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第9話

遅れました。

[ダクニル地方 第二の街 ベルミナ]

 俺たちはこの地に降りた時、みんな同じような感想を抱いたことだろう。


「「「「暑い……」」」」


 そう、ここベルミナは砂漠の街なのだ。照りつける日差しは強く、辺りを見渡してみると、生えている植物はサボテンのようなものだけだ……いや、動いている。あれはモンスターのようだ。


「あぁっ!暑い!どっか日陰入ろうぜー」


「そうね。こんなところにいたら熱中症になっちゃうわ」


 樋口の提案に永田さんが続く。ゲーム内で熱中症になるのかは知らないが、とりあえず近くにあったギルドの建物の中に入ることにした。


「うおぉ!めっちゃ快適ー!」


「ほんと、外とは全然違うわね。クーラーでもあるのかな?」



 ギルドの建物の中は驚くほど快適だった。なんでも、建物の素材に水魔法の上位魔法である、氷魔法をエンチャントすることで建物全体を涼しくしているとのこと。



「いらっしゃいませ。どうなさいましたか?」


「うん?あぁ、この街の宿とかの場所を知りたくてな」


 入り口に立っていたギルド職員の質問に、東堂が咄嗟に適当なことを言って誤魔化した。流石に涼みに来たと言ったらつまみ出されるだろう。



 この世界には地方ごとにギルドが設置されていて、全ての地方の第1の街に本部が、それ以外の街には支部が置かれている。

 ギルドの建物ではクエストの受注やアイテムの販売、買い取りなどが行われている。他にも、街の詳しい情報なども知ることが出来る。しかし、ギルドの結成、解散などの手続きは本部に戻らないと出来ないのだ。



 俺たちはこの街の地図を買い、涼みながらこの後のことについて話し合った。


「さて、なんとかベルミナに来たわけだけど、この後どうしよっか?」


 西田さんが話を始めるとすぐに樋口が案を出した。


「あのさー、俺ら多分ヴァルリアの中で1番早く第2の街に来ただろうし、一旦普通に観光とか、遊んだりしようよー」


「いや、第2の街に入ったのは俺らは全地方で2番目だ。でもまぁ、攻略から離れるってのもいいかもな」


 樋口の提案に東堂が乗った。他の案も出てこないので、これで決まりだろう。西田さんが話をまとめる。


「よし、んじゃあこれからはそれで決まり!さて、今日明日は何から始めよっか?」


「「ギルドホーム建てよう‼」」


 矢沢と樋口はほぼ同時にそう答えた。俺たちは頭の上にはてなマークを浮かべながら矢沢と樋口の主張を聞いた。


「俺マンションに住んでるからさ、大きい家みたいなのに憧れてるんだよ。ゲーム内なら自分たちで間取りとかも考えられるんだろ?すげぇ楽しそうじゃん!」


「それにそれに、今まで1泊1000Gとか払ってたのを払わなくてよくなるんだよ!それに、早くしないとザラマーナの土地みたいにすぐになくなっちゃうじゃん?」


「なるほど……確かにあってもいいかもね?」


 2人の主張に西田さんが納得している。


(確かにギルドホームあると楽しそうだな。よくあいつらこんないい事思いつく……いや待てよ?何か裏があるんじゃないか?)


 俺が2人を不審がっていると、ずっと暑がっていた永田さんが口を開いた。


「でもそれってあんたたちと同じ家で暮らすってことでしょ?なんか危険じゃない?お風呂とか覗こうと考えてるんじゃないの?」


 矢沢と樋口の背筋が少し伸びた。図星のようだ。樋口が目を泳がせながら必死に弁解する。


「そ、そんなことはねぇよ。俺らだって紳士だから?ちゃんと弁えてるし?な、なぁ要?」


(なんで俺に振るんだよ。でも、俺もギルドホーム欲しいなぁ……本音と建前両方の意味で……)

「ま、まぁ大丈夫だよ、うん。この2人ならきっと」


「不安ねぇ……あんたも共犯なんじゃないの?」


「いやいや、そんなことは……」


 俺は少し曖昧に答えた。すると、今まで何をしていたのか分からないが高崎さんが意見を出した。


「……この街にギルドホームはやだ。暑い」



 ……全くの正論だ。全然気が付かなかった……。



「じゃあ一度この話は保留にして、明日はどうしよう?」


「やることねぇなら要に案内してもらってマアヌスに行くのはどうだ?」


 東堂が食い気味にそう言った。女性陣はきょとんとしている。


(あー、確かにいいかもな。そろそろ【良質な鉄】も無くなるし、アルシアにみんなを紹介したいしな)

