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一年の恋

作者: 富士候

四月、それは心機一転の季節。

 そこで僕、甲斐葵はHR長に任命された。

くじの結果で決まってしまった為あきらめるしかないだろう。今は、先生に頼まれ、体が弱く入院している音無静香という人にプリントを届けに行くところだ。

 病院に着き、音無という名前を見つけて当たっていることを確認したら鞄からプリントを取り出し中に入る。

 誰が音無静香なのかと思ったがそんな心配は無用だった。

 一番奥の右側のベッド…そこでは、僕が見てきた中でみたことない様な美少女が本を読んでいた。

 目が引きつけられる黒髪、それと同じ色をした瞳、誰も寄せ付けない雰囲気________.

 そして、見た瞬間からの僕の心臓の高鳴り

 この気持ちを文字で表すなら一目ぼれだ。

 それでしか表すことができない……。

 その美貌に見とれていると少女…音無静香の方から話しかけてきた。

「あら? どちら様?」

「え、えっと…なんで来たんだっけ。」

 そう答えると音無さんはクスクスと笑う。

「多分そのプリントを私に渡しにきたのじゃないかしら?」

「そ、そうだ、はい、音無さん。」

 右手に持っているプリントを音無さんに渡す。

「ありがとうね。あと、私の事は静香でいいですよ?」

「は、はい、し、静香さん。」

「同い年なのですからそんな緊張しなくても…そういえばあなたの名前は?」

「えっと、甲斐葵です。」

「女の子みたいな名ね、いい名前だわ、両親に感謝しないとね。」

「は、はい」

「立っているのもつらいでしょう、そこに座ったらいいのじゃないかしら、時間があるなら私の暇つぶしに付き合ってもらえないかな?」

 僕は言われるがまま椅子に座る。

「葵君、私の話し相手になってもらえないかな?」

 静香さんは輝く笑顔で僕に微笑み問う。

「はいっ!」

 僕はあの後に後悔する。あの時否定すれば、違う未来があったのかもしれないと…だけど同時によかったとも思う、楽しかったと…


 翌日、病院に行き、病室のドアを開く。

 そこには変わらず、昨日と寸分違わず同じように佇む静香さんがいた。

 昨日から動いてないのじゃないかと錯覚させる

 静香さんは僕の存在に気付くと絵画から動く人形に変わる。

「いらっしゃい」

 静香さんは、満面の微笑みを僕に向ける。

「今日はどんなお話をしましょうか?」

 そう聞く静香さんの目はとても爛漫に輝いている。

「今日は____________


そんな他愛のない会話をし始めてから約八カ月の時が経った。

 春の暖かい季節からうって変わり、外は肌寒くなっていた。

 この八カ月という時間の間で、静香は学校にたまにではあるが登校したり、一緒に出かけたりして僕との仲を深めていった。

 そして、同時に僕の静香への恋心が膨れ上がっていった。

 ついに、意を決し告白をしようと思った十二月二十四日の放課後

 いつも通りに病院に行くと診察室から出てくる静香の姿が見えた。

 僕に背を向けている為、静香が今、どんな表情を浮かべているかわからない。

 その姿を見て、僕はなぜかせつなさを覚え、声をかける

 すると静香は黒髪をなびかせ、僕の方へ振り向く。

 彼女の表情は笑っているが、少し悲しみを混ぜた様な顔だった。

「あら、ちょうどよかった、葵君、話したい事があるから外に出てみたい?」

 それは願ってたり叶ったりだ、僕も2人になりたかったし

 僕は頷き、静香に付いて行く。

 外に出ると周りは来た時とうって変わって、暗闇に染まっており、街頭が町を照らす。

 そのまま静香に付いて行くと着いた場所は公園だった。

 公園には誰もいなく寂しい印象を与える。

 そこに着くと静香は腕を後ろに組み、振り返った。

「葵君」

 静香はちょうど月の前に立っていて、月と重なって、静香の整った顔が影になり映る。

