第14話
ギルドホームに越してきてから1週間ほどが経った。今日は俺が料理当番なのだ。
(さーて、夜飯は何作ろっかなぁ……麻婆豆腐食いてぇな。よし!麻婆豆腐作ろ!)
俺はそう思いながら自分の部屋を出て、玄関ホールへと向かう。すると階段を降りようとしときにちょうど部屋から出てきたアルシアに会った。
「やっほー、カナメくん。お出かけ?」
「あれ?アルシア、中村たちとエリアボス探しに行ったんじゃなかったの?」
中村たちは昼食の後、ベルリナのエリアボスを探しに行くと言っていたはずだ。
第1の街、ザラマーナのエリアボスはいかにもそれらしい神殿があったため、すぐに新聞部によって情報が公開されたのだが、ベルリナではまだ見つかっていない。
何か条件があるのかもと、ここ数日俺たちは新聞部と協力してエリアボスを探しているのだ。
「うん。由依ちゃんたちのところに行ってたんだけど、明日のご飯の買い物をしておこうかなって思ったんだ!私、明日料理当番だから」
「そっか、俺も今から夜飯の買い物に行こうと思ってたんだ。良かったら一緒に行かない?」
「うん!一緒に行こ!」
アルシアが快諾してくれたので、俺たちはベルリナの市場に向かった。
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[ベルリナ 中央市場]
「それでカナメくん、今日は何を作ってくれるの?」
「あー、今日は麻婆豆腐にしようと思ってたんだけど、何か食べたいものあった?」
俺は、人が行き交って賑やかな市場を歩きながらアルシアに問いかけた。
「ううん。特に何か食べたいってものも無かったから大丈夫だよ。それより、麻婆豆腐?楽しみだなぁ。私、初めて食べるよ!」
「あんま期待しないで、この前の炒飯くらい簡単なのを作る予定だから」
「嘘⁉あんなに美味しかったのに⁉」
「あはは、お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞なんかじゃないよ!なんであんなに美味しく作れるの?」
(この間作った炒飯は好評だな。現実と同じように味付けが出来たからかな?)
「実はさ、うちの母親が調理師……料理に携わる仕事をやってるんだ。たまに料理を教わってるから」
「そっか!だからあんなに美味しいんだね!」
俺たちはそんな会話をしていると、一際客の数が多い店を見つけた。あれはプレイヤーの出している露店のようだ。
ここの市場に限らず、このゲームの世界の市場にはNPCの出してるお店だけでなく、プレイヤーも露店を出すことが出来る。その街のギルドの支部に行って土地代を払えば自由に商売をすることができる。
プレイヤーは普通、作った武器やポーションを販売するのだが、食材などを販売する人もいるとのことだ。
「さぁさぁ!ヘイムガナ地方のウェルミナ牧場でとれた新鮮な牛乳だよ!小瓶1本400G、大瓶1本1000Gだよ!」
どこかで聞いたことのある声が聞こえてくる。人混みをかき分けて店の前の方まで行くと、そこには谷口がいた。
「お!佐藤とアルシアじゃん!ちょっとこれ飲んで感想教えて!」
俺たちを見つけるや否や、そう言って小瓶よりも小さい瓶を俺たちに渡してきた。瓶の底には『試供品』と貼られている。
俺は渡された牛乳を飲むと、目を見開いた。
「……⁉何だこれ⁉すげぇ美味え!」
「ほんと!甘くて凄く美味しい!」
「さぁさぁ!ゲブラーのアルシアさんも太鼓判を押した牛乳だよ!いかがですかー!」
谷口はアルシアの反応を聞いて、そう言って宣伝をした。すると、今までの倍ほどのプレイヤーが押し寄せてきた。
「アルシアたんが美味しいって言った牛乳か!小瓶10個下さい!」
「何⁉アルシア様の好きな牛乳だと⁉大瓶1ダースくれ!」
「はいよ!小瓶なら空き瓶10個、大瓶なら5個で小瓶1本と交換だぞー」
(うわぁ……客がアルシア目的で増えてくる……これはアルシアも恥ずかしいだろうなぁ)
谷口がそう言って客を捌いていく。10分程度で全ての牛乳が売り切れた。
「いやぁ、アルシアのおかげでいつもより早く完売したよ!ありがとな!」
「うん!いやぁ、私もすっかり有名人だなぁ」
アルシアは恥ずかしがる様子もなく、むしろ喜んでいた。
「そりゃあゲブラーはダクニル戦争でちょー有名人だからね。そんなところに入った美女4人組って言ったら知らない人なんかいないんじゃないの?
