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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
序章 日比野からの手紙
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  2

 甲斐雪人は授業が終わり教科書類を整理していると、右の席の神田隆志が同じように鞄に荷物をしまいながら話しかけてくる。

「この学園の授業はどうだ?」

「大変だね」

「客観的に、大変なように思えないんだけども」

「いやいや、それ誤解だよ。前の学校よりも授業のペースが早いし。宿題の量がおかしくない?」

「俺は他の学校は知らないけど、やっぱり多いよな?」

「多いってもんじゃないよ。異常」

「そうよね、異常よね!」

 リュック状の荷物を背負った夢宮さやかのおかっぱの髪が大きく跳ねる。

「もうわたしちんぷんかんぷんなんだもん。それも高等部になって一気に難しくなったと感じるわ」

 そう言いながらため息をついている夢宮を、教室の入口から呼ぶ声が聞こえる。甲斐も気がついてそちらをみると、芹沢雅が両手を胸元にそろえてこちらを見ている。

「はひ?」

 素っ頓狂な声を上げながら夢宮が振り返ると、芹沢雅が右手で手招きをする。

「さやかさん」

 声は大きくないが、彼女がそこに存在するだけで教室内が静まり返っていることもあり、柔らかい声色が響く。

「な、なんでございましょう、ミヤビさま」

「どうぞ、こちらに。少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「は、はひ。もちろんでございます。わたくしめに何用で?」

 正しいのか正しくないのかよく分からない日本語を使いながら夢宮が芹沢雅の立っている入口へと急ぐ。

「できれば少し内密にお話したいことなのですが、一緒に来ていただけますか?」

「はひ。喜んで」

 ふふふ、と彼女は笑い外へと歩き出す。夢宮もすぐ後にそれに続く。芹沢雅の登場に静まっていた教室が、一気に騒がしくなる。ところどころで何事だ、という会話になっている。

「友達になった、て言ってたっけ」

「まぁ、言ったけど。でも、あれってどちらかというと転入してきた甲斐のことが心配だったから、そのついでって感じがしたんだけどな」

「なんだよ、それ」

「それに、こうやって実際呼び出しが掛かるなんて、初めてなんじゃないか?」

「学園長からの呼び出し。客観的に考えると、何か悪いことをした、とか」

「あいつがそんなことしでかすとは思えないけど」

「それとも、すごくいいことをした?」

「内密に話したい、てところも気になるけど。やっぱり甲斐のことなんじゃないか?」

 神田が丸いメガネの下から、指を指しながら笑顔を作る。甲斐は芹沢雅と何度も話したこともあるが、彼女の性格からすれば直接甲斐に話しかけるだろう。

「それなら、わざわざ、内密に、なんて聞こえるように言うとは思えないけど」

「うーん、そうだなぁ。ま、考えても分からないし。あとで夕食のときにでも聞いてみるか」

 そうだね、と答えながら甲斐は荷物の入った鞄を背負った。


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