 この数カ月間、色々な静香の笑顔を見てきたけど、今日は一段と美しく見えた。

「な、なに?」

 そう問うと、静香は悪戯に微笑み。

「後ろに葵君の友達がいますよ?」

 なぜこんなところにって思い後ろを振り返るがもちろんこんな時間に公園による物好きはいなく後ろには暗闇が広がっていた。

「誰もいな、うっ」

 視線を静香の方へ戻そうとすると、目の前に静香の綺麗な顔があった。

 なんでこんな近い距離にって、思い状況を確認すると、口に柔らかい感触が…

 これがいわゆるキスというものなのかと…静香の顔が離れて遅まきながら理解する。

 静香の顔は元々雪の様に白いだけあってか、顔がとても赤く染まっているのが確認できる。

「葵君、好きだよ」

 そういう彼女の姿は儚く、今も消えそうで守ってあげたいという気持ちが湧く。

「ぼ、僕も大好きというか、一目ぼれだった…えっ? 本当に僕なんかでいいの?」

「当たり前でしょう、嫌いだったり、何も思っていない人にこんなことしないわ」

 さてと、と静香は前置きをして話しを切り出す。

「私ね…先生に体が弱いと聞かされていたと思うけど本当は思い病気だったんだよね…」

 その事実が聞かされ僕は戦慄する。

「でもね、今日先生から治ったと聞かされたの、あのとき出てきたのはその話しをしていたからなの。それでね、明日クリスマスじゃない? いまので相思相愛ってことでカップルになったという認識でいいのかしら?


 僕はその事実確認に思いっきり頭を縦に振る。

「そんなに強く振らなくても…まあいいわ、それでね、明日デートしないかしら? 明日の計画は任せたわよ


 静香は微笑みながら公園から出ていく。

 僕は公園に一人残されながらさっきの出来事を振り返る。

 僕の手は無意識に唇にふれる。

 静香も僕の事好きだったんだ、そして静香は病院にいなくても大丈夫なんだ…その事を噛み締めながら僕は明日の計画を練るために家に戻る。

 あの時の静香の顔はまだ明るかった。

 そして、十二月二十五日当日、天気は晴れ、晴天である。

 僕は集合場所の駅前で待機中である。

 しばらく、待っていると急に視界が暗転する。

 目元にかかる柔らかい感触と、温かい体温、そして、後ろから声が耳の近いところで囁かれる。

「だ~れだ」

 聞き覚えのある声で僕の耳をくすぐる

 僕は身動き一つできないまま答える。

「し、静香っ!」

 恥ずかしいぐらい声が裏返っている。

「フフ、可愛いわね」

 手を僕の手元から離し、僕の視界に姿が映る。

 静香の格好はヘッドホン型のイヤーというのか?それを付けていて、手には可愛らしい手袋、そしてピンクのジャケットを着込んでいる。

 そして、以前は掛けていなかったピンク色の眼鏡をかけていた。

「どうしたの? その眼鏡」

「今日は、眼鏡をかけてみて甘えんぼキャラになりたいの、いいかしら?


 そういうと、僕の右手をとり、体を密着させる。

 僕は顔を赤くしながら頷く。

「じゃ、いこっか、葵君」

 歩き始めると歩き辛いのか体を離し、手をつないだ状態で歩く。

 病院での静香の性格と違うので僕は戸惑うと同時に、この静香もいいなという想いを秘めつつ、デートスポットに向かう。

 最初の場所は、動物園で、さるの名前をおさるさんとよばされたり、うさぎにうさちゃんという名前を付けたりして、時間を忘れるぐらい楽しかった。彼女がいるってとても幸せなことだと実感できた。この時間が永遠に続いて欲しいと思わせる。

「な~に考えてるの? 葵君」

 頬に冷たく硬い感触があり、夢から現実に戻って振り返ると、両手に缶のジュースを持って一つを僕に向けている静香がいた。

 時は、夕暮れ、外は黄昏色に染まっており、僕はベンチで休憩しているところだった。

 僕にジュースを渡すと、静香も僕の隣に座った。

「いや、この時間とても楽しいなって」

「フフ、恥ずかしいこといっちゃってさ、もしかしてプロポーズ?


