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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
第四章 アデルバード翼の場合
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  1

 大好きなアニメの音楽の音が小さくなる。何てことだ、このタイミングにして、燃料が切れてしまったようだ。こんなことなら、もっと長持ちするポッドを持ってこればよかった。まさか、こんなことになるなんて考えもしなかったから、ただ眠る前のひと時のためだけの簡単なアイテムしか持ってきていなかったのが悔やまれる。

 だが、悔やむことばかりではない。

 ネット世界で、俺に惚れた女から、このオフ会の誘いがあったときは、しめたものだと思った。すぐに招待状が届き、彼女の意思が嘘ではないことが分かった。もちろん、相手の顔も分からない。もしかしたら醜女かもしれないが、それならそれで、適当にあしらえば済むだけのことだ。

 それが、見た目はギャルに近い、可愛い女の子だった。始めは、あの広田とかいう女の方かと思いがっかりしていたが、名前を聞いてこれほど驚いたことはなかった。それに、あちらも、俺のことを気に入ってくれたようで、ネットと同じように俺のことを翼と呼んでくれる。できれば、夜も一緒に過ごしたいものだが、それは、今日帰ってからデートを繰り返せば時間のかかることではないだろう。

「いやーーーーっ」

 部屋の外から悲鳴が聞こえた。また何か起こったのだろうか、今のはどちらの悲鳴だ?

 機敏に立ち上がると、俺は扉を開けた。あたりを確認すると、右側の部屋の前で広田が腰を抜かしたように、しりもちをついている。

 広田は俺の存在に気がつくと、後ずさりするように、後方へと移動する。あの部屋には、今はぐれがいるはずだ。

 何があったのか。

 急いでその扉の前に向かうと、一度広田を見てから部屋の中を見た。

 正面、ベッドの奥に座り、まっすぐ投げ出している。

 動かない。

 はぐれは、まるで、人形のように。

 胸に、あれはキッチンにあったナイフだろうか、まっすぐ突き刺さり、それを彼女は右手で支えるように持っている。ここからではよく見えないが、口からも血が出ているようだ。

 考えるまでもない。

 俺は、左を見た。

「お、お前、だったんだな」

「あなた、だったのね」

「ふん、他の二人も、お、お前がやったんだな」

「信じられない。近寄らないで」

「それは、ぼ、僕のセリフなんだな。僕のヒロインを、なんてこと、してくれたんだ」

「来ないで!」

 ものすごい剣幕に、俺は一瞬躊躇する。脳が危険だと判断する。そうだろう、何を持っているか分からない。毒にナイフ、いくら相手が女とはいえ、全力で体当たりを食らい、一階に突き落とされるかもしれない。

「まあいい、まあいい、落ち着こう。ここはよくない。危険だ、違うかな?」

「そ、そうね」

「そうなんだな。うん、まずは一階に移ろう。ぼ、僕たちがすべきことは、お互いを監視しあうことなんだな。あと八時間もすれば、迎えが来る。それまで、ひたすら、我慢すれば、いいんだな」

「よくしゃべるのね、いいわ。まずは、一階に移動しましょう。そちらから、行ってもらえるかしら」

「背後から襲うのは反則だ」

 俺は、相手に背中を見せないようにして、ゆっくり歩いた。階段のところからは、前を向いて進む。一階に着くと、玄関側の東側に移動して、広田に階段のところまで下りてくるよう指示を出した。

 それに従うように、広田はよろよろと立ち上がると、階段の下に移動した。

 もう一方の階段の手前には、シーツが膨らみ山となっている。確か広田は、俺が一人になって部屋の中でトリップしていた頃、あの紺野とかいう奴と一緒に飲んでいたとか言った。相手が酔っていれば、女の力でも二階から突き落とせるかもしれない。

 西崎とかいう奴も、正面からでは難しいかもしれないが、あらかじめ毒を用意しておけば、苦労はない。料理を温めるといって、キッチンに移動したときに毒をもったのかもしれない。

 だが、俺は違う。

 相手が分かっていれば、それに対する方法もいくらでも考えようがある。俺のような秀才を最後に残すとは、広田もばかな女だ。

 だがこれで、広田はどうするつもりなのだろうか?

「ね、ねえ」

 遠くから、その広田がこちらに声をあげる。顔を上げて睨みつける。

「お願いがあるのだけど」

「何なんだな」

「あの、場所を西側に移ってもらえないかしら。そこからなら、わたしの部屋が見えるでしょ。おトイレに、行きたいの」

「ふん、こんな状態でのんきなものなんだな」

「お願いよ、お部屋に、入らせて」

「好きにすればいいんだな。ぼ、僕には用意がある。何をしたって、無駄なんだな」

「ありがとう」

 俺は立ち上がると、ゆっくりと西側のダイニングの近くへと移った。


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