「あぁ、いいんじゃないか?他のみんなは……」


「え?ちょ、ちょっと待って?ま、マアヌス?どういうこと?」


 男だけで話が進んでいるのをみて、西田さんが質問してきた。他の2人も理解できていないようだ。


「実は、[アシュヴィ山脈]を越えるとソーマ地方に行けるんだよ。NPCから得た情報だからホントだと思うよ?」


 中村が説明してくれた。西田さんは納得したようで、少し考え込んだあと、こう言った。


「なるほど、それなら、東の[ウランダ大河]を渡ればヘイムガナ地方にも行けるのかも。ねぇ、そのうちヘイムガナ地方にも行かない?」


「……ん、それがいい。」


「そうね、あの子にも早く会いたいわね」


 西田さんの言葉に2人も賛成した。俺たちにはなんの事か分からないが、きっと仲のいい友達がいるのだろう。すると永田さんが首をかしげて、


「あれ?佐藤くんの案内でソーマ地方に行くって言ったけど、佐藤くんはなんでソーマ地方の案内が出来るの?」


 と聞いてきた。


(なかなか鋭いな……しかたない、普通に話すか)

「実は俺……」


「実は要は、ソーマ地方にNPCの彼女がいるのだ!!」


 俺が【チャミュエル】のことを話そうとすると、樋口が適当なことを言った。


「ええ⁉要くん彼女いるの⁉」


「はぁ⁉ちょっとあんたどういうことよ!!説明しなさいよ!!」


 西田さんと永田さんがすごく食いついてきた。普段は無表情な和泉さんも少し驚いたような顔をした……気がする。


「いやいや!違うよ!樋口の悪い冗談だから!」


 俺が樋口を睨むと、樋口はそっぽを向いてなかなか上手い口笛を吹いた。それを見た西田さんは落ち着いて座り直し、


「なんだぁ、びっくりしたぁ。じゃあ早く行きましょ。要くん、案内よろしくね!」


 と俺に言った。


「あぁ、分かった。それじゃ行こうか」


「あー、待って!昼飯食ってから行こうぜ!」


 俺が立ち上がると矢沢に止められた。そういえば昼飯をまだ食べていなかった。俺たちは食事を済ませて、アシュヴィ山脈に向かった。



 [アシュヴィ山脈]はそこまで高い山では無い。しかし、岩に擬態したモンスターが多く生息しており、登るのは骨が折れるのだ。未だに地方間の移動をしたという報告がないのは、出てくるモンスターの強さ故だろう。



 俺たちが山に入ってから数分後、高崎さんが立ち止まり、


「……ん、囲まれた。岩みたいな形のモンスターが8匹」


 と呟いた。その時、前の方を歩いていた矢沢に人の頭ほどの大きさの岩が飛んできた。その岩は矢沢に着弾すると同時に爆発した。


「うぐぁ!な、なんだ⁉」


「矢沢!大丈夫か⁉」


「へへっ、平気平気。ただ、一発でHP半分もってかれたぜちくしょう!」


 俺たちが周りに警戒をしていると、さっきと同じサイズの岩が三方向から飛んできた。さっきはよく見えなかったが、名前を『ロックボマー』というらしい。どうやら歩いている人を襲う習性があるようだ。


「私に任せて!【シールド】!」


 優香さんが俺たち全員を囲うようなドーム状の【シールド】を張った。『ロックボマー』は障壁に当たって爆発したが、俺たちは無傷だ。


「あちゃ〜、【シールド】がボロボロだ〜。これはずっと発動させられないなぁ」


 西田さんはそう言って【シールド】を解除した。



 【シールド】にも耐久度が設定されていて、それが無くなると自動で使用者のMPを消費して耐久度を回復するようになっている。優香さんのMPはそう多くないので、ずっと【シールド】を発動することは無理なのだ。



「……あとは小さいのが4匹」


「おい、詳しい位置は分かるか?」


「ん、あの石とあっちの石、それと……」


「あー、そんぐらいでいい……はっ!」


 高崎さんに『ロックボマー』の位置を聞いた東堂がその場所に矢を放った。矢が直撃したが、『ロックボマー』は爆発せず、アイテムをドロップして消えた。


(あれ?爆発しないんだ?)

