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コーカサスの指輪

 大丈夫です。大丈夫ですが、手錠ってちょっと痛いですね。こうして手錠を掛けられていると、なんだか落ち着きます。


 なんで落ち着くかですって?


 それは何かに繋がっていると言う安心感が有るからに決まっているじゃないですか。刑事さんだって、ひとりぼっちに成ったら寂しいでしょう?


 手錠とひとりぼっちの関係性がわかりませんか?


 そうですか。感受性のもんだいですかね? 大丈夫ですか? そんな状態で人の話を聞く事が出来ますか?


 はぁ、余計なお世話ですか? わかりました。

 結婚式でのことですね?


 はい、そうです。私が刺しました。間違いありません。

 なんで刺したかですか?


 この日の為に買った包丁ですよ。出刃包丁って言うんですよ。刑事さんは料理をしないでしょうからわからないかもしれませんが、人を刺す時には出刃包丁が良いですよ。あれは丈夫でいいです。刺身包丁は長くてカッコイイですが、長すぎるので持ち運びには不便ですからね。


 はい?なんで刺したかって言うのは理由のことでしたか? それならばそうと早く言って下さいよ。


 理由はですね。あの女が私の運命の人を奪ったからですよ。それ以外に理由なんか有る筈が無いでしょう?


 私と彼の関係ですか?そんな事を聞いてどうするのですか? 私が彼女を刺した理由の裏付けが取りたいのですか? はいはい、わかりました。


 それでは、私と彼の出会いから話さなくてはなりませんよね? 少し長くなりますけれど大丈夫ですか?


 ああ、大丈夫なのですね。はい、そうですよね、話を聞くのが刑事さんの仕事ですものね。


 それでは、話します。

 あれは8年ほど前のことです。私はまだ高校生でした。あの頃の私は、ストレートの黒髪を後ろでひとつに束ねて通学をしていました。校則でロングヘアーは必ず束ねるか、三つ編みにする事になっていますからね。スカートだって、他の子はウエストの所をクルクルまいてミニスカートにしていましたけれど、私はきちんと膝丈のまま通っていましたよ。


 それがなにか、ですって?


 私は規則を守る子だったと言う話をしているのです。私は規則を破るような人が大嫌いなのです。

 はい、わかってくれますよね。刑事さんは警察にお勤めですから、当然規則を破る様な人は許しませんよね。そうでなくては警察にお勤めする事は出来ませんものね。


 はいはい、話の続きですね。

 高校の2年生になった時。クラス替えが有りました。私は2年E組になったのです。新しい教室に入ると、教室内の大部分の生徒が、はじめて見る生徒でした。何故かと言うと、私は、1年の時とは違った選択科目を取ったからなのです。なぜ、1年と違う科目を選択したかと言うと……。


 はい?

 そうですか? 選択科目の話はしなくても良いのですか? でも、刑事さんは私の話を聞くのが仕事なのでは無かったですか?

 はぁ、事件に関係ない事はどうでも良いのですね? 選択科目は事件に関係あるのかですって? 私の中では有ると思います。


 はい、話しても良いんですね?

 実は、1年の時に選択していた科目の教師が、結婚したんですよ。私はその先生と結婚する事が夢だったのに、私以外の人と結婚してしまったんです。そんな先生の授業なんて受けられるはずがないですよね。刑事さんはわかってくれますよね?


 はい、ありがとうございます。


 そんなわけで、選択科目が替わった為に、他のクラスメイトとは違うクラスになったのです。それでですね、席順は出席番号で決められていたんですよ。だから私は決められた席に座っていたのですが、その隣の席に座ったのが彼だったんです。

 どうですか? すごい運命だと思いませんか? これは神様が私の為に用意して下さった運命ですよね。


 えっ、そうでもないですか? 刑事さんは男子校の出身ですか?


 あっ、そうですか。じゃあわかりませんよね。男子校じゃ、同級生は男の子ばかりですものね。そんなところで運命の出会いを用意されたら……。BLっていうんですか? あの男の子同士の恋愛。そんなのになってしまいますものね。でも、私の場合、共学でしたから大丈夫でした。だから、私は運命を受け入れる事が出来たのです。

 

 それで、どうしたかって? そんなに急がないで下さいよ。


 私もその時は高校生だったのですよ。まだ、男性とお付き合いをした事が無かったものですから、なかなか話をする機会が見つかりませんでした。私は周囲の女生徒の中でも、おとなしくて目立たないタイプの子でしたから、クラスの誰もが私と話をした事が無いのです。楽しそうに話をしている女の子のグループに私が近付くと、何故か話を止めてしまうくらいですから。


 嫌われていたのかって?


 そんなはずは無いですよ。ただ、誰も話し相手になってくれなかっただけだと思いますよ。そんな私でしたが、神様っているんですね。神様が私の恋のお手伝いをして下さったのです。


 なにが有ったのかですって?


 あの……、ですね。えーと……。


 はいはい、わかりました。話しますよ。そんな風に怒らないで下さいよ。私だってこんな話をよそ様に聞かせるなんて、恥ずかしいんですからね。


 実はですね。彼が何かをゴミ箱に捨てようとしていたんですよ。私の目の前で、ですよ。私は彼が捨てようとしていたものが何なのか気になったものですから、物陰からじっと見ていたんです。

 そして彼は、それをゴミ箱に捨てて立ち去ったのです。だから私、彼の捨てたものをゴミ箱から拾ったんです。

 そうしたら、それは指輪だったんですよ。それも私の指にピッタリのサイズだったんですよ。

 彼ったらシャイだから直接渡せないので、あんな演出をしたんでしょうね? 実は私が拾うところも物陰から見ていたんでしょうね。


 刑事さんはコーカサスの指輪って知っていますか? はぁ、知りませんか。


 コーカサスの指輪は、プロメテウスとコーカサスの岩を鎖で繋いでいる鎖のリングから作られているんですよ。そう、あの指輪は彼と私を繋ぐ愛の象徴なんですよ。

 私はその指輪に、コーカサスの指輪と名前を付けて、大切にしました。片時も離さずに……。とは言っても、学校に指輪をしていくことは校則違反になりますから、学校ではカバンの底の方に大切にしまっておきました。


 えっ、彼はただ捨てただけだって言っているんですか? はい? 指輪を捨てた記憶がないって?


 そうでしょう、そうでしょう、あれは捨てたのでは無く、私にプレゼントしたのですから。


 えっ、彼にはその記憶も無いのですか? あー、可哀想。あの女に記憶を消されてしまったのね。


 はい? 指輪の件以降、彼と付き合っていたのかですって?


 なぜですか? そんな必要は無いじゃないですか? だって、あのコーカサスの指輪によって、彼と私は繋がっているのですよ。それ以外になにが必要なのですか?


 はい、もう良いんですか? 刑事さん、顔色が悪い様ですが、大丈夫ですか?


 あっ、はい、そうですね、私が心配する事ではないのですね。



「ふー、疲れた。裁判でもあんな調子で話すのかねぇ。裁判官も苦労するだろうなぁ」

「先輩、やっと終わりましたね。あとは調書を係長に回せば終了ですね」

「さっさと回しちまえ。今日は飲みに行くぞ!」

「はい、よろこんで!」


あなたの周りにも勘違い男、勘違い女、いませんか?

話を聞いているとイライラしませんか?

でも、話を聞いているだけの自分には、もっとイライラしますよね。

私的なイライラ解消文ですが、感想など頂けたならば、うれしいです。


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