初めてのクエスト(前編)
ソアルとメイリンの勝負が終わった後、ソアルが見てみたいと言うので俺達は冒険者ギルドへと向かった。冒険者ギルドは3階建てとなっており、1階がクエストの斡旋所、2階が会議などに使う貸し出しの多目的ルームが6つ、3階はギルドマスターの部屋となっている。ギルドに来るのも2ヶ月ぶりくらいだ。ギルドに顔を出すと顔馴染みの冒険者仲間がメイリンと同じように、生きてたのかとか、魔王を倒したのかとかいろいろ聞かれた。少々面倒だったが皆俺の無事を聞いて良かったと言ってくれたので嬉しくもあった。
「おお、ここが冒険者ギルドなんですね。マンガやゲームで見たのと似た感じだなぁ。クエストボードってどこだろう?」
ソアルのテンションが上がっている。そんなに珍しいかな?
「皆さんこれ!このクエストやりましょうよ!」
なになに?
~指輪を探して下さい~
妻との結婚指輪を無くしてしまいました。見つけてくれた方に銅貨3枚差し上げます。
指輪探しか簡単そうだし、いいんじゃないだろうか。でもその前に。
「ソアル、クエストを受ける前に冒険者の登録が必要だけど大丈夫か?」
「何か問題があるんですか?」
「いや、登録は向こうの受付で登録石に自分の魔力を注ぐだけの簡単なものなんだけど、そのときレベルが受付の人にバレてしまうんだ。あんまり目立ちたくない様だったらやめといた方がいいと思う。」
「そうですソアル様、安全な旅行のためには控えて下さい。」
「う~ん、でもやっぱりクエストやってみたいので登録します。」
「ソアル様!」
「皆何をそんなに気にしてるの?たかが登録でしょ?」
俺とレクレイの心配をよそにソアルは受付へと向かった。レクレイはまた頭を抱えている。
「あの~冒険者の登録をしたいのですが。」
「わかりました登録ですね。こちらの石に魔力を注いで下さい。」
「はい。えいっ。」
「はい、登録されました。ん、ちょっとおかしいですね。もう一度やって見て下さい。」
「わかりました。えいっ。」
「ん~故障したのかな?」
「もしかしてレベルですか?私のレベル1725なんですよ。」
「えっ、ん、えっ!?」
「もう登録大丈夫ですか?」
「・・・はい。」
受付の女性はまだ困惑している。無理もないソアルのレベル嘘みたいだもんな。でも、そんなに騒がれなくて良かったかな。その後はレクレイも冒険者登録を行った。このとき初めて知ったがレクレイのレベルは92だった。意外とあったんだな。そんな感じに登録は終わった。さて、早速さっきのクエストをやりますか。ソアルはクエストボードから指輪探しの紙を取り受付に向かう。
「クエストの受付ですね。はい、受付しました。このクエストの依頼主はゴードンという方です。住まわれている所の地図をお渡ししますので詳しくはご本人から聞いて下さい。」
俺達は地図を受け取った。
「うわ~なんだかワクワクします。」
楽しそうで何よりだ。地図を頼りにカルストの町の住宅エリアへ向かった。え~と大きな通りの南側から2つ目の十字路を西に進んで5つ目の北側の家っと。ここかな?家の中に人影が見える。
「こんにちは!ここはゴードンさんの家ですか?」
「こんにちは。私がゴードンですが、何か用ですか?」
「あの、指輪探しの依頼を受けて来たんですけど、お話を伺ってもいいですか?」
「ああ、依頼を受けて頂いてありがとうございます。どうぞ中へお入り下さい。」
俺達はゴードンさんのお宅にお邪魔した。
「指輪を無くしたのは1週間前になります。商業エリアで買い物をしに行ったときです。気付いたら無くなっていて、どこに落としたのやら、自分でも探したんですが見当たらなくて、それで依頼を出したという訳です。」
「どの店の辺りまで持っていたかわかりますか?」
「そうですね、果物屋の辺りまでは記憶にあるのでその後だと思います。」
念のため指輪の特徴とその日通った道を地図に書いてもらった。
妖精を模した装飾が施された指輪らしい。結構特徴的だからすぐに見つかるだろう。
「それでは皆さんよろしくお願いします。」
それから俺達はゴードンさんが通った道を隈無く探した。見つからないな。ゴードンさんも探して見たと言っていたし、誰かが拾って持っていったのかもしれない。俺は念のため商業エリアにある装飾品屋や質屋を見て回ることにした。店を見て回ること4軒目だった。そこに例の指輪があった。やっぱり誰かが拾って売り払ったのか。店主に事情を話してみるが買い取ったものを渡す訳にはいかない、お金を持ってこいと言われるだけだった。お金を払うのはなんか違う気がするな。売りに来たヤツにお金を返してもらおう。店主に話を聞くと指輪を売ったのはナリアというゴロツキらしい。いつも居るという場所を聞けたのでこれから会いに行ってみよう。っとその前に。店主に指輪を売らないように言っておいた。お金の話がついても指輪が無かったら意味無いもんな。俺は皆の元に戻り、事情を話した。
「なんだか面白くなって来ましたね。」
「ソアル様無茶はダメですよ。」
俺達はナリアが居るという商業エリアの路地裏へと向かった。そこは昼間なのに薄暗くなんだかじめじめしていた。ソアルは会う人会う人に声をかけた。特徴を聞いておけば良かったな。
「誰だお前ら。」
路地裏の奥からごつい体つきの短髪の男がやって来た。どうやらその男がナリアの様だ。
「お前がナリアか、最近指輪を拾って売ったと思うんだがそれを無くして困っている人がいてな。指輪を取り戻すためにお前が受け取ったお金を装飾品屋へ返してほしいんだ。」
「けっ俺が知ったことか、それよりお前ら金回りが良さそうだな殴らないでやるから金目のものを置いてきな。」
頭の悪そうなヤツだな。さて、誰が相手をするか。俺とレクレイとメイリンはじゃんけんをした。結果俺が相手をすることになった。めんどくさいな、さっさと終わらせるか。俺はナリアに向き合った。
「なんだ、お前がやるのか?俺様に楯突くぐはあっ」
待ってられるか。俺はナリアが話終わるのを待たずナリアの腹に一撃を入れた。ナリアが悶えている間に襟を掴む。
「まだやる?」
「すっすみませんでした。でも金は無いんです。シルバ、シルバってヤツに有り金全部取られたんです。」
「えっシーちゃん!?」
「メイリンさんお知り合いですか?」
「うん、私とゲイルの冒険者仲間なんだけど、ちょっとやんちゃなんだ。」
「そうそう、俺もケンカを売られて知り合ったんだ。まあ話せばわかるヤツだよ。」
日も暮れてきたこの時間ならギルドの近くの酒場に居るだろう。さて、シルバに会いに行くとするか。