第10話
[金曜日]
俺は家に帰るための電車の中で揺られていた。普段からそこまで多くの人が使う電車ではないので、中村たちと別れた後、俺は運良く席に座ることができた。
(お、ラッキー。折角だし今週の分の勉強の範囲でも確認しとくか。ええと……)
俺はスマホを取り出した。開いてすぐに『サッカー日本代表、オーストラリアに惜敗』や、『南極基地で事故。原因不明』などのニュースが見えたが気にすることなく学校のホームページを開く。
(うん、まだ去年の復習レベルだからそんなに難しくないかな?……げ、なんだっけなこれ?……ちゃんと復習しないとな……)
俺が英語の問題に頭を抱えていると電車のドアが開いて、人が多く乗ってきた。すると俺の右斜め前にJKが乗ってきた。鞄には栄峰の文字がある。
(栄峰の生徒か。もし高1ならヴァルリアの何処かで会うかもしれないな)
栄峰高校には、俺の最寄り駅から数駅行ったところで乗り換えることで行くことが出来る。そのため俺が登下校中に栄峰高校の生徒を見かけるのは珍しいわけではないが、やはり同じ学年ならゲーム内で会えるのかもしれないと思ってしまう。
俺は気にせず勉強を続けると、俺の右の席が空いた。もちろんそこに栄峰のJKが座ってきたのだが、何やらこちらの様子をちらちらと見ている。
(なんかこっち見てんな……勉強してるのが珍しいのか?いや、もしかしたら俺と同じようなこと考えてるのかもな)
俺はそのJKに視線を向けることなく、自分の家の最寄り駅の叶夢駅で電車を降りた。どうやら隣にいたJKもこの駅で降りるようだ。
俺が改札への階段を降りていると、何やら後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「あの!もしかして……佐藤要、くん?」
俺が振り返るとそこにはさっきまで隣に座っていたJKがいた。何処かで見たことがある。俺はすぐに思い出し、そのJKに訪ねた。
「もしかして……西田さん?」
「わぁ!やっぱり要くんだ!」
俺が西田さんに気付いた事が嬉しかったのか、西田さんはパアッと顔を明るくして俺に近付いてきた。俺は西田さんと並んであるき出した。
「こんなところで奇遇だね。最寄り駅この駅なの?」
「ううん、駅前の電器屋に行こうと思ってね。家の最寄り駅は4つ隣の満島駅なの。要くんは?」
「あぁ、家に帰るところ。叶夢神社ってあるだろ?あそこの目の前のマンションに住んでるんだ」
「へぇ!じゃあ今度遊びに行ってもいいかな?」
「あ、あぁ。何もない家だけど良ければ」
俺は少しどもりながらそう答えた。ちょうど大きな電器屋の前に着いたので俺たちはそこで別れ、俺は家に帰った。
[月曜日]
俺は珍しく寝坊をした。と言っても、いつも俺は始業より30分以上早く学校に着いているため間に合わない訳ではない。ただ、遅くなると通勤ラッシュに巻き込まれてしまうので俺は小走りで家を出た。
(電車はあと5分後か……走れば間に合うか?)
俺はそう思い、急いで駅に向かった。
俺が駅に着いたのはちょうど電車が来たときだった。俺は電車に飛び乗った。まだ通勤ラッシュのピークの時間では無いため、混んではいるがいくらかゆとりがあった。
(ふう、間に合ったぁ……あれ?)
