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プロローグ「日常」

初投稿です。


色々と至らない点はありますが、楽しんでいただけると幸いです!



 いつになれば、終わるのだろうか?

 ひたすら、ただひたすらに同じ動作を続けていく。

 これは罰。

  己の怠惰への戒め。

  今更どれほど後悔しようとも時は遅く。囚人はただ己の責務をこなすのみ。


  いつからだろう? 気づけば俺はこの無限に続く地獄にいた。

  そう、終わりなど見えない。

  誰もが俺を「自業自得だ」と罵り。

  誰もが哀れな俺に救いの手を差し伸べようとはしなかった。


  俺が何をしたというのだ? 誰かを傷つけた訳でもない、禁忌を犯した訳でもない。

  俺は、ただ何気ない日常を抜け出して刺激のある生活を送りたかっただけなのだ。


  騙された。そう、騙されたのだ。

  代わり映えのない苦しい日常を抜け出せると、ぶら下げられた餌にまんまと食らいついてしまった。その結果がこの生き地獄だ。



  ふざけるな。



  いつまで続ければ終わるのだろうか? どこまでやれば、終わるのだろうか?――







  ――春休みの課題。





「あああああああああ!!!!!」


「おわんねえええええ!!!!!」


「うるさい」


  ついに俺の理性が崩壊した。歯止めの効かなくなった闇の力が溢れださないし、苦楽を共にしてきた相棒は横たわってないし、当然宿題も終わってない。


  時は春休み。春休みといえば、日にちは短いものの宿題も無く、正に真の「休み」と言うべき神の二週間。

  だというのに……。


「何故こんなに課題がある!?」


  目の前には存在するはずの無い大量の課題が山積みになっていた。

  数学が終われば国語が立ちはだかり、それが終われば今度は理科。その先もまだまだ続く…………


「これは罠だ! 俺達を陥れるために仕組んだ罠だ!」


「いやいや、先生ちゃんと言ってたじゃん。聞いてない航希が悪い。あとそのセリフ死亡フラグっぽいからやめときな」


  裏切り者が何くわぬ顔であらぬ事をほざき始めた。俺達と春休みをフィーバーしていたと思いきや、水面下では俺達を陥れる準備を着々と進めていたのだ


「くそう! 裏切り者の分際で! 我々は断固許しはしない!」


「そーだそーだ!」


  俺の隣に座っていた我が生涯の戦友、野坂君が抗議(デモ)を始める。同調する俺。


「いや、その裏切り者の家に上がりこんでるのはどこのどいつらだよ……」


  そしてここは裏切り者――もとい雨宮くんの家、そして彼の自室だ。


  春休み、課題の存在を認知していなかった俺と野坂君は、真の休みを最大限満喫するべく毎日のように遊び倒していた。


  毎日毎日学び舎に通い、謎の幾何学的模様を暗記する日常。そんなクソッタレな日常から、限定的であれど解放されたと思っていたのだ。


  しかし、春休み最終日の前日。


『「そういえば二人とも宿題終わったの?」』


『「「は?」」』



「そもそも春休みって宿題無いもんじゃねーのかよ! 中学の時は無かったのに!」


「いやいや、普通は小学校まででしょ。ここいらの中学校が特殊なだけで、他の中学はあったと思うよ?」


「俺の中学もなかったぞ」


  雨宮君の反論に野坂君が口を挟む。

  野坂君は高校進学の際に遠方の中学校からこの付近に引っ越してきた。つまりは。


「遠くの方も同じシステムってことは、やっぱ無いのが普通なんだよ。雨宮くぅん、君はどんなクソ中からやってきたのかなぁ?」


「お前と同じ中学(トコ)だよ!」


  雨宮君の鋭いツッコミが飛ぶ。相変わらず中々の反射速度だ。プロ、狙ってみる?


「というか、航希には涼葉ちゃんがいるだろ? 何か聞いてなかったの?」


  涼葉とは俺の幼馴染の事だ、それも物心ついた時からの大ベテラン。


「ああ、俺が教えてやったら「ふぁっ!?」とか言ってたな。多分今頃友達ん家じゃないの?」


「ダメじゃん……」


  アイツは幼馴染というか、もはや「親類」の域にまで達してるからな。生活面で俺に期待できない所はアイツにも期待しない方がいい。


「…………」


「…………」


「…………」


  しばらくの沈黙。勉強の疲れのせいでちょっとした陰鬱空間が生まれかかっている。

  高校最初の春休み。思い返せば男だけで集まってばかりの毎日……


「はあ……」


  唐突にバタン! と俺の隣の野坂君が机に倒れ伏した。


「なあ、百条」


「うん?」


  気だるげな呼びかけに、同じく気だるげに返答する。


「ハーレム物ってどう思うよ?」


  これまた唐突な質問。まあ言いたいことは大体察した、頭の中で的確な答えを組み上げる。


「日頃の行いのせいだと思うぞ」


「…………いや、俺がモテない事への遠回しな疑問じゃねーよ」


「え、そうなの?」


  なんだ、早とちりか。いつもモテることばかり考えている野坂君の事だからてっきりまたそのようなことかと。


「純粋にハーレム物はどう思うか聞いているんだ、俺は」


「そりゃまたなんで唐突に」


「いや課題やれよお前ら」


  陰鬱な空間に鋭いツッコミ。いやね、今国語が終わって一区切りついたから、休憩だよ。

  そう、言うなればこれは授業の合間の休み時間なんだ。


「それはだな…………」


  野坂君は雨宮くんのツッコミを無視して机の下からおもむろに一冊の本を取り出した。

大きさは普通のコミックスより大きく、なんか薄い。そして表紙に肌色が多かった。


「?!」


「何それ、「淫乱ハーレム物語」? うわぁ……」


「なんかこの下に隠してあった」


  野坂君は後ろのベッドを親指でクイクイと指しながら、お宝の発掘場所を教えてくれた。


「やっぱ僕のじゃん! 返せ!」


  宝の持ち主を名乗る男がギャーギャーと喚きながら野坂君に襲い掛かる。

  友人を部屋に上げるのに、そんな不用心な場所に置いとくのが悪いと思うぞ。


 野坂君は血眼で肉薄する雨宮君をひらりとかわすと、手の書物を開きっぱなしだった入り口のドアへと放り投げた。そのまま階段を超えて下の階へとゴールインする書物。追いかける淫獣。