「ち、違うだろ、ま、まあ結婚はしたいと思ってるけど」

「ふぅー、いってくれるね、とてもうれしいよ、じゃあ約束ね、結婚したら私に報告すること


「結婚したら?」

「ごめんごめん、今の忘れて、ねー、葵君、私とずっと一緒にいたい?」

 そんな言葉とは裏腹に静香の目はいまにも泣きだしそうな目をしていた。

 なにが彼女をそうさせるのだろう、考えたって僕にはわからない…だけど、いま何かしないといけないのは分かる。

 僕は静香を抱き寄せた。

 そして耳元で呟く。

「当たり前だ。ずっと一緒にいよう、静香


 すると静香の方から鼻をすする音が聞こえる

「え? 僕なにか泣かせるようなこと言った?」

 どうにか弁明しようと色々考えていると

「ううん、違うよ、嬉しくて、ありがとうね葵君、私と付き合ってくれて」

「こっちこそ、静香、好きだよ」

「コラ、調子に乗らないの」

 僕から少し離れ僕のおでこに軽いデコピンをして席を立つ

「さて、葵君、気を取り直して、次はどこに連れて行ってくれるのかな?」

「次は、僕のお気に入り場所だよ」

 静香の繊細な細腕を引き、そのお気に入りの場所まで連れて行く。

 着いた場所は、山頂に一本の杉が立っている小山だった。

 その山を登りきると周りはもう暗闇に染まっていた。

 その山頂から町に向けて視線を向けると視界一杯に町の色とりどりの光が煌めいて、視線をちょっと上に向けるとその光に対抗するように星が輝いている。

「綺麗…」

 静香はとても嬉しそうに山から見下ろす夜景に感動している。感極まったのか目の辺りに涙がたまっていたが、あえて無視して話しかける。

「病院にいるだけじゃあ、見たことはないと思ってね」

「ありがとう…」

 その一言から僕たちは無言になり、しばらく夜景に見とれていた。

 星空と街並みの光が相まって幻想的な明かりを生み出している。

 よしっと静香が隣で不意に呟く。

「実はね、私、重大な事隠していたの、その隠していたことはね…ううん、やっぱり学校始まったら分かると思うよ、じゃあね葵君、今日はとっても楽しかったよ」

 そう口元だけ笑うと、出口に向かい振り返って山を下りていく、その場には涙の欠片が散らばって暗闇に消える。

 あわてて追いかけようと静香の方へ向かうとすでに静香の姿は見えなくなっていた。

 僕はどうせまた学校で会えるだろうと思ってしばらく夜景を楽しんだ。

 この日を境に静香とは音信不通になった。

 どんなにメールしても返信が無いし、掛けても取らない。

 静香の安否が気になったが、学校にくれば分かるという言葉を信じ、多分どこかに遊びに行っているのだろうと見切りをつけ、心配を心の隅に追いやった。

 そして、始業式

 僕は、やっと静香に会えると心を弾ませて、学校に行く準備を終え、携帯を手に取ろうとした時携帯が震えた。メロディからして静香からだとわかり、急いで開く。

 To「葵君へ」

TEXT「クリスマスの日はとても楽しくて、私にとって一生の思い出になったよ。このメールが届いていると言う事は、私はもうこの世にいないのだろうね。これが私のついた最初で最後の嘘、病気は治ってなくて、もう手遅れだったんだ。それで、両親に必死に頼んで私の最後の一日を葵君と過ごさせてもらったんだ、そのおかげで葵君から聞きたかったことを聞けて良かった…これで安心して天国に行ける………とか言えたらよかったんだけどね、やっぱり私ずっと葵君と居たかった。暮らしたかった。結婚したかった。そして子供は何人欲しいねとか話しながら幸せに暮らしたかった。なんども神様を怨んだ、どうして、どうしてって___」

 僕はそれ以上メールを読むことはできなかった。

 こんな時は全部みるべきなのかもしれないそれが僕のつとめかもしれないけど、僕には耐えきれなかった。視界がにじんで読むことが出来なかった。

 嘘って、嘘って、こんな大事なことだったのかよっ!

