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第二十一話 開戦

突然ですが、開戦前夜に飛びます。

ミケガサキ第四区。

見慣れた我が家、吉田家と、僕等の住んでいる馴染みの地区である。

第四区となれば、十区以内に入っているので富裕層の部類に入るのだろうが、軒を構える家々は何処もかしこも一般庶民さながらの普通の民家ばかりだ。

この地区も三区に連なる変わり種に違いない。


―まだ秋の気候だというのにも関わらず、月を隠す分厚い灰色の雲からは、これから始まる惨事を嘆き悲しみ涙を流すかの様に白い使者が舞い降りる。

とは言っても、水を多く含んだ、言わば霙雪だ。


この雪の様に降り積もっていく眠気を歩く事で紛らわす。

本当は此処に訪れるつもりは無かったのだが、自然と足が向かっていた。

人のいない街は死んだ様に静かだ。

―もうすぐ此処も、戦火に呑まれる。

その事実を複雑な思いで受け止め、自分の目的をより一層強く再認する。


ひっそりと闇に佇む我が家を見上げ、帰宅。

電気のスイッチを入れるが魔力の供給が切れているらしく、明かりは付かなかった。

僕と共に召喚されたソファーに横たわり、殺風景な部屋の天井を眺める。

間違いなく疲労は溜まり、眠気はピークを迎えているというのに、緊張による興奮状態に陥った脳みそは在らぬ虚勢をフルに発揮して寝るに寝付けない。

静かに目を閉じると、これまでの事を振り返る。

思い返せば返す程、散々な目にしか遭っていない気がするが、まぁ、許容範囲内だ。人生には少し酸味があった方が有意義だと誰かが言っていたし。

目を開き、ソファーから身を起こすと頬を叩き、眠気を覚ます。

これからの事に思いを馳せながら、もう二度と帰ることのないでろう我が家を後にした。

家から一歩踏み出した時、不意に足音が聞こえ、反射的にそちらの方へ視線を巡らせる。

夜闇と白く霞む視界に紛れても、その姿ははっきりと見えた。

僕は目を見開き、驚きに息を呑む。静かにその名を呟く。


「――雪ちゃん…」

「久しぶりだね、優君」


雲に隠れた月が姿を現す。煌々とした月明かりに照らされ、吉田雪は闇の中から浮かび上がる様に現れた。姿を見られてはいけない訳ではないが、状況が状況だけに、何と無く後ろめたさが先立つ。


「…散策中、なんだ」


変な区切れ方をした、あからさまな言い訳が零れる。雪ちゃんはくすりと微笑んで真っ直ぐに僕を見た。


「私も。中々寝付けなくて」


吐く息は白く、闇に紛れて消える。あまりの寒さに、どれほど自らの吐息で温めようにも、一向に歯の音が合わない。


「……寒いね」

「うん」


雪降る小道を、実りの乏しい会話を交えながら歩く。足は自然とミケガサキ城の方に向かっていた。


まだ秋の気候だというのに雪が降って辺りを白く染め上げる。

深夜の冷え切った気温の中では、流石に防寒着だけでは凌ぎ切れない。だから、ポケットに両手を突っ込み、コートに顔を埋めたりして互いに防寒対策を講じていた。会話はおろか、視線を合わすという行為さえ、とっくのとうに過ぎたと思われた思春期特有の気恥ずかしさから困難を極めている。


