第三十一話 第二次新資源戦争の序曲
目を開ける。
わぉ、天国。…かどうかは知らないが、僕は、美しい場所に居た。
見たことのない花々が咲き乱れ、甘い香りの風が髪を揺らす。
青々しい草花を踏み潰さない様に歩いて行くと、古いがその神々しさを損なっていない神殿があった。
その中央には小型テレビとコントローラーがあり、ゲームソフトが既にセットされている。
何処からか天使の様な綺麗な歌声と音楽が、ゲームのBGMを奏でていた。
「マジ、天国じゃん」
がばりと身を起こすと、アイゼルとヘブライがぱたぱたと僕の頭上で喚く。
というか、やはり君等が召喚されるわけか。
「起きやがったゼ、こいつ!」
「臨終は此処じゃね~ようだな!」
「大丈夫か…?助かった、ありがとよ」
カインが手を差し出す。困った様に笑うと、その手を取らず自力で立ち上がる。
幸い、何処も折れて無い様だ。
「にしても、お前の天国はゲーム機があれば成り立つのか。
つーか、天使に讃美歌じゃなくて背景音楽歌わせるって扱い酷過ぎだろ」
「禁断症状が今まで出なかったのが、僕は不思議でならないと思うんだけど。で、此処、何処?」
「パン屋だ」
「そうか、パン屋か。アイゼル、ヘブライもパン食う?」
もひもひとパンを食べながら僕は蝙蝠達にパン屑を放る。
食ねぇヨ!と言いながらしっかりとキャッチし、がつがつと食べていた。
「食うのか…というか、お前も何食ってんだ。泥棒だぞ」
「今更強盗が罪に加えられたとしても国内指名手配にまでなってんだから痛くも痒くもないね」
「そういうところは母親似だな、お前…」
「僕はそれを無視して次の行動に出るっと…さて、皆助けに行かないとね。にしても、何で人いないの。怖いんだけど。まさか、皆死体兵になったわけじゃないよね?」
クケケケッ…と蝙蝠が笑い、ばたばたとせわしなく羽根を動かし始めた。
カインが神妙な面持ちで話す。
「それがだな…全員ではないが、死体兵にはなってたぞ。女神様は『魔力魂』を手に入れたことにより、他国との同盟をもみ消したらしい。まぁ、簡単に言えば『新資源の独占』ということになるんだが…」
「何にせよ、武器が必要だね。僕は要らんけど。カインの剣は折れちゃったし…。
ということでだね、はい、プレゼント」
ほいっと潰れたあんパンを手渡す。
折れたんじゃない、お前が原因で折れたんだと呟いていたカインは口をはの字にしていた。
「本当はフランスパンが理想だったんだけど…。無いからそれで頑張れ。ほら、ナックル代わり。大丈夫、魔法陣でちゃんと加工したから」
「そういう問題じゃないんだが…何をどう頑張ればいい?馬鹿にしてるのか?」
「そういうことで、実践練習!」
肯定して受け流す。
優真は新たなスキルを覚えた!
「たのもー」
バンッと勢いよく扉を開ける。
まぁ、予想通り死体兵が囲んでいた。
…死体兵はともかく、このパターンに、ちょっとトラウマになるかもしれない。
「カイン、ちょっと借りるよ!これが菓子パンの底力だ!」
潰れたアンパンを握り締め、向かって来た死体兵をぶん殴る。
バキンッ…!
「ぎゃああああああ!」
僕の拳は死体兵の顔面にクリーンヒットし、例の如く頭がもげた。
断じて、あんパンが使い物にならなくなった訳でも、僕の骨が折れた訳ではない。
「こ、こここうなったら…あんパン最終形態!食らえッ!」
「なっ…!まさか、内部に魔方陣を仕込んでいたのか!?」
ふっ…と僕は笑う。
そんなわけねーじゃん。
そしてパイ投げの原理で、僕はあんパンを死体兵の顔面にぶち込んだ。
例の如く顔がもげた。
別にね、それは予想出来てたんだ。もげるかなって。だから心の準備もしておいた。
問題は此処からだった。
パイ投げの原理で、あんパンを死体兵の顔面にぶち込む。
そう、そこまでは良かったんだ。
その後、あんパン見てみたらさ、くっきりと死体兵の顔がプリントされてんの。少し頬が吊りあがってるから笑ってんのかな?
あんパンが顔面スタンプに早変わりだよ。嫌がやせとして正月辺り年賀状に押したいくらいのリアルなハイクオリティーだ。…岸辺に百枚くらい送っておこう。
いざ、携帯を取り出そうとポケットを探ると、何も入っていなかった。
「ぎゃああああ!こわっ!大丈夫…怖いけど、怖くないッ!さぁ食らうがいい!賞味期限余裕で過ぎた餡子を!死ぬぞ!」
「こいつに期待した俺を心底呪いたいっ!…というか、腹壊したんだな?」
「…僕じゃなくて、蝙蝠達が」
ちらりと横目で蝙蝠達を確認すると、地面すれすれの超低空飛行飛行で右往左往に動き回っている。
その間にもカインは自らの拳で死体兵をなぎ倒していた。
だが、次から次へと死体兵は湧いて来る。
「成程!だから、さっきから動きが活発なわけか!にしても、こいつら不死身だな!湧いて出て来るとはまさにこの事だ!」
「カインってさ、騎士より学問の道に進めば良かったんじゃない?色々とことわざ知ってるし…!」
「馬鹿言えっ!俺の様な孤児が学問の道なんて歩めるはずがないだろっ!アンナも俺も先の戦争で家族を亡くした。だが、最初の勇者様が俺らを導いてくれたからこそ、生き延びられたんだよ。
…お前みたいな、変わり者だったがなっ!お前こそ、いい加減その下手な演技は止めた方が良いんじゃないのか!?」
「大きなお世話だとだけ言っておくっ!あー、埒が明かない!『召喚』ッ!」
体力もそろそろきつくなってきたので、『魔眼』を発動する。
辺りが黒い霧に包まれた。
「…お呼びですか?影の王。フレディです。おかげで二階級特進しました」
「何、死んだの!?」
現れたのはフレディことディスビアと無数の幽霊軍団なのだが、今日のフレディは人型だった。
好青年という言葉がぴったりで、何とも死神らしい恰好をしていた。手にはあの大型鎌が握られている。
…そして、僕より背が高い。ちっ。これだから最近の若者は。
「いえいえ、意外にこの名前好評でして…。次期影の王に名付けてもらったんですからね…。
僕の今までの功績も評価され、大総統様からは器を与えられまして…。これからはフレディとお呼び下さい。…で、我々は何をすれば?」
「いや、こういう死体分野は君達の方が詳しいと思って。何とか出来る?」
「…つまりは、片付けろと言う事ですよね。分かりました」
そんじゃ、よろしくと言って『瞬間移動の陣』を形成すると、城へ飛んだ。
僕等が去った後、フレディは外套から懐中時計を取り出すと時刻を確認する。
「…御武運を。あと、三時間二分四十四秒でお亡くなりになりますがね…。知らぬが華と言うこともあるでしょうし。その余生を悔いなくお過ごしください…無理でしょうけど」