偶然、俺が乗った車両には西田さんがいた。向こうもとても驚いているようだ。
「あれ?おはよう、要くん。またまた奇遇だね!いつもこの時間なの?」
「おはよう西田さん。いつもは30分くらい早い電車なんだけどね、寝坊してさ」
「そっかぁ、朝早いんだね」
「まぁその方が電車も空いてるしね」
俺がそう答えたところで、会話が止まってしまった。
(気まずいなぁ。何か話題は……)
俺が何か話題を探していると、西田さんも気まずさを感じたのか、話を降ってくれた。
「そう言えば、今日は何かお祭りが始まるんでしょ?」
「あぁ、そうだね。あの街伝統の祭りだとは聞いてるけど、何をするんだろ?」
俺たちはまだマアヌスにいた。と、言うのも、今日はマアヌスでお祭りがあるらしい。それを見てからベルミナに帰ったらどうだとアルシアに言われたのだ。
「私の予想なんだけど、お祭りっていうのは何かの期間限定イベントの事なんじゃないかな?」
「なるほど、そうかもしれないね」
俺らがイベントの話をしてると、優香さんが乗り換える駅に着いた。
「じゃあまたね、要くん!」
「あぁ、また後で」
俺はそう言って優香さんと別れ、学校に向かった……着いたのは時間ギリギリで門の前に立っていた柳先生に注意されたと付け加えておく。
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俺たちがアルシアに借りている部屋から出ると、アルシア一家とうちの女性陣が朝食を取っていた。
「おっはようカナメくん!ご飯できてるよ!」
「おはようアルシア。頂こうかな」
俺たちは朝食を食べることにした。リアルでも食べてきたが、こっちでも食べておかないとお腹が空くからな。まぁ空腹だからってダメージは食らわないけど。席に着くと西田さんに話しかけられた。
「おはよう、要くん。まぁさっきも会ったけどね」
「おう、おはよう」
「え?要、さっき優香ちゃんに会ったの?」
予想通り樋口が問いかけてきた。他の人もキョトンとしているので、俺が説明をした。
「実は今日寝坊したんだけど、たまたま電車の中で会ったんだ」
「ほう、よく一発で西田だって分かったな?」
「いや、金曜日の帰り道でも一回会ってるんだ。その時は西田さんだって分かるまで時間かかったけど……」
「偶然、家が数駅隣だったの!また会うこともあるかも!」
西田さんが明るくそう言った。その横では永田さんがムッとこちらを見ている。
「何よ?」
「いや、こっ、こっちのセリフなんだけど……」
「別に?何でも無いわよ。自意識過剰なんじゃないの?」
「あ……すいません……」
俺が謝ると、高崎さんがなにかを思い出したように、口を開いた。
「……椛の家は要くんの家と真反対だから気軽に遊びに行けない」
「ちょ、ちが、適当な事言うんじゃないわよ!誰がこんなヘタレの家なんか!」
永田さんは顔を赤くして否定した。そこまで言わなくても……俺が軽くへこんでいると、ムッとしている人がもう一人。アルシアだ。
「うぅぅ……私もカナメくんの家に遊びに行きたいのに……」
「いや、流石にアルシアは無理だろ……」
「いいなぁ、ユウカちゃんは好きなときにカナメくんちに遊びに行けて。ねぇモミジちゃん?」
アルシアが羨ましそうに行った。永田さんは顔を赤くしたまま、少し怒ったように、
「羨ましくなんか無いわよ!ほら、行くわよ!」
と言って立ち上がった。すると、柳先生と話していて、ログインが少し遅れた矢沢が何を思ったのか、
「え?今から要んち行くのか?」
と言い出した。
「違うわよ脳筋!マアヌスのお祭りが始まる時間だから広場に行こうって言ってんのよ!」
「ブーメラン刺さってるぞー」
「誰が脳筋よ!」
怒っている永田さんに東堂が油を注ぐ。俺たちは椛さんを宥めながら祭りが始まるという広場に向かった。
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広場の真ん中には大きな祭壇が準備されていた。周りにはNPCやソーマ地方の第1エリアであるウルカイアのエリアボスを倒したプレイヤーが集まっている。
10時になると、祭壇にぞろぞろと5人ほど人が上がってきた。その中にはルドリスさんやバドラさん、それにシュロさんもいた。祭壇に上がると腰の曲がった老人が祭壇に向かい、他の4人は腕を後ろで組んで老人の後ろに立っていた。
「ねぇ、ルドリスさんたちは何をやってるの?」
「お兄ちゃんたちは村長の護衛よ。この街で最も強い男性4人が村長の護衛役をやるの。うちの3人とお兄ちゃんの友達のアインダさんが4年連続で選ばれてるんだよ!」
(へぇ、だからルドリスさんとバドラさんが……あれ?)