「で、どう思うよ」


  何事も無かったように話を続ける野坂君。鬼か。

まあいつもの事っちゃいつもの事なので俺もそのまま続ける。


「どうって……そりゃ、女の子パラダイスだぞ。最高だろ」


 我ながらクソみたいな返答だ。実際に女の子が聞いてたら青春終わりかねない。


「そうか……同感だ」


 腕を組み、うんうんと大げさに頷く野坂君。なんか歴戦の戦士みたいな雰囲気を醸し出しているが、話していることは最低の部類に入るだろう。

  いや、男のロマンを最低とか言っちゃいけない。


「で?」


  結局何が言いたいんだこいつは?


「ああ、なんで俺達には彼女ができないんだろうかと思ってな」


「結局それじゃねーか!!!」


 さっきまでの決死の攻防は何だったのだろうか? いや、徹頭徹尾(てっとうてつび)決死だったのは雨宮くんだけだが。


 ほら、いつの間にか戻ってきた雨宮君も大仏みたいな顔してる。なまんだぶ。


「だってよく考えてみろ、俺たちゃ顔は悪くねえ。そうだろ?」


  まあ確かに、俺たちの顔面偏差値は平均より上だ。誇張でも何でもなく、世間一般からみてもそうだと思う。

 雨宮くんなら、もしかしたら読書モデルとか狙えるんじゃないだろうか? まあだからこそ男子からの敵意(ヘイトを集めるのだが。


 それでも、大抵の物事には何かしらの理由がある。これもまた然り。


「そのことについてなら何回も議論しただろ。俺達はいろんな奴らを敵に回しすぎた。つーか日頃の行い」


「けっ! 結局『王子様』かよ、独裁政権も大概にしてほしいぜ」


  『王子様』とは、うちの学年の男子のトップに君臨するあるお方のあだ名だ。

 今をときめく『おんなのこ』達が憧れと羨望を込めて付けた素敵な呼び名…………ではなく、野郎どもが妬みと皮肉をこれでもかと練り込んでできた名誉ある通り名(コードネーム)である。


「いやいや、全面的に悪いのはこっちだから」


  雨宮君が口を挟む。まあその通りではある 。


  去年の夏頃。俺達は何というか……その、彼にちょっとしたちょっかいを掛けてしまって…………うん。


  まあ、結果を言うと嫌われた。


  そのせいで自動的に『王子様』の彼女である、女子カーストのトップ。裏の首領(ドン)『ゆなちー』に嫌われ。たちまち俺達は非モテ集団と成り果ててしまったのだ。


  その際に彼女の『裏アカ』なるものを拝見したのだが、これまた何というか。「団結力ってすごいね」としかコメント出来なかった、まったく末恐ろしい。


「何だよ、ちょっとダル絡みetcしただけじゃねーかよ」


「そのetcが重要なんだけどなー」


  まあ今となってはいい思い出だ、後悔は……している。主に女子関係の一点のみについてだが。


「なんだよ、もう半年以上も前のことじゃねえか…………あ、そういえば百条、あの時お前俺らを裏切ろうとしてたよな?」


「あーしてたしてた」


「うっ!?」


 まずい、矛先がこちらに向いてしまった。

  全く、過去のことをほじくり返すのが大好きな奴らだ。だってしょうがないだろ。

 むさ苦しい野郎か桃色女の子かどちらかを選べと言われたら迷わず女の子を選んでしまうのが男の性というものではなかろうか?


「あー……うん、そんな事もあったね…………。でも結局戻ってきたんだからいいじゃないか!」


 そう、あろうことかあの時の俺は春よりも友情とやらを選んでしまったのである。

 きっとこれは百条航希の人生でトップテンに入る程のミステイクだろう。


「まあなー。正直あの時は、百条熱でも出てんのか? と思ったわ」


「僕はドッペルゲンガーに喰われたのかと」


「ちょ……二人ともひでくね?」


 人の好意をなんだと思ってるのか。やはりあの時裏切っておいた方が良かったのかも知れない。


「…………」


「…………」


「…………」


「「「はぁ……」」」


  陰鬱な空気が再びやってきた。春休みの最終日に集まった三匹の野郎は、カーペットの上で干物のように横たわる。


「彼女欲しいなー」


「なー」


「ですなー」


  桜の花びらが舞う爽やかな春風に、まったく似合わないような三人の呪いが溶けて消えた――








  ――人の人生を本に例えるのなら、これは何気ない日常の一ページだ。変わり映えもなく、同じような事を繰り返すだけの物語の、ほんの一ページ。俺はそれがずっと続くのだと思っていた。


  けど、俺の本は見るも無惨な乱丁本だった。ジャンルの違う本達から、それぞれのページを千切って繋げたような歪な本。


  しかしまあ……。 この日常が、あんな風に変わってしまうなんて、一体誰が予測できるのだろうか? それこそ神の使いでもない限り不可能だろ、ふざけんな。



  ……これは、この何気ない日常を取り戻す為の物語。


  ――少なくとも、俺はそう思っている。

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