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第八話 旧校舎の眠り姫


星屑が降り注ぐ。

どんどん流れて、何処かへ消えて。


此処は何処だっけ?

…あぁ、そうだ。夏休みだから昔に建てられたと噂の裏山の廃校に肝試しに出かけたんだ。

大人には内緒で、皆で集まって。

友達が連れてきた子とか、転校生を誘って行った。無口な子だったけど、参加してくれた。


廃校に着いたら、皆その不気味さにきゃーきゃー騒ぐ。

いつのまにか皆、思い思いの好きな人とくっついて二人一組で行動してた。


誰かが宝探ししようとかで、何故か肝試しではなくなっていた。


何でも、先に下見で忍びこんだ子が財布を落したとか。

楽しかったら別に良いのだけど。


廃校は古くて、至る所がギシギシと軋みんでいた。

その音が鳴るたび、誰かが悲鳴を上げてる。


横目で転校生を見てみれば、気味悪そうな目で悲鳴を上げながらも楽しんでいるペアを見ている。

顔が真っ青だ。良く見れば手が震えている。情けないな。…けど、可愛いかも。


そう思っていた時、誰かが地下へ続く階段を見つけた。

学校によっては地下もある。珍しい事じゃない。


けど、転校生の反応は違った。

一歩退く。顔は最早血の気がない。幽霊顔負けの蒼白さだった。

静かに外で待ってると告げると、すたすたと入口に向かって歩いて行く。


誰かが弱虫だとはやし立てる。

急いで転校生を引きとめた。

強引ではあったが、何とか出て行くのを止めさせた。


弱虫とはやし立てた子が、お前が行けと転校生の背中を押す。

転校生はその手を叩くと、ずかずかと先へ進んでいった。

その後を追う。元はと言えば誘ったのはこっちだ。


地下は大広間になっていた。

何か意外。普通は教室とかがあるのだけれど。


転校生は隅にいて、手に財布を握っていた。

駆け寄ろうとした時、景色がぐりゃりと歪んだ。


****


「うむむむ………。じゅげむっ!」


我ながら変な覚め方をしたものだ。

いやー良く寝たよ。今、何時?


「んのっ、馬鹿ものがぁ!驚かすなぁっ!」


ガンッと頭突きを受け、枕に突っ伏する。

お願い、夢なら覚めてー。


「アンナ曰く、まだ寝とけだとよ」

「カインっ!余計な事を言うなっ!」


仲良いねー。

付き合ってるの?爆発すれば良いと思うよ。


「だから、説明しろと言っている!」

「じゅげむじゅげむゴボウの擦り切れ食うところは台所以下省略して上級困難の寝ぼ助っていう名前の人がいるんです」

「いや、何かというか全然違うだろ。それ」

「そんなことはどうでも良いっ!何故、お前、魔王を召喚したっ!?何故、『贄』の陣を行おうとした…!?」


『贄』の陣というのか。

ってことは、あのまま発動すれば僕が贄として捧げられたわけで…。

何が出てくるんだ?見てみたい…とても見てみたい。


まぁ、オチは吉田魔王様だろうけどねっ!


「カインから大まかな流れは聞いてるでしょ。そのまんまだよ。偶然…」

「『魔眼』は持ち主の心を鮮明に映す鏡。『魔眼』自体が無限の魔法陣って訳だ。

だから最初お前が『ビィーネの業炎』を発動させたのは身を守るため。

二度目の『召喚』では、恐らくお前があそこにいた俺を除く人を滅ぼしたいとか思ったんだろ」


うん。勇者の扱い酷過ぎて確かにこの世界滅ぼすぞって思ったような気がする。


「けど、『贄』の陣の時は死にたいとか思ってないよ?むしろ、教官に殺されるかと思った」

「案外、心の何処かで死にたいと思ってるんじゃないのか?

…前にカウンセラーがどうたら言ってただろ」


ぬぅ…覚えていたとは…。

騎士より探偵が向いてるんじゃないか?