「もしかして、一撃でHPを削りきれば爆発しないんじゃないか?」


「そうかもね。よし、〈風の天使よ。我に力を与えよ〉【エアスラッシュ】!」


 俺の話を聞いた中村が風の刃を飛ばした。予想通り爆発することなく、アイテムをドロップした。


「ようし、俺も!【居合い切り】!」


 東堂と中村の様子を見た樋口が『ロックボマー』に斬りかかった。

 その『ロックボマー』は2つに割れたが、樋口は後ろからもう一匹の『ロックボマー』が飛んできているのに気付かなかった。


「よっしゃあ!俺も撃破!」


「樋口!後ろだ!」


「えぇ?何?どうしたの……ぐはっ!」


 東堂が樋口に呼びかけたが時すでに遅し、樋口は爆発を食らった。


「痛え!なんで教えてくれないんだよー!」


「教えただろ!この馬鹿!なんで【索敵】持ってるくせに気付かねぇんだよ!」


「ちぇー。和泉ちゃーん、回復してー」


「高崎、回復しないでいい。馬鹿は死なないと治らん」


「……」


 高崎さんは樋口を回復しようと杖を構えたが、東堂と樋口、どちらの言うことを聞くか迷っているようだ。判断に困ったのか、俺と中村の方に視線を向けてきた。


「あー……回復しないでいいんじゃないか?完全に樋口が油断してたせいだし」


「そうそう。ちょっとくらい痛い目に遭わないと純も学ばないから」


「……それじゃあ、先に進もう……」


 俺たちの意見を聞いた高崎さんは杖を降ろして歩き始めた。樋口は文句を言っているが気にしない。俺たちは先に進むことにした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「おぉ!これはすげぇな!」


 矢沢が興奮したように言った。俺たちは数時間掛けて頂上に到着した。


「いやぁ、ここまで時間かかったねぇ」


「佐藤くんが素材集めしてるからでしょ?」


「……面目ない」


 俺が道にある鉱石や薬草を取っていなければもっと早く着いたのだろうが、これも大事なことだ。


 頂上から少し見下ろすと、[ユミルド樹林]が広がっていた。あとは山を下ればマアヌスに着く。俺たちが山を下ろうとしたときだった。


「……何か来る……」


「何かって何だ……っ!避けろ!」


 東堂が叫んだ。俺たちが咄嗟にその場から離れると、その場に火の玉が落ちてきた。


「うおっ⁉【ファイアボール】か⁉誰がこんなこと……」


「いや、違う!これは人の放ったものじゃない。モンスターのものだ!」


 中村が俺の疑問に答えてくれた。確かによく見ると……いや、よく見たが違いが分からない。魔法使いには分かるのだろうか?


 火の玉が飛んできた方向には1匹の大きな赤い蜥蜴がいる。『サラマンダー』だ。『サラマンダー』はもう一発火の玉を飛ばしてきたが、対してスピードは早くないので飛んでくる方向が分かってしまえば簡単に躱すことができる。


(おっと危ねえ。ちっさい竜みたいな奴だな。さっさと倒して山を降りるか)


 俺が戦闘に入ろうとすると、隣にいた中村が東堂に話しかけていた。


「ねぇ正人、『サラマンダー』がいるってことはまさか……」


「あぁ、そのまさかだろうな……」


「まさかって何だ?あいつそんなにやばいのか?」


「いや、『サラマンダー』自体はそこまで脅威では無いんだ。問題なのは……」


 東堂が俺の問いかけに答え終わるよりも前に、地面を揺るがすほどの大きな雄叫びが聞こえた。空には大きな赤い塊が飛んでいる。ドラゴンだ。かなり高いところにいるので、俺たちにはまだ気付いていないだろう。


「よし、急いで倒してすぐに山を降りるぞ。高崎はドラゴンに警戒してろ。回復は後でいい。要は周りの『ロックボマー』の処理だ。いいな?」


「……分かった」


「りょーかーい」


「よっしゃ、急いでやっちゃいますかっと!」


 樋口が『サラマンダー』の真正面から斬りかかった。『サラマンダー』が火を吹いてきたが、樋口は難なく躱し、【居合い切り】を決めた。


(HPが4分の1くらい減ってるな、やっぱあんま強くないのか)