「ルドリスさんとバドラさんは分かるけど、シュロさんはその、もうお年を召されてるんじゃ……」
「確かにおじいちゃんはかなりの年だね。でも昔は普通にドラゴンとか狩ってたんだって。今もその腕は健在なんだよ!」
アルシアはやはり自慢げに大きな胸を張ってそう言った。
「全員がドラゴンスレイヤーってこの家族やばいな⁉アインダさんは……聞くまでもないか」
「ええ、見たまんまよ」
俺は残り1人の知らなかったアインダさんについて聞こうと思ったがやめた。見た目からして強そうだからだ。
ルドリスさんの横にいる、この前修練場にいたアインダさんは身長が2メートル以上あるような巨漢だ。背中に大きなポールアックスを背負っているしパワーアタッカーなんだろう。
すると村長が詠唱を終えた。祭壇の周りには小さな光が降り注いでいた。村長は立ち上がり、俺たち聴衆の方を向いてしわがれた声でこう言った。
「皆のもの、聞くが良い!レミエル様が今宵、我々に施しをして下さる。それまでにレミエル様への供物を用意するのだ!」
周りのNPCの男たちはウオオオと雄たけびのようなものをあげながら各々走り去っていった。
その場に残ったのは何が起きたのか分からないプレイヤーとこのイベントに参加しないであろうNPCの女性たちだ。
「これは……イベントを実装するテストの1つだろうな。それより……俺たちは何をしろと?」
東堂がアルシアに問いかけた。東堂でも理解できてないことを俺が理解するのは無理だ。アルシアはみんなに説明を始めた。
「えっとね、年に数回、レミエル様から施しが頂けるの。そのお供え物をフィールドで集めてくればいいのよ!」
「なるほど、分からん。俺は何を集めてくればいいんだ?」
矢沢が頭を抱えてそう言った。アルシアは説明を続けた。
「とにかく、魚でも鉱石でも自分の好きなものを集めればいいのよ!やれば分かるわ!」
矢沢がまだよく分かっていないようだが、やってみないとどうしようもない。俺たちは3つのフィールドに別れて供物集めをすることにした。
すると、俺達のところにルドリスさんとアインダさんが近付いてくる。アインダさんはこっちに来て挨拶をした。
「皆さんこんにちは。ヴァルリア騎士団ルドリス隊中隊長のアインダと申します。よろしくお願いしますね」
「友人のアインダだ。今日は俺たちも同行するが、全員で動くのは効率が悪い。アーチャー、メンバーを分けてくれ」
見かけによらず物腰の柔らかいアインダさんを紹介したあと、ルドリスさんは東堂にそう伝えた。
ルドリスさんvs俺たち9人のpvpを行ったとき、こちら側の指揮をとっていたのは東堂だ。ルドリスさんの多様な攻撃に合わせて出される的確な指示は、ルドリスさんを倒せはせずとも、全員でHPを3分の1減らせるようになった。
東堂の見事な手腕を認めたルドリスさんは、うちのギルド関連の相談事は東堂にするようになった。流石『ゲブラーの指揮官』といったところだが、口にすると怒られるので心の中に思いとどめておく。
東堂は少し考えたあと、俺たちの担当場所を発表した。
「んじゃ、ルドラ湖、ユミルド樹林、ナルス洞窟で分ける訳だが、ナルス洞窟には要と永田、お前らが行け」
「はぁ⁉なんで私がこいつと、ふ、2人きりで移動しなきゃ行けないのよ!」
早速永田さんが東堂に噛み付く。東堂は顔色を変えることなく説明をした。
「勘違いするな。お前はただの要の護衛だ。ナルス洞窟の敵は体が硬いから剣じゃダメージが入れにくいんだ。だから武闘家の永田が行ったほうがいい。あと、【採取】のスキルを持っているのは要だけだからな」
「あ、だったら私も【採取】持ってるから私も行く!」
東堂の説明中にアルシアが手を挙げてそう言った。
「そうか、ならお前ら3人で……」
「待て。俺も行こう。俺も【採取】のスキルを持っているからな」
そう言ったのはルドリスさんだ。[ユミルド樹林]の木を集めるため、[マアヌス]に住んでいる人は全員【採取】のスキルを持っているのかと思ったが、アインダさんは手を挙げていないし、そういうわけではないようだ。
