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『むかしむかしある町に』

なにゃたにゃ

作者: はいいろ

木野かなた様企画、『ななたたな【星祭り】』参加作品。

 むかしむかしある町に、とても仲の良い家族が住んでおりました。


「俺、父さんに怒られるな」


 長男アシュリーンは活発で頼りがいのある男の子。


「もうおじ様五月蝿い!!」


 長女スエラはちょっとおませなしっかり者の女の子。


「ちゃまご!!」


 次女ミエラはちょこまか元気に動くまだまだ小さな女の子。


 そして三人の母であるリシャは穏やかだけど怒ると怖い母親で、その兄のエシュリーはとある事情により最近まで成長が子供の頃のままで止まってしまっていた利発な男の子です。

 三人の子供達の父親?勿論いますよ。

 子供のため妻のため、そして新しく増えた家族のために毎日せっせと働きに出ている頼れる一家の大黒柱。


 そして一家の住む町から西のほどにある森には『森の番人様』と呼ばれる不思議な存在がいたり、喋るおハナや喋る兎や小さな何かなど様々な生き物がそこで生きて暮らしています。


 そんな森に今宵どうやら次女のミエラがお使いに行くようです。




「じゃあミエラ、お願いね」

「うっ!みえら、いってくゆ!」


 まだまだ小さな女の子ミエラは意気揚々と母リシャに言いました。

 頭には赤い頭巾を被り、手にした篭には沢山の赤い赤い林檎の山を入れて。とても重そうに見えますが、どうやらミエラの様子を見るとそうでもない様子です。


「お婆様、ミエラがお見舞いに行ったらきっと喜ぶわ」


 ミエラは西の森に住むお婆さんにお見舞いの品の林檎を持っていくお使いを頼まれたようです。

 母リシャの言葉にミエラはにこーっと笑い使命を立派に果すため胸を張り仰け反ります。ですがそんな二人に物申したい人、いえ兎がいました。


『ちょっと待って』


 兎は言います。


『こんな夜中にミエラ一人で森に行かせるなんて何考えてるのさ。というか、あの森に君らのお婆様なんて住んでるはずないじゃないか。しかも赤い頭巾に赤い林檎に森のお婆さんにお見舞いにって完全に赤ずきんの世界観だよね。今流行りのパロディってやつなの。童話の赤ずきんのパロディってやつなのかな。敢えて違う所をって言えば時間帯が夜中って事だけれどそれでも完全なる赤ずきんの世界観だよねこれは』

「じゃあミエラ、お願いね」

「うーっ!」

『僕の言葉丸無視っ!?』


 そうしてミエラは西の森へと向かいました。夜の町は暗くて静かで不気味で小さなミエラにはまだまだ早いかと思われましたが、ミエラには頼れるお供が着いていたので安心でした。


『強制的連行に僕は驚きを隠せない!!』


 ミエラの腕の中兎が叫びました。わんわんわんと静かな町にその声が響き渡りましたが、誰かが町家から出てくる様子はありません。


「うしゃぎしゃんっ、にんじんのおだんごあげゆ」

『えっ!あ、ありがとう。これってリシャの手作りだよね。リシャの手作りお団子って凄く美味しくてもう僕虜なんだよねぇ。このもちもち感がまた堪らなく食欲を刺激す……って、お団子貰ったからって僕は着いていかないよっ!?強制的連行だから今更何を言った所で無駄だけどね!!というか、赤ずきんだけじゃなくここに来て桃太郎もパロるってどういう事さ!?もうパロるって言うかパクるだよねっ!?』


 そんな兎の叫び声にも町の中、家から出てくる人は人っ子一人いませんでした。


『……ねぇミエラ。今日なんか可笑しくない?』

「……?みえら、わかんない」


 何か可笑しい。不自然だ。ああでもお団子は変わらず美味しいな。リシャはいつも僕に合わせて薄味にしてくれるんだよね。リシャは本当に最高の料理人だよ。

 兎はミエラの腕の中、もぐもぐもぐとお団子を貪ります。


『……そういえば今日はやけに星が綺麗だけど』


 ふと夜空を見上げればピカピカと宝石を散りばめたかのように沢山の星達の息吹きがそこかしこにありました。いつもよりもずっとずっと明るく元気に闇夜を楽しみ話をしている様に見える、そんな星達の息遣いを見ていたら何かを思いだしそうな気がした兎でしたが、ミエラの足は止まる事なく進み続け、ついに一人と一匹は西の森へと辿り着いたのでした。


『ミエラ、夜の森は昼と違って性格に癖のあるやつが多いし人間に敵意を持ってる奴も少なからずいるから本当に危険なんだけど……。まぁ、僕が一緒だから下手に手出しはしてこないとは思うけど』

「おばあしゃまにあいにいくっ!みえら、おりんごとどける!!」

『ミエラが揺るがないんじゃもう行くしかないよね。っていうか既に入っちゃってるよね。お願いだから僕の話を聞く余裕というか理性というか冷静さというか落ち着きを持って欲しいんだけど、ってこの言葉も届いていない事は百も承知だけどね』


