺も樋口と同じようにサボろうとしたが東堂にすごまれたので辞めた。

 後ろで樋口が笑っているので後でしめることを誓いながら、俺たちはベルリナ砂漠へと向かった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 [ベルリナ砂漠]


「ほら!これこれ!この祠!」


 俺たちがとても暑くてうなだれている中、由依さんが祠を見つけるや否や、走って近づいていく。俺たちも祠に近づいていく。


 そこにあったのは、小さな祠、というよりは石碑に近いものだった。中には何らかのギミックがあるのだろう。


「これか、確かに何かを嵌めて動かすギミックなんだろうな。何を嵌めるかだが……」


「もしかしたら他の2つのフィールドから集めてくるんじゃない?」


「多分そんな感じだろうが、それだけじゃどうしようもねぇな」


 東堂と中村がいろいろと考察をしている。どうせ考えても分からない俺や矢沢は周りの警備をしている。すると、買い物をしていたはずの樋口がギルドチャットで話しかけてきた。


「ねぇねぇ!そっちにNPCの泥棒が行かなかった⁉」


「泥棒?『オニサボテン』はたまに出るけど、人は誰もきてないぞ?」


「あれぇ?絶対そっち行ったと思ったんだけどなぁ?」


「あんたねぇ、ベルリナ砂漠は広いんだから絶対こっちに来たなんて言えないでしょ?」


「いやいやモミちゃん!だって俺もうお前らと合流するほど近いもん!ほら!」


 樋口はそう言ってギルドチャットを閉じた。それとほぼ同時に俺の後ろからおーいと樋口が呼んでいる声が聞こえる。


「はぁっ、はぁっ、ぜぇっ、し、死ぬ。アルシアちゃん、水ちょうだい」


 俺らと合流してすぐに樋口はアルシアに水をもらいに行った。樋口が水を飲んで回復したところに越山くんが近づいていった。


「樋口くん、その泥棒の特徴を何か覚えていませんか?」


「えぇ?えーっと……赤髪で、背はそんな高くなくて、顔は見えなかったなぁ。鉱石屋の窓ガラスを割って逃げてったんだよ。あとは……あ!あいつ、斬ったのにダメージが入ってなかった!」


「やっぱり……完璧に一致している。ありがとございます」


「あ!私たちもこの前見たよ!その泥棒!ね、カナメくん?」


(そうだったっけ?泥棒は覚えてるけど髪の色とかは覚えてなかったからなぁ)

「あぁ。でも俺たちが見たのは鉱石屋じゃなくて、カフェみたいなところにいなかったか?」


 俺がアルシアに聞くと、代わりに和泉さんが答えてくれた。


「……ベルリナの鉱石屋はイートインスペースが併設してある。そこをカフェだと思ってる」


(へぇ、そうだったのか。鉱石なんて自分でとりに行けるから鉱石屋なんか行ったことなかったな)


「要くんは行ったことないから仕方ないよ。今度一緒に行こ!」


「あ、あぁ、機会があればね」


 俺と同じことを考えていた優香さんに誘われた。

 俺が承諾すると、後ろでアルシアと椛さんがふてくされているのが見えた。


(2人も行きたかったのかな?今度誘ってみるか。そうだ。そんなことより……)

