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明朝6時に  作者: 一華
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小さなセカイ

 午前五時三十五分、晶はいつものように目を覚まし、身支度を始めた。

 皺が寄ったシャツとスカートを軽く伸ばし、乱れた長い髪を整えると、隣に転がっている塊に目をやる。

 しっかりとタオルケットにくるまり、寝息を立てているこの塊は、否、この男は、この部屋の持ち主である叶野康介。晶と同じ大学に通い、同じ美術部に籍を置く。

 普段大人びて見える整った容姿も、眠っていると妙にあどけなく見えた。昨夜の酒が効いているのか、晶がごそごそと動いていても起きる気配は無い。

「ばいばい、こーすけ君」

 返ってくることのない返事は待たず、午前六時、晶は部屋を後にした。


 ゆっくりと夜が明けていく。

 水面に反射する柔らかい光を目の端に捕らえながら、晶は自宅への歩を進めた。

 

 十一月に入り、朝晩の冷え込みが強くなってきた。

 この時間に外にいると、季節が確実に冬に向かっているのだと実感させられる。

 朝の澄んだ空気をゆっくりと吸い込んだ晶は、その冷たさに顔をしかめた。

「・・・さむ」

 こんな事なら康介の上着を拝借してくれば良かったと、晶は少し後悔した。

 しかし、今更戻るのも面倒に感じられて、冷たい風が吹き抜ける橋の上を、自宅に向けて無心に歩く。

 晶の住むアパートと康介のマンションは川を挟んで徒歩三十分程離れたところにあった。

 それは二人が通う大学の学生街のほぼ端と端に位置するが、晶はその距離を徒歩で通っていた。

 雨の日も、風の強い日も、徒歩で。


 少し近道をして細い路地を抜けると、近くの高校から朝練の元気な掛け声が聞こえた。

 アパート近くの交差点で信号が青に切り替わるのを待つ。そうしているうちに、晶は小さくため息をついた。

 雀の囀り、行き交う自動車、ランニング中のおじさん、何も変わらない。いつも通りの朝だ。

 信号が変わった。アパートまではもう二分とかからない。晶はゆっくりと顔を上げ、残りわずかな帰路を歩き出した。

 帰宅したらシャワーを浴びて、仮眠を取ろうと晶は思案する。夜が明けてしまうまであと少し。

「…比呂さんの、ばか」

 晶の呟きは夜明けを待つ街に溶けていった。その呟きが本人に届くことは、ない。

 

 晶が夜な夜な康介の元を訪ねるようになってから、既にひと月が経っていた。

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