女の子たちと東堂にはファンクラブもあるから、名前を出せば絶対に商品が売れるからねぇ。牛乳持ってって東堂たちの感想も教えてよ!」
(ファンクラブってすごいな⁉……あれ?俺、アルシアの隣にいたのに、誰こいつ?みたいな目で見られたぞ?)
「わわっ!ファンクラブだって!私、本物のアイドルみたい!」
アルシアが俺にしがみついてくる。よっぽど人気があるのが嬉しいようだ。
人気が出すぎると大変なのだろうが、有名なはずなのに人気が無いのも少し寂しい。
俺はどうしていいのか分からなかったので背中を少し撫でてやった。
すぐにアルシアはえへへと笑いながら店の片付けを手伝っていた。牛乳の入っていた箱を片付けながら俺に話しかけてきた。
「そういや、アルシアと佐藤はデート中だったか?邪魔して悪かったな」
「いや、俺たちはただ買い物に……」
「全然邪魔なんかじゃないよ!美味しい牛乳も貰えたし、ね?要くん!」
「あ……うん、そうだね」
「じゃあありがとね谷口くん!牛乳の感想を伝えにまた来るよー!」
「おう!デート楽しめよ!あと、なんか面白いものがあったら売ってくれよな!」
嫌な気はしないが、気恥ずかしい。俺は複雑な気持ちになりながら、元気になったアルシアに連れられて買い物の続きに向かった。
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俺たちは最後の食材である豆腐を買い終えた。
「さて、買い物も終わったし、帰ろっか」
「そうだね!帰ろ……カナメくん、あれ!」
アルシアが声を上げて指を指す。俺がそっちを見るとカフェのようなところで剣を振り回している男たちがいる。プレイヤーではないようだ。NPCは窓ガラスを割って、外へ逃げ出した。
「誰か!その男たちを捕まえてくれ!店の金と商品を取られた!」
中でそんな声が響いている。店の店主だろう。
たまたま店にいたプレイヤーが捕まえようと店から出てきて剣を抜いた。しかし、男たちは凄いスピードで逃げていってしまった。プレイヤーが追いかけるが、追いつく気配が無い。
「カナメくん!私たちも追いかけよう!」
「言われなくても!」
俺たちも走って泥棒を追いかける。しかし、距離は広がっていくばかりだ。泥棒は人が多い中央広場を抜け、[ベルリナ砂漠]へ逃げ込んだ。もう、店にいたプレイヤーはSTが切れて途中で離脱している。
「くっそ!ただ追ってるだけじゃ追いつかねぇ!」
「カナメくん!走りながら肩貸して!」
「肩?何をする……ゔぉ⁉」
俺がアルシアに聞く前にアルシアは俺の肩の上に立ち、そのまま泥棒に向かって弓矢を放った。
矢は泥棒の背中にまっすぐ飛んでいったのだが、泥棒には当たらず、泥棒は【携帯式天使像】を使ってどこかへ逃げてしまった。
「くそっ!逃げられたか!」
「あれぇ?外しては無いと思うんだけどなぁ。でも逃げられちゃったし、もう追いかけられないよ?」
「しゃーない。帰るか……アルシア、そろそろ肩の上から降りてくれないか?」
「あぁ!ごめんね!……重かった?」
「いやいや、全然そんなことないよ?」
俺は本心をそのまま伝えた。俺が鍛えている影響か、NPCには重さが無いのか分からないが、本当に重たいとは感じなかったのだ。
「良かった!よっと……」
「ありがt……違う。背中に乗るな背中に」
肩から飛び降りたアルシアは、きれいに背中に飛び移り、おんぶの姿勢になった。
「えぇー、ピラミッドに行ったときは優香ちゃんおんぶしてたんだし、いいじゃーん!」
「あれは遊んでた訳じゃなくて、優香さんのSTが切れたからおぶっていただけだよ」
「むぅー、優香ちゃんめ……そうだ!カナメくんカナメくん!今夜料理教えてよ!これは遊びじゃないからいいでしょ?」
背中から降りないで足をバタバタさせているアルシアがそう提案してきた。
(料理を教えるだけか……それならまぁ……)
「いいよ。でも、アルシアに教えることなんてあるかなぁ?」
「いいのいいの!お手伝いだけでもしたいし!」
「そう?ならお願いしようかな?」
俺はそう言ってアルシアを背中から降ろし、俺たちはギルドホームに帰った。
