魔王を討伐しよう
魔王それは魔物どもを束ね、人に災厄をもたらす最恐の存在、人類の敵だ。その体は5mを超え、腕は6本、頭には角を生やし、吐く息は全てを焼き尽くすと言われている。人類もあらゆる手を尽くして魔王を討伐するが、厄介なことに倒してもその10年後に新しい魔王が誕生してしまう。人類は日々魔王のことで悩みながら暮らすのであった。
俺の名前はゲイル、冒険者をしている。小さい頃から魔王を討伐し英雄となることを夢見ていた。俺が10歳のときだ前の魔王が討伐された。そして今年が魔王が討伐されて10年目になる。そう、新しい魔王が誕生する年だ。俺は魔王を討伐するためこの10年必死に自分を鍛えた。レベルは今138で周りの冒険者より抜き出ていて、そこらの魔物は一撃で倒すことができる。装備も一級品を揃えた。これなら魔王を倒せる。そう確信を持った俺は1人魔王の住む城へと向かった。魔王の城に着くとそこは魔物の巣窟。おびただしい数の魔物が行く手を遮る。だが俺はそれをものともせず突き進んだ。城の中に入ると強そうなドラゴンニュートが居た。面白い魔王戦の前の肩慣らしだ。
キン、キン、キン、キン。
剣を交える。なかなかやるな、だが。
ザン。
ドラゴンニュートの肩から腹にかけて刃が入る。ドラゴンニュートは倒れ動かなくなった。城の奥へと進むと今度はアークデーモンが現れた。やれやれ次から次へと。アークデーモンは距離を取りながら魔法で攻撃をしてくる。ちっ面倒だな、はああああ、ふん。
シュパーン。ドサッ。
剣から斬撃を飛ばしアークデーモンの首をはねた。さて、レベルも142に上がったし、行くか。さらに歩を進めると大きな扉があった。この先に魔王が。一つ深呼吸する。ふう、よし。扉を開けた。あれ?魔王が居ない?5mを超える巨体だろ?そんなヤツ何処にも見当たらない。周囲を見渡してみる。誰か居る。近づいて行くと、16歳くらいのドレスを着た黒髪ロングの少女が居た。何故こんな所に?
「おい、お前ここで何してる?」
「あっこんにちは。」
少女がお辞儀をしながら挨拶をしてきた。
「こんにちは、じゃないだろ!何を呑気に。お前は魔物どもに連れ去られてきたのか?」
「いえいえ、ここが私の家なんです。」
「はあ、ここは魔王の城だぞ!」
「ですから、私が魔王ですよ。」
「ハイハイ、冗談はいいから。」
まったく何を言ってるんだか。少し呆れる。
「あー信じてないですね。まあ私は見た目は人間ですけど、本当に魔王なんですよ。前の世界で死んで神様から、あなたは魔王に転生して下さいって言われてここに居るんですから。」
「転生ね~。どうにも信じられん。」
「まあ、もう信じなくてもいいですよ。それで今日は何しにここへ来たんですか?」
「魔王を討伐しに来たのさ。」
「ええっ、私殺されるんですか!?」
少女はびくびくした様子で後退りする。
「だから、お前が本当に魔王だったらの話だ。」
ダダダッ。
先ほどとは違うドラゴンニュートがやって来た。
「魔王様、お逃げ下さい。そやつは賊です。」
魔王様ってことは本当に目の前の少女が魔王なのか。う~ん、未だに信じられないが殺るか。剣を抜き構える。
「魔王。お前には恨みは無いが、人類のために死んでくれ。」
「待って下さい。話し合いましょうよ。」
俺は話など聞かず、斬りかかった。魔王は腕で顔を守った。
キン。カラン、カラン、カラン。
えっ。けっ剣が折れた!?どうしてだ!?腕を斬ったはずだ。
「あっあれ。斬られたはずなのに痛くない。」
「どういうことだ。お前何か仕込んでたのか?」
「いやいや、何も無いですよ。もしかしたらレベルかな?」
「レベルだと俺は今142だ。そこそこ強そうな魔物も簡単に倒せる力だぞ。」
「そうなんですか?私はレベル1725ですけど?」
「せっ1725!?どっどうしてそんなにレベルが高いんだ!?転生したばかりだろ!?」
「それはですね、神様にお願いしたんです。魔王になっても勇者とかにすぐ殺られない様に強くして下さいって。」
嘘だろ!?でも俺の剣が折れたのもそれだけのレベル差があれば起こりうるのかもしれない。だとしたらどうやっても敵う相手じゃない。俺もここまでか・・・。
「魔王、俺にお前は倒せない。殺るならやれ。」
