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アタシと彼とアイスキャンディ


「はい」


 彼に渡すアイスキャンディ。

 彼のすきなソーダ味。

 青い、空みたいな色のソーダ味。

 

 いつも彼は、これしか食べない。

 リンゴやレモン、梨、アタシのすきな苺味だってあるのに。

 毎回買うたび疑問に思う。


「ほい、アイス代」


 そう言って、彼はアイスを口に含む。

 伸ばされた手から、しっかり代金を頂いて、アタシも隣に座る。


 学校から帰る途中に近くの駄菓子屋によるのがアタシらの最近のきまり。

 まあ、絶対って訳じゃないけど。

 最近は習慣になりつつあるんだ。


 その駄菓子屋には、入り口にベンチがある。

 これも青い。


 今もそのベンチに二人座りながらアイスを食べている。

 彼はソーダ、アタシは苺。

 夏の暑さに対抗するための冷たさ。

 だけど、まぁ、すぐに溶けちゃうあたり負けているけど。


 時季は真夏。

 文化祭の準備として、夏休みもやるだなんて、なんてめんどくさい。

 そんなことを頭のなかで愚痴る。

 彼を盗み見れば、何を考えているかわからない表情でアイスをくわえていた。


 目線の先には澄んだ、夏特有の濃い青空だけ。



「どうかした?」


 思わず声をかける。

 幼なじみのアタシでも、今まで見たことが無いような真剣な顔でいた彼。


 何をいうのか、心配だった。

 胸騒ぎが無性にする。



「おれさ、来週の月曜、引っ越す」



「は……?」


「……」


「いや、冗談でしょ?」


「……」


 青空から移り、向けられた視線はアタシを捉え、嘘じゃないと言っていた。

 突然のことに驚くアタシ。

 しばらくお互い無言だった。


 その間も溶けるアイスキャンディ。



「……どこに?」


 やっと喋ったアタシの声は、少し掠れた。


「九州、鹿児島」


「遠いね」


 今アタシたちの住んでいる関東からは、遠い。

 なかなか会える距離じゃない。


「父さんの転勤だって」


「……そうなんだ、じゃあ仕方ない、ね……」


 段々語尾が弱くなり、泣きそうになる。

 今にでも逃げ出したかった。

 でも今逃げたら、お別れの日まで、いや、下手したらこれからずっと先も会えない気がした。


「まあ、ケータイもあるし、連絡いつも出来るだろ」


「う、うん」


「だから、寂しそうな顔すんな」


 馬鹿だなあ。

 ちゃんと顔みて話すのが良いっていうのに。


「なんなら、正月くらいはこっちは来てやるし」


「ほんと?」


「たぶんな」


「あ、学校の皆知ってるの?」


「仲いいやつとか、メアドしってるやつには全員知らせてある」


 なんだよ、アタシ最後なんじゃん。


「ひどいよ」


「ごめん」


 また、お互い無言になる。


 もう喋りたくないという風にアタシはアイスを食べる。

 苺の甘さが、今だけ嫌だった。

 彼はもう食べ終わっていたようで、『はずれ』だったらしい、ただのアイスの棒を持っていた。


 ばか。

 もう一度、頭のなかで言う。

 そうしてアイスを食べ終えた。


 すると、アタシのアイスの棒に、なんと『あたり』の文字が書いてあった。


「あっ……、あたった」


「まじで? よかったじゃん」


 彼は言った。


 アタシらが普段食べるアイスキャンディには、『はずれ』と『あたり』がある。

 当たれば、もう一本。

 だけど、当たる確率がお互い低いのか、滅多に『あたり』なんて出ない。

 羨ましそうに彼が、『あたり』のアイスの棒を見ている。


 その時だった。

 ふと、思いついた。



「……じゃあさ、これあげる」


「いいのか?」


 凄い勢いで食い付く彼。


「ぷっ」


 思わず吹き出してしまった。


「笑うなよ」


「ごめんね」


 でも彼も、責める気は無いみたいで笑っていた。

 アタシは、このタイミングを逃さないよう口を開く。


 だけど、たった一言言うだけなのに、思わず声が出なくなりそうだった。



「約束」


「え?」


「あげるから、また、ここでさ、二人で食べよ」



 ほんと、泣くのを堪えるのはきつい。

 言いたいことが途切れ途切れになってしまう。



「わかった」


「約束、だからね」


「ああ」




 いつか、また一緒に食べよう。


 そんな約束を託して、『あたり』を渡す。

 ふと、この棒が、ソーダ味のアイスみたいな青にに見えた。



「それじゃあ、帰ろっか」



 そうして立ち上がる。

 頭の上には、ソーダ味と同じ、綺麗な青が広がっていた。






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