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第二話 形見を買いにGoing to the hell

どうも、田中優真です。

現在、市場へ向かっています。


ミケガサキには海がある。いや、三嘉ヶ崎にもあるけど。パラレルワールドなんだから、地形は同じだ。多分。まぁ、僕の家からは反対方向だから行ったこと無いけど。


毎週日曜は市場を開き、新鮮な魚とか果物とかその他色々売るらしい。地域のお祭りしか行ったことのない僕にとっては新鮮な光景なんだろうな。


「カイン、私服他にないの?」

「何を言っている。いつ戦闘になっても良いように万全な装備でなくては危ないだろう」


ガチャン、ガシャン…と金属の擦れる音が響く。

城内では気にならなかったが、流石に街中となると違和感でしかない。しかし、すれ違う人々は見慣れているのか特にこれといった反応はない。

うん、騎士だからね。別に良いんだよ。それは。ただ単に、仮にも勇者なのにワイシャツに制服のズボンで歩く自分の姿が惨めだっただけさ。……ふっ。


何故市場に行くか?それはもちろん『勇者の形見』を買うために。

ゲーマーとしてはね、別にそれは良いんだ。市場には興味あるし、勇者の遺物とか王の冠とか売っててもおかしくない。むしろ、嬉しい。だが、問題は此処からだ。


カインに聞いたけど、僕の前にも当然ながら勇者が召喚されていたらしい。だが不慮の事故により命を落としたそうだ。


二日程前に。メチャクチャ最近。

…売り払うの早くね?つか、普通売らなくね?普通なら大事に保管しておくと思うぞ。


「何、呪いでもかけられてたの?」

「…いや、まぁ、そんな感じた」


どんな感じだ?

二日で売り払うくらいタチの悪い形見を使えと?


カインは僕の非難の視線を弁解どころか何処吹く風で受け流し、前を指差す。


「ほら、着いたぞ。ミケガサキ王国第三十一区。巷では結構有名な市場だ」

「おぉ…!」


風に乗って運ばれてくる潮の匂い。何処からか聞こえてくる汽笛の音。青い空に白い雲。風を斬るように羽ばたくカモメの鳴き声。

何処からか色とりどりの紙吹雪が舞い降りて市場を彩る。

白をモチーフとした建造物の数々に、その隙間から覗く広大な海。

所々に出店が並び、港町らしいマリン色のストライプ柄の屋根で統一されていた。

海賊やら船乗りの格好をした子がおもちゃの剣を片手に出店が並ぶ狭い通路を駆けていく。魚屋の店主とおぼしきおばちゃんが青い大魚の尻尾を掴み、道行く人々に売り込んでいた。

上を見上げれば、ちょうど窓から顔を出していた小さな女の子が旗を振っってくれたので手を振って答える。


「陽気な良い地区だね」

「あぁ、ヘタすれば此処が一番治安が良いかもしれない」

「もしかして、酒場とかもある?」

「そりゃ、港町だからな。当然ある。…だがお前、仮にも未成年だろ?酒は飲めないぞ」


ちっ…。流石パラレルワールド。その法律は健在か。まぁ、実年齢的にはとっくに成人迎えてるから本当は飲めるけど。自分で作った設定を偽る訳にはいかない。


「いやいや、酒は飲めずとも写メは撮れる。一度でいいから拝みたい!」

「写メ?」

「こっち、携帯無いの?ほら、これこれ。此処にカメラが付いていて、どりゃ」


ピロリロ~ンという音が鳴り、シャッターが切れた。

さてさて、向こうでは何円で売れるか。


「ほれ」

「ほぉー…。映しの魔術か?凄いな…。機械も魔術が使えるようになるなんてな。何処に魔法陣を描いているんだ?」


カインが携帯の画面を覗きこみ、驚いた様に言う。


「魔法陣?いやいや、あー…説明できない。魔法じゃなくて、文明の利器。科学の進歩ってこと。こっちでは、そういうの無いの?」

「そうだなぁ…。映しの魔術は無理だが。例えば…」


カインは少し考えた後、じっ…と腰に差してある自分の大剣を見つめた。そして、片手で持つ。すると、剣はたちまち紅蓮の炎に包まれた。


「この剣は『魔力魂』っていう結晶から作られた剣で、持ち主の意思でこういうことが可能になる。ほら、あれ見てみろ」

「すげぇ。女性なのに怪力だ」


カインが指差す先には、木箱を積み木のように積み上げてそれを片手で運ぶ女性が居た。


「あれは、手の甲に増倍の陣を描いているから成せることだ。人には誰にでも…というわけではないが、大半の場合、魔力がある。それを魔法陣で以って具現する。それが、描いた陣によってああいう風に作用する。

