第15話
[日曜日]
今日は家には俺と中2の妹しかいない。父は海外出張、母は雑誌の取材だと言っていた。
そんな自由な時間があるにも関わらず、俺はものすごく勉強をしていた。
最後にAOをプレイしてから、1週間近く経っている。そう、今日はテスト2日前なのだ。俺はあまり理解できていない英語の範囲を必死に取り組んでいた。
(ええと……ここのhadは過去完了だから……あれ?合ってるよな?)
俺は不安になりながら英語科に渡された問題を解き進めていく。
基本的に、分からないところは中村に質問するのだが、今日は返事が帰ってこない。久しぶりに偏頭痛が再発したと言っていたのだ。
(矢沢は感覚で問題を解いてるから参考にならないし、樋口は論外。東堂は……だめだ、いつも通りテスト前だからスマホを開いてない……どーすっかなぁ……)
ピンポーン
俺がそんなことを思っていると、家のインターホンが鳴った。宅配便でも届いたのだろう。
「絵里奈ー、ちょっと出てくれー!」
「んー」
俺は部屋から大声を出して妹を呼んだ。少しして、俺の部屋をノックする音が聞こえた。
「お兄、なんかお兄の知り合いの女の人が来てるよ?彼女?」
「なわけあるか。んで、女の知り合い?俺の小学校の頃の同級生じゃないのか?」
「ううん、聞いたことない名前だった。とりあえず玄関に来てるから会ってきなよ?」
「うーん?お前が知らないってことはどうせ俺の名前を勝手に使ってる宗教勧誘か押し売りだろ?」
うちのマンションはオートロック式なので、外部の人が入るには住民に鍵を開けてもらわなければならない。どこかから俺の名前を知って中に入って来たのだろう。
「とりあえず出てくれ。俺は今本気でやばいんだ」
「はいはいっと……」
絵里奈が玄関に客を出迎えに行った。俺は必死に勉強していると、またノックの音が聞こえた。今度は興奮気味のようだ。
「お兄お兄、やっぱりお兄の友達だって!しかもすっごくきれいな人!」
「あのなぁ、お前が興奮するほどきれいな人が俺の友達にいると思うか?新聞勧誘のしつこい女だろ?」
「そりゃお兄に女の友達がいるわけないだろうけどさぁ……とにかく出なよ。名前は……」
俺は新聞勧誘の女にガツンと言おうと自分の部屋を出た。
その瞬間、絵里奈がその女の名前を思い出した。
「永田さんって言ったかな?永田椛さん」
「誰が新聞勧誘のしつこい女ですって?」
俺は流れるように土下座をした。ちらっと確認した永田さんの額には心なしか青筋が浮かんでいるように見えたのだ。
「え?お兄、何してんの……?結局この人はどちらさま?」
まるで、部屋を出たところで兄が土下座をしている様子に引いているかのような絵里奈の声がした。
すると、今まで俺に冷たい視線を向けていた永田さんの柔らかい声が聞こえてきた。
「改めて初めまして!要くんと仲良くさせてもらってる、栄峰高校1年、永田椛よ!あなたは妹さん?よろしくね!」
「え、栄峰高校⁉あ、妹の佐藤絵里奈です!よろしくお願いします!どうぞ、上がっていってください!」
そう言って絵里奈は永田さんを家に上げた。俺は永田さんと絵里奈に続いてリビングへ向かった。
「ええと……永田先輩、お昼はどうしますか?」
「下の名前でいいわよ。そうね、よければ一緒にいただこうかしら?」
「だってよ、お兄」
「作るのは俺かよ……まぁいいけど。さぁて、何作ろっかなぁと……」
「お兄お兄、冷蔵庫にカレーが残ってるはずだよ?カレーうどんとかいいんじゃない?」
「いや、カレーうどんは不味いだろ」
俺は冷蔵庫の中のカレーと永田さんの格好を見比べながらそう言った。
今日の永田さんは真っ白なTシャツを着ている。カレーうどんにしたらはねてシミになるだろう。
「心配しすぎだよお兄、そんな適当に食べなきゃはねないから」
「適当に食べなきゃ、ねぇ……」
「私だってそんながさつじゃないわよ?カレーうどんくらい食べられるわよ!」
「がさつじゃない、かぁ……まぁ永田さんがそう言うならそれでいいか。ちょっと待ってて、すぐ作るから」
俺は不安を覚えながらも、ささっとカレーうどん3人分を作り始めた。その間、永田さんと絵里奈は楽しそうに話をしていた。
「絵里奈は今中学生?」
「はい!中学2年です!」
「そう。私は佐藤くんと同い年だから…、2つ下なのね」
「そうですね、いつも兄がお世話になってます。迷惑ばかり掛けてないでしょうか?」
「大丈夫よ。ちょっとしか迷惑掛けられてないから」
(ちょっとも掛けてない気がするけど……いや、掛けてるのか?)