 俺が『ロックボマー』の相手をしているうちに、樋口に続いて矢沢と永田さんが攻撃に移る。『サラマンダー』は首を振りながら火を吹いてきた。


「危ないわね……【発勁】!矢沢くん!」


「はいよっと、【天空切り】!」


 永田さんは、吐かれた火を躱し、空中で1回転をして、『サラマンダー』の体に【発勁】を打ち込んだ。それに続いて矢沢が【天空切り】を放つ。サラマンダーは倒れたようだ。


「よし!お前ら、走れ!」


 東堂が『サラマンダー』を倒し終わったのを見てそう叫んだ。俺たちは全員走って山を降りようとした。しかし、そう上手くはいかなかった。


「……!バレた。ドラゴンが近づいてきてる。……あと、大きい『ロックボマー』が4匹近くにいる」


 『サラマンダー』のうめき声が聞こえてしまったのか、どうやらドラゴンにバレたようだ。1番後ろにいた俺は全力で走った。しかしドラゴンのスピードに勝てるわけもなく、ドラゴンは俺に向かって急降下してきている。


(やべぇ!死ぬ!【投げナイフ】は当たんないだろうし、東堂の弓矢は……風で曲がるだろうなぁ。あとは中村の【パラライシス】だけどドラゴンって麻痺るのか……ん?そうだ……)


 あることを思いついた俺は中村に近づき、手伝ってもらうお願いをした。


「面白そうだけど、ミスったら死ぬよ?いいの?」


「まぁやってもやらなくても死ぬんだったらやったほうがいいだろ。この辺でいいか?」


「うん!すぐに走れるようにしといて!」


 俺と中村はある作戦のために走る足を止めた。それを見た東堂が、


「おい!何してる!早く逃げろ!」


 と叫んできたが気にしない。俺はわざと足音を立てながらゆっくり歩いた。すると、周りにいた『ロックボマー』が4匹同時に俺に飛びかかってきた。


「今だ!中村!」


「すごい!ほんとに来た!〈風の天使よ。我に力を与えよ〉【メガアネモス】!」


 中村は俺の周りに強く吹き上げる風を作った。すると、俺の周りにいた『ロックボマー』はすべて上空に飛んでいき、俺めがけて急降下してきていたドラゴンに直撃した。

 ドラゴンにダメージが入ったかは分からないが、ドラゴンが姿勢を崩したのが視界の端に見えた。


「よっしゃあ!逃げろ!」


 俺と中村は先にいる東堂たちと合流し、山を下った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 俺たちは山を下り切ってマアヌスの街に入った。ドラゴンは諦めたのか、途中から追ってこなくなった。


「何とか逃げ切ったな、しかし要、さっきのはナイス判断だったな」


「ほんとほんと!よくあんなこと思いついたね!」


 東堂と西田さんにそう言われた。俺は気恥ずかしさを感じながら、


「俺の手柄ってよりは中村の手柄だけどな。さ、早くアルシアのところに行こうぜ」


 と言い、アルシアを探そうとしたときだった。


「おーい!カナメくーん!」


 どこからかアルシアに呼ばれた。俺は辺りを見回したが、どこにもアルシアの姿は無い。


(お!アルシアだ!あれ?でもどこにも姿は見えないけどな……)


「……上」


「上?ってうおぁ⁉」


 高崎さんに言われて俺たちは上を見上げた。そこには、まっすぐ落ちてくるアルシアがいた。アルシアは俺の目の前に埃一つ立てずに着地すると、


「どう?驚いた?」


 と聞いてきた。人が空から降ってきて驚かない人はいないだろう。


「あ、あぁ。すげぇ驚いたよ」


「そう!良かった!」


(良かったって何だろう。まぁいいや)

「みんな、こちらがアルシア。前に会った時にお世話になったんだ」


「アルシアよ。よろしくね!」


 アルシアが軽く自己紹介をした。樋口は既に鼻の下を伸ばしていて、女性陣は何やら難しそうな顔をしている。


(そりゃ少し動くだけで揺れるのを見てたらそんな反応になるか。しかも初対面で空から落ちてきたらビビるわな……)


