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第三十五話 ゲームオーバー


「にしても、多勢に無勢とは…なんつーか、弱い者イジメ?実に大人げない」

「口動かしてる暇があるなら、さっさと歩けっ!」


ドラゴン使いだったか、猛獣使いだったか、唯の危険な動物愛好家だったか忘れたが、ピンマゲの女が後ろで鞭を振るう。

てか、貴女ミケガサキ兵じゃなかったの?


はいはい、どうも。毎度お馴染み田中です。

只今、実はラグドの兵のスパイだったピンマゲに捕らえられ、連行され中。

え?雪ちゃんを助ける為にカッコよく飛び出したんじゃなかったのかって?


…何の事かな?

いや、そうなんだけど。そうも上手くいく訳ないのが現実ってもんですよ。

第一、今回の件に関しては僕は悪くない。全ては奴のせいでございます。…いや、責任転嫁とかじゃなくて。


「ピンマゲってなんだよ」

「ピンクリボンの髷頭の略。ピンデコの方が良かったかな?けど、それだと嫌だなー。センスと言うより、美しくない。

…ところで、カイン。前回あれ程意気込んで雪ちゃんを追いかけて行ったのに、一体誰のせいで僕等は拘束される羽目になり、誰のせいで公開処刑されようとなってんの」

「はいはい。どうせ俺のせいですよー。さーせん」


いやいや、どうせじゃなくて実際、お前のせいでこうなってんだから。

開き直られても困る。

この件に関しては、僕、微塵も悪くないから。


「『はい』は一回」

「はー」

「…ゴメン、どうツッコめば良いか量り兼ねた。にしても、何だかんだ言って、皆逃げてんじゃん。何、あの手際の良さ。打ち合わせでもした?」

「いやいや、普通逃げるだろ。あの武器なら」


てきぱきと処刑準備が整っている間に、僕等は回想に思いを巡らせる。


****


それはつい先ほどの事である。

僕は雪ちゃんを追いかける皆を追いかけていた。


「皆ー、早いよー」

「影の王が遅いだけですよ」


そうバッサリと切り捨てたフレディはふよふよと浮かびながら移動している。


追い着いた時は、皆様大乱闘中。


ノーイさんとノワールは死体兵と他国の兵を相手に、オズさんはミハ何とかを雪ちゃんと共に抑え込もうとしている。

教官は人とは思えない脚力で空から炎の玉を吐き出してくる巨大ドラゴンに跨がると切り掛かっていた。


つか、皆武器パンってシュールな光景だわ。

いや、シュールを通り越してカオスだ。

何の闘いですか?パン屋の一揆ですか?米ならぬ、小麦騒動なんですか?


…携帯、携帯。やっぱりないか。何処行ったかな?