「では4人で行ってきて下さい。[ユミルド樹林]には高崎と中村と樋口……いや、矢沢が行け」
「えぇ?何で俺じゃなくて矢沢なんだ?」
「お前が森に行くのは危ないからな」
「はぁ?そんなことねぇし!何が危ないって言うんだよ!」
「いや、お前へーリの森に行ったら木ぃ薙ぎ倒しまくるじゃねぇか」
樋口は胸を押さえてヴッと声を漏らした。思うところがあるのか、隣にいた椛さんも胸を押さえてウッと言っている。
「同じ理由でアインダさんもルドラ湖でお願いします。狭くてポールアックスを振れないと辛いでしょうし」
「いえ、僕は魔法使いなので、出来ればユミルド樹林の方に回してもらえると……」
「ふぇ?魔法使いなんですか?」
西田さんから面白い声が出た。俺も驚いたが、アルシアが笑いを堪えている。わざと黙っていたようだ。
「魔法使いってことは……そのポールアックスは使わないんですか?」
「あぁ、これは飾りみたいなもんですよ。強そうでしょ?僕はSTRが少ないのでこんなの背負うので精一杯ですよ」
「あ、えと、じゃあユミルド樹林の方お願いします。ルドラ湖には俺と樋口と西田。午後5時半にここで集合ってことで」
東堂に言われ、各々自分の担当のフィールドに向かった。
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俺たちはナルス洞窟に来ていた。
「さて、早速行こ!どの道から行こっか?」
アルシアが俺の方を見て聞いてきた。ナルス洞窟は途中で大きな広場のようなところから4つに道が分かれている。アルシアはどこから攻めるか考えているようだ。
「いや、固まって動くのは効率が悪い。俺たち3人が別れて入ればいいだろう」
「うーん……そっか、そうだね!んじゃ後でね、みんな!」
ルドリスさんの提案を呑んだアルシアは1番右の道に入っていった。ルドリスさんはその隣の道に入っていった。
「さて、じゃあ俺も行ってくるよ」
「不安ねぇ……私が付いていってあげてもいいわよ?」
(俺もルドリスさんも戦えるから問題があるならアルシアなんだよな……)
「いや、大丈夫だよ。洞窟じゃ弓矢が打てないアルシアが心配だから、なんかあったら助けに行ってあげて」
「あぁ、そ?ならいいけど……」
「じゃあアルシアのことよろしくね」
「すぐ死ぬんじゃないわよ」
永田さんに何故かバカにされたような気がするが気にしなかったことにして、俺は先に進んだ。
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(いやぁ大量大量。【良質な鉄】の他によく分かんない鉱石も取れたな。後で調べるか……お、ルドリスさんも戻ってきてるな)
大した敵と戦うこともないまま数時間が経過した。俺は洞窟の中の大きな広場のような場所に戻ってきていた。永田さんは、俺が帰ってきたのを確認して、俺に声をかけてきた。
「おかえり。遅かったじゃない。どうしたのよ?」
「おう、ただいま。割と広くて時間がかかったけど、そんなに遅かったか?」
「えぇ、ルドリスさんは数十分で帰ってきたわよ?途中で道草でも食ってたんじゃないでしょうね?」
「いや、たまたまルドリスさんの入った道が短かったんだろ。それより、ルドリスさんはどこ行ったんだ?」
「暇だからって最後の1本の道に入っていったわ……ほら、帰ってきたわよ」
永田さんが指を指す。そちらに目を向けると、ルドリスさんが出てきた。
「ちっ、入った道は両方とも外れかよ。ついてねぇな……おう、お前も戻っていたか」
「はい、今戻ってきたところです。何か採れましたか?」
「さっぱりだ。【良質な鉄】が少し採れたくらいだ。お前はどうだ?なんかあれば【鑑定】してやるぞ?」
「あ、はい。色々と見たことのない鉱石も採れました。お願いできますか?」
「おう。貸してみな」
俺は見たことの無かった色とりどりの鉱石をルドリスさんに【鑑定】してもらった。【鑑定】とは、鉱石や木の種類が分かるというものだ。同じような赤い鉱石の鑑定をしたルドリスさんが結果を教えてくれる。
