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わたしはリビングにいた。中央のソファーに腰掛け、ワインを飲んでいる。この部屋に飲み物とおつまみがあることはすでに、先ほど来た時点で気がついていた。これも、あらかじめ用意されていたのかと思うと恐ろしいが、臭いから判断する限り、青酸系の毒は使われていない。だが、もしかしたら、今わたしの体は毒に蝕まれていっているかもしれない。それでも、飲まないではいられない。
ガチャリと音がして、広田葵がリビングに入ってきた。
「はぐれちゃんは?」
「今寝かしつけてきたところ。だいぶ気を張ってたみたいで、疲れてるみたい。わたしの部屋で休んでるわ」
「そう。それじゃあ、ここにはわたしと君だけなのだね」
「何が言いたいの?」
「とんだオフ会になってしまったね」
「驚いたわ、あなたからこの連絡を貰ったときは。仕事であなたのオフィスに訪れて、わたしなんてきっと見向きもされないと思っていたから」
「もしオフィスに、今のその格好できたら、見向きもしなかったかもね。君はスーツ姿のほうが似合っている」
「ほめ言葉かしら」
「わたしがコーディネートすれば、数倍美しくなれるよ」
わたしは彼女の頬に手を伸ばした。
「ごめんなさい、そんな気分になれないわ。あなたのことは素敵だと思う、でも、ここから無事に帰ることができたら、その後で考えましょ?」
「無事にって、穏やかじゃない口ぶりだね」
「だって、この始まり方からしたら、わたしたち全員殺されるのよ」
「まさか」
「だから、帰ってから考えましょ?」
「まあいいけど。もしも本当に西崎氏が殺されたのだとしたら、犯人はわたしたち四人のなかにいるのだろ。少なくともわたしは犯人ではない」
「わたしも違うわ」
「それじゃあ、犯人はあの二人のうちどちらか、ということになる。確かに二人とも本名ではないからな、大いに怪しいといえば怪しい」
「鍵を閉めてきたから、上は大丈夫よ。それより、わたしにも何かアルコールもらえるかしら。とても眠れそうにないもの」
「オーケー、ちょっと待って」
わたしは立ち上がると、近くの棚に移動した。ガラス戸の向こうにグラスがいくつも並んでいる。さっと一つを取り出し、軽く臭いをかぐ。問題はない。
「同じものでいい?」
「何でもいいわ」
ソファーに戻ると、そこに腰掛けグラスにワインを注いだ。おつまみはチーズだけだ。
「ありがとう」
「では、二人の未来に」
カンと、小さな音がした。




