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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
序章 日比野からの手紙
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  3

 宿舎の学食コーナーの一角に、死んだ顔の夢宮さやかが座っている。テーブルの上には神田隆志が運んできた料理が並んでいるが、全く手を付けていない。普段であれば、甲斐雪人よりも食べる量が多いほどなのだが、これはあまりに異常だ。甲斐の心配をよそに、神田はすでに自分の夕食を食べ終わっている。神田云わく、

「またすぐに元気になるから、気にするな」

 よくあることらしい。デザートのヨーグルトを食べながら、神田が夢宮の背中を叩く。

「で? 何を言われたんだ?」

「ううう」

 潤んだ目がふるふると震える。

「雪くん、わたし、どうしたらいいの?」

「そんな不躾なことを言われても、甲斐も困るだろ。何を言われたのか教えてくれよ」

「ああ、頭がいい人が羨ましい」

「それ関係?」

「大いにそれ関係よ。わたしはこの学園にそれだけのために来てるんじゃない、て言うのに。やっぱり勉強は勉強で大事なのよーってことよ」

「成績が悪いって、芹沢さんに怒られたってこと?」

「ミヤビさまが怒るなんて、そんなことあるわけないじゃない!」

「全く。話の要領が分からない。ちゃんと説明してくれよ」

「……ううう、分かったわよ」

 それから夢宮は、放課後のできごとを思い出しながら説明する。芹沢雅に連れられて、第一学習棟と第二学習棟の間にある庭園に移動した。女神像があるところだ。

「わたくし、あなたのお友達として心配しているのですが」

 片方の手を頬に当てながら、芹沢雅が切り出す。

「さやかさんは、成績があまりよくないのですね」

「は、はひ」

「期末の試験が終わりましたら夏休みもございますし、できれば夏休みはさやかさんには勉強以外のことを頑張って頂けましたら、と思っているのですけれど、このままでは難しいかもしれませんわ」

 ため息を付きながら芹沢雅は続ける。

「そこで、なのですけれど、わたくしから一つ提案がございます」

「な、なんでございましょう?」

「ふふふ。どうぞそんなかしこまらないでくださいませ。そうね。単刀直入に言いますと、学外で勉強をしませんか?」

「へ?」

「家庭教師、といいますか、来てもらうわけじゃないのですけど。この学園の授業に少しついていけてないように思いますので、そういうのが必要かしらと思うのです」

「外で?」

「はい。わたくしの姉が大学に行かれているのですが、その友達の学生さん。もちろんこの学園に通われていた方が教師になってくれます」

「あの、でも……」

「毎日というわけじゃなく、時々でよろしいのですけど。他にも何人かの生徒に声をかけているのですが、ほら、この学園って勉強のペースが早いでしょう? ですから、息抜きといいますか、社会勉強も兼ねまして」

「息抜きで、外で、勉強……」

「ええ。とても楽しいと思いますわ」

「でも、わたし」

「別に今すぐに、というわけではありませんわ」

「わざわざ、ありがとうございます」

「またお声をおかけいたしますわね」

 要は、成績が悪いから、純正芹沢学園の卒業生が学外で勉強を教えてくれる、ということだ。楽しい、と芹沢雅は言うが、それは勉強ができる、かつ好きな人だからこそ出てくる言葉でしかない。申し出は嬉しいが、勉強が好きではない夢宮からしたら、死んだような顔になるのも納得だ。どう返事をすればいいのか分からない、というわけだ。

「ねえ、雪くん、どうしたらいいのー?」

「断ればいいんじゃない?」

「ミヤビさまが言ってくださってるのよ?」

「断る名目があればいいんだな」

 頭を叩きながら神田が笑う。

「笑うな! こっちはもうそれは深刻なんだから!」

「だから、名目があれば断れるだろ?」

「どんな名目よ」

「期末でいい点取れればいいんだよ」

「点が取れないから困ってるんじゃない」

「まぁ、俺も手伝ってやるから」

 笑いながら神田が夢宮の頭を叩き続ける。


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