「これは【普通のルビー】だな。んでこっちは【火の魔石】の原石だな」
「ルビーですか?何かに使えますかね?」
「基本は普通に装飾だな。これと他の鉱石を混ぜて武器にすることも出来るが能力はお察しだ。
手間を考えたら普通の装備の方が……いや、状況によっちゃこっちの方が強ぇ時もあるな」
「状況によってはってどういう時なら強くなるんですか?」
話を聞いていた永田さんが問いかけた。ルドリスさんは話すかどうか少し迷ってから、周りに他の人がいないか確認し、声を落として話し始めた。
「ヴァルリア騎士団の副団長、まぁ俺の直属の上司なんだが、武器の素材にサファイアとミスリルをかけ合わせたものを使っているんだ」
(副団長が直属の上司ってこの人すごいな⁉それより……)
「ミスリルってなんですか?」
「ゲームとかでよくある凄くレアな鉱石よ。そんなのも知らないの?」
俺が知らない単語が出てきたので聞こうとすると、永田さんに教えられた。
「そのとおり、上質なものは中々手に入らない貴重な鉱石だ。副団長はそれとサファイアを混ぜた鉱物でレイピアを作った。その剣は俺が使ってもただの弱い剣だったんだが……副団長が使うと明らかに威力が違うんだ。俺のHPを一撃で刈り取れる程にな」
俺は息を呑んだ。俺のHPは2000程度。ステータスが俺の5倍以上はあるルドリスさんのHPは余裕で1万を越えるのだ。
(ルドリスさんのHPを一撃で刈り取る⁉なんて人なんだ、副団長は⁉)
そんなの俺の驚きをよそに、ルドリスさんは話を続ける。
「どうやら副団長は特殊なスキルを持っているそうだ。そんなスキルをお前らが持っているならルビーで剣を作ってもいいんじゃないか?」
俺たちが驚いていると、アルシアが帰ってきた。腕には色とりどりの鉱石を抱えていた。
「おーい!いっぱい採れたよ!」
「おかえりアルシア。インベントリがいっぱいになったの?」
「えへへ、元々弓矢がいっぱい入ってるせいであんまり入らなくて……あっ!」
恥ずかしそうにアルシアが頬を掻いたとき、腕の中の鉱石がいくつか俺の足元に落ちた。
(ほんとに色とりどりだな。赤に青に緑、お、オレンジと紫は初めて見るな……)
俺が落ちた鉱石を拾おうとすると、俺の目の前が真っ暗になった。
(うお⁉転移すんのか⁉なんでだ?【チャミュエル】に何か願った訳でもないのに⁉)
「カナメくん⁉」
「ちょっと、佐藤くん!」
アルシアと永田さんが叫ぶ声を聞きながら、俺はナルス洞窟から転移した。
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俺が目を開けると目の前には青い世界が広がっていた。
(さて、どこだここは……[ファルパーラ地方 グアラ湾]か……ファルパーラなんて聞いたことないな。まぁさっさと天使像を探して戻るか)
俺はここが聞いたことのない土地であることを疑問に思いながら、天使像を探そうとした。
その時、右の陸地の方から雷魔法が飛んできた。俺が咄嗟に躱し、剣を構えた。
(なんだ⁉モンスターか⁉)
「貴様、何者だ!武器を捨てろ!」
俺に魔法を飛ばしてきたのはNPCだったようだ。どうやら俺に警戒しているらしい。俺はその場で剣を仕舞い腕を上にあげ、話しかけてみることにした。
「すいません、なんか急に転移してきてしまったみたいで。敵対する気はありません」
「むっ?迷子か、なら仕方が無い。急に攻撃を仕掛けて悪かったな。騎士団のファルパーラ支部で保護するとしよう。さぁ、付いてきなさい」
NPCの男はそう言って歩き始めた。すると、海の方から爆音が聞こえた。振り返るとそこには数十メートルはあるような大きなタコがいた。遠くにいた騎士団員と思われし人が大声でこちらに叫んだ。
「『ギガントオクトパス』だ!急いで海から離れろ!」
そう叫ぶと同時に『ギガントオクトパス』は8本の足の1本をこちらに伸ばしてきた。
(っ!早え!)
