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第2話「面接」


「面接を始めます。」

「…。」



例えばの話をしよう。


読者諸君に恋人がいたとする。

素敵な人間だと思い付き合ったが、蓋を開けてみればそいつは平然と人前で鼻くそをほじり、満員電車の中で糞尿を撒き散らし、ゴキブリの素揚げをパクパク食べるイカれたド変態だったのだ。


しかし、相手はこちらにゾッコンで、別れ話を切り出したら怒り狂って殺されかねない。


ならばどうすればいい?



嫌われるしかないだろう。

畢竟(ひっきょう)、この面接とはそういう勝負なのだ。



「まず、自己紹介をお願いします。」


「…。」


「あの、自己紹介…。」


「……。」


こんな奴らに個人情報を与えてたまるか。沈黙を貫いてやる。


「あ、サリーさん。この男のカバンの中から履歴書が出てきましたよ。やっぱりちゃんとした面接希望者じゃないですか。」

「よくやったわともちん!これでこの人のことが手に取るようにわかる!」


しまった…。履歴書を持ってきていたんだった。

ていうかコイツら何勝手に人のカバン漁ってるの。どんな神経してやがるんだ。


「ふむふむ…。松瀬(まつせ) (じゅん)さん、年齢イコール彼女いない歴30年、初恋の相手は山本いのりちゃん。」

「待って、何その履歴書。一体何の履歴を書いてるの。」


確認を怠った俺の失態でもあるが、何でアイツがそんなこと知ってるんだ…。


「大学時代にモテたくてダンスサークルに入ったが、周りのテンションについていけずに完全に孤立。一人で勝手に踊っていた様はまさしくダンサーである。うわぁ…何これかわいそう…。」

「面接にこんな履歴書もってくるなんて相当ヤバイですねこの男。」


「うるせぇ!!それは妹と、多分おふくろもグルだ!あいつらが勝手に書いたんだよ!!」


実はあいつら俺に再就職させる気無いんじゃないの。もっとマシな履歴書作れよ。


「コホン…!では気をとり直して、弊社を志望した理由を教えてください。」

「いや、志望してないんだけど…。」


「なるほど。しかし、履歴書にはしっかりと志望動機が書いてありますね。読み上げさせていただきます。」

「いや、結構です!マジでやめて!!」


『私には歳の離れた一人の妹がいます。妹は健気で、優しくて、可愛くて、同じ人類とは思えない程に完璧な存在です。会社を辞めて、自室でいつものようにゲームをしていたある日、妹が私に向かってこんなことを言いました。「お兄ちゃん、早く再就職しろよ。」と。雷にうたれたような感覚でした。この妹は何て兄想いなのだろう。私は誓いました。妹に全てを捧げると。なので、妹に言われた通り、どこか適当な場所に再就職しようと思い、貴社を志望させていただきました。』



酷すぎる…。アイツまじで何がしたいの…?