はたから見て、僕等は彼等にどう映るのだろう。煮え切らないカップルとかなんだろうか。

何はともあれ、領土戦争前日には似つかわしくない光景だと静かに思った。


閑散とした街に明かりは無い。何処も有り金を持って思い思いの場所に避難した様だ。

雪ちゃんと出会う前に立ち寄った闇市は相変わらずの様子で、いつもと変わらぬ光景が広がっていた。

あの場所にも火の粉が飛ぶかは分からない。まさに、神のみぞ知ると言ったところか。

しかし、最も危惧すべきは第百区以降の地区だろう。あそこが一番外門に近い。

地盤は脆いが、その分、土地は広く、多くの孤児や浮浪者のたまり場となっている。

そんな中、一番最初に戦火に呑まれるのは間違いなく彼等のいる地区区域だ。

恐らく、何百、何千と犠牲者が出るだろう。

いや、戦争に限らず、周期的に起こる地震により何れは奈落へと還る。それは、戦争に巻き込まれるのとどちらがマシなのか。


「…どちらも地獄だな」


溜め息を吐いて、足元を見る。


「やっぱり、優君も、戦争は嫌だよね…?」

「…誰だって嫌さ。死にたくないもの」

「何で始めちゃったんだろう。東君は嫌じゃないのかな?悲しく、ないのかな…」


独白とも問い掛けとも取れる雪ちゃんの呟きを、僕は聞こえない振りをしてコートに顔を埋める。

吐いた息が言葉を濁すかのように空中に霧散した。


「雪ちゃんは何処配置?」

「私は城の手前かな。岸辺君は第二区辺りに配置されてるみたい」

「ふーん。敵に教えちゃって良いの?それ」

「だ、だって聞かれたんだもん。…それに、敵以前に友達だし…。あ、あとっ!優君には、色々助けて貰ったから!」


何故か赤面しながら言う雪ちゃんが、とても可愛くてついほくそ笑んでしまう。


「あー!笑うことないじゃないっ!」

「あはははっ、いや、ちょっとね…。でも、僕も色々と助けてもらったし。だから、なんて言うのかな…恩返し?」


その言葉に雪ちゃんはちょこっと首を傾げた。


「私、優君を助けた覚えないよ?」

「あるある。僕が転校してきた時、雪ちゃん、色々と気にかけてくれたでしょ?肝試しにも誘ってくれたし、一緒に財布だって捜してくれた。…ありがとね」

「そ、そんなお礼を言われる程の事はしてないよ」


消え入りそうな声で雪ちゃんは答えた。今度は耳まで赤くなっている。

まぁ、相当寒くなってきたし、無理もないか。


「してるから、こうしてお礼を言ってるんだよ。誰もそんなことするわけないからさ、嬉しかった」

「…皆だって、」

「―僕、忌み子だから」


雪ちゃんが二の句を次ぐ前に言葉を被せる。

現代にその言葉はねーだろうと自問しながら。


「ただでさえ犯罪の少ない三嘉ヶ崎だからさ、一度起こるとたちまちそこらかしこにインフル並に蔓延して大騒ぎ。物によっては新聞の一面を飾ることだって夢じゃないよ」


そんな中ね、と話している自分の声が震えていることに気付き、拳を握って牽制を試みた。


「…そんな中、それは起こった。まぁ、そんな大層な事件じゃなくて、東京とかの都会とかなら、ざらにあるかもしれない事件なんだけど」


それは断じて殺人事件ではない。

そうだな、連続婦女暴行事件とでも題そうか。

暴行と言っても、婦女が付く辺りで察したかもしれないが、性的暴行。いわゆるレイプというやつだ。

強姦魔は当日二十代の若者による犯行で、買物袋を提げ、素早く動けなさそうな主婦を狙い、車に近付いたところを狙って、強引に引きずり込むといった手段らしい。その被害者は指で数え切れない程だという。


母、松下由香子はその最後の被害者だった。

財閥令嬢が被害に遭ったということで、警察は本腰を上げて捜査にあたり、犯人は無事逮捕された。

捕まって分かったが、驚くべきことに犯人の男性は既婚者だっただ。

結局、懲役数年と、数十万の罰金。それで事件に片は付いた。

しかし、昔話よろしく『めでたし、めでたし』で終わるほど現実は甘くなかったのだ。


―その後、松下由香子の妊娠が発覚した。


「…で、でも、その、優真君には失礼な言い方になっちゃうかもしれないけど、下ろすことだって出来たはずでしょ?」

「強姦魔との子供なんて不名誉極まりないって、財閥社長の由香子さんのお父さんも思ったらしいんだ。

でも、下ろしたら下ろしたでゴシップ記事は何かと面白がって変に書き立てる。それは会社の不名誉にも繋がるっからって、実の娘であり被害者である由香子さんを説得したみたいだよ。まぁ、血が繋がってようと、所詮は他人事だからね。―当然、由香子さんは首を縦には振らなかった。当たり前だよね。

