第16話
投稿できてなかった……遅くなって申し訳ございません
[月曜日]
俺たちは樋口と矢沢の追試が終わった後、2週間ぶりにAOへログインした。
(いやぁ、ここ2週間勉強しかしてなかったから、すげぇ久々に感じるな……)
そう思いながら、俺は自分の部屋を出てリビングへ向かった。もう永田さんたちは来ているはずだ。
「よっ、ただいまっと」
「カナメくん!久しぶり!」
食器を洗っていたアルシアの顔が明るくなった。お茶を飲んでいた高崎さんが顔を上げる。
「……2週間ぶり?」
「そうね。あ、私は1週間ぶりかしらね」
「え?モミジちゃん、カナメくんに会いに行ったの?」
「べ、別にたまたま会っただけよ!」
アルシアに問いかけられた永田さんがあわあわとしながら答える。俺と勉強しに行ったことはバレたくないようだ。
「……どうせ椛のことだから要くんちに押しかけてそのまま襲いかかったに違いない」
「襲いかかってなんか無いわよ!ただ、お昼頂いただけ……は!」
「あぁー!やっぱり!モミジちゃん、カナメくんちに行ったんだ!」
「う……べ、勉強教えに行っただけよ!」
アルシアにジト目を向けられてたじろいだ椛さんが自白した。
「もー!ユウカちゃんもモミジちゃんもずるいよー!私だって遊びに行きたいのに!」
「えぇ⁉なんで知ってんの⁉」
優香さんが目を見開いた。やはり俺と会ったことは黙っていたかったようだ。
(噂になったりしたら嫌だろうしなぁ……それにしても、なんでアルシアは優香さんが俺と会ったことが分かったんだ?)
「ユウカちゃんずーっと目が泳いでるんだもん!すぐ分かるよ!」
アルシアが頬を膨らませている。永田さんたちがアルシアを宥めていると、矢沢と樋口がリビングに入ってきた。
その瞬間、矢沢は大剣を抜いて横に振り払った。咄嗟に近くにいた東堂が飛び退いたが、少しダメージを食らっているようだ。
「うーん、ちょっと感覚が鈍ってるな……やっぱ2週間も空くとだめだなぁ」
「てめぇ!こんなとこで剣振ってんじゃねぇ!」
「えぇ?あー、わりわり!ちょっと素振りしたくなってよぉ!」
「馬鹿じゃねぇの⁉ったく……すまない高崎、回復してもらえないか?」
「ん……」
高崎さんが回復魔法を掛けようと、杖を振りかざした時だった。
パリンッ
突如高崎さんの杖に嵌められていた魔石が割れた。同時に杖が木屑と化す。
「うお。壊れた」
「いやいや、普通はもっと驚くでしょ……」
突然のことにも関わらず普段とあまり変わらない高崎さんに中村が呆れたような声を漏らした。
俺は木屑を拾ってみた。僅かだが魔力がこもっているようだ。
「うーん……跡形も無いから絶対直らないだろうけど、なんで急に壊れたんだ?」
「……多分寿命。スターターパックで出た杖だから仕方ない」
高崎さんはそっけなくそう言った。そろそろ耐久度が無くなるのが分かっていたのだろう。
しかし、そうすると問題なのは高崎さんの武器だ。
杖があるのとないのでは圧倒的にMPの消費量が違う。ルドリスさんのように魔法をたまにしか使わないならまだしも、魔法使いは杖が必需品なのだ。
「和泉ちゃん、これだとエリアボス捜索にも支障が出るよ?新しい杖でも買ってきたら?」
優香さんが高崎さんにそう勧めた。しかし、高崎さんは何やら乗り気では無いようだ。
「買い換えようと思ったけどNPCの杖は脆い」
「ギルド『長橋工業』の奴らがいい武器を作ってるらしい。それを買ったらどうだ?」
東堂がそう言った。
長橋工業高校の人たちは、それぞれ地方ごとにギルドを作って武器の販売を行っている。それらは全て提携して武器を作っているので、全てまとめて『長橋工業』と呼ばれているのだ。
「……あの人たち、私たちを目の敵にしてる。そう簡単に武器を売ってくれない……」
東堂の提案に対して高崎さんが衝撃的なことを言ってのけた。俺が驚いていると、じーっと永田さんが俺の方を見ていた。
「どうしたの永田さん?」
「多分『長橋工業』に目の敵にされてるのあんたのせいよ?」
「へ?俺?」
(なんだ?俺なんかしたっけな?)