「私はこれを見て、とても感動しました。」

「どこに!?」

「お兄さん想いの良い妹さんだなぁと…。」

「志望動機関係ないよね!?」

「いやいや、どう考えてもキモイですよこれは。志望動機の大半を妹のことで埋め尽くすとか、シスコンすぎて引きますよ。」

「こら!ともちん!そういうことは思っても口に出しちゃいけません!」


死にたくなってきた…。

涙目になった俺を見て、サリーさんが慌てだす。


「つ、次の質問です!ご趣味とか教えていただけますか?」


「…。草むしりです。」


「なるほど、草……はい?」

「草むしりです。」


「…な、何で草むしりが好きなんですか?」


「いやぁ…。何か落ち着くんですよね。草をむしったときのあのプチプチ感。楽しくないですか?よく休日に公園の草とかむしってるんですよぉ…。はは…。」


「そ、そうなんですか。素敵なご趣味をお持ちなんですね。」

「ぶふぅ…!!趣味が草むしりって…、何が楽しくて生きてるんですかねぇこの男は…!ぷぷぷ…!」

「こら!ともちん!だから思っててもそういうこと言わないの!」

「サリーさんだって笑ってるじゃないですか!趣味が草むしりなんて聞いたら逆にこっちが草生えちゃいますよねぇ…!!ぷすす…!」


「…。」


「あーもう、ほら!松瀬君が遠い目をし始めちゃったじゃない!どうするのよこれ!絶対入社してくれないよ!」


「面倒臭いですねぇ…。この男に入社する意思があるか無いかなんて関係ないんですよ。要はこの男が入社せざるを得ない状況を作ればいいんです。」


「ど、どうやって…?」


「任せてください。私に考えがあります。」


そう言うと、ともちんさんはスッと立ち上がり、掌をこちらに向ける。

まただ。また彼女の手に謎の光が集まっていく。そして今回は俺の体にも…。

次は一体どんな痛いことをされるのだろう。ははは…。


「待ってともちん!無関係な人の前でそれは…!」

「サリーさん。もう今更ですよ。1階で私の魔法を目にしたその時から、この男は私たちのいる世界とは無関係では無くなったんです。」

「そうだけど…、、」


魔法…?やっぱりこの女子高生は魔法を使っていたのか…。

現実離れしていて脳が理解を拒んでいるが、次の瞬間そんなリミッターはことごとく砕け散ることになる。


支配(コントロール)!」


彼女がそう言った直後、俺の身体が自分の意思とは関係なく勝手に動き出す。


「効果は限定的ですので手短に済ませましょう。サリーさん。この男の動きを封じているロープを解いてあげてください。」

「え、あっ、うん!」


身体は自由になったが、ロープに縛られていた時の方がマシだと思う程に自由が効かない。


「解いたよともちん!で、これからどうすればいいの?」


「はい。ではサリーさん。服を脱いでください。」

「わかっ……、はぃ……?」


「ですから、服を脱いでください。」

「いやいやいやいやいやいやいやいや!!何で!?」


「鈍いですねぇ。この男がサリーさんを襲っている姿を写真に撮れば、もうこの男は私達に逆らえないではないですか。」


「なっ…!?お前…!脅迫するつもりか!!」

「ええ。何か問題でも?」

「い、言っとくが俺は脅迫には屈しないからな!!そんな写真あったところで俺の意志じゃないし!」

「あなたがいくら無実を主張したところで、物的証拠を持ったこちらと、何も無く只々無実を主張しているだけのあなた、果たして法の番人はどちらの言い分を信じるでしょうか。」

「き、きったねぇえええええええ!!!」

「まぁまぁ、いいではありませんか。弱みを握られる代わりといっては何ですが、サリーさんの生おっぱいを揉ませてあげますから。さぁ、サリーさん!さっさと脱いでください!」

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!!」


「ちっ、面倒臭い人ですね。松瀬さん、身体借りますよ。」

「おおおおおおお!?」


自分の意思とは無関係に、俺は勢いよくサリーさんを押し倒す。

そしてシャツに手をかけ、ボタンを引きちぎっていく。

その様子をともちんが次々とスマホで写真に収める。


「おほほ…!良いのが撮れてますよぉ〜!」

「ちょ、まってほんとに!!!今日はその、下着可愛くないやつだからああああああ!!!」

「え…。サリーさんブラ着けてたんですか…?」

「ヒドイ!!一応着けてるよ!!」


一応なのか…。


「ちょっとまって!!!本当にこれ以上は!!やめっ、、や、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」





拝啓 残暑の候、お母様、お元気でしょうか。僕は今日、生まれて初めて肉親以外の女性のおっぱいを触りました。でも正直、自分のお尻の方が肉厚で柔らかかったです。敬具






「ただいま〜…。」


強烈な疲労感が全身を襲い、帰宅するなり俺は玄関に倒れ込む。


「あっ、お兄ちゃん、お帰り〜。」

お帰り〜じゃねぇよ。ぶん殴るぞコノヤロー。


「どうだった?面接は?」


「…。明日から働くことになっちゃった…。」


「え、本当に!?良かったじゃんお兄ちゃん!!!!…………何で泣いてるの……?」


「いいか奈優。俺はお前のことを絶対に許さない!絶対にだ!」


「えぇぇ!?何でそんなに怒ってるのお兄ちゃん!?」



働きたくない…。

まじで働きたくない…。


明日からのことを思うと、食事が喉を通らないほどに憂鬱だ。


魔法やら何やら頭のおかしいあの会社で、俺は明日から一体どんな労働をさせられるというのだろうか。



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