表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/137

第十一話 国宝探し

……………。

…………。

………。


…目覚めよ。目覚めるのです、勇者・魔王・ニート・ドM優真よ。


「…受け入れる。だから、一つに絞れ」


…ドMよ。


「何故、名前を切り離した!?そんなに呼びたくないのか!?」


…一体、何をやっているのですか?まだ、国宝を一つも集めていないではありませんか。


諭す様な口調で、女神は言う。

そう言われると、全て正論の様に聞こえるから困る。例えこの人が唯の人であっても、女神を名乗ればカルト集団が出来上がることだろう。

そんな不思議な魅力がある気がした。


「そんな頼まれてから、まだ一、二日。そんなホイホイ見付かったら面白くないじゃないか」


…ですが、ホイホイ見つけ出す為に、貴方に頼んでいるのです。これは、貴方にしか出来ない事なのです。魔王でもあり、勇者でもある貴方に。


母親の様な柔らかな口調で言う女神に、僕は照れ隠しに顔を伏せる。

女神は優しく微笑むと、僕の左手を取る。そして薬指に指輪をはめた。


「………結婚はちょっと、早いかな」


…寛大なる心の持ち主である私は、貴方のその低俗なる発言をあえて享受しましょう。

そして、享受した上で抹殺するのです。


「いでででっ…!言動が一致してないっ!享受したなら、抹殺するなよっ!」


こめかみをぐりぐりとやられて、悲鳴をあげる僕に、女神は意地悪に微笑んだ様な気がした。


…生かさぬよう、殺さぬようが真髄なのでしょう?


「抹殺じゃ、完全に殺してるじゃないかっ!」


…ふふっ、その指輪は私に反応するのです。国宝に近付けば、自ずと指し示すことでしょう。

では、名残惜しいですが、楽しき一時はお開きにしましょうか。

優真、いづれまたお会いしましょう。

これは私からの餞別です。どうか、己の身体を大事にしてくださいね。


哀愁を帯びた声で女神はそう言うと、僕の目を覆う包帯に口付る。

まるで、魔法に掛けられたかの様に、意識が薄れていった。


「あー…いい夢見たな」


しみじみと呟く。

恐らく目は覚めている。この目を覆う包帯が光を遮るせいで何だが目覚めた実感がなかった。

手を組み、そのまま上に伸ばす。

ペンダントの時と同じく、左手の薬指に金属特有の冷たさが伝わってきた。


目を覆う包帯を外す。

女神の言葉の意味を理解し苦笑を浮かべる。


「わざわざ治さなくても良いのにね」


欠伸を一つ。

結局、昨夜は張り切って抜け出したわりには、何の成果も得られなかった。

部屋に戻ったのは、つい先程のことである。


「昨夜は、確かに勇者の魔力を感じたんだけどな」


僕が魔王である以上、勇者は元の世界『三嘉ヶ崎』へ還さなければいけない。

不本意に招かれた人が多いだろうから。僕の様に何かしらの事情があって此処に留まりたいと言うなら話は別だ。しかし、大半はそうでない。いくら僕でも、自分で撒いた種だ。職務放棄は許されない。

だが、仕事以前に、ミケガサキに危機が迫っているのならば話は別。最近では、ラグドによる領土争いも活発化してきている為、どことなく空気がピリピリしている。


ミケガサキの危機など見当もつかないが、もしかしたらラグドが大規模な何かを仕掛けてくるのかもしれない。


…そう思い耽っていると、ドアが控え目にノックされた。


「あの、優君。起きてる?ちょっと良いかな?」


ドアを開けると、雪ちゃんが立っていた。僕を見るなり、緊張にも似た苦笑を浮かべる。


「どうしたの?」

「…あの、ちょっと居づらくて。このところ、ラグドが頻繁に来るから皆ピリピリしてるでしょ?私、勇者なのに何もしてないから…」


僕の顔色を窺いながら、雪ちゃんは話していた。


その視線の先が床に散らばる包帯と目であることに気付いて、思わず苦笑する。その反応に、雪ちゃんが強張った様な表情を見せた。変な誤解を招くのは御免なので、両手を振って否定する。


「いや、目の事、気にしてくれてるんだなぁって。

別に気にすることじゃないさ。どちらの事も。僕だって魔王だけど、何も…」


いや、むしろ働いてたら国外追放どころか浮世追放になるよ。


しかし、困ったなぁ。

雪ちゃん、涙ぐんでるじゃないか。誰のせいにしろ、責任は全て僕にのしかかるんだから止めてほしい。


つまり、国に貢献出来る仕事をしたいわけか。

僕、ハローワークでも何でもないのにな。


ふむ…、仕方ない。一人より二人だ。


「雪ちゃん、宝探し手伝わない?」

「宝…探し?何を探すの?」


この世の心理とか、君の心とか言えたらカッコイイけど、生憎、小心者の僕にそんな意味深かつ歯の浮く様なセリフを言う勇気などない。


…まぁ、最初から言う気もないが。


けど、一度で良いから言ってみたい。


「世界を救う『レアアイテム』をね」


どや顔で言ってみる。

話の内容的には中二病全開だがなっ!

けど、実際そうだしっ。


向こうの三嘉ヶ崎でなら、完全にイタい子だねっ!