俺が永田さんに聞き返すと、永田さんは呆れたような顔で教えてくれた。
「あんたが相手の武器を壊すような武器を作ったせいで『長橋工業』の武器ってあんますごくないんじゃない?って噂がたってるのよ」
「もしうちが武器を販売し始めたらすぐに『長橋工業』は売上が落ちるだろうからね。結局1番目の敵にされてるのは唯一武器が作れる要なんだよ?」
中村に補足の説明をされた。俺が理不尽さを感じていると、高崎さんがぐっと近づいて来た。
「……と言うわけで佐藤くん、あなたに作ってほしい。行こう」
高崎さんが俺の服を掴んで歩き出した。
「ああぁ!今日は私と遊んでもらおうと思ったのにぃ!」
アルシアの叫ぶ声が後ろから聞こえたが、高崎さんは気に止めることもなく俺を引っ張ってリビングから出た。
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「……と言うわけでよろしく」
「いや、新しい杖を作るのはいいんだけどさ、何か目星は立ってるの?どこに素材を取りに行くとかさ」
「……とりあえずコニトオアシスに木を取りに行こう……」
「つまり何もまだ決まってないのね……」
「……ほんとはファルパーラで素材集めをするのがいいけど、足手まといがいる状態で生きて帰って来れるとは思えない」
「それもそうだね。でも、木が欲しいならコニトオアシスよりユミルド樹林じゃないの?」
「……ユミルド樹林は量は採れるけど質がそこまで良くない。コニトオアシスは量が少ないけど質がいいものが採れる。杖1本ならオアシスの方がいい」
(へぇーそうなのか。素材の質とか殆ど気にしてなかったな)
「あ、そうそう。中村の杖を作るときは魔石が必要だったんだけど、回復魔法の杖にも魔石は要るの?」
「……あった方がいい。確かソーマ地方のナルス洞窟にいる『ジェムコボルト・ドン』がドロップする」
「そっか。じゃあ先にコニトオアシスから行こうか」
(へぇー、なんだかんだ言っていろいろ考えているのか)
俺は感心しながら、高崎さんに続いてコニトオアシスに向かった。
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[コニトオアシス]
ベルリナは砂漠地帯ではあるが、ここだけはちゃんとした木が生え、大きな湖のようになっているのだ。中には釣りをしている人たちもいる。
「お、初めてきたけど、他のところと違ってここはそれなりに涼しいな」
「ん、早く採りにいこう」
「そうだね」
「……」
「……」
(やばい、なんか話さないと)
「よ、よくここの木の質がいいって知ってたね?俺全然知らなかったよ」
「ん、1回来たことあるから……」
「へぇ、そうなんだ……」
「……」
「い、いやぁ、こんなに涼しいならここにギルドホームを建てるのも良かったんじゃない?」
「……人が多い」
「そ、そっか」
「……」
(だめだ。全然話が続かない。優香さんとかアルシアが話を振ってくれるのに甘えてたんだなぁ……)
俺がそう思っていると、目の前に敵が現れた。『トレント』だ。トレントは長く伸ばした枝を振って攻撃してきた。俺と高崎さんは後ろに飛んで躱す。
「っ⁉どっから急に出てきた⁉」
「……多分多くある木の中にいた。できること無いからよろしく」
「了解!」
(あぁそうか。だけど高崎さんの【索敵】に引っかからないってことはすごい強敵なのかもしれない。気をつけないと!)