「あー、要の仲間でギルドの交渉役の東堂だ」


「サブリーダーの中村だよ。よろしく」


 俺がそんなことを思っていると、東堂と中村を筆頭に全員が自己紹介をした。


「それでアルシア、急で悪いんだけど数日間アルシアの家でお世話になってもいいかな?」


「ええ、構わないわ!それにカナメくんに家族を紹介したいし!今日はもう暗くなるし、うちに戻りましょ!付いてきて!」


 そう言ってアルシアは何やらチャットを飛ばして俺たちを家まで案内してくれた。



 この世界のNPCはチャットやギルド加入など、プレイヤーが出来ることをこなす事が出来る。きっとシュロさんに俺たちが来ることを伝えたのだろう。



「着いたわ!ここよ!」


 そんなことを考えていると、アルシアの家に着いた。なかなか大きい木にいくつもの建物がくっついている。この木は全てアルシアの一族が使っているとのことだった。


「おおう、カナメくん。よく来たのう。さぁさぁ上がりなさい。夕食の準備が出来ておるぞ」


「こんばんはシュロさん、急に大勢で押しかけてすみません」


「気にするでない。賑やかで楽しいからのう」


 そう言ってシュロさんは家に入っていった。俺たちもあとに続いた。


 外から見るよりも家の中は広く感じた。大きな机に料理が並べられている。すると、椅子に座って机に向かっていたおばあさんに話しかけられた。


「おやおや、あんたがアルシアが連れてきた男かい?私はアルシアの祖母よ。ゆっくりしていくといい」


「はい、佐藤要です。お世話になります」


 俺が返事をすると、キッチンの方から若い女性が声をかけてきた。


「あら、あなたがカナメさんね?いらっしゃい、ゆっくりしていってね〜」


「あ、はい。ええと……」


「アルシアの母よ〜。よろしくね〜」


「あ、はい。佐藤要です。お世話になります」

(お母さん⁉お姉さんかと思った……)


 俺たちがアルシアのお母さんとおばあさんに挨拶を済ませると、奥から体の大きな男性2人が出てきた。


「おうアルシア!帰ったぞ!」


「お父さん!おかえりなさい!あ、こちらうちの父と兄よ」


「お、アルシアの友達のガキ共はこいつらか。アルシアの父のバドラだ。よろしくな!」


「アルシアの兄のルドリスだ。妹がお世話になっている」


 どうやらアルシアのお父さんとお兄さんのようだ。俺たちが自己紹介を済ますと、アルシアのお母さんが大きなグラタンを机の真ん中に置いた。


「さぁ、夕食の準備が出来ましたよ」


 俺たちは夕食を食べた後、いろいろ話をした。


「あら、皆さん[ダクニル地方]からいらしたんですね〜。つい昨日まで、そこのルドリスも[ザラマーナ]にいたのよ〜」


「へぇ!じゃあちょうど同じタイミングだったんすね!ルドリスさんはお仕事何してるんですか?」


「ヴァルリア騎士団の……まぁ管理職といったところだ。1週間くらい、[ザラマーナ]の詰所の視察に行っていた」


「管理職ってことは、偉いんすね!」


「まぁ……好き勝手やれるくらいにはな」


 樋口がアルシアのお兄さん、ルドリスさんに質問をしている。



 騎士団というのは、NPCで構成された警察のようなものだ。フィールドの入口などにいて、声をかけると【薬草】などを分けてくれる。時々増えすぎた『レッドラビット』の駆除などもしているそうだ。



 盛り上がっている樋口たちを尻目に俺は気になっていたことをアルシアに問いかける。


「そういえば、さっきアルシアは何で木の上から降りてきたんだ?」


「さっきね、アシュヴィ山脈の方からドラゴンが山を降りてきてるって噂を聞いてね、それで木の上に見に行ったら今度は何か爆発したって騒いでたの!そしたら犯人はカナメくんたちだったってわけ!」


