表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/137

第一章終話 お帰りなさい

頬や、腕に掠り傷が次々と付いて行く。既に脇腹や腕には抉れた様な深い傷があった。

流石の僕も、疲労により一歩も動けないでいる。


『魔力魂の意志』といえば、千をも超えるであろう魔弾の的となり、苦悶の叫びをあげている。

頭上では赤い稲妻が轟き、いつ僕の元へ落ちて来ても不思議ではない。



ギャアァァァァァァァ…………!!!!



一際大きな悲鳴が響く。

先程とは比べ物にならないくらいの声量。そして、心を掻き毟るかのような、聞く者全てを発狂させかねない悲痛な悲鳴だ。


何なら、地上で苦悶の叫び声が聞こえてきた。

よくよく目を凝らして見てみると、主にラグド兵が苦悶の叫びをあげて地にのた打ち回っている。

吉田魔王様やカイン、教官も頭を抱えてしゃがみ込んでいた。


「最終形態ってところかな?それなら、最初からベストを尽くしてほしいよ。疲れてんのに頑張っても逆転なんて無理でしょって、いつも思うんだよね。全く、付き合わされるこっちの身にもなってほしいとおもわない?倒したぞーって舞い上がってる最中さ、見苦しく反撃して来てさ。しかも、意外にしぶといから倒されそうになって、女神とか覚醒とかして倒すんだよ?

…すっごく恥ずかしいよね。舞い上がってた俺ら、何?みたいな。

例えるなら、ラストだと思って、一番狙って全力でダッシュしたけど、実はもう二週くらいあって結局、ビリになるっていう…。…以上、優真君の独り言でしたー」


うん、誰も聞いてねぇ。

酷いな、せめてツッコミ入れてほしかった。


『どうやら、私達には効き目が無いみたいね?私は、元が魔力魂であるから。彼方は…』


意地の悪い笑みを浮かべてソルトは、僕を見た。

正確には、僕の身体に生々しく残る傷口を。


『人間じゃないから、当たり前ね』


腕、脇腹共に深く抉られた傷口。そこからは、ただ黒い血が流れるのみ。

そう。骨も、肉も、臓腑も全て、存在しない。四次元の様に果てしない暗闇が存在するだけ。

つまりは、空っぽなのだ。


「空っぽの器…か」


そう呟いた僕の直ぐ横を何か赤い光の玉が横切って行った。

魔力による魔弾ではない。それは次々と地上から『魔力魂の意志』の元へと吸い込まれて行く。


「『魔力魂』か?…あーあ、強制的に捲き上げてる訳か。悲鳴を聞いた奴らの命奪って」

『ついでに言うなら、魔力と人の意志。その源である生命は深い関わりがあるわ。魔力そのものが意志を持ち、強姦の様に生命そのものの意志を支配してしまえば、可能の業よ』


下からは悲鳴など、色々な叫びが聞こえては消えて行く。

つまりは、今苦しんでいるカインや教官達も例外ではなく、その危険性があると言う事か。


「ははははっ…。それは、困るなぁ」


僕の表情を見て、ソルトは意地の悪い笑みの様なものを浮かべた。

今、僕はどんな表情をしているのだろう?