「まぁ、前はあったけどさ…。とっさにそれが出てくるとは限らないでしょ。

今は人生を謳歌してると思うよ、これでも。…あれかな、血が黒かったことが原因かな?」

「血が黒い?魔族じゃあるまいし…」

「ほれ」


指を少しだけ傷つけて血を出す。

その血は黒かった。


「お前、確か『死の夜(ノワール)』にキスされたとか言ってたな。血を飲んだだろ。死ぬぞ」

「…マジで?」

「あぁ。マジだ。雪はそれで死んだ」

「潜伏期間は?」

「されて直ぐ。多くの勇者がそれで命を落とした。雪同様にな」

「さーせん、生きてますけど。一日経ってますけど。ピンピンしてますけど」


そんな気味の悪い冷めた目で見るなよ。

馬鹿だけど、未知の菌的なものは存在して無いから。…多分。


「もう良いっ!私は寝るっ!明日からは朝五時に起きろよ、勇者殿!」

「強化訓練をやらされるみたいだぞ。まぁ、頑張れ。それじゃ」


教官の後を追いかけるカイン。


頼みますから爆発して下さい。リア充はいらん。

どーせ、彼女なんていない歴二十…いや、十七ですけど何か?


寝る…ということは今は夜ってことで。

僕、さっき目が覚めたんだけど…。二度寝は当分不可能だ。


「さて、散歩にでも出かけますかね…?」


窓の外を覗けば、まん丸い月が照らしている。

こっちの月は、向こうのよりデカイな。迫力ある。なにより、綺麗だ。


『満月の夜、プールの水が…』


お化けとか、嫌いなんだよね。怖くないんだけどさ。

ちょっと、トラウマ。


大体怪談話とかさ、変な噂にはそれなりの真意がある。

その殆どが宝を隠した場所とかそんな感じ。

保健室の幽霊とかさ、あれは近付いてほしくないからそういう噂を誰かがたてた訳で…。


けど、案外そう言うところに本当に居たりする。

誰も見えないから黙っとくけど。


そういや、何か夢見たな。

そんな感じの夢。もう、忘れたけどね。


「という訳で、プールに来てみたけど…。誰も何もないな…。そういや、二つあるって言ってたっけ。

…探してみるか」


にしても広い。

こんなに広いのかというほど広い。


怪談に多いのは、大体旧校舎。

その可能性が高いな。けど、プールってあるのか?



「……わぉ。あったよ。まぁ、旧校舎内に入らなくて済むのはありがたい」


鍵は、どうかなっと…。

チッ。開いてないか。


だがしかし、『魔眼』というやつは無限の魔法陣って言ってたな。

ということは、この世界にも恐らく鍵を開ける魔法陣があるはず…。


僕が望めばその通りになるはずだ。


「開け、孫」


間違えた、ゴマだ。

孫は開けないな。人だし。…そういう問題じゃないか。


ギィィィッ……と錆びた鉄の扉が開く。


そのまま一直線にプールサイドへ、レッツラゴー!

…勘違いしないでくれ。覗きだけど、下心ではない。断じて下心では無い。

覗くのなら女子更衣室だからっ。まぁ、そこまで出来るほど僕は勇者では無いのでしないけど。


「確かに黒いな…。誰だ、イカスミを流した奴」


といっても、イカスミほど真っ黒では無い。

夜空の様な、透き通った黒。

だから余計に気味が悪かった。


月明かりが中央に差し込み、辛うじて中が覗けるというくらい。

けど、何でかな。微かながらに、違和感を感じる。


まるで埃が溜まっているみたいな、僅かな薄い膜の様なものがプール全体を覆っている。


「指入れてみるか」


人差指を真っ黒な水へと入れる。

ぼちゃっ…。


「いっづっ…!!」


静電気にも似た痛みが走ったかと思えば、いきなり水が黒い手となって引きずり込もうとする。

ホラーだ。本物のホラー。迫力ヤバい。


まぁ、鈍間な僕が逃げ切れる筈も無く。


「僕、トンカチだから止めてー」


案外、あっさりと引きずり込まれました。うん、どうしようね。

ぶぁ、ぼんはぁぐとぼれば。(通訳:あっ、コンタクトとれた)


一瞬だけ。とてもぼんやりと。


薄れていても、ぼやけていても。確かにあれは。


「何で、いるんだよ。雪ちゃん…」


一気に水が入って来る。

夢か現か分からなくなりそうな程、思考は遮断されていて。


けど、僕は確かに見た。

旧校舎のプールの幽霊…眠ったままの、吉田雪の姿を。


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