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第二十四話 それぞれの思惑


「グガァァァッ!」

「おわっ!」


ゾンビの一人が襲い掛かって来る。ゲームとは違い、内臓も筋肉も露わになっていなかった。

しかし、ゲームより何倍も気持ちが悪い。くそー、これが現実の恐ろしさか。


『伏せなさいっ』


見兼ねた魔王様の声が背後から飛んできた。素早く反応し、体勢を低くする。

直後、バシャリと水が飛ぶ音がして、その余波が雨粒の様に背中についた。


シュウウゥゥ…。


目の前にいるゾンビの顔面と俺の背中、双方同時に異音が発せられる。


「ぎゃあぁぁっ!」


ゾンビの顔面と水滴が当たったワイシャツが溶けた。背中がヒリヒリと痛む。

叫んだのは痛みのせいもあるが、目の前のゾンビの原形を留めない程酷い顔面崩壊が大半を占めていた。

目と鼻の境が無くなったそれは、ホラー映画観賞より数倍も俺の寿命を縮めさせたことだろう。


失神しなかった自分を褒め讃えたい。


「ちょっ、あつっ!魔王様、危ないって!」

『ああでもしなければやられていただろう。被害は最小限に留まったと思うのだが。

…安心しなさい、唯の濃いめの酸だ』

「安心出来るかぁっ!濃いお茶みたいな言い方すんなよっ!」

『アンモニア濃度を高めた私特製の激薬でも良かったのだが、皮膚からも浸透するのでな。私は耐性が出来ているから大丈夫だが、耐性の無い君はそれが無いが為に激薬の餌食になることろだろう。そういった意味では酸の方が遥かに安全性がある』

「なぁなぁ、魔王様?寧ろこの場はアンタに任せて、俺は田中の救出に向かった方が良いんじゃねぇの」


俺の提案に、魔王様はこめかみを押さえながら深い溜め息を吐く。


『仮に行けたとして、どうやって固有結界を破るつもりでいるんだ?』

「あっ、そっか」

『せめて己の保身くらいはしてほしいのだが、何か武器は無いのか?魔術でもいい。見るからに、喧嘩は強そうなんだが』


まぁ、魔王様の言うことも一理どころか二理も三理もある。喧嘩は出来ない訳じゃ無いし、暴力を振るうのが嫌という訳でも、ゾンビを殴る手は持ち合わせていないという潔癖な理由でもなくはない。

出来れば殴りたくないが。


「すまん、魔王様。腕に自信が無い訳じゃないが、妹や向こうの世界の吉田さんとの約束なんだよ。それを掲げられている以上、俺は何処の世界にいようと暴力は振るわない。

俺も、魔術の才があれば、田中を助けられる手助けが出来て良かったんだがな…」


深い溜め息を吐く俺に、魔王様が何か言おうかと言葉を探しているらしく、視線がさ迷っている。


「…心配はご無用ですっ!」


黒い影が横切る。

俺達の前に黒い塊が降り立った。


「さ、早苗っ」

「違いますっ!フィート・アイネスですっ!」


ムキになって頬を膨らまし憤慨する様は、やはり妹と同じ仕草だった。

童顔故に中学生くらいの年齢に見えるが、実際にはそれなりの歳なのだろう。

妹の性格と言葉を活発化させたら彼女になるに違いない。いや、早苗も病気のせいで大人しく振る舞っていただけで実際はお転婆な性格だったのか。

今となっては考えても仕方のないことを思う。


『陽一郎殿達は?』

「皆さんは怪我をしているので、猫モドキさんが安全な所に着陸させてからの合流となっていますっ!