『ギャァァァァァッ…………!!!』



『魔力魂の意志』がもう一度、奇声を発した。

ギョロリと大きな一つ目が僕を見下す。

雷鳴が轟いたかと思うと、赤い稲妻が、僕の直ぐ横に落ちた。

かと思えば、すぐに次の雷が地上に降り注いでいく。

空から槍という例えがあるが、まさにこんな状況だろうか。


下から一際大きな悲鳴が聞こえて途絶えの繰り返し。それを嘲笑うかの様に『魔力魂の意志』は三日月に歪む。


別に、僕が手を下さずともこのまま事が進めば自然消滅を果たすだろう。

だが、それでは色々と困るのだ。


溜息を一つ吐き、前に手を伸ばす。

黒い光の粒子が集まって、杖に変わった。


そう。手を下さずとも、相手は虫の息。だが、それを悠長に待てる程、人は忍耐強くない。

そうなれば、一人残らず魔力魂へと転生するだろう。


だが、こいつを倒すにしても、それは中々骨の折れる事だ。


フレディ達、下級中級の死霊達なら、擦り傷の一つ付けられただけでも上出来だろう。

ヴァルベルの様な大総統お付きの使用人なら、一人二人召喚しておけば片付くだろうが、生憎そんな力は残されていない。


残るは一人。

こうなったら、賭けるしかない。


「孤高の貴方、我が盟約の主よ。古き書の悪魔、貪欲なまでに知恵を求める愚者よ。

楽園(エデン)の鍵を持って、参ります。私は、ソロモン。知恵の王。森羅万象を司る賢者」


興味深そうな表情を浮かべ、ソルトが舐めまわす様に僕を見ている。

その口が、数回動いた。


『死ぬわよ』


動きから察するに、そんなところか。

ふふん、僕を舐めてもらっちゃ困る。一体僕が何度死の淵を垣間見てきたと思っているんだ。

それにしても、何か期待してるのかな?


「今、その門を開き、新たな罪人に裁きの手発を整えましょう。『終極審判』」


辺りが黒一色に染まる。

誰も見えない。何も感じない。


『どういうこと?知恵の悪魔…書の主を呼んだんじゃないの?』

「今の僕に、そんな力残ってないよ。それに、皆の居る所で大総統何て召喚したら皆お陀仏だって。

…かと言って上級悪魔達を召喚する力もないし、下級悪魔、死霊は呼び出せても手も足も出せないでしょう?」


ソルトは呆れと侮蔑を込めた目で僕を見た。

どうみても僕は、庶民だぞ?所持金僅かなのに、高価な買い物をする人なんて何処にもいないさ。


低コスト、高確率。


その何が悪いと言うんだ。

買えない物は買えないし、召喚出来ないものは出来ない。


『それより、此処は何処なの?魔力魂の意志はどうなったの?』

「それを今から、裁くんだよ」


ザンッ…!と鈍い音が鳴る。

ソルトの両足が切り落とされ、体勢を崩したソルトはそのまま倒れた。


「…これより、罪人に裁きを下す」


漆黒の闇の中、僕の赤い瞳だけが不気味に光る。

ソルトの両脇に死霊が立つ。右にフレディが大鎌を持って立ち、もう一人の死霊がソルトの首に鎌を突き付けていた。


『終極審判』

人は人生が終わると、天国と地獄のどちらかに行く。

だが生きているが、この世の理に反する行いをする者等は行きながらにしてこの『終極審判』を受けなければならない。

つまりは、レッドカードというわけだ。勿論、三回忠告はする。だが、一向に直らない者は強制的に送られるのだ。


えっ、僕も十分反してるだって?

否定はしないけど…。というか、出来ないね。事実だし。


『優真、どういうこと?裁くのは、あの大きな目玉であり私じゃないわ。仮にそうだとしても、私達は血の契約をしてしまっているのよ?』


自覚が無い嘘。彼女は気付いていない。何も知らない。知る必要は多分ない。


「その点については問題ないから、大丈夫。だから君は静かに眠ると良い。可哀想な嘘つきさん」


ザンッ…と鈍い音がして、首が撥ねた。驚愕に歪んだまま、ころころと転がる。


人工知能をご存じだろうか?記憶・推論・判断・学習など、人間の知的機能を代行出来る代物だ。

コンピューターも、これがあるからこそ可能な事で、ありとあらゆる身の回りの電脳器具に使用される。


ゲームにも当然ながら使用される。お気づきだろうか?


此処は『ミケガサキ』。誰かが作り出したゲームの世界。

もしかしたら、元からあるのかもしれないし、それを誰かが悪用したのかもしれない。

だが、何にせよ盛り上げる役がいなければゲームは面白みに欠ける。また、スト―リがそう安易にならない様に進行役も必要だ。

人工知能の代わりであり進行役。それが、人の意志の塊である『魔力魂』。


本人は知る由もない。神から言い渡された運命とでも言うべきだろうか。

それが自分の意志で行動していると思っていても、実はすでに決まっていた事だったとは。


そういえば、陽一郎さん。転生がどうたら言ってたけど、前の僕はどうだったんだろう?