俺は気を引き締めて『トレント』に向き合った。
『トレント』は俺に向けて太い枝を伸ばしてきた。俺は盾で受け流し、胴体であろう木の幹の部分を斬りつけた。ダメージは4分の3ほど入っている。
すると、『トレント』は地面に根を張った。それとほぼ同時に体が緑色に光り、『トレント』のHPが少し回復している。
(お、ちょっと回復したな、でもまぁ次の一撃で倒せ……ん?向こうの茂みが動いてるな。もう何匹かいるのか?……高崎さんの方に行ったらヤバいな)
俺はそう思い、『トレント』に近づいてもう一撃を加え、『トレント』を倒した。
俺が高崎さんの方を向くと、高崎さんの後ろから『トレント』が近づいて来ていた。高崎さんは気が付いていないだろう。
「高崎さん!後ろ!」
俺は走りながら『トレント』に向かって【投げナイフ】を投げつけ、そのまま『トレント』の胴体を斬りつけた。『トレント』はその場に倒れ込んだ。
「ふぅ、高崎さんの【索敵】に引っかからない敵だからどんなに強いのかと思ったら拍子抜けだな。隠密行動に優れてるだけなのかも」
「…………」
「ん?どうかした?」
「……いや、何でもない。それより、私もそれ欲しい」
高崎さんは俺の持っていた【投げナイフ】を指さした。
「……どうせ回復させられないなら攻撃手段欲しい」
「あ、そっか。いいけど……俺は【強肩】のスキルがあるからかなり強く投げられるけど、高崎さんでも使えるかなぁ?」
「……分かんない……やってみる……今は先に木を採ろう」
「そうだね……これでいいかな?」
俺は木に近づいて【採取】をした。細い木だったので取れた【コニトの木】は少しだけだが、杖を1本作るには十分だろう。俺たちは、ソーマ地方のナルス洞窟へと向かった。
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[ナルス洞窟]
俺はナルス洞窟へ入るや否やその様子に驚いた。前に来たときと洞窟の中の道が変わっているのだ。
「あれ?前に来たときよりも広くなってるのか?でもどうして?」
「……ある条件を達成したらフィールドが広くなるらしい。ザラマーナのヘーリの森も敵が強くなってた」
「へぇ!だから見たことがないコボルトなんてのがいるのか」
「……早く行こう」
俺が感心している間に高崎さんは歩いていってしまった。俺は少し小走りで高崎さんに追いついた。
「……『ジェムコボルト・ドン』はレアなキャラな上に【回復の魔石】はそう簡単にドロップしない。【索敵】して反応があった場所に向かう」
「おう、よろしく。敵は俺に任せてよ」
「……早速反応あり。まっすぐ行ったあと右……」
「りょ、了解……」
相変わらず会話が続かないことに頭を抱えながら、俺たちは敵の反応があった場所へ向かった。
そこには3匹の『ジェムコボルト』と1匹の『ジェムコボルト・ドン』がいる。
『ジェムコボルト』たちは何かを漁っている。よく見てみると、どうやらプレイヤーが落としたもののようだ。
すると、俺たちの身長の半分ほどの『ジェムコボルト』の1匹が俺に襲い掛かってきた。手には湾曲状の剣、カトラスが握られている。
(そういや、人型のモンスターは初めてか?いや、でっかいミイラがいたか。普通に切り飛ばせばいいか……うぉあ⁉)
俺は剣を振り下ろしたが、『ジェムコボルト』は剣で俺の攻撃を受け止めた。それと同時に、後ろから2体目の『ジェムコボルト』がサーベルで俺を刺そうと飛びかかってきた。
(おいおい、モンスター同士で連携を取ってんのかよ⁉……うらっ!)
俺はカトラスを持っている『ジェムコボルト』を蹴って遠くに飛ばした。そしてすぐに胸へと迫っていたサーベルを剣で弾き飛ばし、『ジェムコボルト』の頭に剣を振り下ろした。
『ジェムコボルト』は地面に叩きつけられた衝撃で光となって消えた。
(よし、1体!次だ!……っ⁉危ねぇ!)