陽一郎さんは色々大変みたいですが、後で合流するとのことっ」


ビシッと敬礼しながらフィートは言う。


「私の持つ空間変異能力でさっさと『トラップ』を解除し、姉様を救出しに行きますよっ」


フィートはもう一度敬礼をすると、彼女を取り囲むゾンビを薙ぎ倒し城内へと進んで行った。

乗り遅れた俺は、別のゾンビ達に即座に囲まれる。


『走りなさい』

「はいっ!?」


援護はすると、魔王様は懐から数本の試験管を取り出し、蓋を開ける。


『逃げ遅れば、君はこの薬品の化学反応に巻き込まれることだろう。

…吸えば即死の特効薬。因みに、皮膚からも浸透するが、死には至らない。数ヶ月意識が戻らない可能性が高いが』

「特攻薬の間違いだ」

『…まぁ、安心しなさい。調合する前に害が無いよう配慮する。君は私の合図と共に駆け出すといい』


子をあやす様に魔王は言って、指を高々と掲げた。


パキリッと指が鳴ると同時に、魔王様の周囲に突風が巻き起こる。

まるで羽根が生えたかの様な…いや、そんな可愛く軽やかなものではない。


ロケットだ。


「いいいいいっ!!」


あまりの速さに顔の肉が後退しそうだ。ゾンビを跳ね退け、扉に激突する。

そのまま派手に突き破り、豪快にコケた。体中がヒリヒリと痛んだが、悠長に痛がる暇はない。痛む顔面を押さえ、膝をさする。

フィートは何処に行ったのかと顔を上げたその時だ。


「伏せて下さいっ!」

「ぐはっ!」


強烈な回し蹴りが腿にヒットした。さらに追い打ちをかけるが如く、脳天目掛けて拳が唸った。

今まで生きてきた中で聞いたことの無い打撃音が鼓膜に鳴り響く。

視界に星が現れたかと思うと、ぐるりと一回転して、床が映った。


ノックアウトということらしい。


「フィート、死んで下さいの間違いじゃないか?」

「えへへ、つい…。でも悪気はありませんからっ。

ああ、そうだ。何か凄い展開になってるんですっ!」


空間変異の能力は使わなくて済んだみたいなんですけど…と曖昧に言うとで、広間を覗く。俺もそれに倣った。


「起きろ、馬鹿っ!」

「馬鹿者がっ!全く、何をやってるだっ…!」


遠目からだが、赤髪の騎士と金髪の美女が何やら床にうずくまる人を懸命に呼び掛け、体を揺さ振っている様に見えた。


医者だろうか?