「あー、お騒がせしてごめんなさい」


「そうか、お前らが爆発騒ぎの犯人か。山脈付近の住民が怯えてんだ。事情を吐いてもらおうか」


 バドラさんに詰め寄られた。話を聞くと、バドラさんはこの街の自警団をやっているそうだ。俺の代わりに東堂が事情を説明した。


「実は山を越えてくるときにドラゴンに遭遇しまして、それを追い払うために『ロックボマー』をぶつけました」


 東堂がそう言うと、黙って話を聞いていたルドリスさんが口を開いた。


「なるほど、リスキーだが面白い。それを思いついたのは……マサトだっけ?お前か?」


「いえ、そっちの要です」


「あぁ、そっちのか……ふーん、なるほど」


 ルドリスさんは俺の方をまじまじと見ると、ニヤリと笑い、


「面白い。おい、俺と1戦しないか?ルールはそっちが決めていいからよ」


 と俺にpvpを持ちかけてきた。アルシアの家族はみんな驚いている。シュロさんが立ち上がり口を開く。


「ルドリス、本気か⁉」


「大丈夫だ、死にゃあしねぇ。な、どうだ?」


「わ、分かりました。では、『峰打ち』のルールで、魔法やアイテムはなんでもありのルールでやりましょう」


「よし、じゃあ自警団の修練場に行こうぜ。親父、今の時間は修練場、使えるよな?」


「大丈夫だ。早速行くか」


 俺はpvpの申込みを受けた。『峰打ち』と言うのは、どちらかのHPが1になるまで続く戦闘のことだ。俺たちはルドリスさんに連れられて修練場に向かった。


 修練場では何人かの自警団員と思われる人たちが修練をしていた。そこにバドラさんとルドリスさんが顔を出すと、自警団員はその場で膝をつき頭を下げた。


「アインダ、ちょっと場所貸してくれ。pvpやんだ」


「分かりました。団長とルドリスくんがやるのですか?」


 近くにいた体の大きい自警団員がそう答えた。どうやらルドリスさんの知り合いのようだ。あと、バドラさんが団長と呼ばれていたので、自警団の団長をやっているのだろう。バドラさんは首を振った。


「ちげぇよ。ルドリスとアルシアの連れてきた客だ」


「なっ⁉ルドリスくんとそちらの方が⁉」


「まぁ俺も驚いたがな!どこまでやれるか見てみたくもあってな!」


「そういうことでしたら、すぐに退去いたします」


 団員はそう言って他の人たちにもその旨を伝えた。そして、修練をしていた団員たちは場所を空けて2階の観覧席に向かった。


「さて、やるか」


 そういって俺の目の前に立ったルドリスさんは俺にpvpの招待をしてきた。俺は承諾すると、


《pvp、開始》


 と天の声が聞こえた。俺は剣を構え、すぐに斬りかかった。


(相手の武器は片手剣か、武器の耐久度は減らないから【デストロイソード】は使えないし、普通にやるか……うら!)


 俺が剣を振り降ろすと、ルドリスさんは剣で防いだ。そのまま弾き飛ばされたので一度引いてもう一度斬りかかる。


(剣が弾かれるなら、【投げナイフ】で……)

「ふんっ!」


「なるほど、そうきたか」


 俺は顔に向かって投げナイフを投げ、そのまま走って近づく。ルドリスさんはナイフを剣で弾いた。


(今だ!)


 ルドリスさんが【投げナイフ】を弾いた瞬間に斬りつける。ルドリスさんは咄嗟にに体を退いたが、ギリギリ俺の剣のリーチのほうが長い。俺はルドリスさんにダメージを与えることに成功した


「ほう、やるな」


(くっそ!HPが全然減ってない!……危ねっ!)


 ルドリスさんは俺に向かって剣を振った。ルドリスさんの剣は軽く振っただけに見えたのに、躱すのが精一杯だった。


 俺は体制をを立て直し、もう一度【投げナイフ】を投げ、ルドリスさんに詰め寄った。ルドリスさんはさっきと同じように【投げナイフ】を弾いた。


(よし、今度は首を狙って……っ!)


 俺が首に向かって剣を振ろうとすると、ルドリスさんは【ファイアボール】を()()()()()で撃ってきた。


(嘘だろ⁉無詠唱で魔法を使えるのかよ⁉)


「ほぉ、躱されたか」


 とっさに体を捻り直撃は避けたが、ルドリスさんは俺を逃がすまいと【ファイアボール】をもう一発撃ってきた。俺はそれを盾で受けたが、威力も尋常じゃなく重い。俺は距離を取ってルドリスさんに剣を構えた。


「そろそろ攻めさせてもらうか」


 ルドリスさんはそう言うと、俺に斬りかかってきた。


(っ!早え!)


 ルドリスさんは俺が盾を構えるより早く俺の胴体を斬りつけた。俺はHPを半分近く奪われ、その場から数メートル吹き飛ばされた。そのまま追撃してくるルドリスさんの攻撃を剣で受け止めたが、今まで受けたどの攻撃よりも重い。


(くっそ!ダメージがでかい!……うらぁ!!)