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ギルドホームにはまだみんな帰ってきていないようだ。しかし、もうすぐみんな帰ってくるので、急いで料理を始めようとした。
「さて、作り始めるか。まずは……って何してんの?」
「いやぁ、カナメくんのエプロン姿って珍しいなぁって。もっと見てたい……あてっ!」
「だめだ。早くしないとあいつらが帰って来ちゃうだろ?」
俺は軽くアルシアの額にチョップを加え、料理を始めた。
アルシアはもともと料理ができるので、そんなに多くのことを教えなくても殆ど出来てしまう。しかし、俺には疑問に思うことがあった。
(あんなにでかくてよく料理ができるな……まな板とか見えてないだろあれ……でもなぁ、聞くのも失礼だしなぁ……)
「カナメくん!こんな感じかな?」
「え?あぁ、うん。そんな感じだよ」
「ん?なんか考えごと?」
「い、いや!大丈夫!さて、次は水に溶かした片栗粉を……」
俺は必死に悟られないようにしながら、次の工程を説明した。もうすぐ完成だろう。
「これでほぼ完成かな。手伝ってくれてありがとな、アルシア」
「うん!私も楽しかった!また今度、料理教えてね?」
「おう。また今度な……うん。味もこれくらいでいいだろう。中村たちが帰って来たらすぐに食べよう」
「うん!」
そう言って俺たちはキッチン周りを片付け始めた。
俺は使わなかった香辛料を片付けているとき、あることをふと思いついた。そして、それを確認すべく、俺は自分の部屋へと向かった。
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20分ほどで中村たちが帰ってきた。顔色から察するに、収穫がなかったのだろう。部屋に入ってくるや否や樋口が叫んだ。
「ただいまぁっと、要ー!飯ー!」
「はいはい。もうできてるよ。ほら、座れ」
「さっすがー!要きゅん愛してるー!」
「生憎だが、俺は男に興味は無いぞ。余計なこと言ってないでさっさと座れ」
「おお!この匂いは麻婆豆腐か!大盛りよそってくれ!」
「佐藤くん!私もお願い!」
矢沢と永田さんがキッチンにいる俺に話しかけてくる。俺は2つだけ多めによそい、全員で座れる大きなテーブルに運んでいく。
「おっまたせー!カナメくん特製麻婆豆腐だよー!」
そう言いながらアルシアも運ぶのを手伝ってくれた。すると中村が首をかしげた。
「あれ?今日は要の料理の日だよね?アルシアさん、どうしたの?」
「今日はね!カナメくんに料理を教わってたの!カナメくんの手伝いもしたんだー!」
アルシアがドヤ顔で胸を張った。全員が揃ったので俺たちは夕食を食べ始めた。
「おお!やっぱ要んちの飯は美味ぇな!」
「うん!すごく美味しいよ、要くん!アルシアもありがとう!」
「ふっふーん、どういたしまして!」
矢沢と優香さんが褒めてくれた。俺は少し照れながら、気になっていたことを聞いた。
「良かった。少し辛めに作ったんだけど、みんな大丈夫そうか?」
「……もう少し辛くてもいい。これはこれで美味しいけど」
「俺もだ。だが少しでいいぞ。そんなに辛すぎても食べられないからな」
高崎さんと東堂がそう答えた。他の人の意見はないので、少し辛くすることにしよう。
「分かった、じゃあ今度作るときはもう少し辛くするよ」
「え?これ麻婆豆腐の素で作ってるんじゃないの?」
「いやいや、この世界に麻婆豆腐の素はまだ無かったんだ。だから香辛料とかから作るから、辛さとかも調整できるよ?」
「へぇ!そうなんだね!凄い!」
「おい、まだ無かったってどういう事だ?作れる可能性があるのか?」
俺の発言をしっかりと拾った東堂が問いかけてきた。俺はそれを聞いて、小さな瓶を持ってきた。
そう、麻婆豆腐の素である。片付けをしている最中にふと思いつき、部屋で調合をしたらできたのだ。
「実はさっき、香辛料とかを片付けてるときに思いついて麻婆豆腐の素を作ったんだ。明日谷口に売りに行くんだけど、どんぐらいの辛さがいいかと思ってさ」