でも、そこで由香子さんのお父さんを助太刀する人が現れたんだ。それが明真さん。例え望まなくとも子供に罪はない。だから、産んであげてほしい。誰の子であろうと俺達の愛に変わりはないのだからって。

…そして生まれたのが僕ってわけっ!」


努めて明るく振る舞ってみる。まぁ、語尾を跳ねるくらいしかしていないが。

失敗談を語るかの様に、苦笑しながら全てを語った。


****


「…そして生まれたのが僕ってわけ」


淡々と優真君は答えた。

明かりの無い住宅街の、その道の暗闇を見つめながら淡々と。

無理に笑っているのが丸分かりな表情で。


「―当然、ゴシップ記事に叩かれる、叩かれる。財閥の威厳は巧をなして全くの無傷だったけどさ、僕を産んだのは実は犯人と愛人関係にあったからだとか、親の決めた結婚相手と別れるが為の強攻策だとかなんとか書かれるは言われるわ、しかも明真さんが行方不明になるわで大騒ぎ。

結局、由香子さんのお父さんが新聞会社に圧力かけてお開きにって感じ。

…しかも、圧力かけられた会社は経営困難になったらしくて倒産。僕に関わると会社が倒産したり、クビになるから関わるなって噂まで流れ出す始末でさ、昔からあまり良くは思われてなかったんだ。…だから、普通に話し掛けてくれた時、凄い嬉しかった」


