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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
第三章 はぐれの場合
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  1

「いやーーーーーっ」

 安らかな眠りは、悲鳴によって妨げられた。

 ここは、そうだ、あたいは昨日広田葵の部屋で寝てしまったんだ。じんじんと響く頭を押さえながら、立ち上がる。服も昨日のままだ。

 できれば着替えたいところだが、今の悲鳴を聞いて着替えていられるほどの余裕はない。どう考えても今のは、広田葵の悲鳴ではないか。

 あたいは、すぐに扉を開けると外を見た。ほぼ正面に、その彼女が立っている。彼女のそれは、パジャマであろうか、黄色い服を着ているようだ。同じように扉を開けて立っていて、震えている。あたいに気がついたのか、ゆっくりと腕を動かして、下を指す。

 わたしは、彼女が指し示す先を見た。

「きゃっ」

 短い悲鳴が自然と出た。

 その先には、男が倒れていた。血まみれだ。ちょうど、紺野健二の部屋の前から、一階に落ちたように、そして、それはまさに彼だ。

 もう一度正面を見る。広田葵が震えながら、同じようにこちらを見ている。わたしは左を向いた。もともとのあたいの部屋、アデルバード翼が今使っている部屋だ。扉は開いていない。わたしたちの悲鳴を聞いても、何の反応も返さない。ありえない。

 とにかく、わたしは這うようにして、その扉の前に移動した。腐っても男だ。

 扉をノックする。

「翼さん、翼さん!」

 何度も繰り返していると、ようやく彼の返事があった。

「何なんだな、うるさいよ、朝から」

「お願い、助けて」

「その声は、はぐれなんだな。死んだのは、どっちだ?」

「分からない、多分、紺野さん」

「殺されたんだな、簡単なことだな」

「お願い、見てきて」

「どうして、ぼ、僕が、そんなことをしなければ、ならないんだな?」

「お願いよ、ヒーローでしょ?」

 あたいの最後の言葉に、返事がしばらくこなかった。が、彼ならばきっと面白い反応を返してくれるはずだ。

 案の定、カチャリと音がすると扉が開いた。

「か、可愛いヒロインに、ヒ、ヒーローと呼ばれたんじゃ、出ていくしか、ないんだな」

「ありがとう、翼!」

 ここは呼び捨てに限る……

「そ、それで、どこに、あるんだな」

 あたいは、まっすぐ先の一階を示した。彼の視線が、そこに到達すると、彼はそこで大きく肩を震わせた。

「と、とにかく、近くで、見てくるんだな」

「お願い」

「お、お前も、一緒にくるんだ」

「はい?」

 彼はわたしの手を、汗ですでにじとじとの手で握ると、ゆっくりと歩き出した。手前の階段のところに、広田葵も来ていて、彼女も一緒に階段を下りる。

 ぎしぎしと、一段ずつゆっくりと階段を進む。暖炉の陰から、その姿があらわになる。

 赤い。

 どす赤い。

 あたいは胸に吐き気を覚えて、口を押さえた。後ろから広田葵が、あたいの体を支えてくれる。けれど、翼はあたいの手を持ったまま、ゆっくり進んでいく。ここで抵抗するのは得策ではないだろう、あたいも翼に続いていく。

「どうみても、あの、おっさんなんだな」

「そう、みたい」

 紺野健二だ。奇妙な形に頭がひねくれているように見える。あたいは、上を向くと、彼の部屋の前を見た。木製の手すりがついているが、その高さは一メートルほどしかない。

「死んでるの?」

「ど、どう考えても、死んでいる。見ていられない、んだな」

 と、ここで翼の腰がかくっと折れた。暖炉の前で、彼は腰を抜かしてしまったようだ。

「広田さん、あたいも、もう限界かも。動ける?」

「ええ、大丈夫、だけど?」

「どこの部屋からでもいいから、シーツを持ってきて、もう、見ていたくない」

「分かった」

 広田は答えると、再び階段をあがっていった。

「翼、大丈夫?」

「ああ、ぼ、僕は平気なんだな。少し、刺激が強かった、けど」

「彼女が、殺したのだと思う?」

 あたいは翼に、小さく囁いた。

「何でそう思うんだ?」

「だって、彼女が一番平気そうに見えたし。あたいと翼は、そんなことできないじゃない」

「そう、なんだな、ヒーローとヒロインには似合わない。でも、ぼ、僕は自殺したのかも、と思うよ」

「ここで? どうして?」

「西崎と、同じなんだな」

 翼がそう言ったところで、広田葵が厚めのシーツを持って戻ってきた。


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