恐らく、オズさんが借りパクしてるはずだ。

あー…超撮りたい。連写したい。出来るなら動画も撮りたい。

こんな光景、滅多に見れない。二度とない。


にしても、皆強いなー。

…今回は僕の出番無いかなー。


「おい、優真!暇ならこっち手伝えっ!」


ちょっと皆があまりにも強すぎて、手助けとかいらねぇかなって思って挫折しかけていた僕に救いの声が掛かる。


「…一体何をすれば?」

「取りあえず、全部追い払え」


カインがパンを振りかざして、空を仰ぐ。

だが、そんなことをしなくても、それは視界に入ってくる。


僕等は大量のドラゴンが取り囲まれていた。

大きさはまちまち。

小さいのも大きいのも獲物を狙う狼の様に段々と低空飛行になっていき、しかも確実に逃げ場が無くなる様に彼らの渦の中心へと追い詰めていく。

数が数だけに十分な威圧感がある。


「…あっ、こいつらパン食おうとしてるぞ。ほら、中くらいのが食った」


んな、鳩じゃあるまいし。伝説上の生き物なんと心得る。

って本当に食べてるな。良いのか、お前のプライドはそれで。

…いや、案外猫モドキもそんな感じだから特に誇りはないのかもしれない。


「両方にドンマイと言っておく」


じりじりと距離が縮まって行く。

すぐ隣では、パンが食いちぎられる音が何ともリズミカルに聞こえてきた。


そういや、昔。

海に由香子様達が僕を置いて行ってたので、行けないから、一人寂しくお手製弁当を公園で食べたっけ。

海では鳶が弁当のおかずを盗っていくらしいが、公園ではカラスと鳩の猛襲に遭ったな。

こっちでは城の近くでパンを振りかざしているとドラゴンがくるらしい。


ふと、頭に過ぎった考えを僕は実行に移す。


天叢雲剣ことレーズンパンをドラゴン達に向かって放り投げる。

直後、それを食ったと思われる奴らがバタバタと落ちてきた。


「毒でも盛ったのか?」

「そんなことしたら、動物愛護団体に叱られるよ。

魔力魂の稲妻をたっぷりと浴びたこのパンを食えば魔力吸い取られて力尽きるかなって」

「…毒より達が悪いじゃないか。だが、まだうじゃうじゃといるぞ?」



ふぅ…と僕は溜息をつく。


「正直な話。餌があるからじゃない?手頃な位置に」

「………。あぁ、こっちか」


カインが納得したように、自分の握るパンを見た。

おい、お前。さっきの僅かな沈黙何だ?僕だと思っただろ、手頃な大きさ=身長で考えただろ。


「唯、一つ問題が」

「何だ?」

「せんせー、属性が同じですー」

「つまり?」


つまり?じゃねぇよ。お前の方が知ってるだろ。元々、この世界の住民なんだから。


術にはどれにも属性がある。

僕が得意とするのは一般的に無属性とされる瞬間移動などと、闇属性であり、同属のこいつらには無効というわけだ。


「降参と言う事で」


その他諸々あったのだが、まぁそこはどうでも良いのでほっとこう。

しょうがないじゃん。だって、皆。僕等が竜に囲まれた辺りから全力疾走して逃げ出したんだもの。


そんな感じで回想を終えた僕達に声がかかる。


「…またお会いしましたね。カイン・ベリアルと、次期魔王様」

「出た、ハエ・ナルシス」

「足りませんよっ!誰が蠅ですか!ミハエルっ!ラグド王国第三十二番騎団騎士隊長ミハエル・ラグドネスですよっ!…まぁ何にせよ、彼方たちの御蔭で城は崩壊し、我々が勝ったも同然になってしまった」


つまり、ナルシーは認めるのか。


「…何か、言い残したことは?」

「それは私のセリフです!あぁ、もうっ!どうせ、碌な事言い残さないのですから、処刑を開催しますよ!」


「恐ろしや。こいつ、何てノリがいい」

「…俺としては、お前に加勢を頼んだ過去の俺が恨めしや」

「闇市にある飲食店は?」

「…なるほど、裏飯屋ですか。そうとも言いますね…って、そうじゃないっ!良いからお黙りなさい!」


ほら、ノリ良いでしょ?と僕等は呑気に喋る。

何としても時間は稼がないとマジで助けが来る前に始まっちゃうからねっ!