前を見ながら、優真君は照れ臭そうに頭を掻いた。

それから言い訳の様にそっぽを向くと、何でこんな話してるんだろうと小さく呟く。

不意に私の方を向くと、困ったような愛想笑いと苦笑の混じった笑みで申し訳なさそうに頭を下げた。


「いきなり変な話してゴメン」

「…ううん。話してくれてありがとう」

「…………………そっか」


肩の荷が下りたと言わんばかりの、何処か嬉しそうにも聞こえる安堵した呟き。それを取り繕う様に、何だかドラマとかにありがちな話だねと笑った。

きっと、優君なりに色々と気遣っていたのだ。女性に対して自分の生い立ちを語るというのは、彼にとって酷な事だっただろうに。

…それでも、話してくれたんだ。


込み上げてくる喜びに、顔がにやける。知らず、鼻歌を歌っていた。

優君はちょっと驚いた様に目を見開き、バツが悪そうにそっぽを向くが、ちらりとこちらを一瞥すると、


「……何だよ」


と普段より多少口調を荒くして呟く。

それが私に向けてなのか、優君自身に向けての言葉なのかは分からない。

でも、きっとこの捻くれたような口調の彼が本当の田中優真なのだ。


「あー、化けの皮が剥がれてるぞ〜?」


意地悪く微笑み、ぷにっと頬っぺたを指で突くと、優真君はまたそっぽを向いてしまう。


「ていっ!」

「おわっ!?」


何だかその様が可笑しくて体でタックルすると、優君は少しよろけてから、また体勢を立て直した。

私は破顔しながら腕を絡める様にぴっとりと優君の腕に引っ付く。お父さんが見たら絶対即倒するなと思いながら。


「…歩きにくい」

「優君」

「ん?」


深呼吸を一つ。

星も月明かりもない真っ暗な道の、多分、真ん中辺りで。


「好きです」


返事はない。優君はしばらく無言で歩いていたが、突然ぴたりと止まった。つられて私もつんのめる様に止まる。


「…マジで?」

「うん」

「話、聞いてたよね?」

「うん」


即答する私に、優君は珍しく真面目な顔でぶつぶつと呟く。


「―これはあれか?暗い過去を持った奴に女性は惹かれるという効力が今、遺憾無く発揮されてたり?」

「しないね」

「さいでございますか」

「ございますよ」


彼は困った様に頬を掻きながら唸る。

そしてようやく絞り出した答えが、


「…な、何で?」


だった。


「好きだから」

「…友愛?」

「恋愛」

「何で今?」

「―戦争で死んじゃうかもしれないでしょ?」


絡めた手に力を込める。

優君はそれを一瞥すると、そっとその手を解く。


「死なないよ」


代わりに自分の手を絡めて強く握った。


「…そうかな?」

「うん」


後はずっと無言だった。

手に伝う互いの温もりだけが全てで、それで充分だった。


「人が死ぬのも、誰かの血が流れるのも、もう見たくない。

僕は神様じゃないから、血が流れる前に事を終結させる力なんて無いから、どう足掻いたって血は流れるだろうし、誰かしら死すと思う。

それでも、それらを最小限に留めるのが今回の僕の目的、というか義務だから」


だから。だから、きっと死なないよと照れ臭そうにはにかんだ。

たちまち本人に恥ずかしくなって、可笑しくって、自然と笑みが零れる。

ひとしきり笑って、目に留まった涙を拭いながら優君は私に笑いかけた。


「…何か、年齢に伴ってないやり取りだね。学生みたい」

「優君はまだ学生でしょ?卒業してなんだし」

「あぁ、そうだった…。でも、雪ちゃんも同じじゃん」

「あははっ!うん、そうだね。私も卒業してないや。でも、優真君よりはお姉さんだと思うな〜。精神年齢的に」

「…悔しいけど、それに関してはぐぅの音も出ない」

「あはははっ!」


無邪気に笑う私を、優君は大人びた優しい眼差しで見つめていた。不意に歩みを止めると繋いでいた手を離す。

さぁっ…と冷たい夜風がその温もりの名残を奪い去って行った。

視界が涙で霞んでいく。

彼は、俯く私をそっと抱きしめる。


「――ごめんなさい」


それだけを囁く様に告げると、少し距離を取って、儚げに微笑む。そして、そのまま姿は闇の中に消えてしまった。


その場に一人取り残された私は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

いつまでそうしていたのかかは、よく覚えていない。

ガサリと物音のする方に目を向ければ、岸辺君が気まずさと怒りの混じった顔で立っていた。

私と目が合うと、よぉ…、とやはり気まずそうに手を挙げる。


「風邪引くぞ」

「う、うん。そうだね」


無理矢理に笑みを浮かべると岸辺君の隣に並ぶ。岸辺君はそれを確認するとゆっくりと歩き出した。


「フラれ、ちゃった…」

「…みてぇだな。聞いてた。というより、聞こえた」


淡々とそれだけ答えると、岸辺君は遠くを見る目でぽつりと呟く。


「……田中は――。いや、やっぱ、何でもねぇ」

「何よ、気になるじゃない」

「俺が言うのはお門違いってもんだから、本人に聞けよ」


何故かイライラした様子で彼はそう吐き捨てる。それ以上語る気はない様で、会話はそこで途切れた。


「…後、三十分だね」


煌々と明かりの灯る城を前にぽつりと呟くと、岸辺君は頭を掻きながら言葉少なにそうだなと頷く。


「…んじゃ、俺は第二区配置だからよ」


城の表門が見え始めた時、努めて何でも無い様に振る舞う彼は、そう言ってぎこちなく微笑んだ。

その表情を見た時、押さえ込んでいた不安が塞きを切って溢れ出てくる。

思わずその手を掴む。

岸辺君は驚いた様に目を見張った。そして、吹っ切れた様に清々しい笑みを浮かべる。

優君がそうした様に、私の手をそっと振りほどいた。


「…大丈夫だっつーの。また会えるって。きっと誰も死なねぇよ」

「っそんなの…、誰にも分からないわ…」

「あのな、俺等、そんな貧弱じゃねぇつっーの。俺は臆病だからよ、身の危険を感じたら即座に逃げちまうから、多分大丈夫だ。皆は皆で、心配無いとは思う。…そうだろ?信じようぜ」


