マレーの丘の襲撃
ライドンの町を出発して2時間ほどだろうか、馬車は道の分岐に差し掛かった。片方がマレーの丘へ行く道、もう片方がサウラス川へ行く道だ。今目指しているカルストの町へ行くにはどちらでも行くことができるが、レクレイが聞いた話では盗賊はサウラス川方面に出没するらしいので、マレーの丘へ向かう道を進んだ。
「ゲイルさん、今から行くカルストの町ってどんな所ですか?」
「そうだな、一言で言うと冒険者の町だな。ライドンの町では人と魔物が仲良くしていたが、一般的に人間にとって魔物は討伐するべき対象になっている。カルストは魔物の国に近いだろ、だからよく魔物の討伐クエストが発注される。そして、仕事を求めた冒険者が各地から集まっているのさ。」
「なんだか行くのが怖くなってきました。私殺されないですよね。」
「ソアルなら見た目は人間の女の子だし問題ないと思う。後は、レクレイにソアルのこと魔王様って呼ばないように言っておけば大丈夫だろう。それに怖いものばかりじゃないさ、娯楽施設や店が多くあるし、十分楽しめると思う。」
ソアルって思ってたよりも臆病だな。ソアルを殺せるヤツなんていないのに。それから馬車はマレーの丘に入った。丘は色鮮やかな花がで埋め尽くされていた。
「レクレイさんお願い馬車をちょっと止めて下さい。」
「魔王様どうされましたか?」
「花を近くで見てみたいんです。」
「そういうことですか。わかりました。」
馬車が止まり皆花畑に移動する。
「わぁ~キレイ。写真を撮りたいけどカメラが無いのが残念。誰か発明しないかな。」
ソアルがはしゃいでいる。確かに見渡す限りの花畑はいいもんだ。
ガサガサ。
ん?花が動いた?
ガサガサ、ガサガサ。
間違いじゃない、花畑の一部が動いている。それも1ヶ所じゃない、1、2、3、4・・・って多すぎる。
「ソアル、馬車に戻れ!レクレイ、剣を抜け!」
「えっ?」
花畑に扮していた盗賊が一斉に襲ってきた。俺は剣を抜き構えた。ソアルは状況に気付いた様であたふたしている。仕方ない。俺はソアルの手を引き馬車へと向かった。レクレイも警戒しつつ馬車へ向かう。思っていたよりも盗賊達の足が速い。ソアルの手を引いたままだとこれ以上スピードをあげられないし戦うか。
「ソアル、俺から離れるな!」
盗賊は2人同時に剣で斬りかかってきた。避けたらソアルに当たるかもしれない。俺は剣を素早く振り2つの剣を弾いた。盗賊が2人が仰け反っている隙に二撃を与え戦闘不能にした。レクレイの方を見ると、レクレイにも盗賊が2人まとわりついていたがレクレイも剣の腕は確かなようであっさりと盗賊を押さえ込んだ。
ヒヒーン。
振り向くと馬車が走り出していた。盗賊が奪って逃げ出した様だ。走ろうにも馬車に追い付けない。斬撃を飛ばすにも狙いが定まらない。何か方法は・・・。そうだ、盗賊の男を1人捕まえてアジトの場所を吐かせよう。辺りを見回すと盗賊達は逃げようとしていた。逃がすか!俺は近くにいた1人に一撃を与え気絶させた。
「一体どういうことだ。私はサウラス川方面に盗賊が出ると聞いたのに全然話が違うじゃないか。」
「恐らく盗賊の仲間がライドンの町で嘘の情報を流して、マレーの丘に流れる様にしたんだと思う。」
「なんと、私は騙されたというのか。」
「まあ仕方ないさ。今は馬車を取り返すことを考えよう。」
俺は気絶している盗賊の頬を叩き、起こした。そして首に剣を当てた。
「おい盗賊、お前達のアジトの場所を吐け。さもなければわかっているな。」
「言わねえよ。殺すなら殺しな。」
さてどうするか、そうだ、こいつを泳がせてアジトへ案内させよう。
「そうか、ならばお前を一旦拘束させてもらう。」
俺は取り敢えず盗賊の上着を脱がしその上着で手を縛った。
「ゲイルさん、レクレイさんこれからどうしましょう?」