 押し負けないように腕に力を入れた時、急に腕が軽くなった。そう思ったのもつかの間、ルドリスさんの剣が宙を舞った。しかし、肝心のルドリスさん本人がが視界から消えている。


(消えた!?この一瞬で何が起き……っ!!)


 俺は【跳躍】か何かで空を飛んだのだろうと上空を警戒していたが、背後から何かを感じた。すぐに振り向きながら剣を振る。剣先は空を切ったものの、剣のリーチの少し先にルドリスさんがいる。どうやら回り込まれていたようだ。俺はすぐに飛びのいて距離を取る。


「ほう、これも気づいたか……やはりお前か……」


(お前か?なんの話だ?……いや、今はそんなことは気にしてられない。ルドリスさんは剣も魔法も使えるけど、今は何も持ってない……てことは、魔法さえ気をつけて懐に入れれば……!)


 攻めないと殺られるのは時間の問題だと思った俺は、ルドリスさんに近づいた。ルドリスさんは両手を構えて、それぞれ【ファイアボール】を放ってくる。


 スピードも威力も段違いではあるが、【ファイアボール】は直線にしか進まない。手のひらの方向さえ分かれば、躱すことは出来る。


(よし!ここまでくれば剣も当てられる!)

「うらぁぁぁ!!


「いいねぇ!もっと楽しませてくれよ!」


 俺はルドリスさんの胸を斬りつけようと、剣を振り下ろす。ルドリスさんが退く素振りを見せない。それどころか、何も持っていない右手を握りしめて俺の剣目掛けて拳を振り上げた、意表をつかれた俺はそのままルドリスさんに吹き飛ばされた。


(はぁ!?そんなのありかよ!?この人グローブしかしてないぞ!?)



 永田さんのような武闘家はもちろん、俺や矢沢のような剣を使うプレイヤーの殆どは、最初に手に入ったグローブをつけている。それによって剣を上手く扱うことが出来るのだ。


 ルドリスさんもグローブを嵌めていたが、薄くて指が出ている、剣の持ちやすさを重視したような作りのものだ。本来なら防具としても微妙なこれだけで、本職の武闘家の永田さんを優に超える攻撃力を生み出しているのだ。



「剣がないからと油断したな。こっちは本職じゃあないが……今度は俺の番だ!」


 そういうと、拳を構えていたルドリスさんが俺の懐に入り込む。俺は剣と盾を使って拳を防ぐが、とうとう盾を蹴りあげられてしまった。


「これで終わりだ!」


(くっそぉ……どうせ殺られるなら一矢報いてやる!!)


 俺は至近距離に迫っているルドリスさんの顔と胸をめがけて【投げナイフ】を投げた。しかしルドリスさんにダメージはない。瞬時に首を捻って1本の【投げナイフ】を躱し、もう1本は左手で掴んでいる。


「おっと危ねえ。流石に胸に直撃食らってたらやばかったな」


 俺がすぐに体目掛けて剣を振るが、ルドリスさんは俺の剣を掴み、奪い取った。


「終わりにするか」


 そう言ってルドリスさんは雷魔法を付与した俺の剣を振った。俺は咄嗟に後ろに飛ぼうとしたが、俺の背後から突風が吹きつけた。どうやらルドリスさんが風魔法を使って俺が逃げるのを阻止したようだ。


