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第二章 プロローグ


ミケガサキの秋を感じることなく、冬が訪れる。

気付けば、『新資源騒動』から一ヶ月近く経っていた。


倒壊した国をどうするか途方に暮れていた僕等に、秘密裏にフェラ王国から絶大な支援の元が送られ、

建物の損傷、倒壊は少しずつだが修復されつつある。…流石に城は半倒壊し、修復不可能だが。


だが、それでは困る。

城は言わば国の象徴。国の威厳を示す建造物だ。

無いとその国に何か物理的異変があったことが丸分かりだ。

つまり、他国からしてみれば攻め込みのチャンスってわけ。だが直せないとなると、とても困る。

東京に東京タワーが無いくらいの違和感だ。


何はともあれ、フェラ王国の支援のおかげで何とか外見だけは、元のミケガサキ王国を保っていた。

ラグド王国との対立については何やら協定を結ぶ事で片が付きそうだ。

だから、残るは城と王様と国交問題かな。


ミケガサキ城周辺。

瓦礫に埋もれる半ば倒壊しかけた城を仰ぎみる。

こんなに壊しやがって。全く、何処のどいつだ?…うん、やったの僕だけどさ。

だが、街の被害は僕じゃないからな。…原因は僕かも知れないが。

御蔭でノーイさんや吉田魔王様は設計に大忙し。

ノワールは料理担当として、ミリェニス王国民と戻って来たミケガサキ国民の為に野外炊事に励んでいる。戻って来たミケガサキ市民は、ミケガサキの変わり果てた姿に呆気ていたが、今は母国をより良い国にするべく作業を手伝ってくれている。


まぁ、今回は別に城の状態を見に来たのではない。

生憎僕は不器用だし、作業の邪魔にしかなりそうにない。消費した魔力が戻るまで暫く安静にしろというのが教官からのお達しなのだが、それはとても退屈な事だ。


というわけで、何か無いかと散策中。

何でも噂によれば、すっかり教官に惚れ込んだドMのラグド兵達が、教官の部下になったらしいじゃないか。今の時間帯は丁度瓦礫整理をしている頃合いで、運が良ければお目にかかれる。


「一度でいいから、見てみたいものだよ。本物のドMっ!」

「昼間から何、飛んでもない事口走ってるんだ…。まさか、朝から待機していたわけじゃないよな?随分朝早くから出掛けていたようだが…」

「そりゃ、一応は家族なんだから墓参りくらい行ってあげないと駄目でしょ。まぁ、あの人達にとっては大きなお世話だろうけど。…で、統率者の目途って立ってるの?」


しまったと言わんばかりの表情を浮かべ、カインは気まずそうに首を振った。

あの一件以来、皆何かと僕に気を遣うんだから調子が狂う。心おきなくボケれないじゃないか。


「いや…まだだ。第一、王制も初代勇者が廃止したしな。全く、何が不満だったんだか…。

普段は間抜けなんだがな、あれは影で活躍するタイプだな。そうでないときは、実力行使で戦争止めたし…何だかんだで凄い奴だったぞ。ちょっとお前に似てるかもな」

「いやいや…僕でも、実力行使で戦争は止められないよ。何それ、必殺仕置き人!?」


そう言えば、初代の話はよく聞くけど、陽一郎さん世代はあんまり…というか全然聞かないな。


「ねぇ、カイン。初代勇者の話はよく聞くけど、二代目勇者の話は全然聞かないんだけど…。

担当じゃなかったの?」

「あぁ…。何でも、二代目勇者は群れるのを好まなかったらしい。

女神様をどう説得したのかは知らんが、言い包めるとなると凄い事だな。まさしく勇者だ。代々の女神は全員事案を通したがるから」

「…ちなみに、カイン。女神はどうやって決めてたの?」

「ミケガサキ城の地下に洞窟があり、その奥に湖がある。満月の晩、心音の清らかな者がその泉を覗くと女神の姿が見えるらしい。実際そうして女神は誕生して行った。確かに泉に映る者は並外れた魔力の持ち主。他にも、第六感と言うべきか?俺達には感じることの出来ないものが感じられたり、見えたりしたらしい」