俺は何とか躱すことに成功したが、タコの足は後ろにいた騎士団員のもとに向かっていき、騎士団員を吹き飛ばした。
「中隊長‼ご無事ですか⁉」
「俺に構うな!マニュアル通りあのタコを追っ払え!」
「「はっ!」」
どうやら俺に近づいてきた団員は中隊長さんのようだ。他の団員が『ギガントオクトパス』に攻撃を加えているが、状況は良くないようだ。
(これは手強そうだな……っ!こっちにもくるのか!)
俺が騎士団の働きを見ていると、『ギガントオクトパス』がこちらにも攻撃を仕掛けてきた。俺はタコの足を躱すと、そのままタコの足に向かって斬りかかった。
(よしこれで1本……固っ‼)
俺が剣を振り下ろすと、カキーンと甲高い音がして剣が弾かれた。タコはもう1本の足を伸ばしてきたので、俺はその場から退避する。
「1本足を千切ったぞ!この調子だ!」
ちょうどその時、騎士団員は奮闘あってタコの足を1本千切ることに成功していた。高台には魔法使いが10人ほど並んでいる。
(なるほど、魔法が効くのか、この調子ならそのうち……はぁ⁉生えなおしている、だと⁉)
「何⁉また足が治っているのか⁉」
どうやら中隊長もびっくりのようだ。それどころか、生え変わった足は威力を増して騎士団の方に飛んでいった。
(おいおい、こんなん勝てるのかよ⁉)
俺が諦めかけてたとき、遠くから男の人が歩いてくるのか見えた。騎士団のエンブレムを付けているためNPCであるのは間違いないが、持っているレイピアが薄っすらと青掛かっている。
俺が目で追っていると、男はすごいスピードで走り出し、騎士団に襲いかかっていたタコの足に一突きした。すると、あろうことかタコの足は細かく千切れてしまった。
「これで死ね」
男はタコの足を千切ったまま勢いを落とさず、『ギガントオクトパス』の頭に向かってレイピアを3回突き刺した。すると、『ギガントオクトパス』のHPが無くなっていき、『ギガントオクトパス』はその場に崩れ、光となって消えた。騎士団員はその場で雄たけびをあげて喜んでいる。
(な、なんだあの人⁉あの青い剣はもしかして……)
喜んでいる騎士団員を尻目に、先程とは違い優しそうな青いレイピアを持った男性が俺に近づいてきた。
「こんな危ないことに巻き込んでしまって申し訳ない。怪我は無いかい?」
「あ、はい。大丈夫です。あの、もしかしてヴァルリア騎士団の副団長さんですか?」
俺が問いかけると、男は目を丸くした。
「あ、あぁそうだ。僕がヴァルリア騎士団の副団長の1人のアルカルネだが、何故僕のことを?」
「あ、えっと、マアヌスでルドリスさんに会いまして、その時にお話を……」
「そうか、ルドリスはアインダと帰省中だったね。てことは、君はマアヌスから転移してきたんだね?支部からマアヌスに帰すよ。付いてきて」
「あ、ありがとうございます」
俺はアルカルネさんに連れられて騎士団の支部に向かった。俺はその途中で気になっていたことを聞いた。
「あの、この[ファルパーラ]って聞いたことないんですけど、どこの街?なんですか?」
「あぁ、君はマアヌスにいたんだよね。なら知らなくても仕方がないか。ここはダクニル地方、ヘイムガナ地方、スプンタカトル地方、ウシャレイヤ地方の4つの地方がくっついた地方なんだよ」
「は、はぁ……と言うと……?」
俺は混乱していた。それを見たアルカルネさんは笑いながら補足してくれた。
「ここはマアヌスとかの街より2つ先にある街なんだ。王都が近くて、モンスターも強い個体が増えてくるから伝令が届きやすいように4つの地方の街を1つの地方にまとめられてるんだよ」