「そうですか!良かったぁ!私、中村先輩や東堂先輩とパーティを組んだって話は聞いたんですけど、女性プレイヤーの方がいることは知らなくて……」
「へぇ、私たちの話は聞いてないのね?」
永田さんがこちらを軽く睨んできた。俺は目を合わせないように、キッチンの奥に入っていった。
「あ、絵里奈は東堂くんとかと会ったことあるの?」
「はい!たまにうちに遊びに来るので。男の人だけのパーティならまだしも、女の人が2人もいるパーティなんて、お兄は耐えられるのかなって……」
「2人?私たちの話は聞いてないんじゃ……?」
「あ、いえ、アルシアさんってNPCの方がいるって話は聞きました!すごい高度なAIだってお兄が教えてくれました!」
「へぇ。佐藤くん、私たちの話はしないのにアルシアの話はしたのね?」
「カ、カレーうどんが出来ましたよー……」
俺は永田さんに睨まれながらカレーうどんを運んだ。永田さんは慎重に一口食べ、目を見開いた。絵里奈は微妙な表情をしている。
「っ!やっぱりあんたの料理は美味しいわね……どうしたらこんなに上手くなるのかしら」
「お兄、いつもよりちょっとめんつゆの量多くなーい?テキトーにいれたでしょ?」
「ちゃんと計ったよ……お前は細かすぎるんだよなぁ」
「お兄がテキトー過ぎるんだよ!」
俺は絵里奈の文句を無視して、永田さんにヒヤヒヤしながら食事を進める。すると、ふと思い出したように永田さんが口を開いた。
「そういえば、絵里奈も料理できるの?」
「まぁそれなりには……お母やお兄みたいに難しいものは作れませんけど……」
「料理できるだけすごいわよ。んじゃあさ、その……」
永田さんは隣に座っていた絵里奈の耳元で何かを囁く。絵里奈は少し迷った末に俺の方を向いた。
「お兄お兄、お兄の好きな料理って何?」
「ちょっ!ばっ!本人に聞いちゃだめでしょ!」
「え?あぁそっか。でも、多分お兄しかお兄の好きな料理を知りませんよ?」
「両親に聞くとかあるでしょ!全く……それで?何が好きなのよ?」
内密にするのを諦めた永田さんが、俺に聞いてくる。
「好きな料理かぁ……基本的になんでも食べるからなぁ……カレーとかロールキャベツとかかな?」
「なるほど……カレーくらいなら……べ、別に私が今度何を作るか考えてるだけだからね!」
「お兄?せっかく彼女さんが料理を作ってくれるんだから、お兄が作らないもの頼みなよ?」
「か、彼女って⁉絵里奈、そ、そんな、別に私は、自分のために作ろうと!」
絵里奈の発言に永田さんが動揺した。その時、今まで丁寧に食べていた永田さんがカレーうどんを勢いよくすすってしまった。
カレーうどんが永田さんの服に付着する。すぐに絵里奈が拭き取るが、シミになってしまっていた。
「あーあぁ、やっぱり……」
「椛先輩、しみ抜きするんですぐに脱いで下さい!」
「え、あ、ちょっと、ここじゃあ……何見てんのよ!後ろ向いてなさいよ馬鹿!」
永田さんに怒鳴られて俺は後ろを向いた。永田さんは絵里奈の部屋で着替えるようだ。
(さて、俺は食器を片付けて部屋に戻るか……あれ?結局永田さんは何しにきたんだ?)