「それで、その泥棒がどうかしたの?」


 俺は気になっていたことを聞いてみた。


「はい。その泥棒は何回か捕まっているんです。プレイヤーが捕まえて騎士団に付きだしてるようですが……何回も脱走したとは考えられないのでずっと気になっていたんです」


「なんだそれ?普通のNPCとは違うのか?」


「いえ、まだ詳しいことはなんも分かっていないんです」


「なるほど。もしかしたら、それが何か関係あるのかもな。しかも鉱石屋ばっか襲ってんだろ?」


「はい。そいつを僕たちが捕まえられれば、何か分かるんでしょうが……」


 東堂たちが祠について考えるのを一度辞めて休憩に入った。

 すると、泥棒のことをずっと考えていた優香さんが何か思いついたのか、話を始めた。


「その泥棒がいつもベルリナ砂漠に逃げてくるなら、この砂漠にアジトみたいなのがあるんじゃないかな?それを見つければ、何かわかるかも!」


「おお!ユウカちゃんすごい!だったら今すぐそのアジトを探しに……」


「いや、そんな闇雲に探しても時間がかかるよ。どうするか考えてからじゃないと」


 探しに行こうとしたアルシアを中村が止める。確かに、闇雲に探しても見つからない。俺はダメ元である提案をしてみた。


「あのさ、樋口とか俺みたいにその泥棒を追いかけて来た人に話を聞ければある程度アジトの場所を特定出来るんじゃないかな?」


「要!それだよ!それなら一発で分かるぜ!」


「馬鹿ねぇ。そんなの誰がどうやって探すのよ」


「それはほら、みんなで手分けして聞いて回れば……」


「だめよ。時間がかかりすぎるわ」


 矢沢が俺の提案に乗ったが、椛さんに反対された。すると、細野さんがオドオドと手を挙げた。


「あの、新聞部の方で情報提供を呼びかけて見れば、数日で特定できるんじゃないでしょうか?」


「それだよ!さっすがのぞみちゃん!」


「のぞみ、それはどれくらい時間がかかりそうだ?」


「あ、はぃ!えっと、いますぐに情報を集めてってやっていくと、明日か明後日になるかと……」


「あぁ、よろしく頼んだぞ。のぞみ」


「ひゃ、ひゃい!」


 東堂に頼りにされたことがよほど嬉しかったのか、細野さんの返事が裏返った。

 これからのことは新聞部に任せること、2日後にまたギルドホームで会議をすることなどを決めて、俺たちはギルドホームへ戻った。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その夜、俺は和泉さんと武器の素材を集めているときに手に入れた【トレントの葉】と【コニトの葉】の実験をしようとしていた。


(さて、まずはポーションにしてみるかな。とりあえず【トレントの葉】を【調合】して……と)


 出来たのはR(レア)の【回復ポーション(自動)】というポーションだ。試しに自分に傷を付けてから飲んでみる。


(なるほど、1秒でHPが20回復するのか……あ、切れた。持続時間は30秒と。やっぱ和泉さんの回復魔法の方が効率がいいなぁ。一応持っとくか)


 俺はそう思い、次の【コニトの葉】の実験を行おうとしたときだ。


(あれ?小瓶を切らしてたのに買い足すの忘れてんじゃん。まだぎりぎり店は空いてるかな……急いで買ってこよっと)


 俺は急いで部屋を出てベルリナへ転移し、商業区へ走った。俺は露店の片付けを始めている顔見知りのNPCの店主に声をかけた。


「すいません。まだ空いてますか?」


「おう小僧。ちょうど閉めようと思ってたところだ。【小瓶】か?30本あるがいくつ欲しい?」


「よかったぁ。あ、30本全部ください」


「まいど!ありったけ買ってくれるからおめぇが来ると金になるな!また来いよ!」


「はは、またお願いします」


 俺は店主にお礼を言って歩き始めた。


(もう11時か……こんだけ遅くなると商業区も静かだなぁ。そうだ!フィールドの方に行ってみよう。何か面白いものが見れるかもしれない)


 俺はそう思い、ベルリナ砂漠へ向かおうとする。すると、誰かが俺の肩を叩いた。振り返ると、俺の頬に白くて長い人差し指が当たった。アルシアだ。


「うおっ」


「ふふーん、ひっかかったー。こんな遅くにどうしたの?カナメくん?」


「あぁ、小瓶を切らしてて買いに来たんだ。アルシアは?」


「ちょっと弓矢が足りなくて買いに来たんだけど、もうお店閉まっちゃってたんだぁ」


「そっか。でもこんな遅くに1人じゃ危ないよ?気を付けな?」


「えへへ。んじゃあ一緒に帰ろ!」


「え?あ、あぁ、そうしようか」

(フィールド見て回ろうと思ったけど、アルシア連れ回すのも良くないな。今日は普通に帰るか)


 俺はそう思い、アルシアと並んで歩きだした。


「アルシア、なんかご機嫌だね。何かあった?」


「今日は久々に要くんと遊べると思ってたのに要くん武器作りに言っちゃうんだもん。なのにこうやって一緒に歩けて楽しいなぁって!」


「そ、そっか」

(自分で聞いといてあれだけど恥ずかしいな……)


「あーそうだ!要くん。今日ずーっと和泉ちゃんが楽しそうに笑ってたの!名前以外にもなんかあったでしょ!」


「えぇ……いや、大したことはなんも無かったけどなぁ……」


「嘘!1個1個思い出してみて!」


「えーっと、コニトオアシスでトレントと戦って、ナルス洞窟でコボルトと戦って、あ、長橋工業のやつらに襲われたな。そんぐらいだけど……」


「えー、絶対なんかあるよー!その後は?」


「え?あぁ、俺が新しくゲットした【縮地】の練習中にスタンして、和泉さんに膝枕で介抱されて……」


「それだよ!絶対それじゃん!もー、なんで早くに言ってくれないのよー!」


「え⁉あ、ごめん……」


「カナメくんが膝枕好きならいつでもやってあげるからね!」


 そう言うとアルシアが腕をバッと広げた。


(めっちゃやってもらいたいけど……そのポーズは膝枕と関係ないだろ……ん?なんだあそこ?赤い髪、鉱石屋の周り……あ、もしかして……)


