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青硝子の目


 ビー玉のような綺麗な目が飾ってあった。


 ふと止まったそこは、小さな雑貨屋だった。私は驚いた、いつも通い慣れた道に、いつの間にこんな店が出来ていたのか。

だけど、そんな疑問も忘れるぐらいに、そこに在ったふたつの目は綺麗だった。


 青い目。

 ちょうど、上を見上げていたそれは、今日の快晴の空と同じ色だった。


 友人との待ち合わせがあると言うのにもかかわらず、私は一歩店の扉へと寄っていた。

 押すと、キイ、と何とも言えない古い扉の音がする。

 そしてその後を追う様に、チリンと金属の軽やかな音がする。ドアにつけてある鈴が鳴ったようだ。


「いらっしゃい」


 音を聞きつけたのか、レジの奥から一人の女性が現れた。

 年は三十路手前かそれぐらいか、黒い髪を後ろで一つに束ねていた。服装も随分とシンプルかつ、目立たない控え目な色合いだった。着けているエプロンのボタンが可愛らしかった。


 私はお店の中をぐるりと見回す。

 ドアをはいるとつきあたりにレジがあり、そこから曲がり角になっているようだ。

 沢山の棚が並べており、そこには一つ一つ選び抜かれたのかオシャレなものや他ではなかなか見ないような興味深いものが沢山あった。

 棚はどれも違った色合いや形をしており、大きさもバラバラだった。それでも、すべて私の身長より高く、上の方の商品はぎりぎり見えるが、手が届かなかった。


「そこの階段でも使ってね」


 店主の方が指差した所には、可愛らしい小さな木の階段があった。持ってみるととても軽く、女の私でもひょいひょい運べた。

 それを使い棚の上部を見ると、少し埃がたまっていたが、そこにもまた面白いものが沢山あった。


 それから少しして店の中をざっと見ると、わかったことがある。

 どれもこれも興味深いものばかりだ。

 だけれど、本当に衝動にも近い形で引かれるのは、あの目だけだった。


「あの、すみません」

「はい」


 店主に話しかけてみる。


「あそこに展示されている目も、売り物ですか?」

「いいえ、ごめんなさい。あれは売れないんです」

「あ、そうなんですか」

「はい、あれは買われるのを待っているんです」

「え?」


 思わず私は聞き返した。


「……買われるのを待っている?」

「はい」

「じゃあ、なんで売ってくれないのですか?」


 怒っている訳でもなく、ちょっとした好奇心で私は聞いた。

 すると、帰ってきた答えはちょっと意外で、でもありふれたものだった。


「あれは、待っているんです。自分を置いていった人を」

「はあ」


 そうして聞かされた話はこうだった。


 どうもあの目は、店主が小さい頃、まだ店主の親がこのお店をやっていた時に、ふらりと訪れたお客さんが、引き取ってほしいと置いていったものだったそうだ。

 普段は買い取りなんてしていないこのお店も、最初は断ろうとしたらしいが、その眼の綺麗さに心惹かれて引き取ってしまったらしい。


 親はそのあと、大切に飾ったらしい。すると、その目は空の色を映すかのように、色を変え始めたという。

 ただ、なぜかお店の一家にはその目が寂しそうに見えたらしい。

 だから、売ったお客が戻ってくるまで売らないそうだ。

 こんなにも素晴らしい目なら取り戻しに来るだろう、と。


 だけど、かれこれ何十年もたっているのに、待ち人は来ないらしい。

それでも、目は売らなかった。勿論、店主の代になっても。


「……なるほど」


 確かに、話を聞いてからその目を見ると、なんだか寂しそうに見えた。


「皆さん、このお話をするとあの目を見る目が、同じになるんですよね」


 店主はしみじみと呟いた。


「他にも、商品はあるのでよかったらまたいらして下さい。その時は目を売れなかった代わりに、お安くしますから」


 そういって店主は微笑んだ。


「わかりました」


 そういって、私は扉を開ける。

 キイ、と古びた音がして、チリンと鳴る。


 外へ出て時計を見ると、待ち合わせから十分ほど遅れていた。


「まずい!」


 慌てて駆けだそうとしたとき、ふと眼を横に逸らす。

 じっと見つめられていたような気がしたからだ。


 その先には、あの青い目。


 その色は、快晴と同じ澄んだ青。






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