案外僕も、決められたシナリオ道理の道を歩んでいるのかもしれない。


「随分、あっけない終わりでしたね…。何か、もっとこう…抵抗するかと思いましたよ…」

「そういう風に、決められてたのかもよ?」

「へ…?」


フレディが呆気にとられた顔で僕を見た。

暫く硬直していたが、被りを振るとそうですか…と呟く。


「何だか、疲れたよ…。もう、戻っても平気?」

「えぇ。無事、『魔力魂の意志』…贄は捧げられました。今宵の糧に、大総統も満足することでしょう…。お疲れさまでした…」


パズルのピ-スの様に、空間が剥がれて行く。

突如、光が弾けて、光の雨が地上に降り注ぐ。身体はいつの間にか元に戻っていた。

下から歓喜の声が上がる。


その声に少し安堵するとともに、身体から力が抜けて、落ちている様な浮遊感に捕らわれた…って、本当に落ちてるよ。あっ、当たり前か。さっきまで空の上に居たんだから。


受け身を取れば何とかなる?いや、高さから無理だな。それ以前に死なないから大丈夫じゃん。

けど、痛いの嫌だし。覚悟を決めて、僕は目を瞑った。


下から皆の声が聞こえて来る。


「全く、世話の焼ける人ですね…」

「ニアッ!」


ボスンッ…と、お世辞にも柔らかいと言えない感触。寧ろ堅い。

おそるおそる目を開けると、青空が広がっている。太陽が僕等を照らしていた。

ぬっと、いつもの姿に戻った猫モドキが僕の顔を舐める。

ノワールが膝枕をして、僕の髪を優しく梳く。


「あー…、助かった。ありがとう」

「今は休んで下さいな。…魔力魂の意志は、もう誰かを怨むことも、嘘を吐く必要もなくなりました。

優真様が救ってくれました。…ありがとうございます、優真様。きっと、彼女は楽になれましたわ」

「…僕は、誰も救ってないよ。けど、ありがとう…」


ノワールは何も言わなかった。ただ、黙って僕の髪を梳いていた。

ゆっくりと高度は下がり、やがて地面に着く。


カイン達が急いで僕等の傍に寄って来た。

地上ではラグド兵が声をあげ、心の底から喜んでいる。中には歌い出す者や、ダンスを踊る者も居た。


「おいおい、大丈夫か…?酷い怪我じゃないか」

その言葉にギクリとする。だって、僕の身体は人間の構造をしていない。傷口を見れば一目瞭然だ。


「怪我と言っても、見た限り骨折と擦り傷だろう。しかし、魔力の過剰消耗は危険だ。早く何処か休める場所を確保しなければな…。よく、頑張った。偉いぞ、優真」


その言葉に、ほっと…息を吐く。

どうやら、『魔力魂の意志』が大総統の糧となった御蔭で、僕の身体も傷が塞がる程度には回復したらしい。


吉田魔王様が笑いながら、僕の頭を撫でる。

皆が笑いながら会話をし、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら楽しそうに何かを言う。


あぁ、戻って来たんだ。本当に、僕は戻って来たんだ。

今更のように、そんな感覚が湧いてきた。涙が頬を伝う。


僕が捨てたモノはきっと無駄なんかじゃない。無駄になんかしない。


皆が、驚いた様に僕を見る。そして、一斉に言った。


良く分からないが。


「お帰りなさい」


そうだな、欲を言うとするなら。

良く分からないは、無しで言ってほしかった。


けど、まぁ良いか。皆…いや、ミケガサキらしい答えだから。

更新遅くなりましたすみません。何かこう、無理やり終わらせた感満載ですね。

『新資源騒動編』はそろそろ終わりますが、全体的な話はまだまだ続きます。

お気に入り登録並びに、評価ありがとうございます!これからも頑張りますね。

此処までお読み下さり、どうもありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