「どうしたの要くん?あ、もしかして膝枕よりハグの方が良かった?」


「そうじゃないよ。ほら、あそこ見て」


 俺は小声でアルシアに話しかけた。泥棒の方を指指すと、アルシアもすぐに理解したようだ。


「例の泥棒かな?」


「多分ね。追いかければアジトの場所がわかるかも」


「そっか!なら追いかけてみようよ!」


 アルシアは追う気満々のようだ。俺たちはバレないように適度に距離を取りながら泥棒を追っていく。

 すると、細い裏路地から2人の赤髪の男が出てきた。2人は俺たちが最初に追っていた男と合流し、一緒に歩いていく。


「どういうこと?赤い髪の人が3人もいるよ?全部泥棒なの?」


「まだ分からないけど……もしそうなら、1人が捕まったのに犯行が続いていることにも合点がいくんじゃないかな?とにかく、続けて追ってみよう」


 俺はそう言って尾行を続けた。3人の男はやはり、ベルリナ砂漠へと向かった。


 噂には聞いていたが、砂漠の夜は本当に寒い。肩やへその出ている服を好んで着ているアルシアは寒いだろう。


「アルシア、寒くない?大丈夫?」


「うん。大丈夫……っくしゅん!」


「大丈夫じゃなさそうだな……ほら、ちょっと薄いけどこれ着てな」


 俺は自分が羽織っていたカーディガンを渡した。あまり厚いものでは無いが、あったほうがいいだろう。


「あ、ありがとう……えへへ、カナメくんの匂いがする」


「そんないい匂いじゃないだろ……あ、見て!あそこ!」


 俺は赤髪の泥棒を指さす。泥棒の囲んでいる地面から光が見えた。あそこの地下がアジトだろう。

 泥棒が地下に潜ったのを確認して、俺たちはそこに近づいた。地面を触ってみてもよく分からないが、とりあえず地図に位置を記しておく。


「うーん……確かにここなんだけどなぁ……」


「もしかしたら何かギミックがあるのかもしれないし、今日は帰ろっか。また明日以降見に来よう」


「うん!じゃあ帰ろっか!


 もう時刻は12時を過ぎている。俺たちはギルドホームへ帰った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「えぇ⁉泥棒のアジトを見つけた⁉」


 次の日、俺が朝食の時間に昨日のことをみんなに話した。真っ先に反応したのは中村だ。


「そ、それで⁉アジトはどこに⁉」


「まぁとりあえず聞いてくれ。アジトの場所はここ。それと、泥棒は1人じゃなかったんだよ」


 俺は地図を指さしながらそう言った。昨日は暗くてよくわからなかったが、祠の近くだったようだ。


「なるほどな。昨日アルシアと2人で日付が変わった頃にこそこそ帰って来たから何かと思ったら、これを見に行っていたのか」


「ちげぇよ。ただ買い物に行っただけだよ」


「まあ後で追及するとして、どうする?今からアジトに乗り込むか……おっと、すまん」


 東堂が話をまとめようとしたときに東堂に個人チャットが届いた。東堂が席を外したうちに、樋口が茶化してくる。


「要ぇ。夜中に女の子とデートなんてやるじゃーん。このリア充め!」


「ちょっとあんたたち!そんな夜中に何してたのよ!」


 椛さんに睨まれる。俺が弁解しようとするとその前に矢沢が笑いながら答えた。


「何って……そりゃあな?男女が2人で夜の街ってことはもう決まったろ」


「な⁉何してんのよあんたたち⁉付き合ってもない男女がそ、そんなの……不純よ!」


「いやなんもしてねぇよ!」


「そうだよ。ただ寒空の下で要くんの温もりを感じていただけで……」


「はぁ⁉やっぱり何かしてんじゃないの!」


「上着を貸しただけだよ!誤解を招くような言い方すんなアルシア!」


 アルシアが面白がってわざと誤解を招くような言い方をする。案の定、変に誤解されそうになったので本気で否定する。


「お前ら、ヘタレの要がそんなことするわけねぇだろ。のぞみから連絡があった。新聞部の方でもアジトの場所を特定したらしい。新聞部の泊まっている宿に向かうぞ」


 東堂に罵倒された気がするがまぁいい。俺たちは朝食を片付け、ベルリナの宿に向かった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 俺たちがベルリナの由依さんたちの泊まっている宿に入ると由依さんは地図を机に広げて待っていた。