俺はそう思いながら食器を洗っていた。
俺が洗い終わった頃に永田さんと絵里奈が部屋から出てきた。
「どうよお兄!私の服だけど椛さんにぴったり!」
「ごめんね絵里奈、この服借りてくわね」
「どうぞどうぞ!お兄、なんか感想は無いの?」
「感想って服の感想か?うーん……」
俺は永田さんの服をじーっと見た。ズボンは変わらないが、上は白のカットソーに変わっている。少しずつ視線を上げていくと永田さんと目があった。
「じ、ジロジロ見てんじゃないわよ!この変態!」
永田さんが顔を少し赤くしながらそう言う。俺は謝ったあと、ずっと気になっていたことを聞いた。
「あ、ごめん。それで、今日は何しにうちに来たの?」
「そうだ、忘れてた!あんたと勉強をしに来たのよ」
「勉強?いいけどなんで俺と?」
俺が聞き返すと、永田さんは呆れたように答えた。
「あのねぇ、あんたが赤点をとって補習にでもなったら、前衛が1枚足りなくなって私たちみんなが困るのよ?そうならないように、私が勉強を教えてあげるのよ」
永田さんは胸を張ってそう言った。
「そっか。ありがとう。俺の部屋とかリビングじゃ狭いし、図書館にでも行こうか」
「そうね。それならさっさと行きましょ。絵里奈、この服、今度洗って持ってくるわね」
「はいはい。いってらっしゃーい!」
絵里奈に見送られながら、俺と永田さんは図書館へ向かった。
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俺たちは4駅隣の満島駅にある[満島図書館]に来ていた。
うちから少し離れたところにも図書館はあるのだが、ここの方が大きいし、設備も整っているのだ。
「すごいきれいねぇここ。それじゃ……ここでやりましょ」
「そうだね……あぁ、そうだ永田さん、なんで家の場所知ってるの?」
「なんでって優香に聞いたからよ。それ以外にないでしょ?」
「あぁ、そういえばなんかメールが来てたな……ええと
『椛ちゃんに要くんちの場所教えたよ〜。もしも永田ちゃんが押し掛けて行ったらごめんね(人ω<`;)』か……ちゃんと見てなかったな」
「ちょ、ちょっとあんた⁉優香と連絡先交換してんの⁉」
「え?うんまぁ、月曜日学校に行くときと、金曜日に帰るときにたまに一緒だからね」
「はぁ⁉そんなの聞いてないわよ!」
「そりゃ言ってないし……永田さん、あまり大声を出さないで。ここ図書館だから……」
「じゃ、じゃあ私にも教えなさいよ!」
「あ、はい」
俺は半ば強引に永田さんと連絡先を交換した。そのうちこっちからお願いする予定だったので、手間が省けたわけだが。
俺たちは机に教材を広げ、勉強を始めた。すると永田さんは俺のすぐ横にくっついてきた。
「永田さん?そんなくっついたらやりなくくない?」
「はぁ?勉強を教えるなら近いほうがいいに決まってるでしょ?」
「いやそうだけど……近すぎるでしょ」
「もう!さっさと始めるわよ!」
永田さんはそう言って俺に勉強を教えてくれた。
さすが栄峰といったところか、永田さんの教え方はとても分かりやすかった。俺の分からない所を1つずつ丁寧に教えてくれるのだ。……馬鹿にされながら。
「はぁ⁉こんなのがわからないの?中学レベルよ!ここにtoが無いんだから、こっちは……」
「あぁ、なるほど。……おぉ!これでいいのか!ありがとう永田さん!すごい分かりやすいよ!」
「ふ、ふん!今出来たって本番で出来なきゃ意味無いのよ!こっちの問題解いてみなさい!」
「あぁ、そうか……永田さん、この問題の場合どっちになるんだ?」
「はぁ?先行詞がcaseなんだから……あれ?時間なんだからwhenでいいで……」
「caseの場合は関係副詞はwhereになるよー。特殊な場合だからねー」
俺たちは声のしたほうへ振り向いた。そこには優香さんが立っていた。
「やっほー椛ちゃん、要くん。2人で勉強?」
「げ、優香……どうしてここに?」
「私も勉強しに来たのよ。家だと集中出来ないからね。私も教えられることもあると思うけど、どうかな?一緒にやらない?」
「あぁ、教えてくれる人が多いほうがいいからね。お願いしてもいいかな?」
「じゃあ決まり!それで、ここだっけ?ここは……」
優香さんは永田さんとは反対側の俺の隣に座って教えてくれた。
「……でこうなるの。他にもpointとsituationとかが先行詞のときは関係副詞はwhereになるの。どうかな?」
「なるほど!ありがとう優香さん!」
「良かった!これで英語はバッチリかな?」