俺がサーベルの『ジェムコボルト』に攻撃をしようと近づこうとした。その瞬間、俺は咄嗟に盾を顔の前に構えた。盾には弓矢が刺さっている。
「……アーチャーがいる……」
「それ早く言ってよ……」
「……今度は私も戦う。後ろから【投げナイフ】投げるから前衛よろしく……」
「お、おう、分かった」
俺たちが話していると、サーベルの『ジェムコボルト』がこちらへ向かってきた。俺はサーベルを盾で止め、高崎さんが【投げナイフ】を投げやすいように体を少しずらした。
「今だ!高崎さん!」
「んっ」
高崎さんは『ジェムコボルト』へ【投げナイフ】を投げた。
システム上、【投げナイフ】などの投擲するタイプの武器は狙った場所に飛んでいくようになっている。しかし、高崎さんのSTRではダメージはほぼゼロなのだ。
(うわ⁉ダメージ少なっ⁉)
「む……」
思ったよりもダメージが少なかったのか、高崎さんの顔が少し固くなった。……ほんの少し。その間に『ジェムコボルト』がもう一度攻撃を仕掛けてきたので、俺は『ジェムコボルト』の首を飛ばす。
「……ごめん。思ったより威力が出ない……」
「いや、俺も予想外だった。まさかあそこまでとは……」
「……やっぱり私は【索敵】してる……」
俺の数メートル後ろにいる高崎さんはそう言うと、【索敵】を始めた。
(さて、あとは小さいアーチャーと大きいのか。さっさと片付けるか)
俺は盾を体の前に構えながら、走ってアーチャーの『ジェムコボルト』に近づき、一撃で倒した。あとは『ジェムコボルト・ドン』だけだ。
プレイヤーが落とした鉱石を拾っていた『ジェムコボルト・ドン』は『ジェムコボルト』が全滅したのを確認すると、双剣を手に取って俺に襲い掛かってきた。
(くそっ、やっぱり小さいのより動きがいいな……)
俺は『ジェムコボルト・ドン』に攻撃を加えようと剣を振るが、『ジェムコボルト・ドン』は双剣で防いだり、体を後ろに反らしたりするため、なかなかいいダメージが入らない。
その上、双剣での攻撃はダメージが少ない分手数が多く、全てを防ぐことは難しい。俺はあまりダメージを与えられないまま、HPがどんどん削られていった。
(くっ!このままじゃだめだ!何かないか⁉人型の弱点……アキレス腱?いや、剣が届かないか。肩の筋肉はどうしても防がれるしな……あ、そうだ。あれがあるじゃん!)
俺は剣をしまうと、今まですっかり存在を忘れていた武器、【デストロイソード】を取り出し、そのまま『ジェムコボルト・ドン』に斬り掛かった。
『ジェムコボルト・ドン』はさっきと同じように双剣で【デストロイソード】を防ごうとしたが、剣が触れた瞬間に双剣は破損状態となった。
(よし、上手く行った!しっかし、でかいコボルトの戸惑ってる感じとか、ホントの人間みたいだな……)
俺は本物の人間のような動きをする『ジェムコボルト・ドン』に感心しながら、剣を持ち替えて斬りつけた。数発斬りつけたところで、『ジェムコボルト・ドン』は倒れ、アイテムをドロップした。
「お疲れ。ドロップは?」
「ええと……殆ど鉱石だな。【回復の魔石】は落ちてない……お?なんだこれ?スキルか?しかもSRじゃん!」
ドロップアイテムを確認しているとスキルを1個見つけた。
俺はワクワクしながらスキルを確認した。金のカプセルから出てきたのは【縮地】だ。
「……何だった?」
「あぁ、【縮地】っていうスキルだね。いやぁ、初めてのSRスキルだからな。すげぇ嬉しいよ!」
「……?」
俺が喜んでいると、高崎さんは壁を見つめ始めた。
「ん?どうしたの?」
「……あっちは入り口の方。向こうから【索敵】されてる」
「【索敵】?それなら俺達みたいに敵を探してるだけじゃないのか?」
「……ううん。私たちのいる辺りを念入りに探している」
「うーん?まぁ気にすることも無いんじゃね?ほら、早く次の敵を探そうぜ」
「……ん」
高崎さんはまだ気になっているようだが、その人たちに先を越されてはたまらない。俺たちは次のコボルトを探し始めた。
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「おぉ!やっと落ちた!」
「ふぅ……長かった」
俺たちがナルス洞窟に入ってから2時間、ついに『ジェムコボルト・ドン』が【回復の魔石】をドロップしたのだ。
それまでに俺たちは5.6体の『ジェムコボルト・ドン』を討伐していたため、ドロップアイテムも美味しいものばかりだった。
(スキルに鉱石、【デストロイソード】を使わずに倒したやつからは【コボルトの弓】もドロップしたし、今度はみんなで来たいな。流石に1人だと辛い……)
俺がそう思いながら高崎さんの後ろを歩いていると、急に高崎さんは振り返った。そして、俺の体を突き飛ばし、俺が倒れたところに被さってきた。
(うお⁉な、ななんだ⁉急に押し倒されて……っ!)
