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第二十五話 厄介な来客


開店と同時に客が吸い込まれる様にご来店。すぐに満席となった。

酒場だからいつかの筋肉ハゲとかを想像してたけど、流石、国民が美形の国。

凄くお上品だ。


そんな男女問わずの視線がすごく刺さるんだよね。

酒場って、こんなんだろうけど何か違う様な、そうでもないような妙な気分だ。


幸いにも、僕が指名手配犯だとは夢にも思っていないようで、会話に花を咲かせている。

かと言って、気を抜く訳にはいかないんだよな。状況的に。


「ニア…」

「うん。今は集中しなきゃね。終わったら鮭の薫製あげるから元気だしな」

さっきからずっとしょんぼりとしてる猫モドキに、声を掛ける。

バイト経験のない僕が、そう簡単に注文と客席を覚えられる筈がない。

だから、僕が食事を運び、猫モドキがそれを客の所まで案内してくれるという連携プレーだ。


「グリアンのソテーです」

それにしても、注文の品名を言う度に思う。

本当に此処はパラレルワールドなのかと。

いや、確かに魔法は使えるし、顔は同じでも性格は違ったりする。けど、三嘉ヶ崎の地形もそっくりそのままだ。

魔法が使えるということ、つまり魔力が生物に何らかの影響を与えて、新種というか珍種の生物を生み出しているのかもしれない。


グリアン…聞いたことのない生物だけど、お魚とかの進化形かな?

真緑で、やけに大きな鱗の様なものを備えた生物だったであろう物体がフランス料理の様な美しさで皿に盛られている。


「カイン、グリアンって何?」

「グリアン?何だ、お前の世界にはいないのか。そうだなぁ…ミミズ、いや、百足に近い生物だ。世界三大珍味の一つで、結構美味いぞ。後で朝食として出されるから是非食うといい」

嬉しそうに笑うカインを横に、僕は一人呟く。


…真緑の、ムカデ。


つまり、鱗みたいのは甲羅みたいなあの部分ってことで、きっと無数の足が生えていたことだろう。

しかも、皿に盛られていたのはその一部分。あれで一部分というなら一体、元の大きさはどれ程なのか。


「カイン、僕の分も食べていいよ。一気に食力無くなった…」


その時、キィッ…と扉が開く。客から歓声というか寄声があがった。


「ちょっと、お邪魔しますね」


上品で落ち着きのある声。

「いらっしゃいませ」

「……」

とりあえず挨拶すると、来客である白いワンピース姿の女性が僕の方を見た。


カインは何故か黙って店の奥に引っ込んだ。ノーイさんもさりげなく引っ込み済である。

ノワールも静かに会計の席を離れてカイン達の後に続く。


「あら、可愛いわね…あなた、新入りさん?」

「えぇ、まぁ…」曖昧に返事をする。

いつもなら可愛いと言われたことに苛立ちを覚えるのだが、そんなことより、カイン達が引っ込んだことの方が気になっていた。


この国に極力関わりたくないというカイン達。

一般客と普通に接することが最低限の譲歩だとするならば、考えられることは一つしかない。


結構な国の権力者だということ。

国民のあの反応といい、カインのこの反応といい、偉い人だろう。恐らく。

カイン達が無言で去ったということは、店を放棄してでも関わりたくない偉人にして異人というわけだ。


どーしよ、僕。

っていうか、指名手配犯の僕に任せてどうする。誰か犠牲になれよ。

ノワールは許すけど。


「あのぉ、席はご自由にお座り下さい」


さっきからガン見されてるんだよね。無言で。

僕がしどろもどろになりながら言うと、女性は静かに微笑んだ。


「ふふっ…本当に可愛いわね。今日は客として来たんじゃなくて、仕事で来たのよ。もうご存知かと思うけど、先に指名手配された青少年を捜してるの。田中優真をね」


はい。ご存知も何も張本人ですから。


女性は急に、名探偵が事件に挑む時の様な好奇心と、勝ち気の入り混じった目で僕を見た。


「…目撃情報が此処でありました故、調べさせてもらってもよろしいですね?宜しければご案内していただけますか?」

「も、もちろんですわ…。おほほほ」


きっと、犯人は早く帰れと思っているに違いない。

現に僕がそうだからだ。


だから、どうせ捕まるのなら、この挑発に乗ってみるのも悪くないというのも、きっと犯人は思っていることだろう。


だから、僕はお返しと言わんばかりに不適な笑みを零す。


相手もそれに気付いたのか笑みを浮かべていた。


「失礼、申し遅れました。私、第一皇子側近のメイドをやっております、メアリですわ。レディ」


手を差し出される。


成る程。道理でカイン達が逃げ出すはずだ。あの面倒な皇子の側近となれば話は別。

これ程の地位を持っているということは、つい最近やってきた僕よりカイン達の方が熟知していると言っていいだろう。いや、断言する。


見た目はまともだが、あのノワールが逃げ出すくらい達の悪い変人さんに違いない。


だから、僕は。

今、とても逃げたい。


出あって数分だけど、僕でも分かる。

この人、変人だ。

目がね。目が女子を見るエロオヤジの目と同じだもの。


「まぁ…。けど、此処のお店にまた来てくれるというなら案内して差し上げてよ?」

「良いでしょう、望むところです…」


ゾクゾクしますわ…。

と恍惚そうに呟いた言葉を聞かなかったことにして、取りあえず二、三歩後ずさった。

カイン達がオーケーサインを出す。僕も頷いて返した。


「たにゃ…いえ、ターニャ・ユロワですわ、メアリさん。親しい友にはユウコと呼ばれておりますの。良かったら、そうお呼び下さい」


うふふふふふ!親しい友…!うふふ、うふふふふふ…!

一人悶えるメアリさんの姿を敢えて見なかったことにし、十歩程後ずさる。


猫モドキが不安そうな顔で僕を見上げた。状況が状況なので、抱き上げてやる。

僕だって不安だし、とてつもなく怖いよ。猫モドキ。…この人、友達いないのかな?


「では、お独り様ご案内しまーす」

地獄に。とかだったら嬉しいんだけど。


取りあえず、さっさと終わらそう。

僕はそう心に決めて、歩き始めた。後ろから熱視線が注がれるのを感じながら。


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