「おっはよーみんな!ささ、座って座って!」


「おはよう由依さん。もう何か見つかったの?」


「うん!昨日すぐに情報が集まったの!やっぱりベルリナ砂漠の方に逃げていったって情報がいっぱいあったよ!」


「逃げていった方向などを計算に入れると、泥棒のアジトは大体ここじゃないかと……」


 由依さんに代わって細野さんが地図に印を入れる。俺たちが昨日見た場所と大体同じだ。


「なるほど。ありがとなのぞみ」


「は、はい!いえ!お役に立てたなら光栄です!」


「さて、早速行ってみるとするか」


 東堂に言われて、俺たちはベルリナ砂漠へと移動した。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「この辺りだな」


「はい。この辺りの地下にアジトがあるのでしょうが……どうやって探しましょうか?」


 越山くんがそう言って頭を悩ませている。しかし、キョトンとしている人が2人いる。椛さんと矢沢だ。


「おい脳筋ども。何を考えてる?」


「はぁ?何を悩んでるのよ?」


「簡単じゃねぇか!地面をぶち抜けばいいんだろ?」


「ったく……そんなに上手くいったら苦労しねぇよ。大体、どうやって地面に穴を開けんだよ」


 東堂が呆れている。確かにそう上手くいくとは思えない。しかし、椛さんと矢沢はやる気だ。


「なんでよ。下に何かあるのは分かってんならそこまで穴を掘ればいいじゃない。他にやることなんかないわよ?」


「暑さで頭がやられたか。いや、もともとうちの前衛は馬鹿ばっかだったな」


「とりあえず1回やってみよ……あっつ⁉んだこれ⁉」


 地面を掘ろうと手をついた樋口が飛び上がる。そりゃそうだ。ただでさえ足が熱いのに、素手で触って熱くないはずがない。


「くっそー……火傷するかと思ったぜ」


「ほらみろ。どうせやるなら爆弾かなんかがいるだろ」


「おお!なんだかんだ手伝ってくれるじゃーん!もー、東堂くんったら、ツンデ……あっつぁ⁉」


「焼け死ね」


 東堂をからかいにいった樋口の足が払われ、樋口は背中から倒れた。立ち上がろうとするが、東堂に左肩を踏まれているため立てないでいる。HPがジリジリと削られているが、自業自得なので放っておこう。


 俺たちがそんなことをしていると、和泉さんがバッと振り返った。


「……3秒後に投げナイフが飛んでくる」


「っ⁉西田!障壁を張れ!」


 咄嗟に優香さんが【シールド】を張る。すぐにナイフが【シールド】にささり、地面に落ちた。

 ナイフが飛んできた方向には赤髪の男が3人、このアジトに帰ってきた奴らだろう。男たちは何も言わずにこちらへ向かってくる。


「お前ら、殺すなよ。生け捕りにしてアジトに入らせてもらう。矢沢と永田と樋口は下がってろ。お前らには難関すぎるからな」


「ちょ⁉前衛俺だけ⁉」


「いえ、僕もやります。刀使いですので」


「というわけだ。足を取られないように、気をつけながら戦え」


 東堂が指示を出す。前衛はいつもより少ないので、俺は積極的に前に出て交戦することにした。


 泥棒の1人がナイフで俺に斬りつけてくる。俺はそのナイフを躱しながら剣を振ろうとした。


(あ、本気で振ったら死ぬんじゃねぇの?ちょっと弱めに……とりゃっ)


 俺はそう思い、軽く剣を振った。HPが3分の1ほど削れたのでちょうどよかったのだろう。

 俺は同じくらいのダメージを与え、東堂に渡された縄で腕を縛り、連れて行く。他の2人も捕まえたようだ。


 3人の泥棒を捕らえると、いきなり地面がゴゴゴと音を立てて動き出した。それと同時に、地面に穴が開く。階段が下に続いているようだ。


「ここを見つけて泥棒を捕まえると道が開けるギミックって感じか?」


「そうだろうね。流石に地面をぶち抜く訳じゃ無くて良かったね」


 東堂と中村が考察をしながら階段を下っていく。俺たちもそれに続いて階段を下っていった。

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