俺がそう言うと、東堂が少し考えてから話し始めた。
「それなら谷口に聞いてみたらどうだ?何か良いアイデアが出るんじゃないか?」
「うーん……明日その相談もしてくるか」
「そうだ!谷口くんで思い出した!これ飲んでみて!」
アルシアはそう言うと、インベントリから谷口に貰った牛乳を取り出し、みんなに配った。
「牛乳?……おお!これは美味しいね!」
「ほんとにすごく美味しい!アルシアちゃん、これどうしたの?」
中村と優香さんが舌鼓をうった。
「だよねだよね!要くんとのデート中に谷口くんにもらったんだー!」
「はぁ⁉︎デ、デート⁉︎」
今まで珍しく静かだった永田さんが大声を上げた。そしてこっちを睨みつけてくる。俺はおろおろしながら、永田さんに弁解をした。
「い、いや、ただ一緒に夕飯の買い物に行っただけで……」
「要くんにおんぶしてもらったりしたんだー!」
「やっぱりデートじゃないの!私たちが帰ってくるまでも一緒に料理してたんでしょ⁉」
「いや、それは料理を教えてただけで……」
「だいたい、手伝ってもらってんじゃないわよ!アルシアが1回分多く働くことになるじゃない!」
「あー……確かに」
少し論点がずれているが、確かにそのとおりだ。するとアルシアは手を打ってこう言った。
「そうだ!カナメくん!今日の分の代わりに、明日の朝ごはん作るの手伝ってよ!それでプラマイゼロでしょ?」
「なっ⁉」
「そう?それでいいなら手伝うよ」
「うん!明日の朝も一緒に料理しようね!」
「ちょ、ちょっと、あー、うー……」
永田さんは何か言いたそうだ。すると、それを見ていた東堂が永田さんに向かって呟いた。
「墓穴を掘ったな」
「うっさいわね!そうだ!私も料理をすれば……」
「「それはだめ」」
優香さんと高崎さんが声を合わせてそう言った。
「ちょ!何でよ!」
「……椛ちゃん、料理はまだ早いからお皿洗いとかから始めたらどうかな?」
「……いや、それも危ない。お皿を運ぶくらいから……」
「あんたたちねぇ!私でも料理くらい出来るんだから!明日の夜ご飯で証明してあげるわよ!」
永田さんが自信満々に言い切った。すると、俺を指差し、
「と言う訳で、あんたも手伝いなさいよ!いいわよね?」
と言った。
(やっぱ人の力は借りるのか……料理するのはいいんだけど、明日は……)
「料理するのはいいんだけど、明日は金曜日だから6時に強制ログアウトなんだけど……」
「え?そうだっけ?」
永田さんがキョトンとしている。完全に忘れていたようだ。
「じゃ、じゃあ来週の月曜日に……」
「残念だが、うちの学校は中間考査2週間前なんだ。流石に俺らもログインしない予定なんだよ」
東堂が笑いながらそう言った。それを聞いた樋口の顔がこの世の終わりみたいになっているが、今は放っておく。すると高崎さんが口を開いた。
「うちももうすぐテスト。ちゃんとやらないと今までよりも大変」
「そうだよ椛ちゃん。頑張らないと留年して、要くんたちと会えなくなっちゃうよ?ほら、お風呂行こ?」
「別に佐藤くんなんか関係ないわよ!……でもそうね。ちゃんとやらないとまずいかも……料理の件、絶対忘れないでよ!」
そう言って永田さんたちはお風呂へ向かっていった。俺たちも食器を片付け、それぞれの部屋に戻っていった。
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次の日、俺はアルシアと朝食を作ったあと、谷口の泊まっている宿に向かった。……何故か永田さんもついてきたのだが。
「永田さん?一緒についてきてもつまらないよ?」
「べ、別にあんたについてきてる訳じゃないわよ!ただ昨日の牛乳が美味しかったから買いに行くだけよ!」
「あぁそう?」
永田さんが違うと言うなら違うのだろう。例え、俺がギルドホームを出るタイミングと同じタイミングで出て来たとしてもだ。
昨日のうちに連絡をしておいたので、すんなりと会うことが出来た。
「よぉ!今日はモミちゃん連れてきたのか。毎日毎日違う女の子連れてて羨ましいよ!」
「いや……」
