溺れる青と、深い夏。
遠くで鳴く蝉の声。
泣きすぎた嗚咽と、鼻水をすする音。
「お話はこれでおしまい」なんて言い、儚げに笑った笑顔。
僕は今でも鮮明に覚えていた。まるで今さっき、その場面から抜け出したかのように。
いや、忘れること自体ありえない。
なんせ彼女は僕の初恋の相手で、一番好きな人だからだ。それは今でも変わらない。
五歳年上の彼女。きっと僕は弟みたいな扱いだったのだろう。
だけどいつの間にか、そんな彼女より年上になってしまった。
彼女自身、最期は、「私の事なんか気にしないで、幸せになってね」なんて言ってくれた。だけど、やっぱり僕は彼女がいなくなった今でも好きな訳で。
あの日、彼女の病室で聞いた物語は覚えている。
泣きやまなかった僕への物語。
彼女の好きだった、青色と夏の物語。
確か少し小説を元にしたんだったか、それとも完全オリジナルだったのか。ちょっとあやふやだけど、なぜかどのお話も素敵に聞こえたんだ。
今思い返せば悲しいものが多いって言うのに。
僕は今日もまた、花を片手に小高い丘を越えていく。
今の季節は、ちょうどあの時と同じ夏。
騒がしい蝉の声や、暑さが僕は嫌いだ。
そんな時期だ。歩くだけなのに、体中汗まみれになってしまい、最悪だ。
それでも、夏休みなのだからと、特に用の無い日は彼女の墓参りに来ている。
彼女の好きな、綺麗な花を片手に。
丘を登りきると、小さな霊園がある。
そこの一角のちょっとした木陰。そこに彼女は眠っている。
息を止めた瞬間の彼女は、優しい笑顔だった。
「また、来たよ」
そう言って、彼女に花を渡す。
返答がある訳ないが、それでも何処かで彼女が聞いていてくれるような気がした。
「さて、始めますか」
僕は近くの水場から水を用意する。もちろん簡単な掃除道具も持ってきた。一昨日来て掃除したばかりだから、汚れてなんかほとんどいないけど。
綺麗好きだった彼女はそうしないと、嫌がっただろう。
しばらくし掃除をし、綺麗になった墓石の前でもう一度手を合わせる。
「また来るからね、次はお菓子でも持ってくるよ」
そう言って立ち上がり、元来た道をたどって帰る。
またこの丘を超えるのは、本当にしんどい。
青々とした草が少し、恨めしかった。
途中でへこたれそうになりながらも歩いていると、ふいに爽やかな風が吹いた。
暑さで参っていた僕の頬を撫でながら過ぎ去って行く。
もうすぐ、秋が来るのだろうか。
その時何故か、彼女の声がした気がした。
だけどそんなもの気のせいだと言わんばかり。
振り向いた先に、彼女はそこにはいなかった。
「やっぱそんな事あるわけないよな」
また僕は歩き始めた。
これから先も、僕は生きていく。
それがどんなに辛くても、彼女の分まで生きると決めたんだから。
涙が不意にこぼれた。
唇を少し噛み締める。
涙がこぼれない様見上げれば、溺れてしまいそうなほど、深い夏空。
こんにちは。
初めましての方は、初めまして。
罰歌と申します(*´ω`*)
今回は、少し遅れてしまいましたが「青」と「夏」をテーマに短編をいくつか書かせて頂きました。
駄文ばかりですが、また何か書けたのなら、投稿させていただきます。
では、今回はこの辺で。
評価、ありがとうございます。
頑張ります(*´・ω・`*)