ライドンの町
ガタガタ、ガタガタ。
道が悪いためか馬車が揺れる。人間の国を目指して城を出発してから10日が経過した。もう少しで魔物と人間の国の境に到着する。行く先々の村や町を経由して休み休み来たが順調に進んでいると思う。何せ俺が歩いて魔王の城へ行ったときには1ヶ月以上かかったからな。まあそれは行く途中で魔物と何回も戦ったりしたのが原因だろう。今の旅行はそんなこと気にしなくてもいいから楽ができる。これもソアルのおかげだろう。
「ゲイルさん、もう少しで人間の国ですね。ワクワクしてきました。」
「それは良かったな。って言ってもこっちはソアルの護衛だからちょっと心配だな。」
「でも守ってくれるんですよね。」
「まあこっちも命がかかっているからな。あんまり1人にはならないでくれよ。」
「わかってますよ。でもちょっとぐらいは許してくださいね。」
ヒヒーン。
馬車が止まった。外を見るとどこかの町に到着した様だ。
「魔王様、人間の国の前に準備がありますので一旦この町に寄らさせてもらいました。」
「レクレイさん、ここはどこですか?」
「ここは魔物と人間の国の境にあるライドンの町です。これから人間の国へ行くのに我々の扱う硬貨と人間の扱う硬貨が違うのでこの町で両替するのです。」
なるほどな。硬貨が違うと使えないもんな。馬車を降りると人間の子供と魔物が居るのが見えた。一瞬危ないと思ったがどうやら一緒に遊んで居るようだ。辺りを見回すと人間と魔物が共存して暮らしているのがうかがえた。こんな町があったとは知らなかった。
「魔物と人間が一緒に暮らしてるなんていい町ですね。」
ソアルはにっこり笑いながらそう言った。そうだな、俺もなんかいいなって思う。
「ゲイルさん、いろいろと見て回りましょうよ。」
「いいけど、レクレイの用事が先じゃないか?」
「両替くらいレクレイさん1人でできますよ。ねっレクレイさん。」
「わかりました。ゲイル、両替は私1人で行くから魔王様を頼むぞ。」
レクレイに別れを告げてソアルと2人町を散策することに。まずはいろいろな店を見て回ることにした。立ち寄る店は全て人間用と魔物用の両方を扱っている。さすがに人間と魔物、両方住む町で差別なんてできないよな。とある店の前でソアルが止まった。アクセサリーの店だ。
「どうだいお嬢さん、いいものが揃ってるだろ。」
ゴブリンの店主が出てきた。城から大分離れているせいかソアルが魔王だとは知らない様だ。
「そうですね。このペンダントとかいい感じです。」
ソアルが鳥の形した飾りのついたペンダントを指差しながらこっちを見て訴えてくる。
「はいはい、店主いくらだ。」
「毎度、人間の銅貨で2枚だ。」
俺は袋から銅貨2枚を取り出し店主へ渡した。ソアルはペンダントを首にかけて嬉しそうにしている。
「ゲイルさん、ありがとうございます。大切にしますね。」
銅貨2枚くらい安いものか。その後もいくつか店を回り、お昼になった所で馬車に戻りレクレイと合流した。
「お帰りなさいませ魔王様。」
「ただいま、レクレイさん。両替の方は上手くいきましたか?」
「はい、問題無くできております。」
「そうですか。それじゃあお昼ご飯食べに行きましょう。」
俺達は町の中心にある食堂へと向かった。食堂は人気があるのか席が大分埋まっていた。奥の方に空いているテーブルが1つ見つかったのでそこに座った。しばらくすると女性のオーガの店員がやって来た。
「いらっしゃいませ、ご注文は何にしますか?」
「あの、ここ初めて来たんですけどオススメは何ですか?」
「オススメは厚切りステーキ定食です。厚さ5cmほどに切ったステーキですが柔らかく噛むと肉汁がジュワッと出てくるんです。絶品ですよ。」
「ならそれにしようかな。2人はどうするんですか?」
「俺もそれにするよ。」
「私もそれにします。」
「厚切りステーキ定食3つですね。少々お待ち下さい。」
厚切りステーキ定食か結構ボリュームがありそうだけどソアル食べきれるのかな?まあ料理が出てこないとどんなのかはわからないか。
ガタン。
少し離れた席で何やら大きな物音がした。顔を向けると人間の男3人がさっきのオーガの店員を相手にしていた。
「おい、この店魔物くせぇーんだよ。どうにかならねえか?」
「そう言われましても、ここは人間と魔物が共存する町ですし・・・。」
「はぁ、知らねえよそんなの。俺がお前達全員狩ってやろうか?ハハハ。」
まったくバカはどこにでもいるもんだ。どれ、ちょっと懲らしめて来ようか。席から立とうとしたとき、回りのテーブルに座っていた客が全員立ち上がった。人間も魔物も。
「おい兄ちゃん、気は確かかい?俺達全員を相手するだって?」
「こういうことは考えて言った方が身のためだぜ。」
男達3人はビビっている様で手や足が震えている。
「兄貴ヤバいですよ。逃げましょうよ。」
「ああ、今日の所は止めといてやるよ。」
男達は一目散に店を出ていった。ふふ、アホだなぁ。店員の娘は客の全員にお礼を言った。
「凄かったですね。なんかこう町の人皆が怒って。私やっぱりこの町好きだなって思いました。」
ソアルがはしゃいでいる。確かに人間と魔物の両方がって所が凄いよな。罵声を浴びたのは魔物側なのに。それだけこの町の住民は仲がいいってことだよな。そうこうしていると料理がやって来た。分厚いステーキはナイフがすっと通るほど柔らかく、口に入れると旨味を多く含んだ肉汁が口いっぱいに広がりとても旨かった。ソアルにはやっぱり量が多かったらしく俺とレクレイで残りを食べることになった。ふう、満足満足。昼食の後これからどうするか話をしたら次の町まで半日かかると言うので今日の所はこの町で一泊することになった。宿を取ると日暮れまで大分時間があるのでソアルに連れられて再び町を散策したり、町の子供達と遊んだりした。やっぱりソアルって魔王だとは思えないな。
「ふう、遊んだ遊んだ。ゲイルさん、レクレイさんそろそろ宿に戻りましょうか。」
ソアルは満足そうだ。結構あちこち行ったもんな。宿へ戻ると宿の食堂で夕食にした。昼食を食べ過ぎたので皆注文は少なめにしていた。夕食を食べ終わると部屋に行き明日に備え寝た。翌朝起きて部屋を出るとソアルとレクレイ廊下で話をしていた。
「起きたかゲイル。今起こそうかと思っていたがちょうどいい。」
「何かあったのか?」
「実はな、今日通ろうとしていた道の近くに盗賊が出るといううわさを聞いてな少し迂回をしようと考えていたのだ。なに少し遠回りとなるが今日中には次の町に着くので問題はない。」
「そうですね、安全な方がいいですもんね。レクレイさんお願いしますね。」
盗賊か、まあ面倒なことは避けるのが一番だよな。それから朝食を取り、食べ終わると身支度を済ませ出発した。さて、いよいよ旅行の本命だ。俺にとってはただの里帰りみたいなもんだけど、ソアルが楽しめたらそれでいいや。馬車は進む人間の国を目指して。