「そうだな馬車がないと今日中にはカルストには着かないから安全な場所を探して野宿の準備をしよう。」
それから辺りを探し雨風をしのげそうな小さな穴があったのでそこで休むことにした。そして夜まで待ち、俺は横になり眠った振りを装った。ソアルとレクレイにはまだ作戦を伝えられていないからぐっすりと眠っている。
ガサガサ。
よし動き出した様だ。俺は急いで2人を起こした。
「どうしたんですかゲイルさん。」
「ヤツが動いた。恐らくアジトへ戻るだろう。追うぞ。」
「なんとそうだったか。でかしたぞゲイル。」
俺達は盗賊の後を気付かれないように距離を取りながら追った。30分くらい歩いただろうか俺達は丘の近くにある森に入っていた。多くの木が生い茂っていて身を隠すにはいいんだろうな。おっ何か建物が見えてきた。さらに近づいてみると2階建ての大きな屋敷だった。屋敷の外には俺達の馬車が止まっている。泳がせた盗賊が屋敷の中に入っていった。どうやらここがアジトの様だ。俺達は馬車に近づき中を確認した。やはり積み荷は残っていなかった。やれやれ取り返しに行くか。
「ソアル、ここで待っていてくれ。レクレイ、盗賊達を懲らしめに行くぞ。」
「わかった。魔王様行って参ります。」
「2人とも気をつけて。」
俺とレクレイは屋敷に突入した。中に入るとざっと見て盗賊が20人は居た。ふう、多いな。
「おめえら、何者だ。」
「馬車と荷物を返してくれ。そうしたら、何もしない。」
「ハ~ハッハ。盗られたもん取り返しに来たのか。返す訳無いだろ、バ~カ。」
「交渉決裂っと、やるかレクレイ。」
「ああ、こういう奴等は徹底的にやろう。」
俺とレクレイは剣を抜いた。すると左右の側面から1人ずつ斬りかかってきた。遅いな。俺とレクレイは攻撃をかわし、がら空きの背中に一撃を与えた。
ザワザワ。
「数だ、数を利用して攻めろ。」
今度は残ってきた盗賊全員が束になってかかってきた。やれやれ、面倒だからちょっと本気を出してやろう。〝疾風迅雷〟
シュッシュシュシュシュシュ、シュッシュシュ。
目にも止まらぬ速さで盗賊達を攻撃していく。
ドタドタドタドタドタドタ。
さっきまで立っていた盗賊達は全員その場に倒れた。暫くは寝たままだろう。ふう、疲れた。
「悪いレクレイ、全部やってしまった。」
「構わない。それにしても随分素早い動きができるんだな。これなら馬車を盗まれる前に追い付けたんじゃないのか?」
「それは無理だ。短距離走があるだろ、あれと同じで短距離ならものすごいスピードが出せるが息が上がって持続できないんだ。あのとき結構距離が離れてたからな追い付く前にこっちがへばってたと思う。」
「そうか、まあいい。取り敢えず取られたものを探すとしよう。」
1階面を探してみたが見当たらない。2階か。俺達は階段を上がった。2階に上がると扉が1つあった。扉を開けると盗賊のボスの様な髭面の男が机に足を上げふんぞり返っていた。
「何だ、お前ら?下の奴等はどうした?」
「下の連中なら全員寝てる。さあ盗った荷物を返せ。」
「くそっ」
盗賊のボスはその場から逃げようとしたが、逃がすはずがない。俺は剣を投げ盗賊のボスの服を壁に止めた。
「レクレイ、俺はさっきやったからどうぞ。」
「よし、では。」
レクレイは盗賊のボスに三撃を与えた。よしこれで盗賊は全員片付いただろう。さて荷物は~っと。おっ扉がある。この部屋の隣にもう1部屋あるようだ。扉を開けると盗賊達が盗ってきたであろう物が置いてあった。あったあった。俺とレクレイは荷物を回収し馬車へと戻った。
「ゲイルさん、レクレイさん、大丈夫でしたか?」
「ああ、何ともないよ。」
「それは良かった。」
馬車に乗り込み出発する。これでやっとカルストに行ける。まあ何にしても全員が無事で良かった。
ぐ~。
そういえば朝食食べた後から何も食べてないしお腹空いたな。早くカルストに着かないかな。夜の道を馬車は進む。