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第四十一話 魔力魂の意志


地鳴りが響いて、辺りが一瞬だけ黒一色なる。

皆、無言で寄り添う様に一か所に集まった。


何処からか肌を刺す様な冷たい風が吹き抜け、赤い稲妻が轟き、空の裂け目から鮮やかで不気味な赤い一つ目が覗く。辺りが暗いだけに、それはより一層不気味に見えた。


『空間固定か…?いや、まだ廃墟だな』

「恐らく、ミケガサキ全体の空間を囲もうとしているから時間がかかってるんだと思いますわ。

けど、相手は魔力の塊…。そうは掛からないでしょう…」


吉田魔王様が辺りを見回し、ノワールは空の裂け目から覗く『魔力魂の意志』を見つめた。

そして、祈る様に胸に手を当てて、目を閉じる。


「何と言うか、普通の攻撃は届きそうにないな?」

「あー…、未練というか祟られない?倒しても大丈夫なの?嫌だよー…」

「真面目に考えて下さいっ!どうするつもりです?明らかに物理攻撃は無理でしょうね…」

「…それについては、時間が経てば可能なんじゃない…?ほら、ゆっくりだけど迫って来てる」


ズズズッ…と微睡から覚める様に、ゆっくり『魔力魂の意志』は地に近付いている。

時に胸が張り裂けそうな悲鳴を上げながら。


「総員、攻撃ッーー!!」


野太い声が響き、紫色の光の弾が空の裂け目目掛けて飛んで行った。

ラグドの兵も流石に身の危険を感じたのだろう。『魔力魂の意志』を攻撃して行く。


『ギャァァァァァァァァァァッッーーーーーー!!!!』


耳を劈く悲鳴が響き、赤い目玉がぎょろぎょろと右往左往に動く。

その悲鳴に呼応し、赤い雷が轟いたかと思うと、複数の雷がこちらに向かって落ちた。


「…来るぞっ!」

教官が叫び、歯がゆそうに空を見上げる。


「さてさて、防げるかな…?」

僕は溜息を吐くと、指を鳴らす。

目玉に負けないくらいの巨大な黒い陣が二重に展開され、そこに雷が落ちる。

しかし、全て防げる訳じゃない。ラグド兵の方に落ちた雷までは防げず、悲鳴が聞こえてきた。

そして、蛍火の様に小さく儚い光が空の裂け目に向かって上がっていく。


「……っ!あれに当たったら魔力魂に成る訳ね…。しょうがない、まだいる奴は助けてやるか…」

「おぉっ!たまにはやるな」

「感心してる暇あったら、何とかしてよ…結構、疲れるんだから…せーのっ!」


ぐぐっと陣が大きくなり、一瞬凹んだ。そして膨れ上がる。その衝撃で雷は、四方八方に散った。


「うへー…疲れた。吉田魔王様、何か策無い?出来れば穏便なの」

『どちらにせよ、このままじゃ空間を固定されて死ぬ。一端、倒すのは諦め、アレを押し込むことに専念した方が良いだろうな。ノーイ、行けるか?』

「えぇ。この場合、仕方がありません」


吉田魔王様がノーイさんを見て、仕方なさそうにノーイさんは頷く。


「…つまり、あれを何とかして裂け目の中に押し込んで、その中で倒すってこと?別に良いけどさ、雷被害で大変な目に遭うんじゃない?僕らも、ラグドの奴らも…。無理じゃね?」

『死ぬか結晶となるかの選択しかなくなるが?』


「どちらにせよ、同じ事じゃな~い?うふふっ、我が主。お久しぶり。遅れちゃってごめんね~?


女の声が響いたかと思うと、蝙蝠の大群が僕の影から飛び出してきた。

そしてぐいっと後ろに引き寄せられる。


「わわっ。その声…、ヴァルベル?」

「うふふっ、正~解。お呼び出し、光栄でございま~す。それにしても、丁度良い大きさね、主様は。

大人主様も凛々しくて素敵だけど、覚醒前の主様も可愛いわ」


ぎゅうーと抱きしめて来るヴァルベルからどう逃げようかと視線を彷徨わせる。

気のせいかな?女子から殺気を感じるんだ。


血の通っていない様な白い蒼白の肌。長い白銀の髪を後ろで束ね、奇抜とも言えるメイクをしたこの女性こそ、ヘブライ達の主。気高き吸血鬼の女王…いや、お嬢様。ヴァルベル・バルデン。

闇の女王と呼ばれ、大総統の十三の側近の一人でもある。


『…他に策があると?』

吉田魔王様が困惑と疑問を混ぜた挑発的な口調でヴァルベルに問う。

ヴァルベルは妖艶とも言える大人びた笑みを浮かべ、微笑んだ。


「我が主と、『死の夜』がアレを何とかすれば良い。意志の疎通なら今なら可能でしょうし。

残りは…そうねぇ…。脱出の準備でもしてれば丁度良いんじゃない?そこの人は、さっきから色々と下準備してくれてるし」


ヴァルベルはオズさんをちらりと見た。

オズさんが何かを言う前に、ノーイさんがヴァルベルに普段は見せない様な剣幕で詰め寄った。


喧嘩かな?何でも良いけど、僕を解放してからやってくれ。


「お前が、姫様の何を知っていると言うのですっ!?」

「あら、逆に彼方が何を知っているというの?元々、『魔力魂』になれなかった残りカスが集まったのが、『死の夜』なんだから。あれにとっては、成功して結晶になってしまった事よりね、失敗した奴らが集まり一つの意志となって生きている事が許せないのよ。自分達はあんなに醜い姿にされ、人の願望の為だけに利用されると言うのに…」


