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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
第二章 紺野健二の場合
14/27

  4

 わたしは自分用にと準備された部屋に来た。もう一つのアデルバード翼の部屋でもよかったのだが、広田葵を奥のその部屋に送り届けてきたら、この部屋が残ったというだけだ。部屋に入ると、ベッドにぽんと置かれている鍵を確認してから、ドアを閉める。だが、鍵など何かの役に立つのだろうか。庵野氏がいないのだとしても、あるいは、わたしたちの誰かが庵野氏なのだとしたら、マスターキーを用意しているのかもしれない。

 わたしは備え付けのライティングビューローに座ると、手帳を取り出した。ようやく広田葵を誘い出すことに成功した。先ほどの様子からすると、もう少し強めに押せば、すぐにでも落ちそうだ。それに、あのサイトに興味を持ったということは、それ自体わたしにとって幸運でもある。こうしてまた、機会をもつことができたのだから。

 だが、気になるのはやはり夕食時のあの告発だ。まるで知っていた風な口ぶりだったではないか。今回は控えたほうがいいかもしれない。それも仕方がない。

 わたしは今日の出来事を簡単に記すと、手帳を鞄にしまった。

 わたしは着ているものを脱ぐと、バスに移った。シャワーを浴び、浴室につかる。あんなことがなければ、結構な施設ではないか。

 ベッドに移動するが、まるで眠たくない。広田葵と長い時間飲んでいたから、そろそろ十二時を過ぎる頃だろう。普段なら、そろそろ睡魔に襲われる時間だというのに、この興奮はどうだ。なるほど、日常との乖離とは、こういうことを言うのかもしれない。くだらない日常生活など、こう考えると本当につまらない。腐っている。そのための刺激を自分なりに色々求めてきたが、今日ほどの乖離はない。

 愚かなものたちにはこの興奮を伝えることもできない。

 感じることもできない。

 これは、わたしだからこそ感じることができる、乖離なのだ。

 はじめからすべて、わたしのためにこの小旅行が準備されていたのではないか、と思えるほどだ。

 招待状が来たときは、はっきりいって信じられるような代物ではなかった。だが、不思議な手紙も一緒に送られてきた。そこに、広田葵も招待してある、というのだ。すぐに確認すると、彼女の元にもその招待状が来ているというではないか。あとは、オフ会ということにして誘えばいいだけのことだ。彼女も仕事で疲れているから、おそらく乗ってくるだろうことは分かっていた。他のメンツについても、手紙には書かれていた。別のサイトのオフ会とのことだ。アデルバードとはぐれのことだろう。いかにもハンドルネームらしい名だ。西崎については、なんと書かれていただろうか、最後のメンバーは、慎重に選んだと書かれていた。彼が庵野氏自身なのではないか、と考えたのはそのためだ。

 だが、もうどうでもいいことだ。彼はいない。初めからこれが目的だったのだろう。


 どれほど時間がたっただろう、いつの間にかうつらうつらしていたのだが、ふと何者かの動く気配を感じてわたしは目を覚ました。

 何かは分からない。足を引きずりながら歩いているような。外の廊下から聞こえる。こんな時間に、誰か起きているのだろうか。

 わたしはゆっくり起き上がると、扉の近くに移動した。すでに音はない。鍵を音を立てないように開けると、薄く扉を開ける。

 暗くて何も見えない。しばらく待つが、何も起こらない。わたしは意を決すると、扉を大きく開いた。

 そして一歩外へと踏み出す。


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