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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
第二章 紺野健二の場合
12/27

  2

「分かった。あたいも、庵野の意味が」

「そうだ、ぼ、僕は、来る前から、分かってたんだな」

「ど、どういうことですか」

「あたい、さっきに挨拶で、庵野恩の名前を始めて音で聞いた。それまでは意識してなかったけれど、アンノオン。まるで、あの小説と同じじゃない?」

「そ、そうなんだな。クリスティーの傑作なんだな」

「分からない」

「本を読まないと、そう、なってしまうんだな」

「そして誰もいなくなった、よ。あれと同じ状況じゃない。あれの招待主はU・N・オーエン。アンノオン。今回の庵野氏と同じなのよ」

「同じって、小説じゃないか」

「そう。Unknown、誰も知らないという意味。存在しないのよ、招待主なんて」

「だって、今挨拶が」

「あんなの、機械音じゃない。あたいにでも造れるわ」

 はぐれは唇を噛んだ。

「だから、これは殺されたんだな。ぼ、僕たちのなかの誰かに」

 翼の発言に、室内が静かになった。

「ま、待ってくれ」

 このままでは、おかしなことになると思い、わたしは声をあげた。

「西崎氏は、先ほど二人で部屋を見て回っているとき、庵野氏などいないと、知っていた風だった。彼もその小説を知っていたのかもしれない」

「それが、何なんだな」

「彼が庵野氏かもしれない。やはり自殺なのかもしれない、という話だ」

「そ、そんなこと、どうでもいいんだな。重要なのは、自分も殺されるかも、知れないということだ。二階に、部屋があると、言ってたんだな、僕は、先にそこに行ってるよ」

「あっ」

 ついわたしは大きな声をあげた。その声に、みなが反応するように驚く。

「あ、すいません。待ってください、後一つだけ。二階には部屋が四つしかありませんでした。下の大きさを考えると、それは仕方がないことです。四つの部屋には、このテーブルと同じように、プレートによって名前が書かれていました」

「じゃあ、自分の部屋を使うのは、危険、なんだな」

「それだけではありません。西崎氏の名前がありませんでした」

 つまり、あの部屋を使うまでに彼がいなくなることは、最初から予定されていたことということだ。だが、やはり結論は変わらない。

「彼が自殺にせよ、他殺にせよ、まずわれわれがやらなければならないことは一つ、警察に連絡することです」

「そ、そうよ。忘れていたわ、電話ってどこにあるのかしら」

 思い出すが、電話機を見た記憶がない。わたしはポケットを探り携帯電話を出した。が、やはり圏外の表示だ。これも、すべて予定通りなのだろう。

「む、無駄、なんだな。とにかく、迎えが来る明後日まで、ぼ、僕は部屋にこもるよ。そ、そうだな。じゃあ、はぐれってプレートの部屋に、しよう」

「あたいの?」

「自分の部屋に泊まるのは、危険、なんだな」

 翼はそういい残すと、さっさと立ち上がり自分の荷物を持って部屋から出て行ってしまった。

「わたし、あの人苦手」

 広田がその後姿を見届けてから小さな声で答える。

「あたいも」

「どうも彼は、自分が殺されるかもしれないと考えているようですね」

「そうみたい。あたい、どこの部屋にしよう」

「それより、この、西崎さんは、どうするの?」

「どうするも、警察が来るまで触らないほうがいいだろ」

「だけど」

「それに、もうここのものを食べる気がしない。この部屋にはもう入らないほうがいいだろうね」

「ええ、そうね」


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