俺がお礼を言うと優香さんの顔が明るくなった。逆に永田さんの顔がどんどん険しくなっていく。
「な、永田さんもありがとう。すごい分かりやすかったよ?」
「ふんっ!あれくらい1人で出来なきゃだめなのよ!今出来たからって出来ると思ったら大間違いよ!」
俺は頬を膨らませている永田さんに忠告を受け、英語の問題集をしまった。すると今度は優香さんが問題集を取り出した。
「そうだ、要くん。要くんって数学が得意だったよね?」
「え?うんまぁ、一応……」
「それじゃあさ、今度は私に教えてくれない?」
「うーん、それはいいんだけど、俺でいいの?あまり教えるのとかは得意じゃないけど……」
「ううん、いいの。じゃ、ここ教えて!」
俺は指さされた問題を見てみる。なんとか解けそうだ。そう思っていると急に永田さんが立ち上がった。
「わ、私にも教えなさいよ!」
「永田ちゃん、ここ図書館だから、シーッ」
「俺で良ければいいよ。どこが分からないの?」
俺がそう言うと、永田さんは機嫌を直し、数学の問題集を開いた。
「えっと、まずここだけど、関数のグラフの共有点ならまずは……」
俺はそこから2時間ほど2人に勉強を教えた。時間は6時半だ。
「……だから答えは-1<X≦3と。これで全部かな?」
「そうね。しかしまぁ、よくこんなのすぐに解けるわね。英語もそれくらい早く出来ればいいのに」
「なんか英語はちょっと苦手でね。今回は永田さんたちが教えてくれたから何とかなるかもだけど……」
「大丈夫。要くんなら出来るよ。さて、私たちも帰ろっか?」
「そうね、さ、行きましょ」
そう言って永田さんが荷物を片付け始めた。すると優香さんが何かに気づいて、永田さんに問いかけた。
「あれ?椛ちゃん、その服新しく買ったの?」
「あぁこれ?これは佐藤くんちに行ったときに妹さんに借りたのよ」
「えぇ!椛ちゃんやっぱり要くんちに行ったの⁉」
「そうよ。そのときにカレーうどんが付いちゃってね」
「カレーうどんって……要くん、なんで椛ちゃんが白い服なのにカレーうどんにしたの?」
「いやぁ、俺もどうかとは思ったんだけどさぁ……」
「何よ2人して!カレーうどんくらい食べられるわよ!さっきは、そのぉ、ちょっと、絵里奈が、うぅぅ……」
何か言おうとした永田さんの顔が赤くなっていく。優香さんが不思議そうに永田さんを見ていたが、何か思いついたように、俺に話しかけてきた。
「そうだ要くん。駅前のファミレスで夜ご飯食べてかない?時間があればでいいんだけど……どうかな?」
「あ!ちょちょ!わ、私も!私も行く!」
優香さんの話を聞き、さっきまで手で赤くなった顔を隠していた永田さんが勢いよく手を上げた。
「あぁ、いいよ。じゃあ行こうか」
俺たちは駅前のファミレスで食事をしてから解散した。……俺の奢りなのはいいのだが、永田さんがよく食べるので今月分の小遣いがパーになったと付け加えておく。
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[次の土曜日]
中間考査が終わって数日が経った。俺のテストの結果は問題なく、むしろ優等な成績を収めたほどだ。
俺がある場所に向かっていると鞄の中のスマホが鳴った。永田さんから電話だ。
「もしもし、永田さん?急に電話なんてどうし……」
『ちょっとあんたぁ!なんで私たちがあんなに教えてあげたのに赤点なんか取ってんのよ!ぶっ飛ばすわよ⁉』
「えぇ!いやいやちょっと落ち着いて永田さん!俺は赤点は取ってないよ!ログインしてないのには理由があるんだよ!」
『ふんっ!どんな言い訳をするのか聞いてあげようじゃない!』
「実はさ……」
俺は数日前に起きた出来事を事細かに話した。
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[木曜日]
今日はテストが返却される。俺は今回そこそこ自身があるが、返される前のこの時間はやはり怖いものだ。小泉先生が教室に入ってきた。
「よう、早速テストを返すが、赤点の奴らは追試があるが合格するまでの間はゲームしちゃだめだぞー?」
成績が悪い奴らが悲鳴をあげた。そんなことはお構いなしにと、小泉先生はテストの答案と答え、平均点などが書かれたプリントが配った。
「よし、赤点の奴ら以外のゲーム機はつくようになってっからやるやつはやっていいぞ。解散」
小泉先生はそう言って教室を出ていった。
(さて、赤点は……よし!大丈夫だ!数学は97点か……まぁいいか……うわっ!英語53点か。永田さんたちに教わってなかったら危なかったな……他の奴らはどうだろ?)