目を凝らしてよくみれば、格闘ゲーでしかお目にかかれない怒涛のコンボを繰り出している。


「チンピラですかね?」

「随分、容赦ねぇな。鎧着てるから騎士だろ、アレ。蹴られてる奴が…って、田中じゃねぇかっ!」


この時の俺は、友人に再開し嬉々した訳でも、熱血漢の様に直ぐさま助けてやろうだといった感情は無く、童話『浦島太郎』はこんな感じだったのだろうかと思いを馳せていた。


「ってことは、やっぱりあの赤毛さん、前に田中といた奴か。

ストーップ!ストーップ!そこの暴走者、止まりなさいってか、止まれっ!」


チッ…と二人同時に舌打ちし、田中から離れる。

極悪犯顔負けの人相だ。

この人達、本当に国の治安を守っているのだろうかと疑問視してしまう。


「あぁ、いつかの…優真の友人さんか。俺はカイン・ベリアル。こっちは…」

「アンナ・ベルディウスだ」


赤毛さんは、警戒心を紐解かせるような優しい笑みを浮かべると、隣に立つ金髪美女さんに目配せする。

金髪美女さんは俺を見定めるかの様に真っ直ぐ見つめてから名を名乗った。

二人と握手を交わすと、俺も名乗る。


「ど、ども…。岸辺太郎です。あの、田中の容態は?」

「…呼びかけても駄目だ。意識が無い。だから叩き起こしている最中だったんだ」


叩き起こすというより、積年の恨みを晴らさんばかりの攻撃だったと思う。


「こちらの騎士殿は、ラグドの者の様だが、貴様の知り合いか?」


金髪美女アンナさんは、俺の後ろの物陰を睨む。

睨まれたのは俺じゃないと分かっていても、蛇に睨まれた蛙の様に身動き一つ出来なかった。


「…私の姉です。申し遅れました、フィート・アイネス。ラグド王国第一番騎士隊副隊長。

今、貴方がたと事を交えるつもりはありません」


物陰から出て来たフィートが、真っ直ぐな瞳でアンナさんの眼差しを返す。

アンナさんは満足そうに笑うと、床に倒れ伏す女騎士から離れた。


どうやら、信用してくれたらしい。


「皆は一緒じゃないのか?」

「皆は後から来るそうですけど…。あの、国の人達は?」

「今は地下に集まってもらっている。やっとのこと『束縛の陣』の効力がなくなって、国内の様子を見に行こうとしていたところなんだが、何故かラグドの騎士や優真がぶっ倒れてるからそうもいかなくてな。

他の騎士達の姿が見えないのが心配だが…。こんな時にダグラス隊長は一体何を…」


困った様に頬を掻きながら赤毛さんは言う。後半は、完全にぼやきに変わっていた。

今の田中は戦力外。この人達は仮にも騎士だし、強そうだ。

俺は決心すると、国内に起こっている全てを話した。


「…あの、ちょっと今、大変な事になってまして」


****


「…うーん、ちょっとばかり大変なことになったかな?」


額に汗を浮かべながら、空を駆ける。

絶え間無く向かって来る魔弾は雲が姿を覆ってしまっているため、何処から来るのか見当がつかなかった。しかし、向こうはそうでも無いようで、確実に狙ってきている。


「透視能力を持つ騎士がいるのかな…。困ったな、地上に降りたいけど、そうもいかないだろうし。

このままじゃ、合流出来ないな」


口調としては全然弱っていない様に聞こえるが、それなりに参っていた。

空中歩行はそれなりに魔力を消費する。

昔なら、一時間は出来たが流石に十代の体力と三十路の体力では差が出るというもの。

歳を取ったなぁと苦笑しながら向かって来る魔弾を避けるが、弾は肩を掠めた。


「…もう、無茶出来る年齢じゃ無いんだけどなぁ」


降りるしかないみたい。


「右斜め四十五度。東」

「トーズ、東ってどっちだ!?」

「貴方は普通に指令だけしてれば十分です」

「がはははっ!お前は相変わらず手厳しいなっ!それ撃てぇっ!」


野太い声が上がり、地に肩を並べて連なる数百もの陣を組み込んだ大砲が、声に沿って方向を変え、火を噴く。


「因みに、当たっているのかっ!?」

「少々と言ったところでしょうか…」

「がはははっ!トーズよ、お前の言葉はどうも分かり難くていかんな!少々とは如何程だ!?」

「…はぁ。貴方は馬鹿なんですから、黙って指令だけを出していて下さい」

「がはははっ!黙っていては指令は出せんぞ、トーズっ!馬鹿かお前はっ!」


トーズの背中をバシバシと叩きながらダグラス隊長は豪快に笑う。

トーズは叩かれながらも、胃が痛むのかお腹を押さえていた。


「…やれやれ、随分と平行線な会話を繰り広げるだね」

「おおっ!陽一郎かっ!?相変わらず老けんな、お前は」


兵は彼等二人。もっと沢山いるのかと思っていたので意外な結果となった。

僕に銃口が定められた大砲に視線を向ける。


「この大砲、城の城壁に設置してあるやつだろう?勝手に持って来てしまっていいのかい?」

「反省文ならいくらでも書くぞ?反省はしないがなっ!がははははっ」


しろよ。


そう言ったところで、こいつは反省しないだろうと分かっているから思うだけに留めておいた。


「元勇者の癖に他国に身を置き、あまつさえ我が国の象徴である城を攻め落とすなど言語道断っ!

大人しく騎士に再就職しないかっ!?今なら反省文十枚で許可てやろう」

「そりゃありがたいけど、残念ながら騎士になるつもりはないよ。

しかし、ダグラス。僕に構っている暇はあるのかい?この国は今、危機的状況にある。ラグドとフェラが攻めて来ているんだ。此処からでも魔力が伝わって来るだろう?