俺が押し倒されたことに慌てていると、俺たちの真上を雷が通り過ぎた。どこからか狙われている。
「ちっ、外したか、読みのいい女だ……」
すると、壁の中から5人ほどのプレイヤーが出てきた。全員が顔まで隠れる赤いローブを着用している。
(何だこいつらは?そもそもどっから出てきた⁉)
「……幻影魔法で普通の通路を壁みたいに見せてただけ。私の【索敵】の前では無力に等しい」
「なるほど……あれ?気付いてたならあんなギリギリで回避しなくても良かったんじゃないの?」
「…………」
俺の問いかけに対して、高崎さんは黙秘をするようだ。俺が呆れていると、リーダーと思われし男が口を開いた。
「ほぅ、読まれてるとはな。中々の実力者だな」
「……何か用?」
「簡単だ。ここは俺たち『長橋工業』のフィールドだ。勝手に入り込んでんじゃねぇよ」
リーダーは剣を抜いてそう言った。俺は高崎さんの前に立ちながら、なんとか話し合いで解決できないかと口を開く。
「悪いな。ここが『長橋工業』のものだって知らなかったんだよ。でもこの洞窟はみんなのものだろ?」
「みんなのもの?そんな馴れ合いなどする気は無い。俺たち長橋工業高校がクリア出来ればそれでいい。早くここでドロップさせたアイテムを置いて出ていけ」
(要求が増えてんなぁ……ま、今日はもう用が済んだし、帰してもらうか。流石に手は出して来ないだろ)
「そうか。じゃあ俺たちは帰るよ。邪魔して悪かったな」
俺は高崎さんを連れて洞窟の出口の方へ向かおうとした。
この世界で他のプレイヤーにダメージを与えたり、殺したりすると、一定時間『指名手配』となる。『指名手配』になったものは騎士団に追われ、捕まれば鉱山などで働かされるのだ。
また、『指名手配』プレイヤーを捕まえて騎士団に差し出すと、報酬が貰えるらしい。
(捕まらないように逃げるって楽しみ方もあるけど、ルドリスさんとかアルカルネさんから逃げられるとは思えないしな……)
俺がそう思ったとき、俺の首筋に剣がかすった。ダメージが少ししか入らなかったので、脅しのつもりだろう。剣を振ったのはリーダーの後ろにいたやつだ。
「アイテムを置いていけ、と言っているんだ」
「お前……そんなことしたら指名手配になるんじゃないか?」
「知るか、後のことなんか後で考えりゃいいんだよ!行くぞお前ら!」
そう言って赤いローブの男は4人同時に俺に襲い掛かってきた。リーダーは遠くから見ているだけのようだ。
(うわぁ面倒くさい。手ぇ出したら俺も『指名手配』だからなぁ……)
俺はそう思いながら、襲い掛かってきた男たちの剣を受けていく。
「おい、ただ逃げてるだけか?」
何もしていないリーダーが煽ってくるが煽りに乗らないように剣をさばく。その時、1人の大剣使いがで高崎さんの目の前に転移した。【テレポート】のスキルだろうか。高崎さんは反応できていない。
「何ぼーっとしてんだ!死ねぇ!」
「……!」
「高崎さん⁉くそがっ!武器持ってないうちのギルメンに手ぇ出すんじゃねぇ!」
俺は大剣使いの腕目掛けて剣を振った。大剣使いの両腕は落ち、ダメージが3分の1ほど入った。
(はぁ……勢いでやっちゃったけど、これで俺も『指名手配』か……『指名手配』が無くなるわけでも無いし、ほんとに死ぬわけでも無いからな。やるだけやるか)
「てめぇ!やりやがっ……ぐはぁ⁉」
俺は腕を切り落とした男の首をはねた。男は光となって消えた。今頃ソーマ地方の協会で生き返っているだろう。
「ちっ!あいつを殺せ」
リーダーが叫ぶ声が聞こえる。3人の男が俺を囲んだ。
(武闘家が1人にレイピアが2人か……武器破壊が出来ればいいんだけど、『長橋工業』の武器がそう簡単に壊れるとは思えないからなぁ……)
俺がそう思っていると、2人のレイピア使いが横から攻撃を仕掛けてきた。同時に後ろから武闘家が迫ってくる。