あっ、既にイタい子か。


……ドンマイ、僕。


「レア、アイテム…?」

「そう。唯一無二の至高の装飾品にして、女神の半身」


口からそんな言葉が滑り落ちる。何だか、知っている様な気がした。


「女神の事については、雪ちゃんの方が詳しそうだな」

「ううん、女神様の事は特に何も聞かされてないの。…知ってるというか、疑問に思うことならあるよ。

ミケガサキのシンボルはプラチニオンでしょ?本来ならば、女神様がシンボルとなっても良いのに、プラチニオンの頭に乗っている豪華な装飾しか女神様を表すものが無いの。

図書室に行けば何か掴めそうだけど、生憎、緊急会議が図書室で開かれてるから今は無理ね」

「今日はやけに殺気立ってると思ったら、やっぱり緊急会議があるからなんだ。カイン達も大変だね」

「昨夜、ミケガサキ第七区が襲撃に遭って…。酷い火事だったんだよ?負傷者も多数居たと思う。城に近い地区だから心配だよね。最近、ラグドからの争奪戦も多いから…。

あっ、話が逸れたよね?ごめんなさい。図書室で調べるのは無理そうだから、あの場所に行ってみない?多分、何らかのヒントくらいは掴めると思うよ。何でも揃ってそうだし。

…大丈夫、何かあっても、今度は私が守るから」


儚い笑みとは裏腹に、意思の強い瞳が僕を映す。


あの場所。今度は私が守る…。あぁ、成程。


闇市ね。


まぁ、流石に『闘犬場コロシアム』の商品なんて罰当たりな事はしないと思うし、大丈夫か。


「分かった。じゃあ行こうか。…けど、雪ちゃん。気持ちだけで十分だよ。

自分の身は自分で守らないと」

「私じゃ、頼りない?」


僕は首を振って否定する。どこの世界に、勇者を手駒にして勇者と戦う魔王がいるんだとは言えない。

一応、闇市で勇者に出会う確率もあるのだ。

僕が良い人と認識されてはどちらも困る。


苦笑を浮かべながら、頭を掻く。


「…雪ちゃんにもしもの事があったら、吉田さんに顔向け出来ないからね」


そーいや、僕。

吉田さんに電話してなかったな。

よし、今の思考は全て忘れよう。


****


ミケガサキ王国第三十一区。略称、ミケガサキ第三十一区。


王国しか略されてないというツッコミは甘んじて受け入れよう。


前にも説明したかと思うがミケガサキの港町である。休日には市場を開き、活気溢れる地区だ。

時折、汽笛が聞こえて来るし、風に運ばれて来る海の匂いが、この地区にはよく似合っている。

家は城で統一され、屋根はマリンブルーのストライプ柄だ。家の屋根には、白い旗が風にたなびいている。


…そんなのどかな地区に、闇市はひっそりと存在するのだ。

別にこの地区の治安が悪いとかが理由ではない。


闇市は気まぐれなのだ。


先の『新資源騒動』があったから、闇市は移動するかと思いきや、以前と全く変わっていなかった。


実際、被害を受けたのは城の近くの地区だけで、此処の被害は皆無といっても良いほどだ。

因みに、番号が早い程城に近いのである。

第一区には城があり、第二区から第十区までは所謂、富裕層。

だから、カイン達が昔居たというスラム街は、百以降の地区なのかもしれない。しかし、面白い事に、百以降の地区はミケガサキには存在できない様になっている。

ミケガサキには周期的にそこそこ大きな地震が来る。百以降の地盤は脆く、その地震で跡形もなく壊れるのだそうだ。

ならば、いつ第百区は造られるのかというと、自然界には魔力が存在し、その溢れすぎた魔力が土地を造るらしい。生まれたての赤子同様、造られた大地は脆く崩れやすい。時間が経てば地盤は安定するが、地震のせいで、そうもいかないのだ。

また、都市伝説として闇市説がある。

地震によって崩された大地は、何処かにひっそりと一つに集まるのだそうだ。

それが、闇市となったという説で、今も土地を広げているとか。


女神が住まう国も、一皮剥けば欲望と醜悪に塗れた国家なら、ラグドとそう変わらない様にも思える。

唯、それが包み隠されていないラグドに比べれば卑怯以外の何者でもない。

まぁ、女神は全て承知の上で僕に助けを求めたのだから、頼まれた以上、やるしかないわけで。



三十一区の外れにある人気の少ない路地。

一見、何処にでもある様な家と家の隙間だ。しかし、何とも言えぬ匂いが漂ってくる。この路地こそ、闇市の入口なのだ。


この入口からでも、指輪が微かに反応している。『国宝』が闇市の何処かに存在するのは確かだ。

だが、カイン達から国宝の話など一度も聞いたことはない。

隠すにせよ、闇市なんかに隠すのはあまり賢明な判断ではないと言える。


『勇者の形見』と同じく、『曰く付き』は此処へ送られる。

つまり、『国宝』も曰く付きなのか?

録なものがないな、ミケガサキ。


「それじゃ、行こうか」


そっと雪ちゃんの手をとり指を絡める。


「えっと…あの…」


顔から湯気が出そうなほど真っ赤になった雪ちゃんがしどろもどろに問う。


「だって、万が一迷子なったら危険だからね。それに…」

「それに?」

「…方向音痴だから、雪ちゃんがいないと帰れないかも」

更新遅くなりました。今回、ほぼ説明で終わった気がしますね。本当にすみません。感想・お気に入りどうもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