 ミエラはずんずんずんずんと迷う事なく森の中を進みます。その迷いなき足取りにさしもの兎も、もしかしたら本当にミエラのお婆さんが森の中住んでいるのだろうかと、そんな馬鹿げたことを考えてしまいました。


『いやいやそんな馬鹿な。だいたいこの森で人間が暮らせるわけが……』

『にゃにをぶつぶつ呟いているにゃ?兎』

「にゃんにゃん!」


 頭の上から降ってきた声にミエラや兎が頭上を見上げると、木の上でにやにやと笑う一匹の猫がその長いしましまの尻尾を揺らしながら二人を見下ろしていました。


『猫!久し振りだね』

『人間が連れて行っにゃとあの方に聞いて知っていにゃけど、もう戻ってきにゃにょか?』

『戻ってきたわけじゃないけど。って、そうか!僕、森に戻ってこれてるじゃないか!』


 兎はもともと森で暮らしていた森の住人です。ですが、とある出来事がきっかけで森に戻りたくても戻れずミエラの家でミエラ達と共に暮らしていたのです。


『良かった!元の生活に戻れるよ!なんか可笑しいなと思っていたけれど、これはまさに僕に対する天からの助けだったというわけかっ!!ありがとう神様!月に住まう兎神達よ感謝しま……って、み、ミエラっ、うっ、く、苦しいんですけどっ!』

「……うしゃぎしゃん、いっしょかえるもん」


 兎の言葉を聞いていたミエラがむすっとした顔で兎を抱く腕に力を込めると兎の顔は息苦しさに険しくなっていきます。


「うしゃぎしゃんはみえらのだもん!」

『いつからっ!?ねぇソレいつ決定しちゃったのっ!?僕の所有権を一体誰が君に売り飛ばしたのっ!?』

『賑やかにゃにゃー』


 ぴしぴしと尻尾を木の幹に打ち付けながら猫はにやにやと笑います。そうして一際大きくその長い尻尾を振りかぶりビシリッと打ち付けると、そこにいるはずなど到底ない長男アシュリーンの姿がガサガサと茂みを掻き分け森の中から現れたではありませんか。


「何で口がそんなに大きいのかって?それはねミエラ、お前を食べるためさ!ガウガウ!」


 狼の毛皮を被り言うアシュリーン。現れたアシュリーンに目を丸くする兎。

 暫くの沈黙が流れアシュリーンは気付きます。


「……あれ?俺なんでこんな所に?」

『僕が聞きたいよ!』


 そうして、猫がまたビシリッと尻尾を木の幹に打ち付けると今度はハートのドレス姿の長女スエラの姿が。


「女王様とお呼びっ!オホホホホホほ……って何これ。私、なんでこんな格好?」

『スエラまで……というか猫!!お前の仕業かっ!!』


 これまでの全ての不可思議現象の原因。それが分かった兎が猫に言うと、猫はにやにやとしたまま口を開きます。


『オレは知らにゃいにゃー』

『嘘つくんじゃないよ!こんな事が出来るのはお前だけだろっ!最初から可笑しいとは思っていたけれど今気付いたよっ。こんなイタズラしてこの子達巻き込んで、何考えてるのさ!』


 リシャがミエラにお使いを頼んだ最初の最初から、これは猫のイタズラだったのです。

 兎に真相を突き付けられた猫でしたが、それでもそのにやにやとした表情は変わりません。


『オレだけにゃにゃんて誰がいったんにゃ?この森のにゃかで、幻視と幻惑と幻影と幻様を操れるのはオレだけにゃにゃんてそんにゃ事が兎、お前に分かるにょかにゃ?』

『うっ……』

『酷いにゃー酷いにゃー傷付いたにゃー。心にあにゃが空いたにゃー。まっさかさまにゃー。暗闇だにゃー。地獄だにゃー。せっせと石を積むだけのオレの生活が始まるんだにゃー』

「うしゃぎしゃん、にゃんにゃんいじめちゃめ!!」

『ミエラが僕を裏切った!!』

「……おにいちゃん、何なのコレ」

「俺にもよく……」


 アシュリーンとスエラは訳が分からず首を捻るばかり。そんな時一陣の風が吹き込み、皆がよく知るその人物が現れたのです。


『今日は星祀る夜。星降る夜だからな』

「森の番人様!」

「おほししゃま?」

『そっか……、星祭りだ!』


 森の番人様の言葉に兎は思い出しました。年に一度この時期にある星達のお祭りの事を。


『兎を呼ぶついでにアシュリーン達にも見せてやろうかと思ってな。ちょうどよく晴れて星達もやる気だったから今日にしたのだ。兎、お前がいないと月に住まう兎神達が五月蝿い』

