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第六話 英雄と屑


「一階はランクD~C。私達、見習い兵の部屋となっています。といっても、ベッドしかスペース無いんですけど…」


本来なら机が並ぶ教室は、三段ベッドがずらりと並んでいた。

物凄い違和感である。


「二階がランクB~Aを任される修練を積んだ兵の部屋で、今の私達の目標なんです」

「二階の人達はどれくらい居るの?」

「二十人くらいでしょうか…。此処の訓練所は予備部隊で、とても小規模なんです。

だから他の訓練所の兵には使い捨ての屑兵のごみ箱とか噂されるんですけど…。

此処の教官、とっても厳しい人で、容赦ないんです。だから僕達、結構腕には自信あるんです」


へー。そういや、カインもそんなこと言ってたな。

どんな人だろ…?


「噂と言えば、こっちの学…いや、訓練場に怪談話とかあったりする?」

「ありますよ!此処、二つ水練用のプールがあるんですけど…」


いや、知ってるよ。

僕の学校でもあるからね。水練はしないけど。


安田、やっぱりお前怪談話になるとテンション上がるな。

こっちの安田も性質は同じみたいだね。


「その内の一つが満月の晩、真っ黒くなって、そして、月明かりがプールに差し込むと、ぼんやりとですが中が見えるんだそうです」

「ほうほう…。で、どうなる?」

「中を覗こうとすると、真っ黒い手が水面から伸びて来てあの世に引きずり込まれるとか…。

結構信憑性ある話で、何人か行方不明になってるんですよ」


何か何処にでもありそうな怪談話だな。

あっちの学校にはないけど。


「怪談話って、ほら、自殺した生徒の亡霊とか、プールで足つっておぼれ死んだ子の呪いとかがよく言われるでしょ?この傭兵所には、そういう人とか居たの?」

「いえ…、分かりません」

「ふぅん…。じゃ、いつからその怪談あるの?昔から語り継がれて来たとか?」

「それが…、そうだったような気もするし、そうじゃなかったような気もするんですよね…。

いきなり流行ったというか、根源が誰なのか知りませんけど…」


珍しい。

安田が怪談話の根源が曖昧だというなんて。

安田は怪談話に異常な執着というか、そういう話を知り尽くした人だからな。

突然広まった可能性が高いかも。魔術アリな世界だし、記憶の操作とか簡単だろうな。


「何か、勇者様って探偵みたいですね!」

「その思い悩む姿がもろ、勉強できる人って感じです!」


鈴木と伊東が女子の様なテンションで騒ぐ。


「いやいや…僕、馬鹿だよ?留年五年目」

「…先輩って、きっと本当は頭良いんでしょう?わざと馬鹿な振りしてるだけで」


佐藤がじっと僕を見た。

君達、何か誤解してるよ。

何か、カインにもそんなこと言われたなぁ…。


「頭良かったらとっくに卒業してるよ…。その噂ってさぁ…、もしかして二日前に広まってない?」

「「「「「二日前…?」」」」」


おっ、反応アリ。

鳩が豆鉄砲食らった顔ってまさにこのことなんだろうな。


あー、本物が見てみたい。いや、駄目だけど。愛鳥保護団体に訴えられるけど。

この言葉を考えた人はさ、それを見たってことだよね。

で、ウケる~って思って言葉にした訳で…。見たってことだよね?


僕もね、超見てみたい。


あぁ、話逸れた。


「あはははっ…、二日前に広まったなんてそんなわけ無いじゃないですか~!」

「やっぱり、馬鹿か…」


イラッ…。


鈴木、お前の反応はとても癒される。

佐藤、お前の言葉はとてもイラつく。


仮にも先輩だぞ?年上だぞ?

まぁ、馬鹿なのは認めるけどっ!


「けど、曖昧なんでしょ。魔術で記憶操作とか出来るだろ?」

「出来ますけど、私達兵士は元々魔術がうまく使えない出来損ないで、国に貢献できないんです。

だから国の命令で魔術の使えない国民は兵になるんです。先輩たちも同じで、此処に居る兵達はそういう集まりなんです。他は違いますけど。階級なんて私達の比じゃありません。英雄扱いです」


ふーん…。

だから、使い捨ての屑兵のごみ箱か。

あぁ、そういうこと。

少なくても、こっちのミケガサキでは魔術が一般的に使えるのが当たり前で、必ずいると言っていいほどのエリート組は『英雄』扱いで、僕ら出来損ないは『屑』扱いですか。


今度から由香子政権と呼んでやる。


ちなみに、由香子とは蒸発した母。

春一番の暑さに耐えきれず、兄と金一緒に夜逃げしましたよ。

陽一郎さん、呆然。蛻の殻になった我が家と僕を交互に見てたね。

鳩の比じゃない表情してましたよ。


まぁ、全財産持ってかれれば絶望もするよなーって呑気に思ってた。

実際彼、エリートだから。あれでも次期社長だったんだよ。あの事件で絶縁されたけど。

これでも忠告はしてたんだよ。今回が初じゃないからね。これで五人目。


「置いて行かれちゃったね」


苦笑しながらそう言ったあの言葉は陽一郎さんに向けたのやら自分に向けたのやら。

うーん、何柄にもないことを思い出してるんだ。僕。


「魔術が使えるとなると、教官くらいか…。怪しいな、黒幕か?」

「ほぅ…。誰が黒幕だって?」


さらりと流れる長い金髪。片目は眼帯だけど、それがまたこの人の美しさを強調してるんだよね。

緑の瞳が僕を見ていた…なんて可愛いもんじゃない。睨んでますよ。思いっきり。

前世は鷹ですね?分かります。


ちなみに僕はミジンコと言われたよ。

最早人外生物。動物ですら無い。単細胞生物。…馬鹿だけにね。


いつのミジンコだろう?無性に気になる。

いや、気にするところそこじゃないのは分かってるよ。これでも。


「凄いな、アンナに喧嘩売った勇者はお前が初めてだ」

「あぁ、カイン。話は済んだ?」

「もちろん。アンナ…いや教官直々に相手になってくれるそうだ。良かったな。彼女はこの若さにしてランクSの領土を任されるエリート中のエリートだ。そして、次期騎士長候補の一人でもある。手強いぞ」

「…あ、ああ、うん。凄いね、それは。カイン、今、時期騎士長って言ったけどさ、隊長と何が違うの?隊長の補佐役とか?」

「まさか。俺ら各隊を纏める騎士隊長、それを取り仕切るのが騎士長だ。さらにその上が騎士隊長総司令官だ。それと同格がゼリア参謀長というわけだが…ついて来れてるか?」

「取りあえず、偉いということだけは理解できたかな」


そんな中、安田が実に嬉しそうに目を輝かせながら言った。


「…今度こそ教官とカイン騎士隊長の戦いが見れると思ったんですけど、これはこれで見ごたえありそうですね!皆に知らせてきます!!」

「おう、行ってきな」


…ヤバい。ヤバいぞ。

最初に言っておこう。つい訓練場が見れるってことに興奮しすぎて、剣…置いて来ちゃったんだよね。

どうなるんだろうね?僕。

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