「…城の地下っていうと、今は瓦礫の下ってわけか…。ふーん、第六感ねー…。第一、魔力がそうなんじゃないの?」


急にそっぽを向く僕に、カインは苦笑した。

「あー、そういや、お前第六感あるらしいな。ははっ、だが、心音は清くないから安心しろ」

「あははっ地味に傷つくかな」


適当に足元にあった瓦礫を蹴る。

バヒューン…と鉄砲弾の様に吹っ飛んだ。


「……というか、闇市とかって無事なの?」

「おい、話を濁すな。何だ、今の蹴りは。いくら強化されているとはいえ、前はあそこまで飛ばなかったぞ。まぁいい。闇市は、空間ごと移動する特殊な場所なんだ。無事だろ。また街が元に戻り、何処か人気の少ない狭い路地に現れる筈だ。で、お前の事だから、ただ単にドMを見に来たんじゃないだろう?

…いや、仮にそうだとしても何か用があったと言ってくれ」

「何だ、本当に真に受けたの?冗談だよ、冗談。単なる散策だって。暇つぶしに此処に寄って、確かそう言う噂があったな~って思ったの。つい先程、真っ白な鳩が来てね?伝言を頼まれたわけ。これ、証拠ね」


はいっと僕は、ポケットから例の物を取りだすとカインに渡した。

カインはそれを受け取るやいなや、わなわなと震え始める。


「しまった…。そうか、この季節だからな…」

「どうしたの?何か来訪でもしてくるわけ?」


僕の問いにカインは頷く。

「毎年各国で開かれる…首脳会談なんだが、今年は此処ミケガサキでの主催だった…。

しかも、遠征に出かけている先輩方も帰って来る頃合いだ。本格的にヤバいことになる…」


「つまり、城と統率者を何とかしろってこと?」

「考えても見ろ、女神不在、勇者は馬鹿。魔王は実は偽物で、本物は別人ですなんて、誰が言える?」

「成程。癪に障るのが一か所あったけど、不問にするよ」


最も、本当の勇者が不在で、本物の魔王様は目の前にいるんだけど。

まぁ、とにかく面倒な各国の色濃いメンバーが揃うってわけか。

カイン達の先輩方が来るとなると色々面白い事になりそうだ。いつも通り、面倒な事にもなるんだろうけど。


「ははっ、やっぱりミケガサキは退屈しなくて良いね」



****


三嘉ヶ崎。


何処までも澄みわたる蒼い空。時に流れる白い雲。

いつもの日常で、普通の毎日だった。


学校のチャイムが鳴る。

私の一日の半分が今、終わった。

荷物を整理し、教室を後にする。仲の良い友達と別れの挨拶をして、昇降口で靴を履き替える。


家に帰れば誰も居ないが、七時になればお父さんが帰って来る。

私はそれまでに宿題をし、お父さんの大好きな料理を作り、帰りを待つのだ。


それが、私の毎日。私の日常。


「えっと…吉田雪さんですよね?」


校門の前に一人。ロングコートを羽織った男性が一人、立っている。

お隣さんの田中陽一郎さんだ。吉田と雪の間に間が生じていたけれど、名前を忘れていたのかしら?

陽一郎さんは、顔から見ても優しい人なんだなぁっていうのが伝わって来る。

つい最近引っ越してきたばっかりだけど、今では、お父さんの飲み仲間で大の仲良し。

けど、由香子さんや二、三個上の拓誠君の姿はあまり見たことが無い。


「どうしたんですか、陽一郎さん。仕事は?拓誠君ならとっくに卒業したじゃありませんか」

「…あぁ、そうだったね。いや、そうじゃなくて、ちょっと頼みがあって…」

「え?」


陽一郎さんから聞いたのは、途方もない話。何の信憑性もない、到底信じられない話だった。

此処では無い、ミケガサキというゲームの世界。それは此処、三嘉ヶ崎にリンクしているということ。


その世界に思いを馳せてみる。

未知の世界。パラレルワールドとは異なる異世界。

何でも、自分達はそこへ行ったことがあり、勇者を務めていたと言うのだ。


「私が失ったもの…」

「そう、選ぶのは君自身だ。それを取り戻したいのなら、僕は惜しみなく協力する。君をミケガサキに連れて行ける。現に、もう一人。既に行っているからね。君もよく知っているんじゃない?