(なるほど。よく分からんが、日本で表すと、王都は東京で、マアヌスは福島県。ここは埼玉県って感じなのかな?建物は少ないけど、どこか高級感が漂ってるな……どのみち敵が強そうなところに来ちゃったなぁ……)
俺が理解しようとしていると、アルカルネさんは足を止めた。どうやらここが騎士団の支部のようだ。すごく横に大きな建物で、海が見える良い立地なのだが、周りには殆ど建物が無い。
「あの、なんでこの周りは建物が少ないんですか?」
「あぁ、この辺りはオクトパス種が出てきたときに真っ先に襲われるからね。安いんだけど、誰も買わないのさ。もし買うなら、少し安くなるよう僕が交渉するよ?」
「ははは、あんなのが攻めてきちゃたまりませんよ」
(あのタコはこの辺まで来るのか。だったら戦える人しか住まないよな)
俺はそう思いながら、騎士団支部に足を踏み入れた。
騎士団の建物というからどんなものかと思っていたが、予想に反してとてものんびりとした空間が広がっていた。ある団員はお茶を楽しみ、またある団員は武器の手入れに勤しんでいた。
(もっと峻厳とした雰囲気を想像してたけど、なんかゆるい感じだな)
そう思っていると、アルカルネさんのもとに1人の団員が駆け寄ってきた。
「副団長。先程はお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした」
「いいんだ。ルドリスとアインダがいなかったからね。仕方ないよ」
「ありがとうございます。して副団長、その方は?」
「あぁ、迷子になっていたようだ。今からマアヌスに戻す」
「そうでしたか、それは失礼いたしました」
そう言うと団員は立ち去っていった。俺はアルカルネさんに連れられて天使像のある部屋に来た。
「色々とお世話になりました。失礼します」
「あぁ、また遊びに来なさい。ルドリスによろしく伝えといてくれ」
そう言われながら俺はファルパーラを後にした。
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俺はナルス洞窟に戻ってきた。まだいるか分からないがとりあえずアルシアに連絡をした。するとすぐに洞窟の奥の方から足音がした。
「カーナーメーくーん!」
「おぉアルシア、悪かっ……うお⁉」
「えへへ、無事で良かったぁ」
俺がアルシアに軽く手をあげると、アルシアは俺に飛びついてきた。俺はアルシアを支え切れず、アルシアに押し倒される形で後ろに倒れた。
(びっくりした⁉それより……体に伝わってくる感触が……本物みたいに柔らけえ、いや、本物を知らないけど……)
俺がそんなことを考えていると、永田さんとルドリスさんが来た。椛さんは俺がアルシアに押し倒されているのをみてオロオロしている。
「ちょ、ちょっと、な、何してるのよ!」
「抱きつき癖はアルシアの悪い癖だ。とっとと離れろ」
ルドリスさんは俺の上にいたアルシアを引き剥がした。俺はちょっとした虚無感に包まれながら、目を赤くした永田さんに向き合った。
「あぁ椛さん、心配かけてごめ……」
「この馬鹿!心配したんだからね!」
「すんません……永田さん、泣いてる?」
「な、泣いてないわよ!いいからもう戻るわよ!」
そう言って永田さんは歩き出した。もう午後の5時になるようだ。俺たちも続いてナルス洞窟から出た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺たちは広場の祭壇に戻った。他の人たちはまだ帰ってきていないようだ。