それだけは避けたいのですよ。


「…おい、何か話題提供しろ」

「ゴメン。何も思いつかない」


小声で言うカインに、僕は小さく首を振る。

「そういや、女神様は?」

「ん?…あぁ、あの愚かな女は、もうすぐ隣に来ますよ。順番としては執行人次第ですが、私としては、女神、魔王、そして馬鹿チビと、赤毛の順序が望ましいですね」

「…こいつ、嫌みを混ぜ込んできたぞ。心の狭い奴だな、友達いないだろ?」

「ふんっ。何とでも言いなさい。所詮は負け犬の遠吠え。…まぁ、良い。おや、準備が整った様なので、始めましょうか。ドグラ、辺りの警護、頼みますよ」


僕らの体は地面に深く刺された丸太に縛り付けられる。

ラッパとシンバルの中間の様なけたたましい音が鳴り響き、頭から血を流してぐったりしている女神が兵士二人に運ばれて来た。

赤いドレスは、血で黒く染まり、所々破れている。だらりと垂れ下がった手は白く人形の様だ。

吉田魔王様は、手傷を負っていはいるが、そこまで命にかかわる様なものでは無かった。

恐らく、吉田魔王様は大人しく投降し、女神由香子は抵抗し続けたのだろう。


「…えーと、久しぶり?皆に会ったりした?」

『会っていたら、こんな状況になってないと思うが?…すまんな、守ってやれなくて』


ちらりと吉田魔王様は女神を見た。

僕は肩をすくめ、自業自得の結果だよと呟いた。


ちなみに、右から順に、女神、僕、吉田魔王様、カインになっている。

後ろには逃げない様に見張っているのか、女神を運んで来た兵士が二人立っていた。


それにしても、ナルシーめ。僕がカインと無駄口を叩かない様に采配したな。


もう一度、けたたましい音が鳴ったと思ったら、僕等から少し距離を置いたところに魔法陣が形成され、

『執行人』が姿を現す。


「あー、君まで寝返ったか…。吉田雪」

何となく予想はしていたんだけどね。

ということは、雪ちゃんは皆とは別行動をとったわけだ。


「…処刑を開始致します」


雪ちゃんはそう告げると、駆け足程度の速さで向かってくる。徐々にスピードは上がっていく。

その手には大剣が握られていた。


その時、頭の中で時計の針が煩いほど大きく音を立て、動く。


「あと、五秒ですよ…。影の王」


何時の間にか、僕の影から半分顔を覗かせたフレディが言う。学校の怪談みたいな不気味さがあり、背筋が凍った。

骨の手をパチンッと鳴らすと、僕等を縛っていた縄が解けた。

それが合図の様に、後ろに居た兵士も動き出した。


あと、四秒。


その時には雪ちゃんは確実に吉田魔王様の元へと近付いていた。

止めようと駆け寄ろうとした時、それが違うことに気づく。

彼女は徐々に右に寄って行っている。


…そう、女神の元へと。


ゆっくり、ゆっくりと。

辺りがスローモーションの様に動く。


「馬鹿っ!そいつは『魔王』じゃないっ!」


君が倒すべき相手は、吉田魔王様でも、無慈悲過ぎる女神由香子様でもない。

君が倒すべきは『魔王』であって、それ以外の、此処に生きる…、ミケガサキにいる人じゃない。


今にも、剣が女神の体に突き刺さりそうな、その僅かの間に身体を捻じ込んだ。

だって、君が斬るべきなのはこの僕だから。


あと、三秒。


カインが何かを言って、視界の端に皆の姿が映る。誰かが悲鳴を上げた。多分、ノワール。

あぁ、来てくれたのか。…ふと、そんなことを思う。


鈍い痛み。

雪ちゃんの驚愕に歪んだ顔。

自分の体を見てみれば、二本の剣が突き刺さっている。


錆びたロボットの様にぎこちない動きで、首を後ろに回す。

兵士の一人が、僕を背を刺していた。…正確に言えば、彼が刺したかったのは、吉田雪だ。


…ざまぁみろと、そいつの顔を見る。

僕がもう少し成長したらこうなるだろうと思われるよく似た顔の青年を。久しぶりに見る兄の顔を。


身体は前に倒れ、刺さった剣がさらに深く刺さる。

黒い血が水溜りを作り、力が抜けて行く。

雪ちゃんは僕の身体を揺すっている。何か言っているが、声が聞こえない。


…死ぬんだろうな。


そう思った。

まぁ、良いか。雪ちゃん、救えるんだし。母さん、守れたし…。

そう思うと、少しだけ誇らしくなった。

きっと、魔王との戦いで合い討ちになった勇者とかはこんな気持ちなんだろうな。


あと、二秒。


乾いた音が響き、上から新たな赤い水しぶきが降って来た。

後ろで何かが倒れる音がした。


あと、一秒。


息を呑む音。

何となく分かってしまって、瞼を閉じた。

テレビの電源が切れる様に、ブツンッ…と僕の思考は途絶える。


「零秒…。さてさて、あなたはどう選択するのでしょうかね…?まぁ、それは良いとして。

とりあえず、御愁傷様です…また、お会いできると思いますけど…」

次回は舞台が少し変わり、三嘉ヶ崎だけど、三嘉ヶ崎じゃない世界となります。

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