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第三十九話 夢から覚めて


「…けどさ、陽一郎さんは僕を殺したんでしょ?仮に前の僕の能力が、『転生』だと仮定したとする。

普通は、三嘉ヶ崎じゃなくて、ミケガサキの住民として存在すると思うんだけど…。何にせよ、ゲームの中で死んじゃったんだし」

「…ゲームの中でさ、三嘉ヶ崎での顔見知りとかに会ったでしょう?例えば吉田さん。実際はゲーム上のコンピュータプレイヤーとなってるんだけどね。

結論から言ってしまえば、『リンク』してるんだよ。顔見知りのコンピュータプレイヤーは全員、過去にこのゲームに関わった事のある人物。一度遊んだことがあるとか、製作者とかね。一度関わってしまえば、『リンク』が発生する」


ゲームの話かと思いきや、パソコン用語まで入って来たな。

正直、理解 できるか自信ない。


「『リンク』って、どういう事?」

「穏やかじゃないけど、例えば、ゲーム上のコンピュータプレイヤーが死んだとしよう。

それが、『リンク』で繋がっているコンピュータプレイヤーだとすると、三嘉ヶ崎に生きる元と言うべきプレイヤーも死んでしまうんだ。その逆も然り。

例えば、吉田が不慮の事故にあったとする。すると、『リンク』で繋がっている向こうの吉田魔王様も何らかの形で事故に遭う。

しかし、元々ゲーム上で設定されたオリジナルプレイヤー…つまり、元々設定されていたコンピュータプレイヤーだけは『リンク』が発生しないというわけさ」


つまり、カインや教官はオリジナルプレイヤーという訳か。

じゃあ、ノワールはどうなんだろ。雪ちゃん に似てるけど、『器』がどうこう言ってたし、あれが本当の姿じゃないから、オリジナルなのかな。


「それじゃあ、僕とか、ゲームに関わりある特殊プレイヤーはどうなの?

陽一郎さんが言う様に、僕が『転生』で第二の人生歩んでるんだったら、僕なんかは関わりあるんだから、ミケガサキにも僕そっくりのプレイヤーが居ると思うんだけど」

「うん。実際は居ると思うよ。確かにいるんだけど、君の場合何故か『リンク切れ』になってるんだよね。何かしたの?ゲーム側からして有意義な存在とされたのか、それとも、特殊能力によるものか…」


ゲーム側から有意義な存在か。…無縁だな。

寧ろ、国際指名手配犯という邪魔者以外の何者でもない。

…いや、『魔王』プレイヤーだか ら良いのかな?けど、何だかんだで勇者紛いのことをしてるし…。


「そういや、陽一郎さん。どうやって、此処来たの?」

「ゲーム上のミケガサキも、このみけがさきも、僕らの居た三嘉ヶ崎を元にしたパラレルワールドみたいでしょ?ゲーム上のミケガサキだって、製作者が造ったものだし。だったら、此処も同じなんじゃないの?見た所、此処は、優真君とは限らず、皆のの望みを叶えた世界。誰かによってこの世界も造られたんだよ。三嘉ヶ崎を元にね。

