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第一話 騎士団の帰還


ミケガサキ城跡地前。


「『復国祭』を行いたい?

…別に構わないけど、各国の首相が集まるの今日なんだよね?」


「…あぁ。流石に隠すにしても何れはボロが出るだろう?何なら、最初から明かしといた方が良い。

幸い、相手の二カ国とは同盟を結んでいる。それを逆手に、国交再確認というわけだ。

終わった後の余興なら別に構わないだろう?」

「成程。しかし、二人かぁ…。案外、寂しいね」

「いや、首相と参謀。騎士隊長の三人だな。二カ国プラス俺等三人だから計九人だ。料理は先に吉田魔王様に作ってもらえば問題ないよな」

「そうだね。全部まるっと解決だ」


そう言って、僕らは新しく設えた城を仰ぎ見る。

かつて、白亜の城と讃えられていた城の面影は何処にもなく、ゴキブリの様に太陽を遮るかの如く黒光りしていた。


白亜の城と言うより、悪魔の城の方がしっくりくる光景である。


いくら辺りが復興の兆しを見せていても、未だ瓦礫処理は残っていた。

それが余計に城を際立たせている。

魔王の手に堕ちたと言われても、何ら不思議ではない光景だ。


端から見れば、何という度の過ぎた嫌がらせ。

間違いなく、確信犯だ。


実際、偽魔王様の本物の城だし。

いや、それ以前に、僕が本物の魔王様か。


凄いな、ミケガサキ王国。勇者と魔王の両方を輩出させたね。

他国を巻き込んだ、傍迷惑な独り芝居だと謳われても文句は言えないぞ。


「…本当に大丈夫なのか?いくら城が無いからと言って、ミリュニス国の移動式城を代用して…。

凄い違和感だぞ。城黒いし…」

「ほら、模様がえとか…?ダークな感じに憧れてたんですみたいな」

「何で勇者を誕生させた国が、ダークな感じに憧れるんだ」


「反面教師」

「無理だろ」


そうこう言っている内に、辺りが騒がしくなった。どうやら各国のお偉い様方が到着なさったようだ。

「因みに、僕はどうすれば?」

「そうだなぁ…、まだ指名手配犯だが、万が一の時の為に城内には居てほしいな」その時、城の厨房裏口からノーイさんが顔を出す。


「おや、こんな所に居たんですか?そろそろ行かなくては出迎えに間に合いませんよ」

「分かった、今行く。じゃな、優真。ちゃんと城内にいるんだぞ」

カインは相槌を打つと、駆け足で去って行った。


とにかく、場内を目立たない様、ふらつけば良いのかな?


「暇なら、城内を見学してはどうです?暫くはこの城だと思いますし」

「それは名案だ。そう言えば、猫モドキとオズさんの姿が見えないけど…」


あぁと少しそっぽを向く様にノーイさんは答える。


「…先程、墓参りに出掛けましたよ」

「あぁ、そうなんだ。それなら良いけど…。それじゃあ、僕行くね」


城内へ向かう僕に、ノーイさんは少し考えた素振りをし、柏手を打つ。


「『復国祭』の事ですが、吉田魔王様が、世界三大珍…」

「チェンジで」

「…の内、一つが出る予定ですが、何が良いですか?」

「グリアン以外の、見た目が普通な物が良いです」


皆様、覚えていらっしゃいますか?

世界三大味の一つ、グリアン。


…真緑のムカデ。


僕には堪えられない。

いくら美味しくても、生理的に無理だ。


「見た目が普通ですか…。料理すれば皆、同じだと思いますけどね…」


僕の異様な迫力にたじろぎながらも、ノーイさんは呟く。


「似て非なる物だよ、ナンセンスだよっ!

あの真緑が、皆同じだと言いたいのかっ!?

いねーよ、あんな色した奴っ!皆違って良いんだよ!十人十色なんだよっ!何だ、アレは!?

青汁パウダーでもまぶされましたか?前世は緑黄色野菜か?来世はキュウリなのか!?」

「…来世は、流石に色で決められるものではないと思いますよ?

まぁ、彼方の言い分は分かりましたので、とっとと城内回って来なさい」


まだ言い足りずにいる僕に、ノーイさんは少し呆れた表情を浮かべて溜息を吐く。

半ば強制的に追い出される形で、僕はその場を後にした。


****


「お待ちしておりました。フェラ王国ソエム国王、並びにラグド王国ジュリア女王陛下」


ミケガサキ城内に緊張が走る。

真っ赤なレッドカーペットを悠然と歩く六人の姿があった。


「見ない顔だな。他の二人は何処だ?」


カインは、緊張した面持ちで案内を勤めた。


「今回はこちらの都合により、女神様、及び騎士長、参謀長はございません。

代わりに、私、カイン・ベリアル、及び各代理人がご同行致します」

「おいおい…、これは何の茶番だ?俺達は、遊びに来ている訳じゃねェんだよ。しかも、見ねェうちに、随分と様変わりしたじゃねェか?」


奇抜なファッションをした年上であろう青年が、野犬の様な鋭い目つきで見てきた。


言えない。

模様交えとか、ダークな感じに憧れてたとか、とても言える雰囲気じゃない。


「中々良いじゃねェか」


良いのか…。


何だか、ノリが優真に似てきた気がする。

気のせいであってほしいが。

…恐らく最近碌に休んでないから仕方がない。


カインはそう割り切ることにし、内心小さな溜息を吐く。


「止しなさいな、グラン。…私の忠犬が無礼を働き、申し訳ないわ。

国内を見る限り、酷い内争があったとお見受けするけど、今回はそれを込みでお話下さるのかしら?」


ラグド王国女王陛下、ジュリア・イグネスか。

ラグドは、代々女性が国を統べる。しかし、今回の内争。

主な原因はこちらにあるが、ラグド王国も乗り込んで来ている。

あれがミハエル何とか一人の独断で動いたとは思えない。…要注意だな。


「えぇ、勿論ですとも。遠い所からわざわざお越しくださったんです。

料理を堪能してからでも、遅くはないでしょう?それから時間の許す限りお話しましょう」


一つの大きなドアの前に立ち止まり、取っ手に手を掛ける。

そしてゆっくりと、扉を押した。


****


「へくしゅんっ…。誰かが、悪口にも似たことを言ったのかな?

