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「ぐっ」
くぐもった声が聞こえたかと思うと、西崎順也が立ち上がる。と、口を押さえる。わたしが西崎を見ると、その目は大きく見開かれ、睨んでいる。と、次の瞬間、ガタンと音を立て、倒れた。
「西崎さん、西崎さん?」
わたしは立ち上がり、西崎の傍に行こうとした。
「きゃーーーっ」
叫び声を広田葵があげる。すぐに理由は分かった。西崎の口から血が溢れている。とっさにかがみこみ、脈を確認する。
脈は、ない。
死んでいる。
立ち上がり、グラスを確認する。倒れるときに落としたのだろうが、割れてはいない。ツンと鼻を刺す臭いがある。
「毒、ですね」
わたしは言った。
「嘘っ」
「嘘ではありません。明らかに、彼は最後にグラスに口をつけて倒れました。その毒を飲んで死んだのは明らかなことです」
「ぼ、僕も、食べてしまった、んだな」
「いえ、おそらく、他の料理に毒はありません。このグラスから明らかに、強い臭いがあります。青酸系の毒でしょう。もしも同じ毒が混ざっていれば、翼さん、あなたはすでに死んでいます」
「だ、だ、けど」
「と、とにかく、落ち着きましょう」
「嘘やん、あたい、嫌やわ」
「落ち着いてください!」
わたしは少し大きな声を出した。
「彼の荷物は?」
「ロビーに、小さな鞄があったと、思います」
「うん、あった。二人で部屋を見て回っていたとき、見ました。ウエストポーチくらいの、鞄、だった」
「持ってきてもらえますか?」
「わたしですか?」
「誰でも構いません」
広田は、ふらふらの足取りで歩き出した。分からない。西崎は、先ほど庵野氏などいないと言っていた。それが、声だけとはいえ、存在したことに驚いたせいだろうか。いや、いくらなんでも、それが死に結びつくとは考えられない。
「どうぞ、これです」
「ありがとう」
ウエストポーチをさっと見る。たいしたものは入っていない。が、その中に一つ小さな瓶があった。手に隠れそうな大きさの瓶で、コルクで栓がされている。中に何も入っていない。けれど、そこから明らかな刺激臭がある。同じ青酸系の臭いだ。
「可能性は二つあります」
わたしはその瓶を持って言った。
「殺されたのか、自殺したのか。先ほどの告発が事実だとすると、それを指摘されたことによって、彼は自殺したのかもしれない」
「こ、殺されたの、かもしれない?」
「分かりません。席は指定されていましたから、あらかじめ毒を仕込んでおくことは可能でしょう」
「誰が?」
「庵野氏しかいないでしょう」
「あ、庵野なんて、いるわけない、じゃないか」
翼が主張する。彼も、西崎と同じように、はじめから存在していないと知っているのだろうか。何がなんだか、さっぱり分からない。