「違うわよ!牛乳が美味しかったから買いに来ただけよ!」
俺よりも早く永田さんが反論した。
「ま、それはいいや。それで佐藤?今日はなんか持ってきてくれたんだろ?」
「あぁ、売れるか分かんないんだけど……」
そう言って俺は【小瓶】に入った【麻婆豆腐の素】を取り出した。
「ん?これは……【麻婆豆腐の素】⁉これどうしたの⁉」
「あぁ、昨日麻婆豆腐を作ったんだけどさ、たまたま余った材料を調合したらこれが出来たんだ」
「なるほど。それをうちで買ってほしいって事だね?」
「ああ、ただどのくらいの辛さがちょうどいいのか分からなくて……試供品みたいに配布してアンケートがとれればいいんだけど……」
俺は調合した5種類の【麻婆豆腐の素】を取り出した。全て辛さの度合いが違うのだ。谷口は少し考えてから口を開いた。
「とりあえず、麻婆豆腐の作り方説明書みたいなのがあった方がいいね。
あと、試供品を作ってうちの店の前で配布して、どれが美味しかったかアンケートを取ればいいんじゃない?
佐藤、うちのメンバー貸すからここで麻婆豆腐を作ってくれ。俺とモミちゃんは昨日と同じ露店で客引きするからさ」
谷口はすぐにやることを把握して、ギルドチャット指示を飛ばしはじめた。数分後に、5人ほどの部員が俺たちのいた部屋に集まってきた。体育会系の体の大きい奴ら3人と、普通体型だが運動をやっていそうな女性2人だ。
「佐藤、こいつらはみんなうちの部員だから、こき使ってくれ」
「え?ああ……うん。じゃ、じゃあみんな……よろしく」
「「「うっす!」」」
俺は体育会系の気迫に押されていたのだが、どうやら全員体が固まっている。
(どうしたんだろ?永田さんの前で緊張しているのかな?)
「あの、何か……」
「あの!ゲブラーの佐藤要さんですよね⁉ダクニル戦争見ました!握手してください!」
「あ!俺も!オナシャス!」
俺は一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、すぐに理解して、手を出していた人たちの手を順番に握った。
「わぁ!ありがとうございます!」
「うおお!この手もう洗いません!」
「いや、今から料理するから洗えよ……」
(しかし、俺にもファンみたいなのがいるのか……やっぱ嬉しいな。特に女性の方もいるのが嬉しい)
「ったく!鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!ばっかじゃないの!」
「べ、別に鼻の下を伸ばしてた訳じゃ……」
「ふんっ!さっさと麻婆豆腐作って持ってきなさいよ?行くわよ谷口くん!」
永田さんはそう言って谷口を連れてさっさと出ていってしまった。
(あちゃぁ……なんか怒らせちゃったな……後で謝っとこう……)
「ええと、それじゃあ俺たちも作り始めよっか」
「「「はい‼」」」
いい返事だ。俺たちはこの宿にある鍋を使わせて貰って、麻婆豆腐を作り始めた。
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あまり量は作らなかったので、麻婆豆腐はすぐに完成した。それを昨日の露天まで運びに来たのだが、案の定、男性プレイヤーがわらわらと集まっていた。しかも声をかけられている分、昨日のアルシアよりも大変だろう。
「椛さーん!こっち向いてー!」
「椛たーん!笑ってー!」
「はぁ⁉あんたたちに構ってる暇なんかないのよ!この馬鹿共!」
「「「「「ありがとうございます‼」」」」」
「ひぃっ!」
永田さんが客を罵倒した瞬間、椛さん目的で集まった客が一斉に手を合わせて頭を下げた。何十人という男が1つの店の前でその状態で止まっている光景は、正直恐怖すら覚えた。
(うわ⁉何だこいつら⁉……あ、永田さんが軽く怯えてら)
その後、谷口が麻婆豆腐の試供品を配り、1番人気のある味が確定したところで、強制ログアウトの時間になった。結局1番人気だったのは、俺が昨日作った味だ。
俺は永田さんを慰めた後、最難関クエストの1つである中間考査に向けてゲームをログアウトするのであった。




