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明朝6時に  作者: 一華
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セカイは分離する

 大切にされている、とは思っていた。しかし、自分は愛されているのだろうか、とも思っていた。


「え、三人で?」

 絵筆を洗っていた晶の手が水にさらされたまま止まっている。

「うん。日曜の現代美術館、出来れば比呂さんも一緒に行きたいなと思って。駄目かな?」

「…いいよ。あたしも比呂さんのお話聞きたいし。一緒に行こう」

 出しっぱなしの水道を止め、晶は微笑んだ。

「ありがとう。じゃあ連絡しとくね」

「うん、じゃあ日曜日ね。楽しみにしてるから」

 柔らかく笑うと、康介はそのまま部室を後にした。見送る晶の後ろから、同期の島田が声をかける。

「ねえ、今のってデートの話じゃなかったの?『三人で』って、叶野君結構酷くない?」

「しょうがないよ。こーすけ君は比呂さんのこと大好きだからね。あたしは平気」

「まあアキちゃんが良いなら良いんだけどね」

 それ以上は深入りしてくることなく「私も帰るね」と島田も帰ってしまった。珍しく部室には誰も残っておらず、消灯時間ぎりぎりの部室棟は静まり返っていた。

「…大好きだもんねえ」

 排水溝に流れていく水は色んな色が混ざって黒く濁っていた。


 幻想の世界をどこまでも自由に泳ぐのが康介と比呂士であるならば、現実の世界をどこまでもゆっくりと歩くのが自分なのだろう。


 手を伸ばせば、自分もそこへ行けただろうか?


「晶さん、友達に戻ってくれませんか」

 静かな晶の部屋には、表情を消した康介と、柔らかい笑顔を湛えた晶が居た。

「…うん、わかった」

「勝手でごめん」

 頭を下げる康介に、晶は頭を上げるよう促す。

「いいよ。こーすけ君が言いたいこと、何となく解るし」

「え?」

「だから気にしないで」と晶は精一杯の笑顔で応える。

「ありがとう、こーすけ君。これからもよろしくね」

 康介が顔を大きく歪め、「ごめん」と零した。


 バタンとドアの閉まる音がする。

「…やっぱり無理かあ」と晶が呟く。

 用意していた紅茶はすっかりぬるくなってしまった。

 午後六時、夕食用に用意された食器の半分は、使われることなく食器棚へと戻された。


 康介と比呂士が関係を変化させるまであまり時間はかからなかった。

 康介は以前にも増して「比呂さん比呂さん」と、比呂士にべったりになったが、晶以外、その変化に別な意味を見出す者は居なかった。

 不思議と嫌悪感や怒りは感じなかった。晶の中にあったのは、妙な安堵と、僅かな寂しさだけだった。

 康介や比呂士との距離は自然と開いていったが、美術部としての活動が疎かになることはなく、晶たちは年を重ねていった。


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