俺はレイピアを躱しながら、武闘家のパンチを盾で受け、そのまま剣で斬りつける。ダメージは半分くらい入っている。
「クソ野郎がぁ⁉」
「っ⁉危なっ⁉」
武闘家は俺の膝へ蹴りを飛ばしてきた。俺は少し下がって躱すが、レイピアで幾らかダメージを食らってしまった。
(っ!いや、まだ4分の1程度しか減ってない。高崎さんの方も……よし、大丈夫だな)
俺は武闘家の攻撃を躱したあと、胴体を斬りつけた。武闘家はその場に崩れ落ち、光となった。
(あと2人か……1人ずつやろう)
休む間もなくレイピアの2人が襲い掛かってくる。俺は幾らかダメージを受けながら1人のHPを削りきることに成功した。
「ちっ!これでもくらいやがれ!」
「っ⁉」
その時、HPがゼロになったはずのレイピア使いの男が俺の足を払った。俺はその場に倒れ込む。真上にレイピアを持った男が見える。フードの中からニヤリとした顔が見える。
(やべぇ!今急所を突かれたら……)
「終わりだぁ!」
俺は体を起こそうとするが間に合わない。死を覚悟したときだった。レイピア使いの動きが止まった。背中には【投げナイフ】が刺さっている。
「くっ!女ァ!邪魔すんじゃねぇ!」
「……!」
「高崎さん⁉」
レイピア使いは叫んで高崎さんに剣先を向けた。俺は倒れた状態でレイピア使いの足を払い、体を起こしながら首を飛ばした。
「っ!貴様らぁ、覚えてろ……。次はこちらから殺しに行く……」
そう言い残してリーダーは転移していった。俺は高崎さんの元に向かう。
「高崎さん!大丈夫⁉」
「……ん、佐藤くん、実は……」
「あぁ、プレイヤーを傷付けたら『指名手配』になるんだろ?俺が捕まるのと、高崎さんが怖い思いするくらいだったら俺が捕まるだけの方がい良かったんだけどな」
「……ん……ありがとう……でも、佐藤くんは『指名手配』にはならない」
「……へ?」
俺は高崎さんが言ったことの意味がすぐに理解出来なかったが、意味が分かると、間抜けな声が出てしまった。
「【索敵】してみると、あの『長橋工業』のリーダーっぽい人以外は全部プレイヤーでもNPCでも無かった。多分スキルかなんかで作られた人間。だから傷付けても問題ない」
「なんだぁ、そうだったのか……じゃあもう帰ろっか」
高崎さんがネタバラシをしてくれた。俺が帰ろうとすると、和泉さんが俺の袖を掴んで、
「……助けてくれて、ありがとう」
と言った。恥ずかしくなったのか、高崎さんの顔がほんの少し赤くなった。……気がする。俺も少し恥ずかしくなり、早足でギルドホームへと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギルドホームにはまだ誰もいない。俺たちはまだ数回しか使っていない地下の工房へ向かった。
「さて、杖の素を作ればいいんだっけ?」
「……ん」
「オーケー。……こんなんでいいのかな?」
「……ん、あとは私が」
高崎さんは形が整った木に【回復の魔石】をはめた。すると、中村のときと同じように杖が光り、形を変えた。レアリティはVR+。名前は【リカバリーメイス】だ。
「……!」
「高崎さん、どうかした?」
「……この杖の素材、何使った?」
「え?【コニトの木】と、トレントからドロップした【トレントの枝】だけど……どうしたの?」
「……この杖、多分自動回復魔法はほぼノーコストで使える。しかも1秒辺りの回復量が今までより多いやつも使える……」
「はぁ⁉それ、かなり強くないか⁉」
「ん……ありがとう。……その、今度また一緒に出かけたい……」
「お?あ、あぁ、俺で良ければ」
「ん……楽しみにしてる」
高崎さんの顔がほんの少し明るくなった。今日1日で少し和泉さんと仲良くなれた気がする。そう思いながら、俺は高崎さんとリビングへ向かった。