そう思った俺は席が近かった中村のところへ行った。
「俺は大丈夫だったよ。お前は?」
「うん。問題ないよ。ただ、現代文がちょっと危なかったかな?」
「お前の危ないって……74点じゃねぇか!喧嘩売ってんのかぁ?」
「あはは、まぁまぁ。他の奴らにも聞きに行こうよ」
俺は軽く中村の頬を叩いた。ちょうどその時、東堂がこっちに来た。
「おう東堂、お前は……聞くまでも無いか」
「ま、いつも通りだ」
東堂はそう言って自分の答案を俺たちに渡した。
(ええと……うわっ!平均点が92点⁉こいつ、これでこんな平然としてんのかよ……樋口と矢沢はどうだろ?)
「俺なんかどうでもいい。問題はバカ2人だ」
俺の心の声を読んだのか、東堂は2人のいる方を指さした。
矢沢が難しい顔をしている。樋口に至っては意識を捨てているように見える。俺は近づいて言って2人に声を掛けた。
「おいお前ら。どんだけやばかったんだ?」
「おう要、いやな、俺は赤点1つだったんだが、樋口が……」
「赤点1つもだめでしょ……おーい、純ー」
中村が樋口の顔を軽く叩いた。我を取り戻した樋口は東堂に泣きついてきた。
「東堂〜!助けてくれぇ!」
「離れろ。答案はこれか……おい!てめぇずっと何してた!」
東堂が樋口の答案を見て声をあげた。訳のわからない俺たちは、東堂の手の中にある答案を見て驚愕した。
「「「あ、赤点4つ⁉」」」
「馬鹿。テスト前にやらなかったお前が悪ぃんだろ。うちのギルドリーダーも交代か。ありがとう樋口。お前の代わりに中村か西田がリーダーをやってくれるだろうしな」
「待ってくれ!頼む!一生のお願いだ!俺に勉強を教えてくれ!」
立ち去ろうとした東堂の足に捕まった樋口が懇願してくる。
引き剥がそうとする東堂に対して樋口は捕まったまま離さない。
「ったく……次の土日でお前んちで勉強会だ。4人で行くから家空けとけ」
「はぁ⁉俺たちもかよ⁉」
俺は声を上げた。折角テスト前に頑張って勉強したのにまた勉強だなんてたまったもんじゃない。すると東堂は俺の方を見て、
「だめだ。全員で行く。お前らにも俺と同じ苦しみを味わってもらうからだ」
と俺を睨みながら言った。俺は蛇に睨まれたカエルのようになって、頷いてしまったのだ。
ーーーーーーー
「……とまぁこういうわけ。今から樋口の家に行くんだ」
『あんたたちも大変ねぇ……ま、頑張りなさいよ』
「ありがとう。月曜日にはログインするから」
『はいはい、待ってr……先に進めてるわよ。それじゃ」
「あぁ、また」
そう言って俺は電話を切った。少し歩くと樋口の家が見えてきた。何度か来たことがあるので迷うことはない。
俺は樋口の家のインターホンを押した。中から樋口が出てくる。
「おっす要!お前が最後だぞー!」
「悪い悪い。お邪魔します」
俺はそう言って上がっていった。樋口の部屋の真ん中には背の低いテーブルが1つ置かれていて、そこを挟んで矢沢と東堂が机に向かっていた。
「おい要。遅せぇぞ」
「いやいや、時間ぴったりだろ。お前らが早すぎるんだろ」
「まぁまぁ、要も来たことだし、一回休憩しようぜ!」
そう言って樋口がお菓子を持ってきた。せんべいを取りながら中村が樋口にジト目を向ける。
「純、10分前に始めたばっかだよ?」
「くっそー……中村だってずっと遊んでるじゃん!」
「そーだそーだ!俺らにも休ませろ!」
樋口の意見に矢沢が賛同した。
中村は樋口の部屋に置いてあるラノベを読んでいた。高校ごとに持っている縄張りを奪い合うSF作品で、俺も樋口に借りて読んで、すごく面白いと思ったものだ。
「あのなぁ……俺たちは赤点じゃねえんだよ。わざわざ教えに来てやってんだ。英語は俺、社会科は中村、数学は要が教える予定だ。おら、ちゃっちゃとやれ」
東堂が竹の定規で机を叩いた。悲鳴をあげながら、樋口が机に向かった。
結局、土日合わせて矢沢と樋口は8時間ほど勉強をしたおかげで、追試を一発で通過し、2人は火曜日からゲームを再開するのであった。