ヴァルベルの言う事に、ノーイさんは目を伏せる。

そんなノーイさんに、ノワールは静かに近寄ると抱きついた。


「ノーイ…、私は大丈夫よ。心配してくれて有り難う。優真様…。お供、お願いできますか?」

「勿論、僕で良ければ何なりと」

「…私は、乗せませんからね。絶対…」


静かに呟くノーイさんに、吉田魔王様は、半ば困った様な、最初から分かっていた様な曖昧な表情を浮かべてみていた。


「優真、俺達はどうすれば…?」

「荷物ってほどじゃないけど、ちょっと色々と困るかも。だから、ラグドの奴の面倒見といて。

売れる時に恩は売っておかなくちゃ。一端は退いてくれると思うよ。空間固定って、結構脱出するの難しいから、吉田魔王様はオズさんのサポートに。教官はカインと同じくラグドに一喝入れてあげて」


教官は頷くと、カインを片手で掴みあげそのまま引きづって行く。

吉田魔王様達は僕を見るだけで動こうとしなかった。不満というよりかは、僕の次なる行動を待っているようだ。


「『召喚』」


魔眼を発動させ、召喚の陣を形成させる。

白い光が辺りを包み、勢いよく何かが飛び出て来た。


「二アッ!」

「久しぶりだね、猫モドキ。お前…、あの時はよくも逃げたな?はははっ。見ないうちにでかくなったなぁ!強そうだ!」

「優真様、でかいの域を超えてますわ…。しかも、一目見て強いって断定できます…」


ズシンッ…と猫モドキは地に降り立つと嬉しそうに僕を見る。

真っ白でふかふかだった毛は、純白の堅そうな鱗へと。赤と黄の目は、漫画とかで見る竜以上に迫力があった。額の角はカジキの様に長く伸び、先端が槍の様に尖っている。背中の羽根は透明度が増し、養成の羽根の様だが、触ってみると甲羅の様に堅い。その姿は猫というよりは、正真正銘の竜そのものだ。

そして竜より神々しく、日の光の様な輝きを放っていた。プラチニオンと呼ばれるのも、頷ける。


「一つ言いたいのですが、プラチニオンの角と、カジキの角で比較してしまうとロマンがありませんわ…」

「いやー、他に言い例えが見つからなかったから…。ごめん。早速で悪いけど、猫モドキ。あそこまで乗せてくれる?」

「二アッ」

「ありがとう、助かるよ。僕は猫モドキに乗るから、ノワールはノーイさんに乗せてもらって」

「なっ、何を勝手な事をっ…」


怒気と困惑が混じった声色でノーイさんはそっぽを向く。

うわー、大人が拗ねるのって面倒だ。


「別に、ヴァルベルは一言もノワールに死ねとは言ってないよ。意志の疎通が出来るなら、もしかしたら…っていうことを言っただけ。嫌なら置いていく。ただ、僕一人じゃ何かあった時ノワールを守れないからね?」


呟くように言って、僕は猫モドキの背中に乗る。ノーイさんは弾かれたように顔を上げた。

それにしても竜の背中か…。うん、堅いな。座布団敷きたい。というか、僕は何処に捕まれば良いのかな。急降下とか、急上昇したら確実に落ちるよ?


「我が主。私が支えてるから大丈夫よ~?」

「助かるよ、ヴァルベル。結果がどうであれ、やるしかないんだろう?大丈夫なの?」

「その為に私が遅れて来る破目になったのよ~。サポートはするけど、どうなるかは分からないわね」


僕等は空を仰ぐ。

赤い目は確実に迫って来ていた。

圧倒的な魔力のせいで、思う様に身体が動かない。


キュォォォォーーン………。


笛の様な透き通った声。

見れば、猫モドキともう一人。真っ黒な竜が鳴いている。

その背にはノワールが乗っていた。


「ま、まさか…ノーイさん?カッコいいーー!何あれ!あの人、竜だったの?ねぇ、吉田魔王様」

『ノーイはプラチニオンの亜種だ。本人は嫌っていつも人の姿でいたが。ほら、さっさと行きなさい』


吉田魔王様が苦笑を浮かべる。不意に、三嘉ヶ崎の吉田さんと陽一郎さんの残像が見えた気がした。

…寝不足かな?


「…行ってきます」


その声と同時に、猫モドキが羽根を広げ空へ飛び立つ。

直ぐに上空へと上がり、隣にノーイさんが並んだ。


「…何、泣いてるんですか?」

「優真様、どうかしましたか…?」

「い、いや…何でもないよ。あはは、変だね。僕…。うん、大丈夫…。大丈夫だ」


涙を拭う。後ろでヴァルベルが痛みと悲しみの混じった優しい目で見ている。

静かに抱き寄せてくれた。


「生きて帰りますよ、必ず。…皆が待ってます」

「そうだね。それじゃあ、第一関門突破と行こうか」

「二アッ」


空の裂け目へと僕等は全速力で向かっていった。

赤い雷が大蛇の様にうねりを上げて僕等を迎える。


「…という事で此処からは別行動という事で」

「ちょっ…、お供の意味、分かってるんですか!?」

「困った時はいつでも呼んでくれ。独自の判断でピンチっぽい時だけ駆け付けるから」


そう言うと、分厚い雲の中へと身を眩ます。

ノーイは溜息を吐いた。


「相変わらず、勝手な男ですね…」

「ふふふっ…。その方が優真様らしいわ。さて、行きましょう。『魔力魂の意志』の元へ。

それが終わったら、皆で優真様の為に大説教会でも開きましょう」


うふふふ…と腹黒い笑みを浮かべるノワールに、ノーイは少しだけ優真を哀れんだ。

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