僕の話は此処まで。それじゃあ、話を元に戻そうか。…ミケガサキがどういうものか分かった上で、君はまだ、行きたいと思う?」

「うん。戻りたいけどさ、陽一郎さん、どうやって此処に来たの?」


陽一郎さんは、曖昧な笑みを浮かべたまま無言。

話すつもりは無いらしい。


「僕は、君に謝りたかった。ただ、それだけだよ。

…進むと決めたなら、どうか後悔だけはしないでほしい」


陽一郎さんの姿が徐々に薄れていく。

彼自身もそれに気付き、いつもの様に微笑むと、小さく手を振った。


「…話のお礼に一つ、言っておく。

僕は、陽一郎さんの謝るべき相手じゃない。何故なら貴方が謝るべき相手は何処にもいないから。

だからこれは、貴方の自己満足でしかない」


陽一郎さんが、驚いた様に目を見張り、小さく口を開く。


「けど、だからこそ僕は、今の今まで生きれたんだ。償い相手じゃないけど、僕は貴方を赦すよ」

「そっか…。ありがとう、優真君。それで十分だ。

僕に出来る事はもうないだろうけど、頑張ってね。それじゃ、さようならだ。またね」


そう言うと、陽一郎さんの姿は跡形もなく消えた。


****


まぁ、そんな訳で回想終わり。

そんなこんながあって、今に至るのです。


これから、僕が行うこと。それは、最低最悪、最終最後の手段だ。


この世界が三嘉ヶ崎を元にした、パラレルワールドの内の一つだとしよう。


分かりやすく例えるなら、縦一列に並ぶオセロを想像してほしい。まぁ、何でも良いのだが。

端に黒駒を一つ。これを『田中優真』の存在する三嘉ヶ崎とし、他のパラレルワールドを全て白にしよう。


今、僕はその内の一つにいる。そうだな、一番最後列の方が分かりやすいから、最終尾としよう。

『田中優真』に戻るということは、駒をひっくり返して黒に変えるということ。当然、そんなことをすれば前に並ぶ…つまりは原点まで続く無数の白い駒も黒に変わってしまう。

自分勝手な、僕の意志によって。


そんなことは、ゲームをバグらせることと同じ。

つまり『禁忌』ってわけ。だから、どんなことが起きようと覚悟を決めておく必要がある。

大総統達が言いたかったのはこういう事だ。


ドアを開ける。家の中は真っ暗だった。


「ただいまーって、陽一さんまだなのか。じゃあ、ゲームでもやるか。折角居ないことだし。

あー、エアコンタイマー予約し忘れた。珍しー」


靴を乱暴に脱ぎ棄て、早足で廊下を抜ける。

嬉しくて涙が出そうだった。条件が揃っていても、何かしらの不祥事で還れないこともあった。

日付、季節、天気…一つでも欠ければ、また来年。だが、三年目で成功するのであればまだ良い方か。


テレビとゲームの電源を入れ、ゲーム機に一礼するとコントローラーを握り、指定席に座る。


「スイッチオン!」


床に魔方陣は浮かび上がらない。

代わりに、小さな溜息が聞こえてきた。


「…僕の覚悟、分かってくれた?」


誰も居ない暗闇に問いかける。

「…本当に、後悔しませんね?何があっても。…もし、仲間達が全員死んでいたらどうするんです?彼方が、還る意味はあるんですか」


フレディの声が聞こえてきた。

振り向けば、後ろに立っている。


「…大丈夫。覚悟できてる。全部、何があっても大丈夫だよ。だから、僕を…僕を、『ミケガサキ』に還して下さい」

「そうですか。では、大総統。よろしくお願いしますね。それでは、私は失礼します」


すっ…とフレディの姿が消える。

また、静寂が部屋を包んだ。


「大総統、ついでにもう一つ。頼み事していい?代償はちゃんと払うから」

『願いは何だ?』


何処からか声が聞こえて来る。幾重にも重なった重い声だ。


「『魔王』は、僕一人で良いと思うんだ」

『お前はその為に、何を犠牲にする?』

「三嘉ヶ崎での、『田中優真』の存在を代償に、僕はそれを望むよ。流石に、プレイヤーを送り込めないようにしろは無理だと思うから」

『それがどういうことか、分かっているんだな?』


小さく頷いた。


「だってさ…、このまま進んだら、僕のせいで人生滅茶苦茶にされた松下…いや、『田中優真』が報われないじゃないか…。僕はね、ずっと考えてた。もし、僕が最初からいなかったらどうなるんだろうって…。ずっとね、母が何で僕を邪険に扱うのかが分からなかった。今も、分からない。もし、僕がいなかったら母は…、松下由香子は幸せなのかなって。親孝行なんて今までしたこと無いから、最後くらいね。