 僕は携帯を握りしめ、家から飛び出して頭に浮かんだ場所へ向かって走りだしていた。

 息を切らしながら着いた場所は、静香の家だった。

 家の場所は病院に通っていたころ、もし退院したら遊びにきてねといわれて静香に教えてもらっていた。

 僕は音無と書かれたネームプレートの下にある呼び鈴を鳴らす。

 しばらくして扉が開いた。

「あら…葵君…そう、あのメールが届いたのね…」

 出てきたのは静香の母親だった。母親とは何回か行っているうちに知り合い、よく静香の世話など任されていた。

「はい…それで静香…静香はまだ生きていてどこか別の病院に移されただけですよね、あれは静香なりの冗談で僕をだまそうとしているだけですよね?」

 あのメールを見て嘘とは思えないが、僕は「生きているよ」「冗談だよ

という言葉を聞いて安心したくてこんな質問をしたのかもしれない。だけど現実はそう簡単に問屋が卸さなかった。

「ごめんなさい…いまだに私も信じられないわ…あんなに元気だった静香が…ごめんなさい…うぅ…」

 急に目元を押さえたので落ちつくまで待つ

「ごめんね、まだショックから立ち直れなくて…葵君、付いてきて欲しいところがあるがあるけど時間大丈夫?


「学校はサボります…いま学校行っても身にならないと思うんで…」

「そう、親の身としては注意の一つはしとくべきだと思うけどしょうがないわね」

 そう言うと玄関を出て静香の母親はどこかに向かう、それを僕は越さない程度に付いて行く。

 そして着いた場所は墓場だった。

 母親はそのまま墓場の中に入り、入り組んだ墓石の間を通り抜け、一つの墓石の前で立ち止まる。

 そう、静香の墓だ。母親は僕がその前で立ち止まるのを見届けると墓場から出ていく。

 僕はその墓石に刻まれた名前を確認して膝から崩れ落ちる。

 僕の頭であいまいだった静香の死が確定した瞬間だった。

 自然と涙がこぼれ地面と接触し消える。

 泣きながら僕は案外涙もろいことに気付かされる。

「うぅ…静香…静香…帰ってこいよ…なにもかも嘘でした。って笑いながらさ…どうして亡くなってから僕にこの辛い現実を押し付けるのさ…卑怯だぞ…せめて別れぐらい言わせてくれよ…なんで…なんで…静香じゃなくて僕が…僕が肩代わり出来れば…


 自分の思いを吐露していると後ろから声がかかる

『ううん、葵君は、私の分まで生きるべきだよ』

 とても懐かしい声が聞こえた。正確には数週間ぶりだけど、もう二度と聞く事がかなわないと思っていた声だ。

 僕は嬉しくなって後ろを振り返ろうとすると

『振り向かないで、葵君、そのまま』

 僕は後ろに振り向きかかった頭を制止させ、墓に向き直る

「静香…なのか?」

『彼女の声も忘れるなんてひどいな葵君』

「やっぱり静香か、この墓もなにもかも嘘だったんだな」

 とても幸せだった、このまま僕は帰りたかった、静香の答えは聞きたくなかった。静香の正体が心のどこかで分かっていたからだ。

『ううん、ちゃんと死んでいるよ、ちょっと葵君に私の言葉で最後に伝えたい事があってね、化けて出てきちゃった。』

「伝えたい事…?」

『永遠に愛しているよ、私の大好きな葵君』

「静香っ!」

 僕は耐えきれなくなって後ろを振り返るが、そこには誰もいない、耳を澄ましても聞こえるのは渇いた風の音だけだった。

 さっきのは僕の虚無感が生み出した幻聴なのかと思った。

 いや、あれは現実だったはずだ。そう信じ、僕はさっき起こった出来事を心の内に刻みつける。

「ありがとう


 僕は静香のことを忘れない、僕が生きている限り…

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