『そうだったんですね』

『そうにゃそうにゃ。兎の神が煩いんだにゃ』

『猫、神様をバカにすると痛い目みるぞ』

『安心するにゃ。猫に神様はいにゃいんにゃー。猫達はいつでも一匹猫だにゃー』


 ピシリッと猫がまた尻尾を打ち付けると、ミエラの篭の中の林檎が一つ瞬く間に猫の目の前に現れました。


『林檎にゃーんっ』


 シャリシャリと猫は一人林檎を食べ始めました。アシュリーン、スエラミエラは星祭りが分からず森の番人様に訊ねます。すると森の番人様はにっと笑い見ていれば分かると言いました。


『綺麗だぞ』


 するとどうでしょう。

 夜空の星達の息吹きの輝きが、まるで雪が降る様にしてふわりふわりと落ちてくるではありませんか。

 夜闇が一瞬にして辺り一面舞い落ちる星の輝きに彩られます。


「わっ、綺麗」

「すげっ……」

「これ、なにー?」

『星達の欠片だよ』


 尋ねるミエラに兎が答えます。


『年に一度、星達がこうやって自分の一部を地上に落とすんだよ。それが星祭り』


 兎はふわふわと降り落ちて来た星の欠片を手に取りミエラに差し出します。


『夜が明ける頃には輝きも無くなって最終的には砂になるんだけど、それまではこの輝きは無くならないんだ。光続けたままだよ』

「ぴかぴかー!」


 アシュリーン、スエラも降り落ちてくる星の欠片を手に取ります。雪のように軽いそれに二人は驚きますが、それよりも驚いたのはそんな星の欠片を猫や兎が一齧り二齧りしている事でした。


「これ食べられるのっ!?」

『美味だにゃー。オマエラも食べてみるにゃ』

『猫!』


 兎は眉間に皺を寄せ、猫はにやにやと笑います。森の番人様は楽しそうに三人の子供達に説明をしました。


『アシュリーン、スエラ、ミエラ。お前達人間は食べない方がいいかもな』

「おほししゃま、たべられないの?」


 手の中の星の欠片を見つめしゅんとしてしまうミエラ。


『ミエラ、そうガッカリするな。猫や兎が欠片を食べるのは星達に敬意を表しているから、だからな』


 星の欠片は所謂願いの欠片。

 この一年で叶った願いや見守ってきた願い達の、その願いの粒なのです。


「お星様が願いを叶えてくれてるって事ですか?」

『まぁ……手を貸すこともあるな。星達には目には見えない力があってその恩恵を受けることもあるんだ。だから私達は星達に敬意の証、感謝の証としてその名残を口にするようにしているんだ』


 月にいる兎神によって森に住む者達はソレを口に出来る様になっているだけで、本当は食べられる様なものではない。


『食べるとまた願いをかにゃえて貰えるんだにゃー』

『猫みたいにそんな馬鹿な事考えてる奴もいるけど、星達はそんな邪な感情感じとるよ』

『邪じゃにゃいにゃー。純粋だにゃーんっ』

『確か、人の世界ではこういった祭りの事を七夕と言うのだろう?天の川という川で引き裂かれた男と女。まるで私とアシュリーンだな』

「なんの話ですか」


 星が降る中、ミエラはじっと手の中の星の欠片を見つめます。よほど食べたいのか、それとも別の何かを思ってか。

 そんなミエラに、齧り終えた星の欠片を木の窪みに入れた猫が擦り寄りました。


『ミエにゃー、にゃにゃにゃにゃってにゃんにゃ?祭りかにゃ?食べ物出るにゃ?オレも混ぜるにゃ』

「にゃんにゃんっ」

「猫さん。にゃにゃにゃにゃじゃなくて七夕よ」

『スエにゃ、それ言いにくいにゃ。にゃたにゃた、かにゃ』

「にゃたにゃたーっ!」


 ミエラが笑い、それに気を良くしたのか猫はさらに続けました。


『にゃにゃたにゃ、かにゃ』

「にゃにゃにゃにゃっ!」

『ミエにゃ、それじゃ最初オレが言ったのと変わらにゃいにゃ。ちょっと間違えるのがコツだにゃー』

『って、お前わざと間違ってるのかよ猫!』


 兎の鋭い突っ込みに猫は心底嫌そうに顔を歪めました。


『兎はいちいち煩いにゃー。ノリだにゃ、ノリで乗るにゃ。オマエ高血圧かにゃ?更年期障害にゃ?』

『言いがかり過ぎる!』


 星の欠片はそれでもまだまだ降り続け、三人の子供達の眠気も吹き飛ばしてしまうほど綺麗な光景を魅せ続けてくれます。

 そうして今宵も星達は空高く天から地界を見ているのでした。


『そうだにゃ兎。お前の家、今リスが子作りに使ってるから暫く帰って来るにゃって言ってたにゃ』

『嘘だろっ、僕の家で何してくれてんだ!!』


 兎は果たして家に帰ることが出来るのでしょうか。それもまた、星達はのんびりと眺めていることでしょう。


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