領土法定で所有者の居ない領地に攻め入られた場合、所有者側の不戦勝として攻め入った側の領土と見做されるんじゃなかったかな?僕のいない数十年で領土法定が改正されたなら話は別だけど」

「なに、改正などされていないさ。確かに、所有者並びに守護者不在の場合はそうなるな。

お前が、国民の大半を城に収容したので、所有者は殆ど不在と言っても良いだろう」


筋肉のよく付いた腕を組みながら、呆気なくダグラスは言う。


「…行かなくて良いのかい?」

「所有者は、な。陽一郎、お前が城に隔離した国民の中に、騎士はいくら居た?」

「僕だって全て把握している訳じゃないよ。皆目見当もつかないな」


手を挙げて降参のポーズを取ると、ダグラスは勝ち誇った様に笑った。


「がははははっ!…答えは『ゼロ』だ」

「ゼロ…?いないと言うことかい?」

「そういうことだ。うちの騎士団は力だけではない。まぁ、お前が我々の力を借りずさっさと魔王を倒して向こうの世界に還った数十年間に騎士団は随分と様変わりしたぞ?

「様変わり…ね」


ちらりとダグラスの隣に佇むトーズ青年を見た。

確かに、力任せなタイプでは無いことは一目瞭然。

先程の砲撃…。あれは彼の能力によるものか。


「我々はあの時…いや、それ以前に今のままでは駄目だと痛感した。

初代勇者の力になれないばかりか、我々の力及ばず死なせてしまった。

あの日から我々は日々精進を重ねてきた。次代の勇者が現れた時、今度こそ共に戦おうと」

「そうとも知らず、悪いことをしたね。反省文書こうか?反省はしないけど」

「がはははっ!反省文なんだ、反省せんと意味ないだろうっ」

「…君もね」


しみじみとノーズ青年に同情する。威勢の良い馬鹿の側近は疲れるだろうに。

先程、胃に手を当てていたが、胃潰瘍でも起こしてなければいいけど。


「…君も知っての通り、僕は単独の方が性に合ってるんだ。何より、僕はこの世界が嫌いだったから」

「今はどうだ?」

「そうだなぁ。今はそこまででもないか。何て言ったって、我が子がのびのびと生活出来る理想の場だ。嫌う理由がない」

「何とっ!子が出来たか!」

「あれ、知らないはずないと思うんだけど。少なくとも、もう会ってるんじゃない?国際的指名手配犯の魔王様に」

「おぉっ!あの威勢の良い子供かっ!確か、優真と言ったか。しかし年齢が合わんぞ」


そういうところの回転は早いなぁと感嘆する。優真君みたく、作っているのではないかと疑う程だ。


しかし、優真君は今年で二十三歳。身長は低くても立派な社会人と見做される年齢なのだが。


「さて、話が逸れたな。本題に戻ってくれ。…まぁ、大体予想はつくけどね。彼の様な能力者の育成を始めたんだろう?

僕がまだこの地にいた時、領土に『ランク』なんてものはなかった。しかし、再度この地に来てみればどうだ?格差、貧困…、前よりも随分酷い国になったものじゃないか。

治安を守る白十字騎士団とあろうものが、地に堕ちたんじゃないのかい?それとも何かな?貧困は前からという御託を並べる気じゃあないだろうね?」


僕のこの挑発に、ダグラスは目元を痙攣させながら大人しく聞いていた。

この数年間、忍耐を身に付けた様に見えるが、怒気が溢れ出ている。

人一倍この騎士団に入隊したことを誇りに思う彼の事だ、直ぐにキレて殴り掛かって来ると思っていたが。それなりに成長はしているらしい。


「…陽一郎、それは騎士団に対する侮辱か?」

「いや、領土法定は騎士団がどうこう出来る問題じゃないことくらい分かってるさ。女神様の命令だろう?しかし、それによって格差が生まれたのも事実…一旦を担っているんじゃないかと言ってるんだ。

どういう仕組みか知らないけど、魔術を使えない者が虐げられる社会になってきているのではないかい?