あっ、どうだろう…。けど、会ったことはあるかも…」

「陽一郎さんは、一体、何のためにこんな事を?」


狼狽しながら言う私に、陽一郎さんは少し笑って言う。迷いのない、澄んだ笑みだった。

「そうだなぁ…。恩を仇で返した…ううん、余計な事をしてくれた、お馬鹿な息子への仕返しってところかな?」


何処か楽しそうに陽一郎さんは言った。

腹黒い笑みをチラつかせて。


私の失ったもの。取り戻すか否かは自分次第。


私は、私の答えは…。


「雪、どうしたんだ?さっきからやけにぼんやりして…」

「えっ、あぁ、うん…。お父さん、もし私が長い間家出するって言ったら?」

「今すぐにでも死ねるな。ショック死だ」


そう真顔で言い放つと、お父さんはビールの缶を掴むと一気に飲み干した。

「しかし、そう言うのも何か理由(わけ)あっての事だろう?何でも聞くよ、話してみなさい」


ぽんぽんっと大きくて温かい手が、私の頭を軽く撫でる。

頼もしい、お父さんの手だ。


「あのね、本当に、突拍子もない話なんだけど…」


私は、陽一郎さんから聞いた話を全てお父さんに話した。

お父さんは笑いもせずに、真剣に私の話に耳を傾け、相槌を打つ。

聞き終わると、静かに目を閉じて酒精の混じった溜息を吐いた。


「…陽一郎が、お前に言ったんだな?」

「う、うん…」


真剣なまなざしで、お父さんは私に問う。

そして大きく頷くと、もう一度頭を撫でた。


「雪は、何でお父さんが宅急便屋さんになったか、知っているか?」

「うん。お父さんはサンタさんのお友達で、サンタさんが休暇を取っている間に、皆の夢と荷物を届ける為でしょう?夢のある仕事なんだよって…」

「あ、あぁ…そうだったな。そう説明したかもしれない。けどね、本当は違う。

ただ、逃げたかっただけなんだよ。雪は、自分の失ったものを取り戻すつもりなのかい?

それは、雪にとって本当に大切なものじゃないかもしれない。その先には辛いことだって待っているかもしれない。それでも、取りに行きたいと思うかい?」

「それが、私にとってどれくらい大切なのか、私には分からないわ。けどね、心の何処かで、それを探していた様な…呼んでいた様な気がするの。だから、どんな苦難が待っていたとしても、私はその正体を暴きたい。大切な物を取り戻したい…」


その答えに満足したように、お父さんは笑う。真剣な表情だった。


「なら、雪。行ってきなさい。頑張るんだよ。…お父さんも、頑張るから。逃げないで、立ち向かうから。もう、子供じゃないんだ。自分の道は、自分で決めるものだ。陽一郎、雪を頼んだぞ」

「僕は送るだけですって。この子の騎士(ナイト)が、ちゃんと守ってくれますよ。…ねぇ、優真君」


何時からいたのか、陽一郎さんが私の後ろに立っていた。

陽一郎さんが指をパキンッ…と鳴らすと、私の足元に魔法陣が浮かび上がる。

真っ白な光が、私を包んだ。


お父さんの姿が、見慣れた部屋が、点滅を繰り返して薄れて行く。


『頑張りなさい。そして、どうか幸せに』


お父さんのそんな声が聞こえた様な気がした。



気付けば辺りは、一変していた。

見慣れない瓦礫ばかりの風景が広がっている。


此処が、ミケガサキ…。

訳もなく涙が溢れて止まらなかった。


知っている、私はこの場所を知っている!

そう思った途端、次々と記憶が溢れだして止まない。


「ついに、来たのね…。久しぶり、ミケガサキ…」


ごしごしと涙を拭う。

そして、城の方へと走り出した。


私の、失ったものを取り戻すために。

というわけで、新章突入ーってなわけです。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、一部サブタイトルを変更致しました。

面白くなるのか、というよりこれからどう進んでいくのか私自身全く予想できません。

頑張って更新して行く予定なので、誤字・脱字等ありましたら容赦なくご連絡ください。此処までのご愛読、誠にありがとうございます。引き続き、楽しんで頂けると幸いです。

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