…邪魔者は消えるべきだ」


大総統は何か言いたそうな雰囲気だったが、何も言わなかった。

たった一言。


『我らが王よ。彼方の望みを叶えましょう』


僕の足元が、黒く光る。

ふと思って、訊ねてみた。


「思ったんだけどさ、僕の死体って火葬されてないよね?」

『お前が死んで数秒経った時に還すから心配ないだろ』


大総統の声が遠くなる。

目を閉じる。どうか悪夢となりませんようにと、それだけを願って。


****


「…っ、……い。…おいっ!」


血の匂い。生ぬるい風。蒸暑い気温。

あぁ、戻ってこれたのかな。久しぶり、『ミケガサキ』。


「うーん…、あぁ、皆。久しぶり?」


目を開ければ、皆が取り囲むようにして僕を見ていた。

その姿をみて、ノワールが僕に飛びつくと共に、泣き崩れる。


「全く、無茶しますね…」

『無事でなにより』


ノーイさんと、吉田魔王様が苦笑を浮かべて微笑んだ。

教官はカインの後ろで号泣している。


辺りを見渡せば、火の海。

ラグド兵の皆さまは茫然としているというか、驚愕しているというか。


「…ノワール、ちょっと良い?立ちたいんだけど…」

「ぜ、絶対駄目ですっ…!行かせませんっ!」


泣きながらも、ノワールは頑なに首を振る。

困った様に吉田魔王様に視線を向けると、困った様に視線をそらされた。


「大丈夫。ちゃんと、分かってるから。心配しなくて良いから。…ありがとう」


そっとノワールを退かす。

未だふらつく足で立ち上がると、ゆっくりと歩く。

そして、目を開けたまま血だまりに沈む母と寄り添う様にして横たわる兄の傍へ寄った。


「雪ちゃんと、決めていたんですね…復讐を。オズさん」


陽一郎さんそっくりなその人に、静かに問いかける。

後ろに居た兵士の内、一人は変装したオズさんだ。その片手には弾切れになった銃が握られていた。


もし弾が残っていたとするならば、この人はきっと死んでいたことだろう。


「恨みますか?」


オズさんは何処か投げやりに問いかけて来る。

僕は小さく首を振った。


「生きててくれて、何よりです」


その答えに、オズさんは驚いた様な顔をした。

そしてその場で泣き崩れる。きっと、向こうの陽一郎さんも母に殺意を抱いていたのかもしれない。

これもまた、自業自得の結果だ。いや、因果応報かな?


そう、全部分かっていた。

だから、今更『田中優真』の存在を消したところで松下由香子と兄の命は、救えない。

運命は既に決まってしまったのだ。


『田中優真』の存在を消したところで、駒は進んでしまっている。

こればかりはどうしようも出来ない。


『リンク』で定められた運命により、次期が来れば母と兄は必然的な『不慮の事故』で命を落とす。

いや、事故というより殺人か。…陽一郎さんに、なるのかな。犯人は。


カインが僕の肩に手を置いた。

ノワールも、心配そうに僕の傍に寄る。


「…泣きたいときは、泣いて良いんだぞ?」


進むと決めたなら、どうか後悔だけはしないでほしい。

そう言った陽一郎さんの言葉が頭の中に浮かぶ。


あの人は分かっていたから、そう言ったのか。僕には分からない。


「大丈夫。…分かってたんだ。だから、僕は…。これは、ただの『逃げ』だよ。自己満足の代償で、願いなんだ」


だから、泣く資格も、誰かを怨む資格もない。

これは、僕が招いた結果だ。


全部背負って生きる覚悟を、僕は決めたから。

全てを天秤にかけてでも、僕は此処へ還りたかった。


だから、後悔なんてしていない。

ミケガサキにスピード送還を果たさせました。えぇ、やりましたとも。

シリアスムードは変わらずです。

まだまだ続きます。お読み下さりありがとうございます。


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