現に、高度魔術や変わった能力を持つ有数のエリート達の待遇は、目に余る程じゃないかと思ってね。

あれじゃあ、付け上がるばかりだ。税を払わない金持ちと同じさ」

「確かに、そういう国になったのかもしれません。

しかし、それは貴方が口出しすべき事柄ではない。

貴方は不平等だとおっしゃる様ですが、エリートともそれなりの苦労あっての地位。鍛練を怠る者共が喚くに過ぎません」


それまで黙っていたトーズ青年が口を開く。

成程、表に出さないだけで熱血漢の様だ。


「まぁ、それを今此処で言い争っても仕方ない。

そう言えば、僕の隔離した国民達の中に騎士はゼロだと答えたけど、それは何故かな?」

「がはははっ!我々騎士団の中に、新参者の一風変わった騎士が居てな。話を聞くに、向こうの世界から来たらしい。

彼の持つ能力は、『認識相違』という力でな。騎士も捕らえているだろうという錯覚をお前に起こさせた訳だ。我々は端から城にはいないのだ。その一人を除いてな」

「…ゼロじゃないじゃないか」

「がははははっ!細かい事は気にするな!」

「ゼロとイチの違いはでかいよ、ダグラス」

「ぐちぐちと細かい事を何時まで言うつもりだ!?口説いぞ!がははははっ」


うん、こいつをまともに相手してたら胃に穴が空く。


「さて、陽一郎。残念ながら、我々はお前を倒さなければならない。

道外れたお前を正すのも騎士団の仕事だからな」


此処から先は一歩も通さんとばかりにダグラスは前へ出た。


「…まぁ、良いや。最後に一つ。残りの騎士達は何処へ行ったのかな?」

「勿論、国の警備に当たっている。心情としては、お前を改心させて、とっとと加勢に馳せ参じたいのだがな」


ダグラスは、よく筋肉の付いた片手で彼と同じ大きさくらいはある巨大な漆黒の斧を背中から引き抜いた。

巨漢のため、後ろを向いてもらわなければ、斧を背負っている事に気付かないだろう。


「僕も可愛い息子の元へ馳せ参じたいんだけどな。

此処はお互いの為に手を引かないかい?」

「…この斧は、初代勇者明真愛用の斧。山をも砕き、地を穿つ。怪我じゃ済まないぞ、陽一郎」

「話聞いてよ」


一度こうなってしまった以上、ダグラスは如何なる話でも聞く耳を持たないだろう。


「アスマ…。明真さん?もしかして、松下明真さんのことかい?」

「何だ、明真とも知り合いなのかっ!ガッコウとかいう施設の仲間か?」

「いや、ちょっと…。初代がまさか明真さんだったとは。縁とは恐ろしいものだ」


そうか、そうかとダグラスは意味が分かっているか知らないが大口を開けて笑っている。


「そういえば、お前の武器をまだ知らないな。それとも魔術か?確か、体術も得意であったな」

「…さぁ、どうだろう?あまり人に見せたくはないんだよ。だから、使わずに済むと助かる」


舐められたものだなとダグラスは斧を構えた。

トーズ青年に目を向ければ動く様子はない。確かに、ダグラスが直々に戦うとなればその方が賢明か。

恐らく、あの子は僕の能力を分析するために此処にいる。

これも、手の内が読めない僕の対処策…言わば、保険というわけか。

ダグラスめ、小賢しい真似をするものだ。

やりにくいったら、この上ない。


「…ぬぅっ!流石、勇者だけあるな。何という魔力っ…!踏ん張らんと、飛ばされ兼ねんっ。

なぁ、陽一郎。お前は因果あるこの地に何故再び訪れた?」


僕は魔力を放出する。

爆風が巻き起こり、僕を中心軸として渦を巻く。


「僕等の様な悲劇を繰り返させない為さ。…なぁ、ダグラス」


ダグラスが息を呑む。


「あまり…、僕に本気を出させないでくれよ」

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