「そういえば、集めたお供え物ってどうすればいいんだ?どこかに納めに行くのか?」
「いや、そのまま持ってれば勝手に集計される……お、アインダたちが帰ってきたな」
ルドリスさんが指を指した方を見ると、アインダさんたちユミルド樹林組と、東堂たちルドラ湖組が帰ってきた。
「おい要、またどっかに転移したのか。今度は何を願ったんだ?」
東堂がそう聞いてきた。どうやら俺が消えたことはみんな知っているようだ。
「いや、それがなんの心当たりも無いんだよ。急にファルパーラ地方ってところに転移しちゃってさ」
「何?ファルパーラに行ったのか?」
「奇遇だね。僕たちはファルパーラの騎士団に勤めているんだよ」
俺が説明をすると真っ先にルドリスさんとアインダさんが食いついた。
「はい、ちょうど俺が転移したときに『ギガントオクトパス』に襲われまして、騎士団のアルカルネさんに助けられました」
「おい、『ギガントオクトパス』に襲われたのか?」
「え?あぁはい」
「ちっ、アインダ、戻るぞ。お前ら、数日間だが楽しかった。妹をよろしく頼む」
そう言うと、ルドリスさんは舌打ちをしてアインダさんを連れて天使像の方へ向かっていった。どうやらファルパーラに帰るようだ。
その時、5時半になった。祭壇に村長が登っていく。村長が詠唱をすると、おれの胸のあたりから銀色の光の粒が出てきた。光の粒は祭壇に登っていく。
(うおぉ、すげえな。俺とかアルシアは銀色の光だけど、東堂とか樋口は青で、中村と和泉さんは緑か……集めたお供え物が関係ありそうだな……)
俺は祭壇に見入っていた。集まっていく光は青いものが多い。光の粒が1つに集まったところで、村長が祈りを捧げる。
「レミエル様。今回の供物でごさいます。どうぞお納め下さい」
そう言うと、祭壇の真上にあった光が輝きを増し、青い光となってマアヌスを包み込んだ。その輝きがおさまると、天の声とは違う女の人の声が脳に響いてきた。
《貴方たちの供物、確かにいただきました。少しばかりお礼をさせていただいたのでルドラ湖へお行きなさい。神のご加護のあらんことを》
そう言うと天の声は聞こえなくなった。今のがレミエル様なのだろう。村長が祭りの終わりを宣言し、NPCは固まってルドラ湖の方へ向かっていった。
(それにしてもルドラ湖に行けってどういうことなんだろう?)
「なぁ、ルドラ湖には何があるんだ?」
「見れば分かるわ。行きましょ!」
アルシアはそう言って、ルドラ湖に向かっていった。俺たちも慌ててついていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺たちがルドラ湖に行くと、湖面が光り輝いていた。周りでは多くの人が釣りをしている。ちょうど目の前のNPCが釣り上げた。その魚も金色に光り輝いていた。
「何あれ⁉すげぇ!」
樋口が声をあげた。笑いながらアルシアが説明をしてくれた。
「レミエル様から施しを頂いたでしょ?それでルドラ湖にいる魚の質が上がったの!ここで採れる魚はヴァルリアで1番美味しいのよ!とにかく、焼き魚、食べてみて!」
そう言われ、俺たちは湖畔で焼いていた焼き魚を渡された。
(魚の質が上がると光るのか⁉しかし、あんなに頑張ったのに、魚の味があがるだけかぁ……たかが魚の味なんて……)
そう思いながら俺たちは一口食べた。
「「「う、美味えぇぇ‼」」」
俺たちは口を揃えてそういった。本当に死ぬほど美味かった。その後数時間魚料理を楽しみ、もう一泊してからアルシアを連れてベルミナに帰った。




