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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
第六章 幾らかの補足と回答
24/27

  4 <歯車の収集>


「それは、もう謎が解けた、ということでしょうか」

「さあ、分からないけど。直接聞きたいことがあるみたいだったよ」

「やはり文章だけではうまく状況を伝え切れませんからね」

 日比野に電話をすると、すぐにでも伺いたいとのことだったが、名目が必要だと言った。確かに純正芹沢学園のセキュリティーは高い。何の理由もなく、しかも公権力が敷地内に入るのは容易くない。前に訪れた時は、香川が起こした一連の事件の事後処理、という理由があった。そこで今回の名目は、その事件の際に甲斐雪人に迷惑を掛けたので、その謝罪、ということにした。もっとも、それすらも公ではなく、非公式、という形にしたのだが。とにかくそういうわけで、一人で来た日比野警部を図書等に連れて入った。もう少し遅い時間からでもよかったのだけど、早く来てくれたのだから、早く案内をしたい。けれども、この時間帯に篠塚桃花の部屋に行くのは、別の危険が伴う。そこで二人は、とりあえず入って右手奥にある、団欒のスペースに移動した。

「それで、レポートの最後の件について、聞きたいんですが」

「いや、それは聞かれても答えることはできません」

「ですが教えてくれた」

「教えるべきだと、思ったからです。それがどういう意味があるのか、わたしには分かりません。芹沢家が抱えている問題なのでしょう。ですが、彼らからしましたら、瑣末なことなのかもしれません。雅様は、確かに直接の血を受け継いでいないようですが、誰であれ彼女がお嬢様にふさわしいと認めるでしょう」

「むしろ、もものほうが、お嬢様に向いていないよ」

 その言葉と同時に、パコーンと心地よい音がして甲斐の頭は大きく傾いた。

「全くお前らは、勝手に話を進めるんじゃない」

「相変わらず、お元気なようでなによりです」

「日比野はやつれたの」

「おかげさまで、それも報われそうです」

「日比野よ、お前ならばもう犯人の目星は付いているのだろう?」

「残念ながら今回は……」

「警察全体としてはどのような動きになっているのだ?」

「客観的に考察しまして、無人島に五人、その全員が死んでいた。全員が殺されたのかもしれない。という状況ですので、六人目の人物がすべての犯行を行い、そして島からいなくなった。という方向で動いています」

「まるで、あの小説のようですね」

 アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」だ。迷宮入りかと思われたが、犯人の告白が流れ着いたおかげで、事件の全容が明るみになった。

「模倣している、と考えます。ですが、まだ特定ができない」

「期待しているところ悪いが、まだ分かっていない。いくらか聞きたい内容があるのだ」

 篠塚は椅子を引くと甲斐の隣に座った。

「堂々と出てきて、大丈夫なの?」

「大丈夫だといっておるだろう。また変な噂が流れるだけだ」

「それで、質問というのは?」

「葉月美優は、ベッドで寝ていたときに殺されたのか?」

「いいえ、ベッドの奥に座って、胸を刺されていました」

「胸のナイフはレプリカではなかったか?」

「本物です。抵抗しようとしたのか、抜こうとしたのか、彼女は右手でナイフの刃を支えていました」

「自殺の可能性は?」

「否定はできません。が、かなり勇気と意志の必要な方法です」

「紺野健二は後頭部を殴られたことか、二階から落ちたこと、どちらが致命傷なのだ?」

「落とされたことです。後頭部は、カバーの着いた鈍器で殴ったのでしょう。気絶が目的だと思われます。あるいは、音が出るのを防ごうとしたのか」

「二階から落ちれば音がするだろう」

「誰も気がつかなかったようです」

「広田葵が正面から刺された可能性は?」

「ありません」

「彼女は逃げていて、海辺で追いつかれたのか?」

「そういうことになります」

「後藤剛が自殺である可能性は?」

「不可能ではないと思います。広田葵を殺したあと、屋敷に戻り、自らの手首を剣で切り、投げ捨てて、レプリカのナイフを握る」

「意味が分からないな」

「分かりません」

「ナイフは確実に握っていたのか?」

「死後硬直のせいもありますが、握っていたのは確かのようです」

「別のものを握っていて、レプリカに代えられたかもしれないだろう」

「分かりません」

「西崎順也は、殺されたのか、自殺なのか」

「それも分かりません」

「招待状があったと報告に載っていたが、誰が招待したのだ」

「庵野恩という人物です。あの島を買ったのも彼です。屋敷を建てたのも彼です。ですが、偽名であると思われます。それが誰か今のところ分かりません」

「最後の質問だ。事件が発覚したのはいつのことだ?」

「先週の月曜日です。送り迎えを頼まれていた船がありまして、船で十五分ほどの距離のところにあります。彼ら五人を送り、三日後に迎えに行ったところ、誰も待っていない。その代わりに、死体が一つ。すぐに無線で連絡を入れ、彼も本島に戻ったそうです」

「彼も庵野恩とか言う人物に頼まれたのか?」

「そうです」

「日比野よ、お前はこのレポートで最初に述べている。集団であるが、すべてが自殺ではない、と。この事件で、誰が自殺ではないと思う?」

「スーサイダー・バーサスというサイトの住民であった広田葵と紺野健二、この二人に関しては明らかに他殺です。まず紺野健二は後頭部を殴られている。もしもこの傷がなければ、自殺の可能性があった。それに、広田葵も後ろから刺されている」

「そうだな」

「残りの三人は、すべて自殺で説明できないこともない。西崎順也は自ら毒を飲んだ。葉月美優は、自ら胸にナイフを刺した。後藤剛は自ら手首を切った」

「が、全員殺されたという説明もできなくもない」

「そうです。特に刃物での自殺はかなりの意志が必要です」

「最後の三人が殺された時間は?」

「まだ判明していません。ですが、それを待つ時間が惜しい」

「うむ。よい考えだ。実際の問題はお前からのレポートだけでほぼ分かっていたのだがな。冷静に考えれば、日比野であれ矛盾に気がついただろう」

「矛盾、ですか?」

「正確に言えば矛盾ではないが。とにかく、単純に何が起きたのか、ということは日比野のレポートがあればおよそ推測ができる。だが、実際に何が起きたのか、ということはやはりこうして直接話を聞かなければ、確信にいたれなかったな」

 そこで篠塚は言葉を切ってから頷く。

「これで、事件の歯車はすべて揃った」


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