それにしても、広い。さぁーて、何処に行こうか」

「影の王…、少しお耳に入れたい事が」


前、後ろと交互に延びる影から、フレディが顔を覗かせる。今日は姿が半透明だ。

そのまま、僕の隣にふよふよと浮かび上がると、後をついて来た。


「ん?どうしたの」

「先程、城内に…」


フレディがそこまで言った時、何かがこちら目掛けて突っ込んできた。


ザスッ…とフレディを貫通して、直ぐ横の壁に突き刺さる。

霊体じゃなかったら、普通に死んでる容赦無い攻撃だ。


「…け、剣?」

「おい、そこのチビ」


まだ若い男の声だ。

アレかな?今日来るって言ってた各国の誰かとか?


にしても、聞きづてならないことを聞いたぞ。

いくら真実でもなぁ、傷付くんだからなっ!どーせ、162センチですよーだっ!

男性では最下位だがなぁ、一部の女子には勝ってるんだぞ!大半には負けるがなっ!ドヤっ!


「わー、何処だろう?」

「お前だ。此処で一体何してる?」


僕の後ろから二つの影が伸びる。

がしっ…と頭を掴まれて、そのまま持ち上げられた。


「うわっ…」


僕の頭を大きな手が一掴みにし、身体が宙に浮く。

クレーンゲームの玩具じゃないんだから…。とにかく、首への負担が半端じゃない。


「いててててっ…。首、ギブッ、タンマッ!」

「がはははっ、威勢の良い子供だな。アンナが気に入りそうな子だ」

「ダグラス隊長、そろそろ下ろしてやらないと、本当に首がもげますよ」

「ははっ、そうだな」


直ぐに手が離され、地面に尻もちをつく。

睨みつける様に僕の後ろに立つ人物を見上げると、体格の良い大男と、ひょろ長い青年が立っていた。


「君ぃっ!何処の配属だ!?」

「は、配属…?あ、あぁ、新人です。厨房の。城の再建の時に雇用してもらった一般市民です。

今、電気の点検を任されまして…」


よく分からないが、あまり関わらない方がよさそうだと、本能が警鐘を鳴らす。

甲冑といい、見るからに騎士だ。けど、見ない顔だな…。他国の騎士長か?


…というか、この若い方の騎士さんは何をやっているのかな?

さっきから僕の影に触れているけど。


「どうだ?トーズ」

「…読めません。何の情報も読み取れない…」


何、セキュリティチェック?それとも、床暖房でも確かめてるんですか?

この城、最新式の割に床暖無いよみたいな?

そうか、最近の城にも床暖はあるんだね。魔法が存在する国だから、当たり前みたいな感じかな。

貴族の習わしと同じように、城には必ず床暖設置みたいな。


…僕が何で、床暖にこだわってるかだって?単に憧れだよ。悪いかい?

ホットカーペット買った後に、床暖の存在を知りましたが、何か?


「唯の、一般市民というわけでは無い様だな。よし、騎士団に入らないかっ!?

騎士は男のロマンだぞっ。男の肩書きにして勲章が増えたな、良かったじゃないか」


何故、そうなる。何だか、入る前提の話になってるぞ。

まぁ、唯の一般市民じゃないことは認めるけど。

『魔王』だけど、皆の認識は馬鹿な『勇者』。そして『指名手配犯』だ。碌な物が無いよ。

これ以上の肩書は要らない。というより、欲しくない。碌なものじゃない。


「…騎士団、騎士団って、あなた達、一体何ですか?何処の騎士さんなんですか?」半ば投げやりに聞くと、ダグラスは豪快に笑って僕の頭を撫でた。

横では心外と言わんばかりに口を開けたトーズ青年が立ちつくしている。


「我々は、救世の国を守る誇り高き騎士団。人は皆、『白十字軍(ホワイト・クロス)』と呼ぶ。

自己紹介が遅れたな、若人よ。ミケガサキ白十字軍指揮総官ダグラス・ボコだ。騎士隊長無き今は、代役を務めている。こっちは副補佐官、トーズ・アイ。

しかし、ミケガサキも我々が遠征に出ている五年間で随分様変わりしたもんだなぁっ!がははははっ」


つまりは、この人が騎士隊長ってわけか。

だが、何も知らないこの人が出て来られてはこっちの予定が狂うというもの。だが、騎士隊長一人が増えた所で変わらないかもしれない。見た目、馬鹿そうだし。


「…全く、誰のせいで五年間も遠征が行われたと思っているんですか?探すこっちの身にもなって下さい。…おやおや、誰かと思えば新しい勇者殿ではありませんか」


深い青みがかった夜色の髪…まぁ、要するに青っぽい黒髪ね。

それにしても、久しぶりの登場の上に爆弾発言までしたがったよ。ゼリア参謀長。

ややこしい。非常に、ややこしい。


そして、最も言ってはならない事を暴露する。


「いや、失礼。今は、『国際的指名手配犯』でしたよね?」


場の空気が、一瞬にして凍った。

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