この世界には魔力という不可視の力が存在し、その魔力を凝縮させた塊が『魔力魂』ってわけだ。滅多に手に入らないから希少価値が高い」

「こっちのミケガサキは魔法とか非現実的なのが発展してるんだね」

「そっちの三嘉ヶ崎は科学が発展してるんだろう?こちらからしてみれば、そっちの方が非現実的だ。平行世界とお前は言っているが、これが未来の姿かもしれないぞ」


燃料資源が全て枯渇し、ミケガサキ王国を含める国々がパニックに陥った。我先にと資源を強奪すべく争いが次々と起こり、とある国が新しい開発途中の資源である『魔力魂』という結晶を完成させたことにより戦争は幕を下ろし、人類は新たな一歩を踏み出したらしい。


「未来ね…。けど元から超能力や魔法使いはいたんでしょ?今まで使っていた資源がなくなって一時的なパニックを起こしたに過ぎないよ。人は皆闘争心があって、そういうパニックとかが起こるとそれが剥き出しになる。だからこっちのミケガサキはさ、始めからそういう魔法が発展した世界としてあったんじゃない?」


僕なりの解答を述べてみたのだが、何故かカインがすげぇ驚いてるんだよね。馬鹿だって哲学的な事も考えたりするんですよー。


「実は馬鹿な振りしているだけだろう?」

「頭良かったらとっくに卒業してるよ」

「馬鹿はあそこまで考えつかん」

「カインさ、僕のこと物凄く軽んじてるよね。カウンセラーの先生がそう言ってたんだよ」


ぱちくりとカインは瞬きを繰り返す。


「カウンセラーに掛かる程の事があったのか?」

「唯単に、僕が馬鹿だっただけさ。『馬鹿は風邪ひかない』ってことわざがあるでしょ?あれはさ、風邪ひいたのに気付かないだけで、ひいてないわけじゃない。それと同じだよ。…にしても何処に売ったのさ、その形見」

「あー…、闇市」


バツが悪そうにぼそりと呟く様に言われた言葉に硬直する。

聞きましたか、奥様。闇市ですって。連写の準備ですわ。心霊写真はいくつ手に入るかしら?と、単なる観光なら僕は喜んで向かうだろう。


「それは、つまりアレですか。そんな危険な代物を僕に持たせようとしてるわけですか」

「仕方がないだろう。勇者の形見…というか勇者の剣じゃないと魔王は倒せない」


その発言は僕に死ねと言っているようなものだぞ。


「もしも死んだら元の世界に帰れたりするの?」

「いや、そのまま臨終だ」


捨て駒じゃね?

勇者の扱い軽くないか、こっちの世界。


「魔王倒した後のメリットは?」

「元の世界に帰れる」


うん、確信した。


勇者=捨て駒。

いらなくなったらポイッ。


「ほら、これ被れ。あと、絶対逸れるな。…そして、魔眼は使うなよ。絶対に」


カインから渡されたのはボロ布のマント。

着心地はごわごわ。例えるなら、紙やすりだな。肌が切れるぞ、このごわごわ感。まぁ、闇市だからね。奴隷商とかうようよといるもんね。


闇市の入口は果てしない闇に覆われていた。

市場の賑わいが遠くに聞こえる。全てこの闇が飲み込んでいるのだろうか。隙間から通り抜ける風が不気味な唸り声をあげる。鼻が曲がるような異臭に思わず後ずさった。


「闇市は地獄と思え。生きて帰ってこれる運があるといいな」


ごくりと唾を飲み込み、汗ばんだ手の平でマントを掴む。

そして一歩踏み出した。


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