俺は折れた剣を投げ捨て、その場に座った。
「待って下さい。私、人殺しなんてできないですよ。」
「殺さないのか?俺はお前を殺そうとしたし、お前の配下の魔物も大勢倒したんだぞ。」
「まあそうですけど、私はなんともないし、それにこの世界に来たのは最近で魔物さん達のこともよく知らないし。」
「変わった魔王だなお前。」
「魔王様が殺らないなら私が。」
ドラゴンニュートが剣を抜き俺に近づいて来る。
「レクレイさん待って下さい。私この人と少し話がしたいです。」
魔王がドラゴンニュートを止める。
「魔王様がそうおっしゃるなら。」
ドラゴンニュートは剣を納めた。
「あの~名前を聞いてもいいですか?」
「俺か?俺はゲイル。話ってなんだ?」
「はい、私前世は人間だったので、人間さんとも仲良くしたいなと思うんですよ。ゲイルさんできると思いますか?」
「まあお前のその姿なら人間の中に入っても誰も魔王って気づかないし、普通に仲良くなれるんじゃないか。」
「本当ですか!じゃあゲイルさん人間の国を案内して下さいよ。」
「魔王様、何をおっしゃるんですか!人間どもは我らの敵ですぞ、それにこやつだって魔王様を狙った者ではありませんか!」
「少しくらいいいじゃないですかレクレイさん。だってこのお城の中お仕事ばっかりで退屈なんですよ。」
「それならば我が王国を回りましょう。それならば安心できます。」
「え~、だってこの前ちょっと街に遊びに出たら皆魔王様、魔王様って寄ってきて大変だったんですよ。人間の国の方が私のことを知らないからゆったりできると思うんですけど・・。」
魔王が俺にフォローしろと目で訴えて来る。魔王に見逃してもらった身だ仕方ないか。
「レクレイだっけ、魔王なら心配ないと思うぞ。俺の攻撃も効かなかったし、それだけレベルがあれば誰も傷つけることなんてできないさ。」
「黙れ賊が!貴様の話など誰が信用するか!」
効果なしだぞ魔王。俺には何もできそうにない。魔王は顔を真っ赤にして膨れ上がった。
「もうレクレイさんなんて知らない。ゲイルさん行きましょう!」
魔王が俺の手を取り歩きだした。
「魔王様お待ち下さい!魔王様!」
「おいおい、いいのかお前。」
「いいんです。私だって息抜きしたいんです。」
魔王はプンプンと怒った感じで扉へと向かった。
「わかりました、魔王様。ですから待って下さい。」
魔王はにか~と笑いレクレイの方を向く。
「レクレイさん、今言いましたね。じゃあ私遊びに行ってもいいってことですね。」
「はい、ですが条件があります。私も同行します。」
「え~レクレイさんは大臣の仕事があるじゃないですか。」
へ~レクレイって大臣なのか。でもドラゴンニュートを連れて歩くって目立たないかな。
「あまりワガママを言わないで下さい。これでもだいぶ譲歩してるんですから。」
「あのさレクレイ、ドラゴンニュートの姿じゃ人間の街には入れないと思うぞ。」
「そのくらいわかっておる。我が王国には優秀な魔法使いがおる。そやつに変身の魔法をかけてもらえば問題はない。」
なるほどな、それなら大丈夫だろう。
「魔王、レクレイが付いてきてもいいんじゃないのか?」
魔王はまた少し膨れ上がった後、元に戻り、ふ~とため息をついた。
「わかりました。ただあんまり口うるさく言わないで下さいね。」
なんとか話がまとまった様だ。
「ゲイルとか言ったな、貴様には呪いを受けてもらう。」
「なっなんだと!?」
「当たり前だ、貴様は魔王様を殺そうとしたのだぞ、そんなヤツ野放しにするわけがないだろう。貴様に与えるのは魔王様を攻撃しないことと魔王様を守ること、それから魔王様から逃げないこと、この3つを守らねば死を与える呪いだ。どうだ、殺さない代わりにお前は一生魔王様の盾だ。わかったか。」
まあ、殺されないだけでも良しとするか。
「そうだ魔王。お前の名前は何だ?人間の街で魔王と呼ぶわけにもいかないだろ。」
「そうですね。私はソアル。ソアル・サタン・ルウェリンです。」
「よろしくな、ソアル。」
「貴様、様をつけろ様を!」
魔王を倒しに来たのに魔王の僕になっちまった。面倒なことになったが仕方ないか。こうなればとことん魔王に付き合うとしよう。