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九 駅前で邂逅

「こんばんは」


 石井さんが小さく頭を下げる。

 なにこの子俺のストーカー!? と、一瞬心臓が跳ねた。が、彼女の後ろには駅の出入り口がある。どうやら電車から降りてきたところに鉢合わせたようだ。

 動きやすさ重視の格好から察するに、おそらくバイト帰りなのだろう。


「こんばんは。いま帰り?」

「はい。彼女さんですか」


 マリさんの車が走り去った方向を一瞥し、むりやりつくったような笑顔で聞いてきた。


「いや、今日知り合ったばっかで」


 石井さんの顔からすっと笑みが消える。

 目つきが怖い。ポニーテールな美少女の無表情って怖い。

 直視できないでいると、彼女はすぐに先ほどの笑顔をとりもどした。


「もうごはん食べました?」

「うん、さっき」

「そうですか」


 金太郎飴もびっくりな画一的スマイル。

 声は明るいのに、全身から陰気さがにじみ出ているように感じるのは夜のせいだろうか。


「図書館へは毎日行くわけではないんですか?」

「基本的には、用がなければ毎日行く予定だけど」

「明日は?」

「行くよ」


 二日間まとも勉強できなかったからな。

 ずるずるとペースを乱さないためにも、明日はなんとしても図書館へ行かなくては。

 携帯のアラームに目覚まし二個もプラスしとこう。

 あと寝る前に張り切りすぎないよう注意しないと。


「明日、お昼にいつものベンチで待ってます」


 おやすみなさい、と頭を下げ、石井さんは俺の家とは反対の方向へと歩いて行った。


 なんだかすこし元気がなかった。

 はじめて会った日の無邪気な笑顔の印象が強く、彼女が暗いと違和感が大きい。

 バイト先でなにかトラブルでもあったのだろうか。

 明日会ったときに聞いてみるか。




 午後八時。まっすぐ家に帰れば家族には図書館帰りを装える。

 一味違う俺を見ろ計画には微塵たりとも支障はない。

 家路をたどる途中、ネットであるものを検索した。


 車を降りる前、マリさんからつぎは二人で会いたいと言われ、携帯番号を聞かれた。

 きわどい格好の女の子から二人で会いたいと言われれば、なにかと妄想が広がりまくるものだ。

 ところが、彼女の口調にはそういった期待を感じさせるものがほとんどなかった。ビジネスライクとでもいうのだろうか。


 なんかへんだ、と河原で感じたあの感覚を思い出した。

 それでも番号は教えてしまったが。送ってもらった手前、断りづらかったし。


 マリさんの目的はなんなのか。なぜ突然俺に声をかけてきたのか。

 その手がかりとなるワードは車の中でつかんでいた。

 つかんだというか、正確には助手席のドアポケットからのぞいていたパンフレットに書いてあった。


 たった一度の検索で謎はすべて解けた。

 ほうほう、なるほど、そういうことか。名探偵にでもなった気分でひとり夜道でうなずく。


 この件はミサキさんにも伝えておこう。知ったからにはほうっておくのも後味が悪い。

 河原ではまるで今生の別れかのように思えたミサキさんだが、思い返せば二人きりのときに連絡先を交換したのだった。携帯を見るまですっかり忘れていた。

 縁がどうこういう以前に、番号もメアドもばっちりアドレス帳に入ってたよ。


 ミサキさんにメッセージを送ったところで、愛しの我が家にたどりついた。




 夕食は俺の分も用意されていたが、お月さまの美しさに胸がいっぱいで食べられないと母に謝罪する。

 酔ってるの? と怪しまれたが、詳しく追及される前に逃げた。


 今夜は妹のほうが先に帰っているらしい。

 一応あいつにも忠告しとくか。

 そう思い立ち、自室に向かう前に妹の部屋のドアを開ける。


「おかけになった電話番号は現在使われておりませんがピーッという発信音の後に元気な声であいさつしましょうただいま!」

「なにー? ノックぐらいしてよ」

「めんどい」

「せめてふつうに入ってきてよ。意味わかんないことしてないで」

「めんどい」


 高速でフランスパン型クッションが飛んでくる。

 それを華麗なステップでかわし、流れるような動作で部屋に入る。と、クロワッサン型クッションが顔面に直撃した。

 常々思っていることだが、いかんせんうちの妹には兄に対する敬意が足りない。

 直撃したクッションはパンのくせにやたらと硬い。

 柔らかくないクロワッサンなんて邪道だ。くりっとした目でごまかそうったってそうはいくか。作ったメーカーに文句言ってやりたい。

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