 俺は首を討たれ、HPが無くなった(正確には1残ってるけど)ところで、pvp終了のアナウンスが聞こえた。





 俺の意識が戻ってすぐにみんなでアルシアの家に戻った。HPはもちろん回復しているが精神的な疲労が取れず、俺はすぐにアルシアの家の椅子にドサッと座り込んだ。


「やはりお前だな。無理言って付き合って貰って悪かったな。こんだけ強ければ問題ないだろ」


「あ、いえ、こちらこそ。勉強になりました。あの、問題って……」


「カナメくんすごいよ!お兄ちゃん相手にここまでやるなんて!」


「いやいや、全然ダメージ与えられなかったし……」


 アルシアが褒めてくれたが、お世辞だろう。そう思ってアルシアに返事を返した。するとアルシアは首を振って、


「ううん、お兄ちゃん相手にここまで戦える人なんてお父さんくらいだもん!ね?お父さん?」


 そう言ってアルシアはバドラさんの方を見た。


「まぁこの街ではそうだろうな。なんたってルドリスは1人でドラゴンを瞬殺できるんだ。こんだけ戦える奴も珍しいぜ!」


「うひゃあ!ドラゴンを1人で⁉」


「ル、ルドリスさん、レベルは今いくつっすか?」


 樋口が驚いている。他の人も愕然としている中、矢沢がルドリスさんに問いかけた。ルドリスさんは自分のステータスを確認して、レベルを教えてくれた。


「163だ」


「ふふーん!お兄ちゃんはヴァルリア騎士団の中でも5本の指に入る実力者なんだよ!」


 アルシアが大きな胸を張って自慢げに教えてくれたが、俺たちはレベルの差の大きさに愕然としていた。


「要くんすごい!レベル163の人にダメージを与えて、しかも攻撃も何回も躱したんだよ!」


「そうだよ。多分俺たち全員で戦っても勝てないような相手にあんだけ善戦したなら十分善戦だよ!」


 西田さんと中村が興奮気味にそう言った。すると、中村の話を聞いたバドラさんが


「なら明日はお前ら全員対ルドリス1人でやるってのはどうだ?レベルも上がるし、いい訓練になるだろ」


 と持ちかけてきた。他のみんなもやる気のようだ。特に前衛の3人のやる気がすごく高い。俺がその様子を見ているとジト目の永田さんに話しかけられた。


「何よ」


「いや、妙にやる気だなぁと」


「あんたのダサい戦い方を見てたら私もやりたい!って思ったのよ。その機会ができたんだから嬉しいに決まってるでしょ!」


「俺も俺もー!戦ってみたかったんだー!」


 矢沢が永田さんに同意した。樋口も同じような理由だろう。俺はルドリスさんに改めてお願いをした。


「えっと、じゃあお願いしてもいいですか?」


「ああ、いいだろう。あぁあと、それとは別にお前らに頼みがある。このギルドのリーダーは……」


「あ、はいはーい。俺っすよー」


 樋口が手を挙げてそう答えた。するとルドリスさんは樋口に向かって、


「うちの妹をお前たちのギルドに入れてあげて欲しい」


 と言った。俺は何を言われたのか理解できていなかったが樋口は二つ返事をした。


「いいでしょう!」


 と答えた。流石の東堂も話についていけておらず、待ったをかける。


「ちょ、ちょっと待てください!急すぎて話が分からないんですけど……」


「実はな、アルシアがお前らのギルドに入りたいと言っていてな。ほんとに妹を任せて良いのか不安だったがさっきの戦闘で確信した。うちの妹をよろしく頼む」


 そう言うと、ルドリスさんは俺たちに向かって頭を下げた。

 俺たちに断る理由はないので、アルシアが送ってきた『ギルド加入申請』を承認した。これでアルシアは正式にギルドメンバーとなった。


「ありがとう!これからよろしくね!」


「さて、今日は遅いからもう寝るといい。部屋は用意してあるからのう」


 アルシアの家に戻るとシュロさんにそう言われ、俺たちは寝ることにした。俺が貸してもらった部屋に行こうとすると、ルドリスさんに呼び止められた。


「これを部屋で焚くといい。よく眠れるからな」


「あ、ありがとうございます」


 俺はお香のようなものを受け取り、部屋に戻った。




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 [堕天の城]

 ルシファーがスパイを命じていたシェムハザから1回目の報告が入った。応接間にはルシファーとその幹部たちが集まっていた。


「報告によると、シェムハザは例の若者に接触することに成功したようです。また、生け捕りにするために、堕天使との親和性を高める薬を盛ることに成功したとのことです」


 グザファンの報告に耳を傾けていたルシファーはニヤリと笑った。


「上手くやっているようだな。エリアボスの強化の方はどうなっている?」


「はっ。ダクニル地方とパールナー地方のエリアボスは突破されてしまいました。他の地方も時間の問題かと……」


「構わん。時間さえ稼げればすぐにグザファンの送り込んだ者が転移先の用意をするだろう。グザファン、そちらはどうなっている?」


「はっ。問題なく、外の住人は事故に見せかけて全員始末したとのことです」


「よろしい。全員、そのまま自分の仕事を続けるが良い」


「「「御意」」」


 幹部がぞろぞろと帰っていく。

 完璧だ。ルシファーは自分の計画が問題なく進んでいることに安堵し、唯一の不安要素への対策を始めた。

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