それから優しく私の頭を撫でると、こう尋ねた。


「雪は、守られたいのか?それとも、護りたいのか?」

「護りたいに決まってるわ」

「…だろ?そんなの、皆同じだよ。だからさ、俺はその気持ちを信じる。きっと誰も死なない。…保証は出来ねぇがよ、まずはそっからだろ。

だがな、例えどんな結末を迎えても受け止める覚悟はしとけよ」

「…うん。ありがとう」

「おう」


岸辺君は照れ臭そうに笑うと闇の中へと駆けて行く。

私も覚悟を決めると眼前にそびえ立つ城を見る。ぐっと拳を握り、配置に着く。


「…雪、いよいよだな。これから始まるのは、紛れも無い戦争。だが、心配は無用だ。私達がいる。私達にはお前がいる。共に戦おう」


私の姿を見付けたアンナはそう言って、剣を引き抜くと私に向けた。私も、腰に下げた剣を抜き放つと、アンナの剣に交差させる。


軽い金属音が鳴る。互いに頷くと、私達は門の前に立った。


ヒュルルルル…………。


花火にも似た音が聞こえ、同時に夜空に五つの光が天を駆け上がる。


「…開戦の合図だ」


アンナは小さく呟く。

辺りに緊張が走る。誰しもが剣を構える手に力を篭めた。

城から放たれた各国を現す光が夜空にぼんやりと浮かび上がる。


――そして。


…………………………………………………………。


「えっ、本当にこれで戦うんですか…?まぁ、パンよりは…、いや、同意義ですかね…。

―ちょっと、影の王、聞いてます…?はぁ…。落ち込むくらいならフラなきゃ良かったじゃないですか…」

「…だって、断るなら早い方が良いだろ?後々、取り返しの着かない事になったらお互い、嫌だし…。好意を寄せてもらっただけでも充分なんだ」


溢れる涙を指で拭うと、仕方ないというように微笑んだ。


「―まぁ、その通りですね…。その点は共感しましょう…。しかし、相思相愛だというのに、何故断る必要があるんです…?」



「もう人間ヒトじゃない」


その一言にフレディは押し黙る。


「今でも、後悔してない訳じゃないけど…。それでも今の僕は『影の王』だ。…そうだろう?」


ふっ…とフレディは口許に笑みを浮かべた。そして小さく頷く。

影達がざわめき、開戦を告げる。書の力を解放すると姿を転じた。

その時、携帯が震え、ディスプレイに『キー先』と表示される。


「…もしもし」

『たーなーか。…出来たぞ』


威圧感たっぷりの、裏をかけば死にかけた声でキー先は壊れた笑い声を上げる。こちらとしては、苦笑しか浮かばないが。


『マジ、感謝しろよ。教員総動員の末の完成だからな』

「えっ、あ、うん。あ、ありがとうございます」


何がどうなっているんだかまるで分からない。どういう経緯を経てそうなったんだろうか。


『これからデータを送る。情報量デカいからSDに保存しろよ。…もう、開戦しちまったか?』

「たった今、始まったところだよ。僕も今から…って、キー先、誰から聞いたの?」


危うく流すところだったが何故彼が戦争の事を知っているのだろうか。


『あ?勿論、吉田からに決まってんだろ。…お前等、絶対生きて帰って来いよ。たんと説教食らわせてやる』

「…あぁ、うん。その節はお手柔らかに…。じゃあ…」


通話を切ろうとした時、キーが一言だけ呟いた。


『―皆の事、頼んだぞ』

「分かってる」


通話を終えると、既にメールが届いていた。

キー先からで、添付ファイルをSD保存に設定すると、『生還アライブ』を命名されたファイルを開き、データを一瞥する。

再びポケットにしまうと、魔剣『チョップスティック』を高々と掲げた。


「―時は満ちたッ!」

「ちょっと過ぎてますけどね…」

「分かってるッ!」


フレディの的確なツッコミに半ば挫折しかけながらも声の限りに叫ぶ。


「行くぞっ!」


オォォォ…と低い谷間から吹き抜ける風の様な歓声が上がる。


遂に、戦いの火蓋は切って落とされた。


――領土戦争、開戦。

…という事で、どういう訳か開戦になります。いえ、なりました。なってしまいました。

次回からは流血あり、笑いありで頑張りたいと思います。

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